ハートウォーミングだけでなく
攻めのプレイが光る
アール・クルーの
『リヴィング・インサイド
・ユア・ラブ』

チェット・アトキンスの
クロマティック奏法

クルーはアメリカを代表するギタリストで偉大なプロデューサーとしても知られるチェット・アトキンスに最も大きな影響を受けている。チェットが編み出したクロマティック奏法は、カントリーギターの名手であるマール・トラヴィスのギャロッピング奏法と、ビル・キースとボビー・トンプソンがほぼ同時に編み出したとされるブルーグラスバンジョー奏法(これもクロマティックと呼ぶ)をマッチングさせたもので、ほぼカントリー音楽でしか使わない奏法である。ただ、カントリーの世界ではジェリー・リードやスティーブ・ウォリナーら、クロマティック奏法の名手は多い。また、チェットのギャロッピング奏法はロカビリーで使われていることでも知られ、彼はアメリカのポピュラー音楽界で最も有名なアーティストの一人だろう。スティーブ・ルカサー、マーク・ノップラー、ラリー・カールトンといったギタリストにとっても、チェットは大きな影響を与えている。

そもそも黒人のアール・クルーがカントリー音楽に影響されているというエピソードには、当時は多くの人が驚いたものである。のちのインタビューでチェットのレコードは思春期の頃から少しずつ買い揃え、来日時もレコード店に出向き、たくさんチェットのレコードを買ったと語っており、チェットのレコードを通してカントリー音楽から受けた影響は相当大きいようだ。

アール・クルーのデビュー

彼の特徴的なギタープレイは頭角を現し始めていたキーボード奏者でプロデューサーやアレンジャーも務めるデイブ・グルーシンの目に止まり、グルーシンの紹介で1975年にブルーノート・レコードと契約、翌76年に初のソロアルバム『アール・クルー』をリリースする。プロデュースはグルーシンとラリー・ローゼン(グルーシン/ローゼン・プロダクション、GRPレコード)が務め、リー・リトナー、ルイス・ジョンソン、ハーヴィ・メイソンといった豪華なバックに支えられ、ラテン風味を効かせたナンバーをはじめ、ジャズやポップスのカバーも取り上げるなど、大きな注目を集めることになった。

指弾きによって生まれる温かみのあるギターの音色は彼の独壇場で、ジャズ/フュージョンファンだけでなく、ポピュラー音楽のファンにも喝采をもって迎えられることとなったのである。

OKMusic編集部

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