「愛VS芸術、そしてキャリアVS愛」が
テーマ、『マシュー・ボーン IN CIN
EMA/赤い靴』は必見!

『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』が、2021年2月11日(木・祝)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開される。舞台や映画を愛するすべての人々への至福のプレゼントだ。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』予告編
■題材は名作バレエ映画、ローレンス・オリヴィエ賞で2冠獲得!

英国が生んだ鬼才振付家・演出家であるマシュー・ボーンが生み出す舞台は、ダンスで語るドラマの極点。古典的なバレエや文学作品、映画を題材にしつつ、現代の視点から自在に読み替えた物語が濃密に繰り広げられる。男性の白鳥が華麗に舞う『白鳥の湖』(1995年)しかり、ティム・バートンの人気映画を基にした『シザー・ハンズ』(2005年)しかり、シェイクスピアの古典戯曲の世界を近未来の教育施設を舞台に移した『ロミオとジュリエット』(2019年)しかり。そして、いずれもが愛の痛みを深く、味わい深く描き、胸に突き刺さる。
マシュー・ボーン (c)Hugo Glendinning

そうした数々の傑作群の中でも、今回スクリーンに登場する『赤い靴』(2016年)は、ボーンにとっても格別な作品であり、同時に多くのファンに待ち望まれていた舞台ともいえる。原作は1948年にマイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガーが監督した同名の英国映画&ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話である。ボーンは『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』(1992年)、『愛と幻想のシルフィード』(1994年)、『眠れる森の美女』(2012年)などで名作バレエを独自の視点で翻案してきたが、2016年に初演された『赤い靴』では若い頃からバイブルのようにしていたという名作映画を基に、バレエの世界と四つに組んだ。そして英国舞台芸術界において大きな権威を誇るローレンス・オリヴィエ賞で2冠に輝いた。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson

『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson

■鬼才ボーンならではのドラマ作りの上手さを存分に発揮!
ストーリーの流れは映画と大体同じだ。バレリーナのヴィクトリア・ペイジはプロデューサーのボリス・レルモントフに新作バレエ『赤い靴』の主役に抜擢され、その舞台で作曲・指揮を手がけたジュリアン・クラスターと恋に落ちる。しかし、レルモントフはヴィクトリアにジュリアンと別れるように求める。バレリーナとして頂点を極めるために。

『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson

ヴィクトリアとレルモントフの関係は、ヴァーツラフ・ニジンスキーとセルゲイ・ディアギレフをヒントにしているといわれる。20世紀の初めに一躍世界中に名をとどろかせたバレエ団、バレエ・リュスの初期スターであるニジンスキーとプロデューサーのディアギレフの関係を男と女に変えて表したといわれる。ロンドンのコヴェント・ガーデン、パリそしてモンテカルロという、バレエ・リュスが活躍した場所が主な舞台。最初にモンテカルロの街が登場するシーンでは、バレエ・リュス後期の名作『青列車』(台本:ジャン・コクトー、振付:ブロニスラヴァ・ニジンスカ)のような雰囲気を織り込むなど、ボーンならではの遊び心も発揮されている。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson

ボーンは映画のストーリーを活かし劇的にドラマを進める。ヴィクトリアが叔母の開いたパーティでレルモントフと出会う場面、『赤い靴』の主演が決まったヴィクトリアとレルモントフが踊るデュエット、ヴィクトリアとジュリアンの逢瀬などは台詞がないのに演技とダンスで感情が伝わる。レルモントフのバレエ団を離れ、うらぶれたショーに出るヴィクトリアが再び『赤い靴』の舞台に焦がれる場面は説得力十分だ。そして、最後は劇中バレエの『赤い靴』と二重写しの展開となり、それはそれは恐るべき結末を迎える……。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson
■ボーン✕アダム・クーパー、あの『白鳥の湖』の最強コンビ再び!
2020年1月に収録(2020年6月の日本公演は感染症拡大の影響により中止)。ボーン率いるニュー・アドヴェンチャーズの充実に目を瞠らされる。ヴィクトリア役は『シンデレラ』の表題役などで好演しているアシュリー・ショウ。ジュリアン役は『白鳥の湖』の王子役などで人気のドミニク・ノース。さらには、レルモントフ・バレエ団のプリマバレリーナ、イリナ・ボロンスカヤ役にミケラ・メアッツァ。プリンシパルのイヴァン・ボレスラウスキー役にリアム・ムーア。バレエ・マスターのグリシャ・リュボフ役にグレン・グラハムと多士済々。踊りの技術と表現力を兼ね備えた人たちが揃うからこそ、バレエの世界を扱う大作に満を持して挑めたのであろう。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson
さらにレルモントフには、『白鳥の湖』の主演により世界的スターとなったアダム・クーパーが客演。実に20年ぶりのボーン作品出演となったが、カリスマ的な大プロデューサーの風格にあふれ、複雑な心理表現にもたけている。ボーン✕クーパーという黄金コンビが観られるというだけでも「必見」と断言できる価値があるといっていい。
『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』 Photo by Johan Persson
メインテーマが「愛VS芸術、そしてキャリアVS愛」(ボーン)の傑作で、バーナード・ハーマンの楽曲をテリー・デイビスがオーケストレーション&追加作曲した音楽、レズ・ブラザーストンによる舞台美術も掛け値なしの素晴らしさ。スクリーンで存分に味わい尽くそうではないか。
【アーカイブ】マシュー・ボーン氏オンライントークイベント2021年2月6日(土)20時ライブ配信!/『マシュー・ボーン IN CINEMA/赤い靴』公開記念
文=高橋森彦

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