極上の音楽と謎に翻弄される、脚本・
演出家の三浦香が手がける音楽劇3選
/ホーム・シアトリカル・ホーム~自
宅カンゲキ1-2-3 [vol.43] <演劇編

おうちをシアトリカルなエンタメ空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、演劇関係者が激オシする「My Favorite 舞台映像」の3選をお届けします。(SPICE編集部)

ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [vol.43] <演劇編>​
極上の音楽と謎に翻弄される、脚本・演出家の三浦香が手がける音楽劇3選
by 吉田沙奈
【1】『Club SLAZY』シリーズ
【2】『Like A』(ライカ)シリーズ
【3】『GRIEF7』シリーズ

舞台の楽しみ方の一つが、物語の背景や展開、登場人物が抱える秘密や心情などを考察することではないでしょうか。予想が当たるのも嬉しいですが、思いもよらない形で伏線が回収された時の驚きも心地良いもの。謎を残す終わり方も、次の展開を予測するのが楽しいですよね。また、制作陣やキャストの発言から考察をしたり、同じ作品を好きなファンと語り合ったりと、楽しみ方は無限に広がります。
今回は、見るものを考察の渦に巻き込む音楽劇を3シリーズご紹介します。

【1】『Club SLAZY』シリーズ
『Club SLAZY』(2013)
本作は「Club SLAZY」というお店で披露されるお洒落でセクシーなステージと、ショーを作り上げるパフォーマーたちの人間模様を中心に据えた物語……と思いきや、シリーズが進むにつれ、謎が謎を呼ぶ展開に。不思議で魅力的な世界観に、いつの間にかのめり込んでしまうこと請け合いです。
1作目は、DillyDally St. 24-7に佇む「Club SLAZY」への招待状が本来届くはずのない人間の手に渡ったことから巻き起こる騒動を描いています。
店を訪れることができるのは、ガーネットカードを手にした者のみ。そしてそのカードは、深い悲しみの中にいる女性にしか届きません。華やかで艶やかな一夜限りのショーステージに酔いしれ、夢のようなひと時を過ごした後、涙を置いて店を去る。そんな非日常を提供しているのが、この不思議なお店です。
中でも、X-24-7はその日一番悲しい気持ちの女性が座るための席。
ところがある日、その特別な席の招待状が間違って一人の男・遠藤(井澤勇貴)の手に渡ってしまいます。
トラブルに気付いたSLAZYの支配人・Zs(藤原祐規)が招待状を探している頃、お店では支配人不在のままショーがスタート。ソロステージを担当するトップパフォーマーたちがなんとか場を繋ぐものの、合間でステージが無人になったり、見習いパフォーマー・New Jackたちの喧嘩が起きたりとグダグダな展開に。さらに、Zsがようやく店に帰り着いたかと思うと、突如現れた謎の男がパフォーマンスを始め……?
引っ掛かりを覚える台詞や作中で提示される謎が多く、繰り返し見て楽しめるこの作品。ですが、謎や疑問は脇に置いて、音楽やパフォーマンスだけに注目しても十分に魅力を味わえます。披露される楽曲はいずれも印象的で、ついつい口ずさみたくなるものばかり。
ストイックなトップエース・ACT(大山真志)、クールなセカンドエース・Bloom(太田基裕)、ナルシストで情に厚いサードスター・Cool Beans(米原幸佑)、無気力だけどお茶目で憎めないフォーススター・Deep(加藤良輔)など、キャラクターたちの個性にぴったりな曲とキレのあるダンスが、ステージと物語を盛り上げます。
時には客席も使用してパフォーマンスをしており、まるで本当に「SLAZY」というお店に足を踏み入れ、バックステージをこっそり覗いているような没入感を得ることができます。そして、恋愛、友情、師弟愛、家族愛など、作中で描かれる様々な愛と情の形も見どころです。
煌びやかなショーステージで愛や夢を歌うパフォーマーたち。しかし、彼らの人生は決して順風満帆ではなく、悩みや苦しみ、嫉妬といった感情に飲まれることもあります。そんな人間臭さが物語に深みを与えているのだと思います。等身大の彼ら一人ひとりに、きっと共感や愛情を覚えられるはずです。
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【2】『Like A』(ライカ)シリーズ
『Like A』(2018)
この物語の舞台は、海沿いの静かな街「ハイタイド」と、そこに佇む高級ホテル「PERMANENT(ペルマネント)」。ホテルの従業員を中心に、どこか謎めいたキャラクターたちが織りなすミステリーです。
変わりばえのしない毎日に飽き飽きしているペルマネントの従業員たち。彼らの大半はここで生まれ育ち、島の外に出たことがありません。
ゴミ捨て係のBB(辻凌志朗)、点検係のインスペクター(SHUN)、清掃係のキーパー(中谷優心)は、退屈な日常と裏方の地味な仕事に文句を言ってばかり。上司でもある給仕長・メートル(岩義人)の小言も、幼なじみであり優秀な執事・バトラー(石賀和輝)の注意もどこ吹く風で、「見たことのない世界」への憧れを募らせる日々を送っています。そんな彼らの好奇心を焚きつけるのが、島の外からやってきた情報通のドアマン・アッシャー(髙﨑俊吾)。都会のスクールライフなど、みんなの興味を引く話を次々披露します。
そんなある日、彼らのもとに「ペルマネントのライバルである豪華客船・ロクザンが沈没したらしい」というセンセーショナルなニュースが舞い込みます。
「犠牲者のことを考えたら食事を残すお客様なんていなくなるはず」という無茶苦茶な理論を振りかざし、従業員たちの配置転換を行うホテルのフィナンシャルコントローラー・FC(平牧仁)。ゴミ捨て係のBBは突如ドアマンに任命され、お客様からチップをもらって大喜び。
しかし、ハイタイドの海岸に記憶喪失の男(内藤大希)が流れ着いたことから、平和な日常に不穏な影が差します。ロクザンの船長だと発覚し、「キャプテンR」という名前を付けられた男は、持ち前の優秀さと人当たりの良さであっという間にペルマネントに馴染んでいきますが……。
こちらも、シリーズが進む度に秘密が明かされ、かと思うと新しい秘密と謎が増えていきます。改めて前作を見返すと「そういうことか!」と膝を打ってしまったり、「あれはどういうことだったんだろう?」と疑問が生じたりする言動が多数。Club SLAZYを思い起こさせる設定やワードが所々に出てくるため、併せて見るのもオススメです。
また、平牧演じるFCによるピアノの生演奏もこの作品の大きな魅力。SLAZYが煌びやかなショーに相応しい曲調を中心としていたのに対し、こちらはヨーロッパ各国の民族音楽を思わせる曲が多く、どこか懐かしい気持ちにさせられます。
柔らかさの中に凛とした芯のある歌声で物語の雰囲気を形作るバトラー、明るさと寂しさを感じさせる歌唱でキャラクターの心情や立ち位置を表現するBB、抜群の安定感で主旋律からハーモニーまでを支えるキーパー、得意のラップで楽曲を引き締めるインスペクターと、幼なじみ四人を演じるキャストたちの歌声のバランスの良さも素敵。
さらに、1作目のキーパーソンとして活躍するキャプテンR、2作目から登場するカリスマ的存在の先輩・マーマレードボーイ(鎌苅健太)、3作品目には国の秘密を深く知る存在の一人であるドクター(内海啓貴)など、脇を固めるキャスト陣も歌唱力に定評があるキャストばかり。
段々とカンパニーにまとまりと余裕が生まれ、シリーズを追うごとに遊びが増えていくのも楽しみの一つです。特に、アドリブを連発して場を引っ掻き回すマーマレードボーイの暴れっぷりは必見ですよ!
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【3】『GRIEF7』シリーズ
『GRIEF7』(2018)
野村桔梗が舞台のために書き下ろした「GRIEF7」を原作に、世界と人の闇を描く本作。自由の国アメリカ。夢を持った人間たちが世界中から集まる欲望の坩堝で、幸せや愛、自らの野望のために悩み、もがく男たちの物語です。
日本でアイドルとして活躍した後、グループを脱退し、歌手としての成功を目指してアメリカに渡ったリュウ・カブラギ(カラム)。人気オーディション番組「アメリカンスーパースター」で勝ち上がり、アメリカはもちろん、彼の存在をほとんど忘れていた日本のマスコミ・ファンからも熱い注目を集めます。
もう少しで彼はアメリカンドリームを手にするに違いない。誰もがそう思っていた矢先、リュウはオーディション番組のプロデューサー・アーロンの殺人容疑で逮捕されてしまいます。無罪を訴えるリュウが連れて行かれた先は、小柄なアジア人、ゲイなど、通常の牢獄ではトラブルに巻き込まれると予測される囚人が集められる「ケンネル(犬小屋)」。
ストーカーの罪で逮捕された元精神科医のライタ・カワイ(加藤良輔)、ハッキングで捕まったサム(SHUN)、優秀な犯罪ブローカーでありながら不法侵入で入監したグニョン(碕理人)と、個性豊かな囚人がリュウを迎えます。様々な境遇にありながら同じ場所に辿り着き、少しずつ交流を深めていく4人。
小説をベースに、一人ひとりにスポットを当ててキャラクターの心情や過去を掘り下げ、彼らの生き様をより鮮やかに描いているのが舞台版の良さだと言えるでしょう。また、舞台オリジナルキャラクターとして、ケンネルを担当する看守のムラセ(三浦海里)、アイドル時代のリュウの兄貴分であり、現在はアメリカで寿司屋を営むエディ・フクダ(米原幸佑)らが登場。
彼らの存在により、檻の外と内の対比や共通点が描かれ、作品の世界がより広がっています。原作が大胆に潤色されているため、小説を読んだ方も新鮮な気持ちで楽しめるはずです。
罪を犯して捕まった囚人たちよりも、彼らを監視するムラセの方が不自由そうに見えたり、善良な市民として暮らしているエディの方が強かで悪そうに見えたり、監獄の内外の境界線が徐々に曖昧になっていく感覚も魅力。もちろん本作においても、曲とダンスが物語の魅力を底上げしています。孤独や物悲しさを感じる曲調や歌詞が多いのに加え、ポップなナンバーにドキッとするような歌詞が入っていることもあり、各キャラクターの個性や魅力が、楽曲を通して多面的に伝わってきます。
また、冒頭でリュウのパフォーマンスと共にそれぞれの「罪」が示唆されますが、彼らの背後には気になるワードが。原作にはない謎やキャラクター同士の繋がり、思惑も見え、よりスリリングになっています。過去と現在を行き来しながら、塀の中と外で進んでいく彼らの物語がどこに向かうのか。予測がつきそうでつかない展開から目が離せません。
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いずれのシリーズにおいても、独特な世界観の中、一癖も二癖もあるキャラクターが複雑で魅力たっぷりの人間ドラマを織りなしています。
本編で起きる事件、キャラクター同士の会話、明らかになる事実から、見えていた世界が少しずつ変わっていく。シリーズ作品ならではの醍醐味を、この機会に味わってみてはいかがでしょうか。

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