いのうえひでのり×古田新太「勇気を
出して劇場に来たお客様に残念な気持
ちで帰ってもらいたい(笑)」~Yel
low⚡新感線『月影花之丞大逆転』イ
ンタビュー

Yellow⚡新感線『月影花之丞大逆転』が、2021年2月26日(金)より東京と大阪にて上演される。劇団☆新感線の41周年の春公演となる本作は、2003年に上演された『花の紅天狗』(初演・1996年)のスピンオフ作品として、強烈なテンションと存在感の持ち主である月影花之丞(木野花)が再び登場し、ハチャメチャな展開で笑いの渦に巻き込んでいく。中島かずきが脚本を手掛け、いのうえひでのりが演出を務める本作に、古田新太、阿部サダヲ、浜中文一、西野七瀬、河野まさと、村木よし子、山本カナコ、中谷さとみ、保坂エマ、村木仁そして木野花が出演する。
昨年の12月某日、都内にて、いのうえと古田に本作の内容や出演者について、さらに激動の2020年を振り返ってもらった。
■北島マヤも姫川亜弓も出てきません(断言)!
ーー2020年は『偽義経冥界歌』が楽日まで上演できず、さらに『神州無頼街』は一度も幕を開ける事なく中止となりましたね。そんな苦い体験を経て2021年の一発目に本作を上演しようと決めた背景から聴かせてください。
いのうえ:元々考えていた舞台があったんです。それはキャスト・スタッフ併せて100人規模で、長期にわたる公演で、上演時間も長いものでした。2、3年前から企画を考え準備をしていたんですが、でもそれは今のコロナ禍では難しいなと判断しまして。ならばその企画は辞めて、この時期ならではのものが出来ないかなと考えたんです。できるだけタイトで少人数のカンパニーでできるもの、なおかつ楽しく笑える面白いものをやりたいなと。では何をやろうかと思った時、すでに世界観が出来上がっているものがいいんじゃないかなと考えまして、昔『花の紅天狗』という『ガラスの仮面』のパロディ作品をやったんですが、そのなかに月影花之丞というぶっ飛んだキャラクターがいまして、彼女を中心にしたスピンオフはどうだろう? と中島(かずき)くんに話をしたんです。本来上演する予定だった作品に出演するキャストもそのまま出ていただけることになったので、その辺を活かしつつ笑える芝居をやろうということとなりました。
ーーそういう流れで本作が決まったということですが、古田さんはこの話を聞いてどう思われたんですか?
古田:久しぶりに阿部(サダヲ)と一緒に出来るのは嬉しかったですね。また木野さんを守ってあげなければ、とも思いましたし、(浜中)文ちゃんとやっと一緒にできるな、とかいろんな想いがありました。
でも、この作品、最初に言っておきたいんですが、北島マヤ的な人と姫川亜弓的な人は出てきません!
ーーええっ!
古田:(いのうえに向かって)ほら、皆、ええっ! て言ったでしょ?  絶対『ガラスの仮面』のパロディシリーズなら出ると思うじゃない? そんな大事なことをいのうえさんもかずきさんも言わないから(笑)。マヤがいてそれに対抗する亜弓さんがいるから『ガラスの仮面』なのであって。月影先生はカレーで例えるなら最大のスパイス・クミンみたいな人であって……今回クミンしか出てこない、ということを大前提に考えて観に来ていただければある程度楽しめるんじゃないかなって(笑)。
いのうえ:まあインチキなもののほうが作りやすいんで(笑)。
いのうえひでのり
ーーまさにマヤと亜弓さんの役割を浜中さんと西野七瀬さんが担うんじゃないかなって想像していたんです!
古田:絶対そう思うよね!? その誤解は解いておかないと皆がっかりするから!
いのうえ:はっはっは。二人がその役を担うという発想はそもそもなかった! 木野さんからスタートした企画だからね(笑)。
ーーその木野さんと「今回は月影先生メインで」という話をされた時はどんなリアクションをされていましたか?
いのうえ:木野さんは『花の紅天狗』から17年経っているので、当時でも死に物狂いで演じていたんですが、皆17年歳を取ったので、「身体鍛えなきゃ」って今からいろいろ準備なさっているみたいです。既に臨戦態勢ですって。今はコロナもあるので、普段以上に健康に気を配っていないとなりませんしね。
■浜中文一に期待することは「切れ味のいい変態ぶり」
ーーではマヤでも亜弓さんでもない若手のお二人にはどんな役割を担っていただこうと考えていますか?
いのうえ:七瀬ちゃんの存在はこの物語のキーワードになっているんです。圧倒的に可愛いこと、また彼女が持って産まれた輝きがお客さんにも説得力を持って伝わるようにしたいです。そして文ちゃんには切れ味のよい変態ぶりを見せてもらいたいですね。彼、綺麗な顔をしているのにどこかおかしいんですよ。その奇妙なズレがお客さんにも伝われば面白くなるなと思っています。
古田:文ちゃんが前に出ていた舞台(『50shades!~クリスチャン・グレイの歪んだ性癖~』)を観たんですが、あんなに綺麗な顔をしているのに平気で下品なことをやっていましたから。オイラ、関ジャニ∞と一緒に番組をやっていて、文ちゃんは彼らの直の後輩になるんです。横山(裕)とか大倉(忠義)が演出した作品にも文ちゃんが出ているということでリサーチしてみたら『あいつはいい奴で、何でもやりますよ!』って言ってて、そいつは楽しみだなと。また、この間まで河原(雅彦)と一緒だったんで聞いたら『いやいやいや、達者、達者』と言っていたので。観に行った時に挨拶をして、『なんかできたらいいね』と言っていて、今回それが実現できることになったのですごく楽しみです。
ーー古田さんとしてはそんな若い二人にこの現場で何を教えてあげたいですか?
古田:今のご時世、どこの現場でも終わってから食事に行くことができないんです。稽古が終わってから一杯呑んでダメ出しして泣かせることもできない訳で(笑)。でもこの芝居は西野ちゃんが可愛ければ後半は持つ。そして文ちゃんが頑張ればストーリー的に持つ。あとはオイラと阿部に任せろ、茶化すから。そしてオイラと阿部で木野さんを支える松葉杖になるから(笑)。とにかく若手の二人には稽古場で自分らで考えることを考えて、ということくらいしかできないでしょうね。このご時世なので稽古場でガタガタ言おうと思っています。阿部は後輩の面倒を見ないんで(笑)。
古田新太
いのうえ:阿部ちゃんは聞かれたら答えるけど自分から「ここはこうしたらいいよ」とは言うタイプじゃないですからね。
ーー少し『花の紅天狗』のことも。当時の印象に残るエピソードなどありますか?
いのうえ:木野さんはこういう系の芝居をやるのも初めてだったんですが、何より段取り芝居が苦手な人で。舞台の上でスイッチが入ると「どこに行っちゃうの!?」ってことが多発しまして。新感線は段取りが無数にあるのでここに立っていないと灯りが当たらないとか、ここからスタートしないといろいろな段取りが始まらないってことが多いんですが「木野さんがいない」ってことが多々あって(笑)。
古田:木野さんが舞台上からハケるとほっとしてました(笑)。でもハーって一息ついている場合じゃない、次は3ソデから出ないとならないので、オイラがソデの中で止まっている木野さんの肩をガッと掴んで連れていこうとすると「どこへ連れていくの~!?」って言われて。「どこに連れていくじゃねえよ、今から出番だろ!」ってことがありましたね(笑)。
いのうえ:サーカスの動物みたいにね(笑)。木野さんは演劇界随一の異常なテンションの持ち主なので、その輝きを最大限出してあげられるようにしたいですね。
古田:若い二人にはいい反面教師になるでしょうね(笑)。ああなっちゃいけないって見本として!
ーー阿部さんとの共演も久しぶりということですが、阿部さんはどんな存在ですか?
古田:下北沢界隈じゃショーストッパーとして名を上げていましたからね、あいつは。何もしなくても客の目を引く存在。ちょっと邪魔だわ! ってこともあったりして(笑)。だから一緒に舞台が出来るということが凄く楽しいんです。でも気が付いたら『ラストフラワーズ』以来一緒にやってないなって。最も信頼する後輩のひとりなんです。後輩の面倒は見ないけど(笑)。
オイラは七瀬ちゃん、文ちゃんにいじわるをしながら木野さんを操る文楽の人みたいな存在でありたいですね。
いのうえ:台本にはいろいろなことを要求してますが、まあこのメンバーにやらせておけば大丈夫だろうって思っています。
(左から)古田新太、いのうえひでのり
■古き時代のパロディが目白押し!
ーー今回の演出も楽しみにしています。他作品のパロディも含めて。
いのうえ:そうですね。芝居自体が劇中劇の入れ子になっているので、どんなネタが入るのかは楽しみにしていてください。
古田:気を付けなければならないのが、かずきさん、いのうえさんを筆頭に50、60代が作っているので、パロディが古いんです。20代には分からないパロディの目白押しです(笑)。
いのうえ:(笑)。公演が始まる直前にはうっすらこういうものをやりますって匂わせて「観る人たち、勉強しとけ」って事になるんじゃないかな?
古田:「これ、YouTubeで上がっているかもしれないからちょっと観といたほうがいいかもね」って(笑)。
ーー古田さんは何気におポンチものに出るのは久しぶりですよね?
古田:そうですね、ていうか、劇団員は皆歌のあるおポンチものに出たがっていると思います。いのうえ歌舞伎よりも(笑)。おもしろに全力でぶつかりたいと思っているでしょうね。今回、文ちゃんと七瀬ちゃんという素敵なゲストと阿部という恐ろしい助っ人が加わるので、このご時世ですから勇気を出して劇場に来たお客様に残念な気持ちで帰ってもらえるように頑張りたいです(笑)。
今いろんなメディアの取材で「今回は面白くないです」って下げている最中です。「こんなに面白くない舞台はないです」って言っていると実際に観に来た人が「そんなことなくね? 結構面白かったよ」って言ってくれそうな気がするんです(笑)。
ーーいのうえさんから古田さんに今回のカンパニーでお願いしたい役どころは?
いのうえ:いつも番頭みたいな役回りをさせていますし、今回も基本的には文ちゃんと七瀬ちゃんの面倒を見ること、新感線のおもしろ舞台での居方を教えてもらえれば。なんだかんだ言っても5月くらいまでは一緒にいますからね。その中で楽しくいられる術を教えてもらいたいです。
いのうえひでのり
古田:オイラの役は新たに挑戦するってことがまるでない役だから(笑)、文ちゃんと七瀬ちゃんに気持ちよくいてもらえれば。そしていのうえさんの精神衛生上、悪いことは皆するなよ、特に河野(まさと)!」ってことですかね。ふてくされたりしますからね、いい大人なのに(笑)。
いのうえ:今回アンサンブルが限りなく少ないカンパニーなので、舞台セットチェンジもやることになると思うけど「何で俺がこんなことやらなきゃならんのよ」ってきっとブーブー言うからね。「休めない」とか(笑)。
古田:そういう意味では劇団員たちのストレスを発散させることも大事だね。「できる訳ないじゃないですかー! 考えてみてくださいよ!!」で台本バーンって投げつけたりして(笑)。
いのうえ:台本も読んでいると「ここ、サンボ(河野)空いてるじゃんって」「何秒くらい空きそう? いけるいける!」ってことがよくあるから。
古田:台本読むとわかりますからね。(山本)カナコと(保坂)エマと(中谷)さとみでしばらく場を持……つ訳ねーじゃん! ってこととかね(大笑)。
■今やりたいことは?「客イジリがしたい。ソーシャルディスタンスを保ちつつ」
ーーコロナ禍吹き荒れたこの1年を振り返ってみていかがでしたか?
古田:いのうえさんはひどい一年だったと思うよ。
いのうえ:確かにね。途中で上演が止まった『偽義経冥界歌』は博多公演が全部中止になり、そのショックが癒えぬまま、緊急事態宣言に入っちゃったからね。1か月くらい、ただ部屋にいて、『ゲーム・オブ・スローンズ』をひたすら見る生活でした。夏くらいからWOWOWさんの『劇場の灯を消すな』とか、9、10月は元々別の作品をやろうと思っていたところに『浦島さん』と『カチカチ山』をやり、ようやく動き出したなってところです。でも基本的に前半のダメージが大きくてそこから立ち直るのに時間がかかりました。何か、余計なことを考えだすとヤバイなって、そういうどよーんとした空気も感じましたからね。
古田:オイラは舞台人としては順調だったんですよ(笑)。ケラリーノ(・サンドロヴィッチ)と企んでいたのが一本飛んだくらいで。宮藤官九郎がコロナにかかっておやおや……って不安もありましたが、その頃映画を2本やっていて両方とも撮りきり、ドラマも朝ドラ『エール』も撮り切って、『半沢直樹』は途中で止まってどうするんだろうと思っていたら、案の定オリンピックが延期になってドラマの放送が1クールずれることになって。出演しているのが歌舞伎役者や舞台役者が多かったので「スケジュールが空いてるから出るか」みたいになってね。秋からはねずみの三銃士の舞台が入り、先日無事完走してね。多分去年と年収は同じぐらいだと思います(笑)。周りでコロナにかかった人がいる中、運がいいことにすべてギリギリで回避できて。生瀬(勝久)さんに至っては「お前がコロナにかかればいい」って悪態もつかれました(笑)。
古田新太
いのうえ:オーディションで感染したってケースもありましたからね。アンサンブルは仕事を探さないとならないからオーディションがあればそりゃ行きますよ。自分が所属している劇団だけなら感染しないでいられるけれど、ヨソの仕事場に行くのがまさにデンジャラスゾーンですよね。でも生活のためにもそれは止められないから気の毒だなって思いましたね。他人事じゃないですけど。
ーーコロナ禍で気づかされたことは?
いのうえ:ねずみの三銃士『獣道一直線』の芝居の中にありましたけれど、「俺たちは不要不急なんだ」って台詞がグサッときましたね。
古田:芸人さんも含めて本当に「不要不急、俺たちは必要ないんだ、いなくても誰も死なない」ってことですごくネガティブになった人はたくさんいましたから。
いのうえ:まあでも少しずつ動き出して、お客さんの中でも「エンタメがあってくれてよかった」とか、医療従事者の方でも「お芝居に行くことが生きがいで頑張っています」とおっしゃってくださる方もいるので、僕らの存在で前向きになれたら嬉しいと思いますね。
ーー今動き出した他のカンパニーでも、とにかく笑ってほしいからと明るく楽しい内容の芝居がたくさん出てきていますしね。
いのうえ:今、裏切りとか絶望を感じさせるものはあまりないでしょうね(笑)。2021年はまずはこのYellow⚡新感線が無事終わって、秋にはもう1本できたらなと。希望的観測ですが秋の公演は観客もフル、芝居もフルスペックでいつもの新感線芝居をやりたいですね。
古田:まずは『月影花之丞大逆転』を無事最後まで上演することですね。いつもの新感線に比べたら少ない人数での公演ですが、全員で完走するということが目標ですね。内容は面白くなくても(笑)、ほら、常に下げておかないと本当に面白くなかったときのショックがデカイので(笑)。オイラは相変わらずおもしろ芝居しかやりたくないので、そういう芝居に出まくりたいですね。……ああ、でもお客さんをイジリたいなぁ。客席に降りたいですね。今絶対に許されないですから。昔は、客席に降りて知らないお客さんにキスしたりとかしてましたからね。今は1列目は全部空けて隣も1席ずつ空けていますが、そんなソーシャルディスタンスの中、あえて客席に降りたいです(笑)! 「誰にも言うなよ!」ってお客さんに口止めしながらね(笑)
(左から)古田新太、いのうえひでのり
取材・文=こむらさき  撮影=寺坂ジョニー

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