斉藤壮馬【インタビュー】自分でも想
定していない部分を大事にしながら作
り上げた、2ndフルアルバム『in blo
om』

斉藤壮馬の2ndフルアルバム『in bloom』が2020年12月23日(水)に発売された。
斉藤自身が全楽曲の作詞・作曲を手掛けた本作。“季節のうつろい、世界の終わりのその先”をテーマに、3曲連続でリリースしたデジタルシングル『ペトリコール』『Summerholic!』『パレット』。その世界観をより深化させたアルバム『in bloom』について、SPICEの独自インタビューをお届けする。
斉藤壮馬 2ndフルアルバム『in bloom』全曲試聴
【インタビュー】内省的で主観的なアルバム『in bloom』
――2ndフルアルバム『in bloom』発売おめでとうございます! 制作はいかがでしたか?
ありがとうございます。もともと2020年の年末にアルバムを出そうと決めていたのと、6月から配信した“in bloom”シリーズの3曲もあったので、ずっと楽曲を制作していたような感じです。でも2020年は家で過ごす時間が増えたので、その時間を使ってデモ制作を進めることができました。自分のなかではもともと曲作り=仕事の息抜きや趣味だったので、考える時間がたくさんとれたこと自体は楽しかったですね。ただ、ストックもかなり溜まったと思っていたんですが……いざアルバム曲を精査し始めたら、曲としてはいいけれど、『in bloom』には向かないなという曲が多くて。
――向いている曲・そうでない曲の差はなんだったのでしょうか。
月並みですが、まずは曲の方向性が被らないものを基準に選曲しました。普通に選曲していくと、つい自分の好きな流れになっちゃうんです。例えば2曲目はBPMが速い曲がいいとか、最後は壮大な曲で終わりたいとか。今回もそうやって曲を選んでいったら、1stアルバム『quantum stranger』(2018年12月19発売)と似たものになってしまって。それに、配信でリリースしていた「ペトリコール」「Summerholic!」「パレット」の3曲とも被らないような楽曲を収録したいと思ったので、逆算しながら選曲していきました。
アルバムのリード曲は「carpool」ですが、これもMV撮影の直前まで決まらなくて。候補はほかにも2曲あって、「シュレディンガー・ガール」か、6/8拍子のロックバラード的な楽曲――今回は収録しませんでしたが――の3曲で悩みました。それもいい曲ではあるんですが、「パレット」や「結晶世界」(1stアルバム『quantum stranger』収録)や「memento」(ミニアルバム『my blue vacation』収録)と近い部分もあったので、今回のタイミングでなくてもいいかなと。
――好きな世界観、描きたい世界観は一貫してブレていないのかもしれませんね。
僕が今までよく描いてきた大きなモチーフのひとつに“世界の終わり”というのがあるのですが、今回は、“世界の終わりのその先”を描きたかったんです。なので、似たモチーフではあるけれど、聴こえ方や見え方は変わってきてるんじゃないかなと思います。
「世界が終わって雨が降ったあとに、また草木が芽吹いていく」
――確かに、“世界の終わり”をさらに突き詰めた“その先”を描くとなると、より深みも増しそうです。改めてアルバムタイトル『in bloom』に込めた想いをお聞かせいただけますか。
もともと「ペトリコール」を6月にシングルとして出す予定だった頃、どうせなら3曲とも雨をテーマにした楽曲のシングルにしようとしていたんです。その候補だった曲のなかに“花と雨”みたいなテーマの楽曲があって。そのとき自分のなかで考えていた曲名が「FLOWERS」か「in bloom」だったんです。なぜ花をテーマに選んだかというと、世界が終わって雨が降ったあとに、また草木が芽吹いていくというイメージがあったから。そこから『in bloom』という言葉に繋がりました。
――なるほど!
あともうひとつ意味があるんです。今回のアルバムを読み解くにあたって、全曲に共通しているキーワードは“妄想”。どの曲も、主観的な歌詞で書かれているんです。曲の主人公にとってはまさに今“in bloom”しているんだけど、それを第三者が見ると、ただハッピーなだけではないという違和感がある曲になっています。曲によってはそれが恐怖だったり、得体の知れない感じだったり。“in bloom”という言葉自体はポジティブな意味の言葉ですし、確かに曲の主人公たちは“in bloom”しているとは思うんですが、だからこそ内省的で主観的な……一筋縄ではいかない楽曲が多くなっています(笑)。そんな意味も込めて、『in bloom』というタイトルにしました。
アート盤
――それはジャケットのアートワークにも表れていますね。部屋の中で充実した時間を過ごしているように見えて、じつはその部屋が野外にあるという。
シュールレアリスムっぽい世界観ですよね。なので、歌詞の書き方も変えています。文字通りに聴いたり読んだりすると、一応の意味は見えてくるのですが、それはあくまでも表面的なもの。ひとつの角度からみた景色でしかないんです。実は、その言葉の意味通りではないニュアンスみたいなものが、曲にも歌詞にも散りばめられています。
テクスト論で楽しむ、アーティスト・斉藤壮馬の世界
――物事を多面的に捉えて楽しむ方法は、一体どこで備わったものなのでしょうか。
どうだろう……? 僕は読書が好きなのですが、高校生くらいまでは作家論的な読み方しか知らなかったんです。作家論とは、例えば太宰治の作品であれば、「太宰治はこういう人生を歩んできたから、こういう小説を書いています」みたいなアプローチの読み方のこと。でも、作家本人と作品を全く関係のないものとして読み解く方法もあるんです。それがテクスト論。テクスト論という読み解き方を、高校~大学生くらいの頃に知って、「作り手と作られた作品を結びつける以外の楽しみ方があるんだ!」と驚いたことがありました。
エンタメの楽しみ方のひとつに、作品を自分なりの解釈で楽しむというものがありますよね。僕自身も、「この作品はこう感じてほしいです」と言われるものより、「あのシーンは一体どういう意味だったんだろう?」と、見終わった後に静かに熟成させていくような作品が好きなんです。そういうものが、自分の楽曲でも出せたらいいなと思って。これは、デビュー曲『フィッシュストーリー』(2017年6月7日)の頃から、打ち合わせなどでもよく言っていた気がします。
――リード曲をギリギリまで悩まれたとのことでしたが、構成についてはいかがですか?
曲順もそれなりに悩みました。それこそ、曲を増やすか減らすかといったところも、ギリギリまで悩んでいたくらい。結果的には前半がキャッチーで、後半に行くにしたがって深くなっていく構成になっています。10曲目の「いさな」という曲が実質的にはラストトラックにあたる立ち位置で、11曲目の「最後の花火」はエンドロールのようなイメージでこの位置に置きました。アルバムとしてはそこまで明るい内容にならなかったので、最後は少し次への希望が持てるような曲で終わろうという意味も込めて。それから、「ペトリコール」「Summerholic!」「パレット」の3曲は、リリース順に配置することで、“in bloom”シリーズからアルバムへの流れもわかりやすくなるかなと思って、この並びにしました。
ただ、どの創作物にも言えることですが、聴いたり見たりしてくださる方がいてくださって初めて成立する物。いまお話ししたくらいの意図はあっても、全てのことに100%の意味があるというわけではありません。作り手が意識していない無意識の領域から出てくるものもきっとあると思うので、そこは逆に僕も感想をいただいて初めて「なるほどな、そういう見方もあるのか」と気付かされます。だからこそおもしろいんですね。
――「いさな」が実質的にはラストトラックというのもすごくしっくりきました。歌詞にも、“花と雨”というテーマが詰まっていますし。
なにしろ8分以上ある曲ですからね。「いさな」で終わるプランもあったのですが、それだとどうしても「結晶世界」を聴き終わった後の雰囲気と似てしまうので、もう一曲「最後の花火」をプラスすることで、その先に行けたかなと。
斉藤壮馬 『ペトリコール』 MV
――内省的で主観的な楽曲が多いアルバムですが、それが特に際立ったと思う楽曲は?
そうですね……改めて「ペトリコール」は、我がながらいい曲が書けたなと思います。「ペトリコール」以外の曲も、変な人たちがそれぞれの世界を楽しんでいるのですが、なかでも「キッチン」はかなり特殊な曲になりました。楽曲そのものは以前からあって、それこそただの趣味として書いていたころからある楽曲です。そのときはまだ歌詞がなかったのですが、2020年は外出自粛期間中に自炊をする時間が増えたこともあって、このテーマの歌詞になりました。音楽に限らず、いままであえて表現しようと思わなかったようなことを表現しようと思えるようになったのが、今年の一番大きな変化です。それが僕にとってはキッチン周りの生活だったという。
「それだけではないな」と考え方が変わってきた
――「キッチン」はボサノヴァ調のアレンジと、唐突な歌詞に引き込まれる楽曲ですね。
アレンジャーのSakuさんにお願いして、キッチン用品の音をサンプリングしてリズムトラックを作っていただきました。以前だったら、個性的でいい曲だけど使いどころがわからなかったり、歌詞が全然思い浮かばなかったと思うんです。でも『in bloom』というアルバムを2020年に制作したからこそ、完成することができた曲になりました。それだけ、考える時間ができたからこそ生まれた世界観だったんだと思います。「世界を救うのは たぶんわたしじゃない」という歌詞にも表れていますが、このアルバムの人たちは、みんな発想に飛躍があって、あまり論理的ではない人たちばかりです。
――斉藤さんご自身は論理的なタイプの印象ですが……。
声優業でもそうですが、もともと自分は、演じるキャラクターに対してロジカルに歩み寄りたいタイプでした。でもだんだん「それだけではないな」と考え方が変わってきて。人間が持ってる矛盾や感性に、自分の興味の比重が移ってきたところなんです。だから、「キッチン」も他の曲も、論理が飛躍していたり発想がぶっ飛んだりしてはいるけれど、間違いではないと思いながら作っていきました。
――ということは、作詞の面でも変化があったのでは?
いままでだと、本当はこういう歌詞にしたいけれど、被ってしまうからやめる、みたいなことがよくあったんです。でも今回は、この部分にはこの歌詞が一番適切だからこのままにしようと、あえて変えずに作っていきました。そうやって思うままに作っていった曲がある一方で、メロディが洋楽っぽい「シュレディンガー・ガール」なんかは、日本語の歌詞が載せにくくて苦戦しました。
曲作りの段階では、英語っぽい適当な言語の仮歌詞で作っているので、それだと後々日本語の歌詞を書くときに苦労するんです(笑)。「シュレディンガー・ガール」はかっこいい曲にしようと思いつつ、ずっと架空の言語の歌詞のまま後回しにしていて。でもレコーディングが進んで、だんだんアルバムの全容が見えてきたときに、普通にかっこいい曲にしてもあまり面白くないかもしれないと思うようになって。結果、アルバムのなかでは中二ソング担当になりました(笑)。難しい単語をそのまま使うのも好きだったんですが、実はそれって簡単で。だったらもう少しメタ的な表現をしてみようと思って書きました。この曲の主人公は思い込みが強そうだったので。「キッチン」もそうですが、主人公と世界観が直結している歌詞が多いかもしれないです。
――かっこいい曲から中二担当……正反対の方向に変わるのも面白いですね。
こうしてお話していてもそうですが、人間って全然論理的な生き物じゃないと思うんです。頭の中で考えていることも、実はそんなに文章化できていなかったりするもの。そんな、完全に言語化処理できていないものを、エンタメの形で表現できたらと思うんです。それでも、「シュレディンガー・ガール」や「BOOKMARK」は書こうと思って計算で書いている曲。
斉藤壮馬 『carpool』 MV
逆に、最初から曲とメロディができていたのは、「carpool」でした。冬に発売するアルバムらしく、グッドメロディで暗さや影のある日本のギターソングの楽曲を目指して作った曲です。でもMV撮影の直前まで曲ができあがらなくて。だったら、一度素直に自分の好きなコード進行で作ってみようと思って歌ってみたんです。そうしたら、手ごたえのあるものが出てきたという。曲によって、いろんなプロセスを経てきたなと思います。
「どんなに曲の続きを考えても一向にサビがこなくて(笑)」
――そんなアルバムの中でも、カラーが個性的なのが「Vampire Weekend」。
これは、iPadにプリセットされている音楽制作アプリ「GarageBand」で遊んでいるうちにできた曲。そこにもともと入っているループ素材を組み合わせるだけで、ちょっとしたトラックを作ることができるんです。独特な展開の曲ですが、それもループで作ったからこそ。基本的なコード進行はずっと変わらず、ビートや歌のメロディがどんどん変わっていくという洋楽的なアプローチの曲になっています。サビが始まったら曲が終わるのも面白いかなと。当初僕が作っていたデモだと、もう少しクールな感じだったんです。それこそ、「BOOKMARK」に近いような音色でした。でもESME MORIさんが、もっとビートをバキっとさせたかっこいいアレンジにしてくださったので、個性的でノレる曲になりました。
――ESMEさんといえば、『ヒプノシスマイク』でも楽曲を制作されていますが、そこでの出会いがきっかけだったのでしょうか。
最初にお会いしたのは『ヒプノシスマイク』でしたが、ESMEさんが楽曲を提供されている、Awesome City Clubさんやiriさんも聴いていて。ファンクミュージックの、16ビートでグルーブ感のある音、かつエレクトロニクスも使っているような音楽のアレンジがすごく素敵だなと思っていたんです。「Vampire Weekend」のデモができあがった段階で、これはトラック系に強い方にアレンジをお願いしてみたい! と思って、ESMEさんにお願いしたところ、引き受けていただけました。結果、僕の想定以上にかっこいいアレンジをしてくださったので、とてもありがたかったです。
「自分でも想定していない部分を大事にしたい」
――斉藤さんの楽曲は、オーソドックスな展開に縛られない曲が多いのも印象的です。
そうですね。以前から、いわゆるJ-POP的な構造ではない曲をやりたいという想いがあって。でも今回はそこを意識して作ったというよりは、その曲がそうしたいのであればそうしましょう、という感じに作っていきました。「Vampire Weekend」をスタッフさんやESMEさんに聴いていただいたときに、「キャッチーなサビがあったらもっとよくなるんじゃない?」と言っていただいたのですが、どんなに曲の続きを考えても一向にサビがこなくて(笑)。しかもようやくサビが来たと思ったら、そこで曲が終わってしまったんです。でもそれも「まあいいか」と。
――曲がそうしたいからそうする、と割り切れるのすごいですよね。
自分は楽曲制作を職業にしている作家ではないので、自分でも想定していない部分を大事にしたいんです。「最後の花火」も、アルバムのなかにいわゆる分かりやすいポップスがなかったので作ってみた曲ですが、サビのあとの展開はかなり特殊になっています。Eメロまであるので、クロスフェードなどでサビだけを視聴したときと、フルで聴いたときとでは、曲の印象もかなり違ってくるタイプの曲になりました。作っていくうちに自分のなかでも「そうなるのか!」という驚きがありました(笑)。それくらいフィーリングで作ってしまった部分も多かったので、スタジオでMIDIキーボードを叩きながら歌のメロディを確認していったくらい。名義としては作詞作曲・斉藤壮馬ですが、そうやってレコーディングでみんなと一緒にチームで作れるのがありがたいですね。コーラスワークも、4パターンくらいみんなで持ち寄ってきて、実際に歌いながら確かめていきました。自分の頭のなかだけで完結しないものづくりができるのは楽しいです。
かけがえのない時間にしおりを
通常盤
――「BOOKMARK」は、斉藤さん自らもアレンジをされていますね。
僕と、友人のJさんとでやっています。この曲は、「ペトリコール」をシングルとして出す際のカップリングの候補曲でした。それからしばらく寝かせていたんですが、ある日Jさんにデータをお渡しして聴いてもらったら、ラップをいれて編曲してくれて。そのアレンジがすごくかっこよかったので、そのまま使うことにしました。編曲に関しては、ほかの曲もデモの段階で自分のアイデアをお伝えしているのですが、「BOOKMARK」に関してはJさんが作ってくださったものをそのまま活かしています。
――ほかの曲に比べると、歌詞もかなりストレートですよね。
学生時代ならではの想いを歌った曲ですね。オールして無為に一日を過ごしてしまったけど、それは決して無駄な時間ではない、みたいな。あの学生時代ならではの感じが出せればいいなと思って書きました。個人的には、20歳くらい……大学生特有の青さをイメージしています。歌詞にもある「午前4時」の世界の青さと、人としての青さがどちらもある感じ。きっと、スカすのがカッコいいと思っていた年ごろって、誰にでもあると思うんです。本当は熱い想いを持っているのに、どこか「俺は本気じゃないぜ」っていう歌い方をしてみたり。なので、そういう自分がカッコいいと思ってる年ごろの歌い方をしています。
ラップ部分もそう。Jさんが歌っているラップ部分は、テクニカルではなくストレートにしてもらったのですが、僕が歌っている部分は、あえてダラっとラップしてみました。「何万光年離れたところで」という歌詞も、J-POP的なアプローチを意図的にやっている主人公を想像して歌っています。きっとこの人はシャイなんでしょうね(笑)。
――自分が周りからどう見られるかを意識している感じですよね(笑)。
そうそう。数年経ったときに振り返ると、「このときの俺、イキってたな~(笑)」と複雑な気持ちになると思います。でも、当時の彼らにとってはまぎれもなくかけがえのない時間。だからこそ、しおりを挟んでおきたいという意味をこめて「BOOKMARK」というタイトルにしました。曲のなかにページをめくる音が入っているんですが、これもJさんのアレンジです。ページをめくっていって、最後に本を閉じるようなアレンジになっているのが、すごくいいなと。今回はユーモアを大事にしながら作っていったので、遊びなし・100%かっこいい曲というのはあまりないんです。そういうものよりは、どこかにいびつさがあった方が愛おしいと感じるようになったので。そんな今の僕の感覚が詰まったアルバムになったと思います。
曖昧な状態そのものを表現する
――アルバムにとってもまさに「BOOKMARK」だなと思うのですが、「BOOKMARK」の前後の雰囲気がガラッと変わりますよね。後半の「カナリア」「いさな」「最後の花火」という展開が素晴らしい。
「カナリア」、暗すぎですよね(笑)。ちょうど「Vampire Weekend」や「BOOKMARK」といったビート系の楽曲の制作を進めていたので、その反動で静かな曲をやりたいなと思って作りました。エリオット・スミスみたいな雰囲気がやりたくて。この曲のEm7-D-Cというコード進行はめちゃくちゃ王道で、いろんな楽曲に使われているんです。いろんな曲に使われているということは、そのコード進行だけで人の心に訴えかけるものがあるはず。そう思って、シンプルにバース(Aメロ)とフック(サビ)しかないような楽曲ができあがりました。
――生っぽい歌い方も面白いですが、レコーディングはいかがでしたか?
「キッチン」と同じ日にレコーディングしました。今回いろんな歌い方を試しているのですが、「キッチン」はあまり声を出さずに歌っています。そうすることで、声のニュアンスがうまくマイクに乗せられるんです。一方の「カナリア」は、まるで生で弾き語りをしているような歌い方で収録しました。歌詞の内容的にも思考がぼやけている感じの曲なので、その朦朧とした雰囲気が歌でも出せればいいなと。だから2回くらいしか歌ってないんです。歌のうまさでいうと、そんなにうまくは歌えていないんですが、それよりも生々しさがこの曲には欲しかったので、そちらを優先してみました。この曲はチェロのソロが入っているんですが、それがめちゃくちゃ素敵なんです。収録に立ち会うことはできなかったのですが、まさに理想的な音になっていて感激しました。しかもファーストテイクだそうで。あのソロの音が入ったことで、曲の輪郭がすごくハッキリした気がします。コンパクトながら、とても印象に残る曲になりました。
――ひとつの物語というよりも、ポエトリーな雰囲気の曲になっていて、素晴らしいですよね。
カットアップっぽい、断片的な歌詞になっているので、そう感じていただけたならうれしいです。
――「カナリア」のように、とても繊細であいまいな世界観を、ここまで表現できるのがすごいなと。
声優としてもそうなんですが、むしろハッキリとしたものを表現するほうが苦手で。だから、僕が「絶対に大丈夫だから、俺に任せろ!」みたいな表現をしても、どこか弱い気がするんです。優柔不断なのかな(笑)? それよりも、“季節のうつろい”というテーマのように、曖昧なものにすごく惹かれます。そういう曖昧なものに名前をつけるのではなく、曖昧な状態そのものを歌詞や曲にして表現するのが好きなんです。
――最後に、ファンへのメッセージをお願いします。
2020年は、ひとりの人間として、声優として、アーティストとして、どうあるべきなのかを考えた一年でした。外出自粛期間中は、2か月くらい仕事ができなかったのですが、その期間が明けて久しぶりに掛け合いの芝居をしたとき、ものすごく楽しかったんです。改めて、自分が好きなものはこれなんだと再認識することができました。音楽もそう。パソコンや機材を買って、家にいながらいろんな物語を空想しながら書けたのもとにかく楽しくて、やっぱり音楽が好きだなと実感したんです。それを、CDとして届けることができるありがたみを感じた一年でした。
エンタメの力のひとつは、そういった現実世界にはない癒しや楽しみを届けることができること。自分もエンタメに救われた分、役者としてアーティストとして、逆にそのエンタメを届ける側として“提供させてもらえる”ことがすごくありがたいんです。今回『in bloom』をCDの形でお届けできることがとてもうれしいです。さらに、2021年4月・5月にはライブツアーも決定しています。まだまだ準備段階ですが、前回のライブより曲数も増えているので、皆さんに楽しんでいただけるものがお届けできればと。ライブというものの良さを、皆さんと一緒に感じられる日が楽しみです。まずはアルバムを聴いて、春にin bloomする準備をしていていただけるとうれしいです。
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