南正人の
『ファースト・アルバム』に残る
キャラメル・ママと魅惑のセッション
キャラメル・ママが参加した本作
ちなみに1971年に発表された前作『回帰線』もほぼ同様のメンバーが参加しているそうで、そこでのレコーディングでの確かな感触を得て、それから2年後の『ファースト・アルバム』でも引き続き、南氏は彼らを起用したと思われる。どういうつながりと流れがあって氏らが集ったのかは今回、調べがつかなかったが、M2「午前4時10分前」やM4「ア・ウィーク」を聴く限り、自身がコンポーズした曲とキャラメル・ママの演奏とが醸し出すケミストリーを信じたことは間違いないだろう。だとすると、それだけでも南正人が単なるシンガソングライターではなく、プロデューサー視点を兼ね備えたアーティストであったことが想像できるし、それはあながち的外れではないと思う。
(たぶん)晩年の南正人氏の演奏する姿がYouTubeにアップされており、それを観る限り、アコースティックギターを抱え、ハーモニカホルダーも着けているので、確かに氏をフォークシンガーと括るのも分からなくもない。しかし、『ファースト・アルバム』に残る音像は我々が簡単に想像するフォークではなく、もっと幅広く、奥深いものである。また、ここまでは歌詞を紹介してなかったけれども、本作のリリックは日本的な情緒を感じさせるものであるが、いわゆるプロテストソングの匂いはまったくないと言っていい。氏の全ての作品を確かめたわけではないので、それは本作だけの傾向かもしれないが、少なくともここではもろに1960年代後半のヒッピー思想のようなものは感じられない。何と言うか、もっと自由な印象だ。完全な半可通ではあるものの、そんな自分からしても、やはり南正人を“フォークシンガー”と括るのは少しもったいないように思う。たむけの意味でもそこは強調させてもらいたい。あと、何がもったいなって、『ファースト・アルバム』は現在、廃盤になっていることだ。権利関係はいろいろあろうが、追悼の意味で再度の復刻を期待したい。その作品を多くの人に聴いてもらうことこそ、個人への最大のはなむけだろうと思うのだが…。
TEXT:帆苅智之