市村正親「苦しい時期だが、頑張る力
を皆さんに与えたい」~ミュージカル
『屋根の上のヴァイオリン弾き』イン
タビュー

2021年2月に東京・日生劇場にて、名作ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』が上演される。本作に2004年から主人公・テヴィエ役で出演し続けている市村正親の取材会が、2020年12月中旬に行われた。
本作は1964年にブロードウェイで初演され、1905年帝政ロシアの時代を舞台に、寒村・アナテフカに暮らす家族の愛と絆が描かれた物語。日本では1967年に初演され、今もなお多くのファンに愛されている。
リモートで行われたこの取材会、画面の向こうにはいつもと変わらぬ笑顔の市村の姿があった。
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(2017年公演)より    写真提供=東宝演劇部
ーー2017年ぶりに再度テヴィエ役を演じる事となりますが、今のお気持ちはいかがですか?
やっぱりまたあの家族、鳳蘭さんのゴールデをはじめ、5人の娘たちと再会できることが何よりも嬉しいですね。今回娘たちが皆新しい娘になります。前回三女チャヴァ役だった(唯月)ふうかが今回次女ホーデル役になりますし、また違った雰囲気になりそうです。またアナテフカの住人たちと会えるのも楽しみですね。愛のある話なので稽古初日が待ち遠しいです。​
ーー市村さんは作品では娘たちを送り出す役ですが、実際は息子さん二人の父親。親子関係の違いを感じた事はありますか?
うちは男同士の繋がりがあって、息子たちとはまるで兄弟のような感じがあるんです。休みの時期は男3人で遊ぶのがすごく楽しいんです。だけど『屋根の上のヴァイオリン弾き』では子供は娘5人。それもテヴィエの長女、次女、三女は皆、親の思い通りにならない。それがつらいところですが、お芝居だから許せるところでもあり、娘さんを持つ世の中の父親はこんな感じなのかなと。世の父親たちにとってはこの『屋根の上のヴァイオリン弾き』は理解しやすく楽しめるというか、身につまされる物語なんじゃないかな? そんな風に感じますね。
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(2017年公演)より    写真提供=東宝演劇部
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(2017年公演)より    写真提供=東宝演劇部
ーーテヴィエの妻ゴールデ役の鳳蘭さんとのやりとりも楽しみのひとつですね。長年コンビを組んできて感じる事は?
ツレちゃん(鳳の愛称)は最初にタッグを組んだときから素晴らしいゴールデでした。素晴らしい女房だし、怖いし優しいし、泣き虫だしやきもち焼きだし。ツレちゃんは見た目は派手な女優さんなんだけど、心の中は凄く繊細でナイーブ。そのギャップがいいですね。宝塚時代は男役でしたが、男性としての強さと女性としてのはかなさを持ち合わせている人。そこがいいんですよ。そして、おちょくり甲斐もあるんです(笑)。毎回、一緒に演じるたびに新しい発見があり、新しいおちょくり方ができるんです。彼女とは“ツーと言えばカー”の関係ができていますが、今回は逆に“ツー”と言わないでおいたらどう出るかな……とかね。そんな僕らが楽しんでいる様子を、お客さんも楽しく観てくれているんじゃないかな?
ーー初演から何度も演じられてきた事でテヴィエという役に対する考え方の変化といった事などありますか?
そうですね……最初はとにかく演じることに必死だったなという記憶がありますね。それがだんだんアナテフカ​の中にいるユダヤ人のテヴィエが、自然と自分の中に積み重なってきたように思います。
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(2017年公演)より    写真提供=東宝演劇部
ーーこれだけ何度も再演を重ねてきた本作の魅力をどこに感じていますか?
やっぱり親子や夫婦という関係は普遍的なんですよね。人間の古典的な物語もドラマチックに描かれているし、音楽も筋もいい。なんたって、役者がいいね(笑)! 僕はいろいろな役を演じてきましたが、テヴィエはひげを生やすことから役作りが始まるんです。衣裳を着て帽子をかぶって荷車を引くと、即テヴィエになっちゃう。僕は昭和24年生まれでああいう荷車で育った人間なので、すごく実感を持って演じられるんです。またゴールデとのやり取りなんかはお客さんがうんうんそうだ、と頷きながら観ているんですよ。もしかしたら、おうちに帰ってから奥さんや旦那さんに芝居上の台詞を言っているかもしれないですしね。自分の生活と照らし合わせながら観てくださっているんでしょう。今まさにコロナ禍で家族と過ごす時間が増えているので、そんな時にこの作品を通して親子のつながりなどを考える機会ができるといいですね。​
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(2017年公演)より    写真提供=東宝演劇部
ーー今まさにコロナ禍真っ只中で、配信上演を行う作品も増えたり、様々な取り組みが行われていますが、市村さんとしてはこの点をどう取らえていらっしゃいますか?
劇場に来たくても仕事やご家庭、距離の問題で来られないという地方の方にとって、配信はこのような生活様式になってしまったが故の苦肉の策ではありましたが、プラスとして取って良いと思います。でも、やっぱりそれは劇場にお客さんがいらしてくださるようになったからこそ。公演再開時は50%の客席から始まり、最近はほぼフルで使える機会も増えてきていますから、あとは僕らが出来る限りの感染予防をすれば大勢の方に観ていただけるんじゃないかな。先日まで上演していたミュージカル『生きる』では、地方公演もしましたが、そこのお客さんたちからは演劇に飢えている印象を強く受けました。声を出しちゃいけない、歓声を上げてはいけないという縛りはありますが、それ故に観方が熱いんです。​
ーー5人姉妹の上から3名の女優さんたちに想うことは?
3女チャヴァ役の屋比久知奈さんは今年、『ミス・サイゴン』で共演する予定でしたが、公演が中止になってしまいました。今回、共演できることは新鮮でいいなと思っています。彼女は『モアナと伝説の海』で主人公の吹き替えをし、歌手として劇中歌も歌っているので、この前家族で見て「この歌を歌っている子と今度共演するんだよ」と子どもたちに話しました。長女ツァイテル役の凰稀かなめさんは元宝塚ですからツレちゃんに任せます(笑)。娘たちとの年の差がかなり離れたことで、皆まとめて組み合えるようになったことが幸せですね。
ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』(2017年公演)より     写真提供=東宝演劇部 
ーーご自身がテヴィエを演じ続けることについていかが思っていらっしゃいますか?
出ずっぱりなのがうれしい。これほど役者冥利に尽きることはありません(笑)。娘たちや妻との物語、そしてテヴィエ自身も人生に向き合っています。僕は舞台でたかだか2、3時間で、他人の激しい人生を生きることができる、と思ってこの世界に入ってきましたから、彼のドラマを演じられることがありがたいです。​
ーー最後に上演を楽しみにしているファンの方へメッセージをお願いします。
今コロナ禍で上演できることの幸せをかみ締めながら、アナテフカの住人として、1回1回すごいパワーを持ってお芝居を見せたいですね。苦しい時期ですが、頑張る力を皆さんに与えたいです。
『屋根の上のヴァイオリン弾き』2021速報PV
取材・文=こむらさき  写真提供=東宝演劇部

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