諭吉佳作/menとは一体何者か? 謎め
いたキャラクターとマニアックな音楽
性に包まれたシンガーソングライター
に迫る

ユキチカサクメン、と読む。静岡県出身、17歳、作詞作曲トラックメイクをすべて手がけるシンガーソングライター。“スマホで楽曲制作する新世代”として注目され、『未確認フェスティバル2018』で審査員特別賞を受賞し、その後も各種メディアの注目を集めて現在に至る。未だCDや配信リリースはないものの、でんぱ組.incへの楽曲提供や、同世代の崎山蒼志とのコラボなど、その才能の大きさと幅広さは確かなもの。謎めいたキャラクターとマニアックな音楽性に包まれた諭吉佳作/menとは一体何者か、その謎をやわらかく解きほぐす、SPICE初登場インタビュー。
何に対してもオタク的な思考というか。ちょっと、非現実的でいたいんですかね。ということを言っちゃうのは、めちゃくちゃ現実的だと思うんですけど。
――『マツコ会議』の若手作曲家特集、見ましたよ(11月28日/日本テレビ系)。スマホで曲作りの実演とか、面白かったです。反響、かなりあったんじゃないですか。
わかりやすいところで言うと、フォロワーが数百人増えたかなという感じです(笑)。あとは元々のフォロワーの方が「見ましたよ」と言ってくれたりとかはありますけど、自分に大きな変化があったわけではないです。あ、でも学校の友達から連絡が若干来ましたね。もともと友達が少ないんですけど、一応「見たよ」ということで、連絡が2、3件来ました。
――じゃあ、去年、でんぱ組.incに曲提供(「形而上学的、魔法」など)した時のほうがフィーバーしていた?
あの時は、まず自分の中でフィーバーしました(笑)。自分が小学校の時からでんぱ組.incが好きで、一緒にでんぱ組.incのファンをしていた子がいて、その子はすごく驚いてくれました。
――諭吉佳作/men、世に出て2年半とかですよね。注目を浴びている実感は?
自分の作品をリリースをしているわけではないので、自分が何かしたという感じはあまりないです。流れに身を任せてきた感じはあります。
――徐々にプロ意識が芽生えてきた、とかは。
自分がプロという意識ですか? ないです。楽曲提供とかはさせていただいてますが、自分のものとして(CDを)出すということをやっていないので、“ネットに上げている人”みたいな感覚というか、実際にそうなんですけど。
――2年半前、曲を作って、コンテストに応募し始めた頃って、何年後にこうなっていたいとか、ビジョンはありましたか。
まったくなかったです。それこそ“ネットに上げてみようかな”ぐらいのテンションだったと思います。正直、今も、何年後に何をとか、明確に目標やビジョンがあるわけでもないです。
――『マツコ会議』でも、“iPhoneで作曲する新世代”という取り上げられ方をしていて、そういう話題性はあったと思うんですけど、今はMacBookに進化しているんですよね。そういう意味では、この2年半でだいぶ変化はあった?
そうですね。やってることはそんなに変わらないけど、最初の入りとして“気軽にスマホで作曲を”みたいな感じでやっていたのが、パソコンになると仕事っぽい雰囲気が出るじゃないですか(笑)。パソコンの方が “やってるぜ”みたいな感覚はあるので、それこそさっき言っていただいたプロ意識に似たものを抱いているのかもしれません。
――聞いた話だと、昔、ピアノを習っていたとか。
そうです。練習が嫌いだったんで、あんまりちゃんと弾けないですけど。譜面も、パッと見てわかるとかではないし、理論も何もわからないし、コードもほぼわからない。
――そんな人がどうやって音楽を作り始めちゃったんですか。
あんまり明確には覚えていないんですけど、一番最初に音楽を聴き始めたのは、というか、能動的に音楽を探すようになったのは、たぶん小学校3、4年ぐらいの時で、ボカロを好きになったんですね。その時は、キャラクターとかの側面として好きだったので、“音楽が好きだ”という気持ちで聴いてるわけでもなかったんですけど。それでも自分から探すようになって。
――それ、たとえば誰ですか。
米津玄師さんがやっていたハチとかwaokaさんとか。ボカロのゲームもやっていたので、そのへんはけっこう聴いてましたね。それは、音楽が好きですごい聴き込んで、ということとは違ったので、キャラが好きだったというのもあるし、普通になんとなく楽しいという感じでした。でも、その時から歌うのは好きで、自分にとって音楽の目的が歌うことだった時期があって。そこからどういうふうにグラデーションになっていったかわからないですけど、どこかのタイミングで椎名林檎さんが好きになって、“音楽が好き”という感じにはなったんですけど、まだ“音楽といえばボーカル”みたいなイメージが自分の中で強くて、カラオケに行って椎名林檎さんの曲をめっちゃ歌う、みたいな感じでした。それがたぶん小学校5、6年だと思うんですけど。それから、小6ぐらいの時に曲を作り始めて。
――早いですよね。
作り始めたといっても、ガレージバンド(音楽制作アプリ)も知らなかったんで、なんとなくしか弾けないピアノを弾きながら、歌詞はスマホにメモして、ボイスメモに音を録って、みたいな感じで、記録だけしていたんですね。それをどこかに出すとかは考えていなくて、ただなんとなく“好きなものは自分で作りたい”という感じで、自分が達成感を得るためだけに作っていたんですけど。それを多少続けていて、中学2年ぐらいの時にコーネリアスを知って、そこでわりと今の音楽の聴き方に近い状態になったというか。自分がカラオケで歌うために人の曲を聴くんじゃないという感覚に、そこで初めてなりました。そのあと、地元のラジオ局のK-mixのオーディションを受けることになった時に、母親からガレージバンドを教えてもらって、そこからスマホで作り始めたんですけど。自分が歌うというのももちろんあるけど、コーネリアスを聴いていて感じたような、自分が歌うボーカルだ!みたいなものじゃない音楽の作り方を知って、自分もそういうふうにやりたいと思うようになったんだと思います。
――“自分の好きなものは自分で作るイズム”は、諭吉佳作/menの基本姿勢だと思うんですね。実際、ほかに世に出ているインタビューでもいつもそう言っていて、“たしなむものは自分で作る”とか。子供の頃からそうだったんですか、ある意味自我が強いというか。
それは本当にそうだと思います。単純に何かを作ることが好きだったんですね。たとえば、学校の図工の授業が好きだったし、“これを自分が作ったぞ”と言えることが好きというか、作る過程も好きなので。だから音楽に限らず文章を書くのも好きだし、アクセサリーを作るのも好きだし、ということがあるんだと思います。
――その一つが音楽、という感じがしますね。たぶん料理も上手だと思う。
したことないです(笑)。
――きっと独創的なものができると思うので、作ってみてください(笑)。話を戻して、今まで話したような、リスナーとしての音楽遍歴の上に、“自分の好きなものは自分で作るイズム”を乗っけて、今の諭吉佳作/menがあるんじゃないかと思いますね。
何にでもなりたくなっちゃうんですよ。“自分はこれ”という確固たる意志が、真ん中にはあると思うんですけど、あんまり固めたくないというか、何にでもなれる状態でいたいというか。たとえば服も、いろんな服を着たいし、あまり決めすぎたくないというのはあると思います。
――崎山蒼志くんとの曲(「むげん・」/崎山蒼志のアルバム『並む踊り』収録)とか、すごく面白かったし、コラボする人によっても色がどんどん変わるんだなと思いましたね。オリジナル曲は、何曲持っているんでしたっけ。
自分が個人的にネット(soundcloud.com/yukichikasaku)に上げているのは、11曲ぐらいしかなくて。今も一応制作はしているんですけど、ネットには上げてないです。
――全部聴きました。2年前と1年前の曲を比べると、リズムがより細かくなったとか、メロディの抑揚が増えたとか、時期によって変化はある気がする。
自分ではわかんないです。考えてやれている部分と、そうじゃない部分があって、“こういう展開にしよう”と思ってそうなっているわけではないというか、流れでそうなった、みたいな時もあるので。
――このインタビューを読んでいるみなさんもぜひチェックしてほしいんですけど。たとえば「純生活」の五拍子って、どこから出てきたのか。
あれは、五拍子の曲を作ろうと思って作りました。変拍子の曲を作ったことがなかったので、試してみようと思ったら、“案外できるじゃん”みたいな(笑)。五拍子というのも、自分の中の課題として設けたもので、“達成できたらうれしいな”みたいなことであって、“五拍子にすることでこういう効果がある”とかは別に考えていないというか。自分の中でゲーム性を持たせたという感じです。
――「水槽のガラスだけだよ」の、コインをチャリーンと落とす音をサンプリングしたのは? どっから来るんだろう、あんなアイディア。
あれは、打ち込みをしていた時か、録音していた時か忘れたんですけど。机の上に10円玉があって、落としたらいい音が鳴ったので、使ってみるかと(笑)。せっかくそういう音を入れたんだから、ライブでそういうことができたらいいなと思って、ライブでもやるようになりました。
――あの曲のリズムってボサノバ?
そうなんですかね? たまたまだと思います。
――たまたまボサノバになることってあるかな(笑)。
そういうリズムが存在しているということはインプットされているけど、それが何のリズムなのかは、たぶんわからないでやっているから。他人の曲も、あまりジャンルをわからないで聴いていることもあって。たとえばそういうものを聴いて“これ好きだな”と思ったら、それをごちゃごちゃにして、自分の中で何かを作るんだろうなという感覚はありますね。
――とりあえず机の上と頭の中にあるもの全部で遊んじゃえ、みたいな感じかしら。遊び、とか言ったら失礼かな。
あ、でもそれはすごくあると思います。
――根を詰めて、キーッていう感じではなく。
でも、遊びを、根を詰めてキーってやる時もあるじゃないですか。たぶん、そういう感覚だと思います。
――ところで、自分の声ってどうですか。
自分の声を提供しているにも関わらず、自分の声を“あんまり好きじゃない”と言うのって、どうなんだろうと思わなくもないんですけど、あんまり好きじゃないです(笑)。でもそれって好みの問題なので、自分の好みじゃないというだけで、周りの人に肯定してもらえているから、自分の声にもできることがあるなと思います。
――間違いなく、いい声ですよ。ボーカルで影響を受けた人っています?
それも難しい話で、自分に対してもあるし、聴く側としてもそうなんですけど、いわゆる“歌がうまい”というものを年々求めなくなってきているというか。単純に、音程がちゃんと合っていて、ビブラートがきれいでとか、そういうものを求めなくなってきている感じがあって。何て言うんですかね、いわゆる歌がうまいという感じではないんだけど、ふとした時の声の抜け方とかがいい人っているじゃないですか。
――それこそ、コーネリアスの小山田氏とか。
そうですね。すごく歌い上げているというわけではないんだけど、というものに惹かれるようになってきていて。ただ自分は、どっちかというと……自分は昔からずっとオタクなんですけど、ボカロの文化に触れて“歌ってみた”を聴いていた時代に、そこで“歌がうまい”ということの形式がインプットされてしまった気がしていて。特に“歌ってみた”のフィールドって、自分が演奏するわけじゃなくて、歌うということに限定された場所だから、当然歌が前面に出てくるわけじゃないですか。だから私も、そういう歌い方をしていた時期もあったと思うんですよ。
――ああー。はい。
だし、今もどちらかというと、そっちに寄ってしまっているなと思う時があって。それは本当は、自分の理想としているものとは違うように思えたり、でもそれはそれで必要な時もあったりして、結果的には両方あったらいいなって、自分の中では思っています。でも、その必要がないのに歌い上げてしまっているとか、それはきっと、そういうものだとインプットされてしまったがゆえの、無意識的なふるまいなんだろうなと思います。
――うーん。なるほど。聴いてるぶんには、そこまでのニュアンスはわからないけれど。
これは最近よく言っちゃうんですけど、最近の曲は特に、あんまり感情のある曲はなくて、伝えたいこととかがどんどんなくなってきているんですよ。だから、意味を見出そうとしてもらえても、してもらえなくてもいいと思っているんですけど、そういうふうに言っているにも関わらず意味深な歌い方をしてしまうことがあるというか。それって染みついちゃっているものがあるので、そうしようとしていないのにそうなっちゃう、みたいなことを感じる時はありますね。もうちょっとサラッとできると、とてもいいのになって、自分で思ったりしています。
――心地よさ、気持ちよさみたいなものを、すごく求めている感じがするんですよ。リズムや音色に関しても。声もその一部なんでしょうね。
ああ、そうですね。カラオケとかも好きですし、歌うのは好きですけど、全体がひとつの音として聴けたらいいなと思います。
――BGMにしてもいい、とか言うと失礼だけど。それはそれで成立すると思うし、そこは聴き手の自由だろうなと思いますね。
そういう気持ちですね。
――今も絶賛制作中ですか。
そうです。
――新しい何かが、着々とできてきつつある?
これは別に、そうしようと思ったわけではなくて、流れでそうなっただけなんですけど。今ネットに上がっているような曲と全然違うものが……違うというほどでもないのかな、大まかに言えば方向性は一緒ですけど、ちょっと聴き心地の違う感じになっているので、どう思われるだろう?と思います。自分は好きで作ってるんで、いいんですけど、周りの人がどう思うんだろう?とは思います。“あ、こういう感じに振れたんだ”という感じはあるかもしれない。
――ところで、さっきの“私はオタク”発言がずっと気になっているんですけどね(笑)。実際どんな感じなんですか。どっぷりの人?
ボカロから始まって、アニメもめちゃくちゃ見ていたわけではないけど、一個ハマったらずっと好きだったりとか、普通に『ラブライブ!』が好きだったりしたし。でんぱ組.incにハマったのもそうだし。ずっとオタクのマインドというか、何に対しても、オタク的な思考というか。
――それってどんな感じなんだろう。
わかんないですけど、“これってオタクだったりとか、二次元とかが好きゆえの思考なんだろうな”と思うのが、それこそ、“どんな自分でもあれるようにしておきたい”のは、そういうところから来ているのかな?と。ちょっと、非現実的でいたいんですかね。ということを言っちゃうのは、めちゃくちゃ現実的だと思うんですけど。
――いえ、わかりますよ。
変な言い方ですけど、消費されたいのかもしれなくて。あと、想像してもらえたらいいと思っていて。二次元ってことで言うと、アニメとかで二次創作ってあるじゃないですか。そういうものの対象になりたくて。
――おおー。なるほど。
そういうふうにされるのが嫌だという人もいると思うんですよ。そっちのほうが多数派かもしれないですけど。私にとってはどんな嘘でもいいから、想像してもらって、たとえば二次元のキャラクターみたいに漫画とか描いてもらえたら、それは実際には嘘なんだけど単純に嘘というだけではない、自分の別な居場所が拡張されるイメージがあって。そういうものをすごく望んでいるところはあって、それはオタク的なものが好きだったゆえの発想なのかな?と思います。
――それは諭吉佳作/menを語る、重要なキーワードかもしれない。
ただそれが、音楽をしてることと関係あるか?というと、また違うというか。そういうことをしてもらうために有名になる手段が音楽、という側面もあると思っていて。音楽が好きだから音楽をやっているというのが前提なんですけど、音楽をやっていることと、二次創作の対象になりたいことはまた違うところにあるというか。
――ひとりメディアミックスだ。
そういう感覚があるんだと思います。それに憧れているんです。
取材・文=宮本英夫 撮影=森好弘

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