11年目の新体制第一弾の「KYOTO EXP
ERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2021 S
PRING」見どころを紹介

2019年に10周年を迎えた、関西最大規模の舞台芸術フェスティバル「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭(通称KEX)」。2020年度からは、長年プログラムディレクターを務めていた橋本裕介氏に代わり、川崎陽子氏、塚原悠也氏、ジュリエット・礼子・ナップ氏の3人が共同ディレクターに就任したが、新型コロナウイルスの影響で、新体制の船出は延期されることに。しかしそこから3人のディレクターが連携し、現時点で考えられる最大限可能な形で、2021年2月6日(土)~3月28日(日)に仕切り直されることになった。
単に世界各国のエクスペリメント(実験的)な表現を観る「Shows」だけでなく、作品と関連したレクチャーやワークショップなどを通して、未来を思考する場を開く「Super Knowledge for the Future(SKF)」、アーティスト目線で「関西」という土地をリサーチする「Kansai Studies」の三つのプログラムで構成される新生KEX。12月15日に京都市内で行われた会見を通して、その見どころを紹介する。

「Kansai Studies」は「国際的フェスだからこそ、自分たちの地域のことを知る」という目的で、関西在住のアーティストが、京都および関西のフィールドワークを行う企画。第一弾は、大阪の建築家ユニット・dot architectsと、京都の演出家・和田ながらが、3年間に渡ってリサーチを実施する。1年目は、「水」をテーマとし、彼らが関西各地の水にまつわる場所を訪れ、その過程や気づいたことを、テキストや動画などの形でウェブサイトに公開。3/20~28には、関連展示やトークを開催する。
「Kansai Studies」
動画で会見に参加した、dot architectsの家成俊勝は「今は京都や関西にとって大切な、琵琶湖の“水”を追いかけています。琵琶湖を一周しながら、水の流れや、水にまつわる事象を発見している最中です。いろいろとリサーチをすることで、私たちのモノづくりだけでなく、他の作家や演出家のリソースとなるような発見をしていければ」と、現状を報告。
一方の和田は「新型コロナウイルスが流行する状況の中で、人は国境や県境など、境界線を強く意識するようになっているけれど、水は人間が引いた線を超えて巡回しているもの。いろんな水を見ることが、人間の引いた線をキャンセルできる視点を持つための、よいガイドになっていると思います」と、すでに成果が生まれつつあることを語った。

「Kansai Studies」に参加する「dot architects」の家成俊勝(上)と和田ながら(下)

「Shows」は、今回10組のアーティストが参加。時勢を考慮して、一部のアーティストは上映会での参加となる。また近年のプログラムでは、地元アーティストの選出が減少傾向にあったが、今回は関西のアーティストが4組も登場する。
インディペンデント・キュレーター&映像作家の小原真史は、展示企画『イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示』を開催(2/6~28。15日休館)。19~20世紀初頭の博覧会では、各国の植民地の文化を紹介するため、現地の人間を連れてきて“展示”することがポピュラーとなっており、日本の博覧会でも、当時植民地だった台湾のパビリオンや、内地の異民族を展示する「学術人類館」が設置された。小原はその施設や、各国の“人間の展示”にまつわる資料約1,000点を収集。「第四回内国勧業博覧会」の跡地にある[京都伝統産業ミュージアム]で展示する。
小原真史「イッツ・ア・スモールワールド:帝国の祭典と人間の展示」 「学術人類館」(第五回内国勧業博覧会) 1903年、個人蔵
小原は映像コメントを通して「新たに見つかった人類館の写真3点を、日本で初公開するのが目玉。2025年には大阪で万博が開催されますが、博覧会が明るいイメージだけでいいのか、それがどういったモノかという検証をしていかねばならないのではと思って、収集を始めました。帝国の祝祭空間としての博覧会の影にある、植民地や人種差別の問題を見せていければと思います」と、その狙いを語った。
小原真史
カナダ在住の振付家&ライブアーティストのデイナ・ミシェルは、2016年以来上演を重ねてきたソロアクト『Mercurial George』上演映像と、新作映像作品『Lay them all down』上映会という形で参加(2/20)。元アスリートで、彫刻や心理学にも影響を受けたというそのパフォーマンスは、常に社会的慣習を疑い、それを打ち破るような知性と強度を備えている。「アイディンティティとは何か?」を問う『Mercurial……』に、ライブパフォーマンスをベースとした『Lay them……』も、自らの殻を破りたくなるような衝撃を与えてくれるだろう。
デイナ・ミシェル『Mercurial George』  Photo by Camille McOuat
パフォーマンスユニット「contact Gonzo」元メンバーで、維新派や山下残などとのコラボレーションも多いダンサー・垣尾優は、新作『それから』を上演(2/26~28)。近年は、自ら振付したソロダンス作品でも高く評価されている垣尾だが、今回は「動く」という行為の原初的な考察を行いたいと言う。
垣尾優
垣尾は「『それから』というタイトルは、過去を吸収して今を深く掘り下げて、“それから”未来を語るというようなイメージで付けました。舞台としてはシンプルでオーソドックスな形だけど、シンプルさと混沌という、矛盾したものが一緒にあるようなものにしたい。それは身体そのものであり、踊りそのものだと言えます」と意気込みを語った。
『それから』について語る垣尾優。
今欧州のアートシーンで最も注目されている、オーストリアの振付家フロレンティナ・ホルツィンガーは、世界各地のフェスティバルで衝撃を持って迎えられた『Apollon』の舞台映像を上映(3/5・6)。20世紀を代表する振付家の一人、ジョージ・バランシンの代表作『アポロ』に登場する、アポロンと女神たちの物語をベースに、6人の女性たちがバレエや筋トレ、ワイヤーアクションなど様々な動きを展開。「閲覧注意」の但し書きが出るほどグロテスクでありつつも、女性の身体やジェンダーについても強烈に考えさせる怪作だ。6日には、ホルツィンガーいわく「限界に挑戦する」という、オンラインワークショップも開催される。
フロレンティナ・ホルツィンガー『Apollon』  Photo by Radovan Dranga
BOREDOMSをはじめとする様々なユニットで、実験的な音楽を発表し、国内外問わず大きな影響を与えてきた造音作家・山本精一は、ライブイベント『山本精一ディレクション・音楽プログラム シアター版』を上演(3/7)。コンセプチュアルな表現に、関西らしいユーモアセンスもミックスされた独自の音世界の変遷を、広い劇場空間で3時間に渡って体感できる、音楽好きにも要注目のライブイベントだ。ちなみに3/14には、京都の老舗クラブ[CLUB METRO]で「クラブ版」も上演されるので、あわせて楽しみたい。
山本精一
インドネシアのビジュアルアーティスト、ナターシャ・トンテイは、2017年からスタートしたパフォーマンス・プロジェクト『秘密のグルメ倶楽部』を日本初上演(3/9~14)。テーブルにずらりと並んだ、人体を模した食べ物を、ホストのトンテイとパフォーマーたちが次々と食していく。一見悪趣味全開ながらも、まさに「グロ可愛い」としか言いようがないビジュアルと、「人間が人間を食べる」という行為が暗示する様々な問題……植民地支配の歴史や、近年注目される「サステナブル」の可能性などが浮かび上がる様を楽しめるだろう。今回は京都公演のための“特別メニュー”を用意しているというから、大いに期待したい。
ナターシャ・トンテイ『秘密のグルメ倶楽部』  (c)Natasha Tontey
知的障がい者を含めた、様々なバックグラウンドを持つメンバーで構成される神戸のアーティスト集団・音遊びの会は、小説家・ラッパーのいとうせいこうとコラボレーションした『音、京都、おっとっと、せいこうと』を上演(3/13・14)。即興に主軸を置いたアンサンブルセッションを持ち味とする音遊びの会と、やはり即興性が重視されるラップにおいて、日本の先駆者と言えるいとうのコラボは、何が飛び出すかわからないスリルとともに、音楽と言葉の関係や、そもそも音楽パフォーマンスとは何か? についても考えさせるものとなりそうだ。

(上)音遊びの会(下)いとうせいこう

すでに両者は第一回目のリハーサルを行っており、会見中にはその映像も一部流された。音遊びの会代表の飯山ゆいは「いとうさんの洞察力と瞬発力、素早い反応に感心して、メンバーも負けられないなと思いました(笑)。あわせて20名ほどが出演しますが、それぞれの存在の仕方が一人ひとり違うということが、よく見える舞台になれば」と抱負を述べると、映像でコメントを寄せたいとうも「第一回のリハでは、もうこのまま舞台に入れると思えるぐらい良い音楽ができました。新鮮にやるように心がけ、その場で作る一期一会の、本当に貴重な音や空間をお届けしたいと思っています」と強い意欲を見せた。

(上)「音遊びの会」の宮崎百々花(左)と飯山ゆい(右)/(下)いとうせいこう

チェルフィッチュや黒沢美香などの作品にも参加している、神戸のダンサー・中間アヤカは、2019年初演の『フリーウェイ・ダンス』をリクリエーションして上演する(3/19~21)。自分の身近な人々に「初めて踊った時の記憶」を取材し、それをベースに振付したダンスを、庭を模した広々とした空間で、何と4時間にも渡って上演。観客はその出入り自由な空間で、ごはんの時間(※コロナの状況で変更となる場合あり)もはさみながら鑑賞することになる。
中間アヤカ&コレオグラフィ『フリーウェイ・ダンス』  Photo by Junpei Iwamoto
中間は「プロの振付家よりも、自分の父親や友人に振り付けしてもらったらどうなるか? ということの方に、興味があって生まれた作品です。客席を作らなかったり、みんなでご飯を食べる時間を作ったりしたのも、舞台芸術における“当たり前”のルールに対して、平和的に“こういう風に考えたら、もっと面白いことができますよね?”という方法を提示したかったから。ダンスを楽しめる4時間にしたいと思います」と、この異色のダンス作品を解説した。
『フリーウェイ・ダンス』について語る中間アヤカ。
タイ演劇界期待の演出家、ウィチャヤ・アータマート/For What Theatreは、各国のフェスティバルで上演され、高い評価を集めた『父の歌(5月の3日間)』を、日本で初めて上演する(3/24~28)。バンコクの小さなキッチンを舞台に、毎年5月に亡父を偲んで集まる姉弟の会話を通して、年によって変化する2人の姿と、その背後にあるバンコクの政治史を浮かび上がらせる。個人と政治の関わり、そして歴史の記憶を実験的なアプローチで描き出すアータマートの世界に、今のうちに触れておきたい。
ウィチャヤ・アータマート/For What Theatre『父の歌(5月の3日間)』 Photo by Wichaya Artamat
2017年のKEXの「子どもたちに演劇祭の審査員をしてもらう」という企画で注目されたアート&リサーチ集団、ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル。地域コミュニティと深く関わった作品で、数々の演劇祭で話題を呼んでいる彼らは、『私がこれまでに体験したセックスのすべて』の日本版を上演する(3/26~28)。60歳以上のシニアたちのリアルな性体験と人生を、ダンスなども交えながら語っていくという対話型演劇だ。シニアでなくてもあまり公に語られることのない性体験を、あえてオープンにすることで、超高齢化社会を迎えようとする日本人の将来像を考えさせられると同時に、シニア世代から若者世代への力強いメッセージも受け取ることになるだろう。
ママリアン・ダイビング・リフレックス/ダレン・オドネル『私がこれまでに体験したセックスのすべて』 (オーストラリアでの上演、2017)  Photo by Jim Lee
「Super Knowledge for the Future(SKF)」では、舞台芸術祭期間中と同時期に12のプログラムを展開。小原真史やナターシャ・トンテイなど、Shows参加作品を深く知るためのトークイベントから、京都のインディーズ系ゲーム会社のゲームを紹介する企画、あるいは街の中の音楽を探しながら散歩する様子を生中継するなど、多彩なプログラムがそろっている。演劇やダンスとは、ちょっと結びつかないような内容が多いので、新鮮な知識を思い切り吸収できるよい機会となるだろう。そして一筋縄ではいかない作品ぞろいのKEXのプログラムの、理解を深める一助となるのは確実だ。
KYOTO EXPERIMENT 共同ディレクター。(左から)塚原悠也氏、ジュリエット・礼子・ナップ氏、川崎陽子氏 
2020年は、芸術もその存在価値を大きく問われる年となった。頭を空っぽにして、現実を忘れさせるような芸術の存在はもちろん大切だ。しかしそれとは対照的に「これは芸術なのか?」「これは倫理的にアリなのか?」を激しく考えさせるのがKEXのプログラムであり、10年間の歴史の中で、思いがけない思考と嗜好を得ることができた観客も少なくないと思われる。新型コロナウイルスによって、従来の生活や社会の常識がことごとく打ち壊され、未知なる領域に目を向けることを半ば強いられている今、まったく違う方向に思考の扉を開けることができるKEXの存在価値は、例年以上に大きくなるかもしれない。
取材・文=吉永美和子

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