「裏世界ピクニック」花守ゆみり&茅
野愛衣が意識した心の距離と“女の子
同士の嫉妬”

 1月4日から放送がスタートするテレビアニメ「裏世界ピクニック」は、「くねくね」「八尺様」などネットロアと呼ばれる実話怪談をモチーフに、女子大生が危険と謎だらけの裏世界を探検するSFサバイバル。原作小説は「百合SF」として知られ、キャラクターの関係性や心情が細やかに描かれているのも見どころだ。

 紙越空魚(かみこし・そらを)役の花守ゆみり(写真左)、仁科鳥子(にしな・とりこ)役の茅野愛衣は、ほとんどの収録を一緒に行い、取材中も息ぴったり。音響監督を兼任した佐藤卓哉監督との収録エピソード、女性同士の心の距離について感じたことなどを話してもらった。(取材・構成:五所光太郎/アニメハック編集部)
――オーディションを受けたときの話から聞かせてください
花守:最初にタイトルを聞いたときは、かわいらしい女の子の日常ものなのかなと思いましたが、テープオーディションに臨むとき、ホラーと隣あわせのような世界観で、2人の女の子の心のやりとりが大切になっていく作品なのだなと分かりました。
 2次オーディションは2人で掛け合いをして、佐藤監督からは「緊迫した場面でありつつも、女の子の日常会話的な雰囲気もだしほしい」という話をいただき、メリハリを意識しながら演じた記憶が強くあります。そのディレクションは本編の収録になっても変わることなく、裏世界に入ったときの緊迫感と日常的な会話の距離感を大切に空魚を演じていました。
茅野:掛け合いのとき私たちは同じチームではなく、それぞれ別の方との組み合わせで受けていました。実は私、空魚と鳥子のどちらも受けていたんです。花ちゃんも、どちらも受けていた?
花守:私もどちらも受けていました。
茅野:やっぱりそうなんだ。事前に佐藤監督の作品だと聞いて、私は「好きっていいなよ。」(2012)でご一緒していたので、かわいらしい感じがありつつも、きっと佐藤監督独特の画面づくりで、薄暗くスモーキーでおしゃれな雰囲気の作品になるのだろうと楽しみにしていました。私もタイトルを聞いたときは「ピクニック」という言葉からかわいい印象をうけていましたが、「裏世界」でもあるから、きっとただごとではすまず、普通の日常ものにはならないんじゃないかなと思っていました。
 オーディションでは、最初に佐藤監督が作品やキャラクターについての話を長くしてくださって、それを参考に自分のなかでキャラクターをつくることができました。掛け合いの間も細かくディレクションが入って時間をかけてやっていただいて。オーディションによっては演じたら終わりというときもありますが、「裏世界ピクニック」は濃密なオーディションだったなという印象でした。
――花守さんも、オーディションのときに細かくディレクションを受けられたのですか。
花守:キャラクターについていろいろ話していただきましたが、どちらの役もテストテイク、本番テイクともにすんなりいった感じだったので、そのときは「あ、ダメかもしれない」と思っていました。オーディションでよく覚えているのが鳥子のセリフで、「天国にいるような心地」を表現する演技に悩んだ思い出があって――。
茅野:ああー、あったね。
花守:佐藤監督から「上の空で、天国にいるような心地いいところにいるような」という難しいディレクションをいただいて、これはどうやって演じればいいのだろうと思いながらやったんですけど、現場に入って茅野さんの鳥子を聴いて「ああ、これだ!」とすごく納得させられました。「あ、やばい。ほんとに行っちゃう」と思ってしまって。
茅野:現場で実際にやったのとオーディションのときとは、だいぶ違ったんですよ。オーディションのセリフのなかに、ちょっと心あらずみたいなシーンがあって、そのときは映像がないなか掛け合いのなかで生まれてくるものでちょっとギャグ寄りにやってみたんですけど、本編ではシリアスめになって、監督もテストを聴いて「このかたちもありです」と言ってくださって。
花守:長いシーンのセリフで印象に強く残っているからこそ、本番では「どんなふうに演じられるのだろう」と思っていたら、茅野さんが素晴らしい演技をされて。
茅野:オーディションでやったシーンを本編でやるときは緊張します。みんな「このシーンだ」ってなりますから(笑)。今回は本編の収録の前に、テレビ会議でキャラクターに関する話し合いの機会をもうけていただいたんですよ。
――台本の読み合わせのようなものですか。
茅野:セリフを言うわけではなかったので、読み合わせとはちょっと違う感じでした。
花守:事前に全話とおしての大まかな流れをいただいて、そのなかでキャラクターをどう立てていきましょうかという話をみんなで相談する会でした。なんて説明したらいいんでしょう。自分のなかのキャラクター像を開示して、皆さんの意見を聞きながら刷りあわせていくというか……。
茅野:普段だとアフレコ現場で事前に作品説明をしていただいたり、こちらから質問したりできるんですけど、今の状況だとなかなか難しいんです。花ちゃんと先行してPVを録ったときに、原作の宮澤(伊織)先生もいらして初めてお話させていただいたんですけど、作品やキャラクターについての話をゆっくりできる機会があったほうがありがたいという話になって、私たちからリクエストするかたちで後日やっていただくことになりました。
 佐藤監督らスタッフの皆さん、役者では私たち2人と小桜役の日高里菜ちゃん、あといろいろな偉い方が集まってくださって(笑)、そちらのほうがPV収録のときよりも人数が多かったですから、テレビ会議が初顔合わせの代わりになりました。今の時代ならではのかたちですよね。
(c)宮澤伊織・早川書房/DS研――序盤はほぼ2人だけの登場で、裏世界の怖さはお2人の掛け合いでつくっていく部分が多かったのかなと思いました。2人が出会う1、2話を演じられていかがでしたか。
花守:序盤の空魚は心を閉ざしているので、2人の関係性として鳥子の「こじあけてくれる力」に頼っているところがあったと思います。その鳥子を愛衣さんが演じられているので、そこはまったく困りませんでした。私がどんなに厚い壁をつくっても、ちゃんと(心の)なかに入ってきてくれるんです。強引にこじ開けられていく感じがたまらなくて(笑)。愛衣さんは声と演技に説得力がすごくある方なので、壁を厚くしておかないと、すぐに心を開いてしまうちょろい人になってしまうなと思っていたんです。
茅野:序盤は佐藤監督から「会話しているようで会話していない感じにしてほしい」というリクエストもあったよね。
花守:会話のキャッチボールを成立させると心が若干通じあってしまうことになるので、1話から3話ぐらいまでかけて、どこまで壁をつくっておこうというプランをつくっていた覚えがあります。そのやりとりのバランスは、愛衣さんの演技にメチャクチャ助けていただきました。
茅野:もうそれはお互い助け合っていたということだと思います。今は掛け合いのシーンも別録りになることが多々あるんですけど、今回はほとんど一緒に録らせてもらえたのがすごく大きくて。走る息遣いとか、それぞれで録るようなところも一緒にやらせてもらえることが多くて、すごくありがたい現場でした。2人で録れて、ほんとによかったです。
花守:(深く頷きながら)私も幸せでした。
(c)宮澤伊織・早川書房/DS研茅野:この作品で役がきまって相手役が花ちゃんだと聞いたとき、ちょうど「ランウェイで笑って」でご一緒していて、そっちだと役が正反対な感じだったんですよ。2人でチームを組むような間柄で、花ちゃんは私を引っ張っていってくれるほうで(※茅野さんは長谷川心役、花守さんは藤戸千雪役)。それが今回逆転するのは面白いなと思いましたし、花ちゃんと2人なら安心だと思っていました。
花守:愛衣さんは、役について悩んだら気軽にまわりに聞ける現場づくりをしてくださいました。愛衣さんと佐藤監督は何度も作品をご一緒されているので、私からの疑問を愛衣さんをつうじて監督にこっそり聞いてもらったり(笑)、すごく頼らせてもらいました。
茅野:花ちゃんが言うように2人でいろいろと話しあって、佐藤監督に聞くことが多かったです。なんでも話しあえる現場でした。アフレコ現場では気持ちが鳥子になっていて、佐藤監督に容赦なく質問をぶつけていました(笑)。
花守:2人の心の動きが各話で違っていて、ほぼ2人できちんと録れたのは本当に大きかったと思います。
茅野:原作小説の帯に「心の距離の物語」と書かれていますが、物理的なものでなく心の距離となると、一緒に演じないと本当に分かりづらいんですよ。一方的に球を投げるのではなく、会話のキャッチボールをしないと距離感は生まれてこないので、花ちゃんと一緒にできるのは本当にありがたかったです。録り直させてもらうときも、セリフ単位ではなく、シーンごとで録らせてもらうこともあって。やっぱり、シーンやカットごとのほうがお互いやりやすいんですよね。
花守:欲張って「ここもここも」と、やりすぎてしまうときもあったんですけど、それも楽しくて。
茅野:大人数で「せーの」で録る作品だと、なかなかそこまで時間をかけられないので、2人だからできたことでした。ほとんどの話数を2人で録れたからこそ、1カットだけセリフがほしいというときも前後のシーンを一緒にやらせもらうような贅沢な録り方を許してもらった部分があります。

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