SUGIZO(Photo by Tatsuo Hata)

SUGIZO(Photo by Tatsuo Hata)

【SUGIZO インタビュー】
パンデミックの先にある
新しい世界へ向けた
救済の音を作りたかった

未来へ向けてのきっかけを作ることが
今を生きている表現者の仕事

「CHARON~四智梵語~」は声明(仏教聖歌)が響く神秘的な曲となっていますが、これについては?

この曲のもととなっているのは「PLUTO」という僕の昔の曲(2003年10月発表のアルバム『C:LEAR』収録)のメインになっているギターアルペジオなんです。そこにインスパイアされて、進化させ再構築してまったく違う曲になったのがこの曲です。冥王星(=PLUTO)の衛星であり双子星と呼ばれている星がカロン。だから、曲名が“Charon”なんです。

てっきりギリシャ神話由来のタイトルなのかと思っておりました。

それは僕も調べましたが、もともとは「PLUTO」からの流れなんです。「PLUTO」はアコースティックで表現されたアンビエント作品だったんですが、あの頃は自分が戦っていたり、もがいていたりした時期だったんですね。そんな中、いつか訪れてほしい戦いの終焉、その先の安らぎをイメージして、無我夢中に手を差し伸べているような感覚で作った曲だったんです。あれから20年近く経ち、今の僕は相変わらずもがいてはいますが、それでもある意味安らぎを得てもいる。そんな今の自分だからできる、ただ4音から成るアルペジオを今回は弾きたくて。かつ、そことはまったく異なる次元で“声明とコラボしたい”という想いもあってこのかたちになりました。2019年にとあるイベントでコラボして、それがすごく良かったので。

京都で開催された『きょうといちえ』(2019年9月18日&19日@将軍塚青龍殿)ですね。

そうです、立川直樹さんプロデュースのイベントで。今回も同じく立川さんのオーガナイズによって実現しました。関東在住の真言宗の僧侶の方たちに、“疫病を払って人々を守り、世の中を健康に導くお経をお願いしたい”とご相談し、四智梵語を唱えてもらいました。

さらには、雅楽を想起する笙も聴こえてきます。

入っていますね。笙は今作でふんだんに使っています。もともとすごく好きで、実は僕の1stアルバム(1997年11月発表の『TRUTH?』)から結構使っているんですよ。笙は雅楽、神道のもので、声明はもちろん仏教、密教のもの。神と仏を一緒に表現したかった…という曲です。でも、明治維新までの日本では神道と仏教が共存していた。いわゆる神仏習合ですね。それはとても日本人ならではの感覚であり、実はとても“愛と調和”だと思うんですよ。世界には、宗派の違いだけで殺し合いが起きるような宗教も多くありますから…。

そして、ラストの「So Sweet So Lonely」は生を祝福する高らかなファンファーレのように聴こえました。

僕がものすごく好きだったDEAD ENDのカバーであり、2020年に亡くなったYOU(足立祐二)さんに対するトリビュートをやりたかった。YOUさん作曲、MORRIEさん作詞による1989年の曲です。他にも好きな曲はあるんですが、僕はこの曲にもっとも祝福の光を感じた。YOUさんの今までの軌跡と、肉体を脱ぎ捨てて次なる次元に行ったということに対する祝福。僕は最近インタビューでよく言うんですけど、死というのは決して恐怖ではないし、悲しいものじゃない。もちろん直に触れ合えなくなることは寂しいけど、次なる状態に移行しただけなんですよ。死は生とつながっていて、生の次なるステップであり…そういう部分をこの曲が一番表現できたんですね。YOUさんに対するレクイエムですが、同時に全ての命に対するレクイエムであり、魂を祝福する曲です。

そういったSUGIZOさんの死生観は、コロナ禍による影響で何か変わった部分はないのでしょうか?

変わらないですね。死への恐怖感は微塵もない。ただ、今ここに僕がいる段階で僕がやるべきことはちゃんとやりたいとは思っています。娘が成人して大きく変わりましたよ。人としての役目はちゃんと終えたぞ!っていう(笑)。あとはもう余生です。でも、せっかく与えてもらった命だし、自分もどこか望んでここにいるはずなので。“じゃあ、自分ができることを最大限やろう”と思っています。焦りもないし、自己顕示欲もない。まあそれらがゼロと言えば嘘になるけど、ほぼないと言っていい。

SUGIZOさんは常々地震や台風などの被災地へフットワーク軽く赴き、ボランティア活動に勤しむなど、まさに利他的な、社会的な活動を続けてこられました。今、我々が直面しているこのコロナ禍は、これまでの非常事態とは本質的に違うものだとお考えでしょうか?

そうですね。まず、自分で動いて何かできないですからね。災害が起きた時には現地に行って、自分たちのマンパワーを使えますよね? 不謹慎な言い方になってしまうかもしれないけど、それは誰でもできること。でも、今回はできないですよね? 自分たちには医療従事者の資格がないから現場に行ってお手伝いすることはできないし、科学者でもないから治療薬を開発することもできない。ただただもどかしかった。それ以上にもどかしかったのは、“これはヒエラルキーのごく一部のトップたちが仕組んでいることだな”とも僕は思っているので、そこに対してなす術がないのが悔しい。そういう気持ちも大きかったですね。

“今は人を救うべき時だ”と『LIVE IN TOKYO』(2020年9月発表のライヴアルバム)封入ブックレットのインタビューで語られていたように、『愛と調和』はまさに、今、もっとも求められている“救い”をもたらす作品ではないかと感じます。

この社会では長い間“自分さえ良ければいい”という考え方が蔓延していると痛感しますし、悲報も続いた下半期、孤独感や疎外感を募らせている人はきっと多いはずです。コロナ禍で思うように仕事ができない方も多く、そうすれば生活が苦しくもなりますしね。そこに対して国や世の中のフォローはあまりにも貧弱なもので。なぜかと言うと、自分さえ良ければいいからなんですよ。政治家はもちろん“世の中を良くしたい”とは思っているでしょうけれども、税金で生活していけるから“明日食えないかもしれない”という恐怖はないでしょうね。ヒエラルキーの底辺にいる人たちは、その恐怖といつも戦っている。そういう構造がもう限界にきていると思う。政治家の多くは二世三世で、下々の者が本当はどうなっているかを知らない人たちですから。ゴータマ・シッダールタのように“これはおかしいのでは?”と世の中を知る旅に出てほしいと思うぐらいですよ。カップラーメンの値段が幾らかを知らない人たちが経済を牛耳っているのは、すごく大きな問題だと思いますよね。なので、そこに対する怒りは当然、すごくありました。でも、その怒りを激しくぶつけるというアティテュードは、今はどうなんだろうと思っています。それはロックンロールの原点であり、パンクロックの原点でもあるやり方で、僕はずっとそれをしてきたんですけども、今はもうそこじゃないんですね。僕らが大好きだったロックはもしかしたら20世紀のものかもしれなくて、これからは21世紀、25世紀、30世紀に向けた感覚の音楽を生み出すべきだと。僕は50年後、100年後、500年後を見て音楽をやりたい。

未来を見据えていらっしゃるのですね、SUGIZOさんは。

自分が影響を受けてきたもの、すごく愛してきたものを、そのまま自分が表現する必要はもうないかなと。その繰り返しをしても意味がない。だから、未来へ向けての何かきっかけを作ることが、僕だけではなくて、今を生きている表現者の仕事だと思うんです。自分の人生も音楽の道ももう後半戦。だとしたら、次の世代に対して何を残せるかということが、僕としては大切な意識です。そういう意味で、自分的に次の一歩を踏み出したかったのが『愛と調和』。“自分のルーツをなぞって気持ちいい”音楽じゃなくて、その先にある新たな時代に対して効果がある、意味のある音を生みたいと今回は思った。それは大きな変化でしたね。

取材:大前多恵

アルバム『愛と調和』2020年12月23日発売 SEPHIROT
    • 【Premium Edition】(2CD)
    • SPTC-1007~8 
    • ¥11,000(税込)
    • ※豪華BOX仕様 
    • ※HMV/Loppi限定商品
    • 【Regular Edition】(CD)
    • SPTC-1009
    • ¥3,300(税込)
SUGIZO プロフィール

スギゾー:1992年5月、LUNA SEAのコンポーザー、ギタリスト、ヴァイオリニストとしてデビュー。97年には約1年間の同バンド活動充電期間を機にソロアーティストとしての活動をスタート。幼少期よりヴァイオリンや楽典等、クラシック音楽の英才教育を受けて育ち、綿密に構築された唯一無二の作曲能力、瞬間を切り取り光に昇華させるかのようなギター&バイオリン・パフォーマンス、美しくもディープな宇宙的スピリチュアル・サウンドデザインは極めて評価が高く、その美意識は国内外にて圧倒的な存在感を誇る。音楽と平行しながら平和活動、環境活動に積極的に参加、アクティヴィストとしての動きをも幅広く展開している。現在、ソロ活動と共に日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANとして活動しつつ、12年振りにサイケデリック・ジャムバンドSHAGを再編成&再始動させた。SUGIZO オフィシャルHP

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