森ガキ侑大「ヨナオシジャングル」と
は?第一弾はホームレスの方が歌詞、
かりゆし58前川作曲でリリースし印税
などを発生させるという取り組み な
ぜそこに至ったのか

今、最も注目を集めている映像クリエイターの一人、森ガキ侑大(もりがき・ゆきひろ)。CMディレクターとして、資生堂、ANA、アフラック、ソフトバンク、日清食品のカップヌードル等数多くの有名企業のCMを手がけ、さらに映画監督として2017年、初の長編映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』を監督し、今年も『さんかく窓の外側は夜』(岡田将生・志尊淳W主演)が公開予定だったが、来年に延期となった。そんな多忙を極めている森ガキが、現在力を入れ取り組んでいるのが「ヨナオシジャングル」だ。映像ディレクターの森英人と立ち上げた、ビジネスと社会貢献の両方を成立させるためのプロジェクトで、堅苦しくて難しいと思われがちな「社会貢献」のイメージを、ポップでエンタメ性が強いコンテンツを絡めることで、若い世代に身近に感じてもらいたいというのが大きなテーマだ。その第一弾として、ホームレスの方に歌詞を書いてもらい、それをロックバンド・かりゆし58の前川真悟が作曲し歌い、配信することで発生する印税をホームレスの方に渡し、「文化的な生活」を送るための資金にしてもらおうという試みを行う。森ガキにこの活動を行うことの意義、意味をインタビューした。
――「ヨナオシジャングル」を立ち上げたそもそものきっかけから教えて下さい。
最初はホームレスの方に歌詞を書いてもらって、それを配信して印税を渡すことができれば、社会貢献になるのでは?という軽い気持ちで企画しました。印税って特殊な仕組なので、我々のようにエンタメ業界で仕事をしていないと、なかなか見えないものです。だから僕らがホームレスの方がいるところまで行って、才能の原石を見つけ、説明するところから始めました。そういう“きっかけ”をひとつ作れて、不労所得じゃないですけど、それをきっかけにビジネスとして、その人が生きて行くルーティーンみたいのものができればいいかなと思いました。本当はホームレスじゃない方でもよかったのですが、でも普通の人が印税生活できるようになっても、あんまり夢がないなって思ったし、支援にもならないし、だったら本当に困っている人たちを助けようと思いました。うまくいけば、アーティスト自身も困っている人への支援になるし、この活動が多くの人に興味を持ってもらえるきっかけになると思いました。
――ホームレスの方の元にこの企画を持って行き、お話をされた時の反応はいかがでした?
まずホームレス支援団体の方にお話を聞かせていただき、そうすると今まで聞いたことがない話ばかりで、現代社会の問題点を目の前に突き付けられた思いでした。でも働きたいと思っている人もいるということを教えてもらいました。それで実際にホームレスの方の元を訪れ、話を聞かせてもらおうと30人以上の方に声をかけても、ほとんど相手にされませんでした。ホームレスの方もそれぞれ様々な事情があって、今の生活を選んでいるのでそれは仕方ありません。今回協力していただいたせいろくさん(通称)に、なぜ働けないのかを聞いたら、体を壊して本当に働けなくなって、家族とも仲が良くないと。体が回復してもすぐには働き口は見つからず、そうやって追われて行き場を失くして、ホームレスになった人も多いようです。働きたいけど働き口がない人には、その人に才能があるかどうかはわかりませんが、今回のようにクリエイティヴなことで生活できるかどうかは、それもわからないですけど、励みになったりとか、その一歩手前のものでもいいので、とにかく希望を持って欲しいと思いました。とはいえ、僕自身も仲間を養うので精一杯なので、正直そのホームレスの方をずっと支援していくというのはおこがましいなと思っていて。でも自分の夢としては、こういう活動をちゃんと世に出すことで、それがいい連鎖になって、そこに愛をすごく感じるようになって、で、例えばレディー・ガガが気づいてナニコレ?ってなって、「このフォーマットをアメリカでもやりたい」って言ってもらえることです。ニューヨークとかのホームレスの方にレディ―・ガガが作詞を依頼して、印税を渡すとか、困っている人にそういうことをしたいという先駆けになったら、嬉しいです(笑)。
森ガキ侑大
――アメリカでは多くの人が日常的にチャリティ活動を行なっていますよね。日本では貧困ビジネスという言葉がクローズアップされたり、なんだか怪しい大人たちもいるみたいですが、本当は働きたいと思っている人も何か“きっかけ”があれば、“希望”も見えてくると思います。
資本主義の構造として、お金持ちがいれば弱者ができるというのは仕方がないことです。もちろんそういう方たちへの支援活動をしていくことが大切ですが、でも僕らがご飯を食べさせるというよりは、今回の企画のようなサイクルを作る方が重要だと思っていて。正直言うと、印税だけでご飯を食べているアーティストは少ないですし、ホームレスの方が創作活動をしたら、すぐに印税だけでご飯を食べていくのも厳しいと思います。でもこれが日本のマーケットではなく、そこにレディー・ガガとか世界的なアーティストが絡んできてきてくれたら、ご飯を食べていける可能性あるじゃないですか。だから本当はそこまで辿り着いてくれればいいのですが、それを夢物語で終わらせるのが一番嫌なんです。で、「こういうことを考えているんだよね」って言うと、みんな笑うわけですよ。「何それ」「面白いけど本当にできんの?」って。それで、よしやってやると思って、まず仲良くしてもらっているレコード会社・LD&Kに連絡して主旨を説明したら「面白い!」って賛同してくれました。そしてかりゆし58の前川真悟さんが曲をつけ、歌ってくださることになりました。実は僕が今こうして映像監督としての場所があるのは、LD&Kのお陰なんです。僕が年収50万という極貧生活をしていた時、LD&Kに飛び込みで話を聞いてもらい、2010年に羊毛とおはなの「ただいま、おかえり」のMUSIC VIDEO(MV)で初監督させていただいて、同年かりゆし58のシングル「会いたくて」、「全開の唄」のMVと、2011年にも羊毛とおはなの「ふたり日記」のMVをやらせていただけて、本当に救われました。
かりゆし58
――そういうご自身の経験が、この「ヨナオシジャングル」を立ち上げようと思った根底にあるんですね。
そうですね。僕はホームレスになる一歩手前のところで救いの手があったからよかったのですが、せいろくさんは体を壊したこともあって、どっぷりそっちの世界に入ってしまっていますが、だから今若い人にせいろくさんから言ってあげられることはありますかって聞くと、「若いうちに夢を追いかけて欲しい」と言っていて。やっぱり年を取ってから夢を追いかけても、なかなか厳しいと。凄く重みがある言葉だなって思って、そういう意味では僕は、当時まだ若くて体も壊していなかったからすぐに動けましたが、もしかしたらせいろくさんみたいに体を壊していたら、ホームレスになっていた可能性もありました。
――やはり“きっかけ”が大切ですね。
そうなんです。ある程度きっかけを作ってあげたいと思いながらも、あとはせいろくさん頑張ってもらうしかないなって思っていて。最終的にはせいろくさんに希望を持たせ過ぎてもよくないと思ったので、音楽だけでは飯食べられないですから、やっぱりちゃんと働いてご飯を食べないと厳しいので、そこは言っておきますねと言ったら「わかりました」って理解してくれました。でもこれはひとつの目標として、楽しみがエネルギーになるし、人ってそれがないと生きられないじゃないですか。ただ、住所がないので働くこともできないのが現実で、そこは色々な方に協力していただき、解決に向け動いています。せいろくさんがどこまでできるのかは、せいろくさんの体調と相談しつつですが、でもこれをきっかけにこういう仕組があるということをたくさんの方に知ってもらって、この仕組を進化させてくれる人が出てきたら、すごく嬉しいです。ただ、今コロナ禍の中で皆どこの企業も、僕自身も明日は我が身という感じになっているので、こういう状況になる前にスタートさせた企画なので、正直なところやや戸惑っています。
前川真悟(かりゆし58)×せいろく
――せいろくさんは元々バンドをやっていて音楽の道を目指していたとお聞きしました。
そうなんです。それもあって若い方へのメッセージとして「若いうちに夢を追いかけて」とおっしゃっていて。高校生の時にバンドをやっていて、レコード会社から声をかけられたらしのですが、でもせいろくさんは、デビューするなら当時大好きな中山美穂さんが所属していたキングレコードからじゃないと嫌だと決めていたので、断ったみたいです(笑)。「そんなチャンスなかなかないですよ、凄いじゃなですか」ってせいろくさんに言ったら、「それが僕の人生の唯一の失敗だ」って言っていました。20代後半の時、せいろくさんは赤羽でホームレスになっていたのですが、あるレコード会社がせいろくさんをプロデュースしたいと、ホームレスでCDデビューしませんかとオファーがあったらしく、でもそれもキングレコードじゃないからと、結局断ったみたいです(笑)。後悔しているみたいです。最終的にこれが音楽に関わる多分最後のチャンスになると言っていて、せいろくさんの書いた歌詞を前川さんが歌って、それが聴いた人の心に響くのであれば、それでせいろくさんのアイデンティティというか、存在意義も認められるからいいですよねと言ったら、「それが自分の生きるモチベーションになる」と言っていました。今後はちゃんと働きながら歌詞を書きたいと言っていて、うまくいくといって欲しいです。せろくさんとのやりとりはYouTubeチャンネルで公開していますが、なかなか思うようにその再生数が伸びなくて、楽曲が配信されて、状況が変わってくることを期待しています。
――せいろくさん作詞の「かわがないてるよ」という歌詞は、そこにいる人でなければ書けない風景、歌詞で、グッとくるものがあります。
毎日川を見ていないと、<かわがないているよ>って気づかないじゃないですか。川を訪れる様々な人を見ていて、それを思いながら書いている言葉なので、そこに前川さんの曲が載ると、やっぱりきますよね。資金がないので、そんなにプロモーションはできませんが、少しでもこの曲を聴いた誰かの生きる原動力、力になると嬉しいです。気になっているのが、偽善ぽく見られるのが嫌だな思っていて。先ほども出ましたが、YouTubeの再生回数で活動費を賄いたかったのですが、思ったように跳ねなかったので、仕方がないことですが、このプロジェクトに関しては、自分でもかなり負担しています。でもそれもせいろくさんへのプレゼントと思えばいいのかなと思いつつも、ボランティアでご協力をお願いすることはしたくなかったので、人件費他が積もり積もってかなりの額になっています。
かわがないてるよ
――文字通り身を削って“世直し”をやっているということですよね。
そのサイクルのために払うのであれば価値はあると思っていて、せいろくさんにポンと現金を渡すとおかしな話になって、せいろくさんも勘違いしてしまうと思います。それもよくないと思って、世の中に対してこういう事を、動きをやっている人がいるんだということが伝わってくれると面白いと思っています。先ほども出ましたが、この企画だと失敗しそう、じゃあやらないっていうのが一番嫌なので、ダメでもやってみようというのが、0から1にするのが、一番大事なことだなと思っていて。世の中にないものを作るのが一番価値があるものだといつも思っています。例えそれが誰も見ないとしても、それをやったことによって感じるものがあるのであれば、作る意味があると思っていて。だからレディ・ガガに届いて欲しいんです。レディ・ガガがTwitterやYouTubeを見てくれないかなってずっと思っていて、同時に、なかなか手を挙げてくれるアーティストがいない中で、協力してくれるかりゆし58というバンドも観て欲しいし、(前川)真悟さんの人間力も知って欲しいです。真悟さんには本当に頭が上がらないです。
――このプロジェクトのことがもっと拡がっていくと、反応や反響も変わってくると思います。
本当はLD&Kだけではなく、色々なレコード会社やアーティストを巻き込んで、例えばそのホームレスの人たちのフェスとかを、最終的にはやりたかったんです。でも現実は厳しくて、これが誰かの、何かのきっかけになってくれたら、というのが一番大きいかもしれません。
クジラ別館
――広島県出身の森ガキさんは、数多くの映画が製作された映画の街・尾道の町おこしのため、そしてもっと尾道を知って欲しいと「尾道空き家再生プロジェクト」で古民家を購入しリノベーションして「クジラ別館」を作り、そこのオーナでもあります。その思いをすぐに行動に移す行動力には感服します。
最初は、尾道でクリエイターの制作拠点を作りたいなと思ったのがきっかけです。それで「尾道空き家再生プロジェクト」を紹介されて、あの家は見晴らしのよい高台に建つ、築100年以上の貴重な日本家屋で、古くなって壊してしまうともう建てらないと法律で決められていて。でも古民家を残さないで、新しいものばかりで作られた街は個性がなくなり、尾道もあの街並がなくなってしまうと、価値がなくなると思いました。そう思っている人達が多くて、プロジェクトに賛同しました。だからあの家を残すにはリノベーションしかなかったので購入しました。もちろん銀行から借金をして、クリエイター大歓迎の宿にして、雇用とサイクルを作りました。ここも「ヨナオシジャングル」同様、コロナ禍で大打撃を受けましたが、ようやく回復してきました。
取材・文=田中久勝 Photo by菊池貴裕

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