Eins:Vierが傑作と自負する
『Risk』に刻まれた
ライヴを重ね熟成した
バンドアンサンブルの妙味
ライヴで熟成させたバンドアンサンブル
(1)ライヴを積み重ねた末のアルバムである。(2)勢いがある。(3)セルフプロデュースで自由にやれた。というのが、メンバーの自己分析による『Risk』の特徴だと前述したが、恐縮ながらより具体的に言うと、それはバンドアンサンブルの妙味ということに集約されるにではないかと思う。Eins:Vierというバンド名は独語で1(Eins)と4(Vier)という意味で、4つの個性が合わさってひとつになるといった想いが込められていると思われるのだが、ここに収められた音はどれもこれも、まさしく4つの音が折り重なって形成されている。誤解を恐れずに随分と乱暴に形容するならば、各パートともいい意味であんまりお互いのことを考えていないような印象すらある。そう言うと、ごちゃごちゃとしたカオスなサウンドを想像する人も出てくるかもしれないが、そうではない。“透明感のあるサウンド”とメンバーが言う通り、その大半はクリアトーンではあり、M4「Notice (after the Solitude)」やM10「Everything moves for me〜全ては私により〜」などワイルドな音作りが成されているものもあるにはあるけれども、変なノイジーさはない。音が密集しているのではなく、それだけで見たらそれぞれに自立したように見える演奏が、適度な距離を保ちつつ、アンサンブルを奏でているといった感じだろうか。
例えば、ベース。ダウンピッキングで単音を連ねている印象はなく、かと言ってウォーキングともスラップとも違う、独特の旋律を奏でている。これまた誤解を恐れずに言えば、歌メロを支えようという印象すら薄い。リズム楽器という意識ではなく、あくまでもメロディーを司る楽器のひとつという感じである。ドラムも同様で、打楽器であるからさすがにメロディーは奏でられないし、基本的にはしっかりとリズムをキープしているのだが、M4「Notice (after the Solitude)」ではタムを多用したり、若干変則気味なビートを効かせたり、あるいは、M8「and I’ll」ではバキッとしたスネアの音で楽曲の世界観を先導したりと、やはり独特の存在感を示している。
そこに乗るギターは完全に自分の持ち場を堅持しているというか、まったくブレない。綺麗なアルペジオに終始することで、楽曲全体に浮遊感を与え、どこか幻想的な空気感を作り上げている。かと思えば、やはりM4やM8ではワイルドな一面を覗かせるなど、先ほどアンサンブルは“お互いのことを考えていないような印象すらある”とは言ったものの、その辺はさすがにバンドである。各々が独自に演奏しているとは言っても、向かう方向は同じであることがこの辺で分かる。どこか安心するというか、このバンドの安定感を垣間見るところでもある。
歌は全編でメロディアスであり、キャッチーなものばかり。そう考えると、ヴォーカル、ギター、ベースの3者がそれぞれに旋律を奏でていると言っていいとも思う。そんな中でHirofumiもまたギターにもベースにも迎合することなく、独自のヴォーカリゼーションを聴かせている。逆の見方をすれば、その辺がおそらく彼が言うところの“歌のアクの強さ”にもつながっているのだろう。ギターやベースに寄っていたり、あるいはギターやベースが歌寄りになっていたとしたら、歌のアクが…とは言われまい。そこもまたバンドの特徴の発露、そのひとつなのであった。
何かひとつに追随するわけではなく、各パートがそれぞれに個性的な演奏をすたものをまとめるとなると、それはとても一朝一夕に完成されるものではないだろう。(1)ライヴを積み重ねた末のアルバムであるとして、『Risk』を推すのもよく分かるところだ。また、(2)勢いがあるというところで言えば、M1「The Hallucination for this only night〜今宵のための幻覚〜」→M2「Push baby」、M5「Shy boy」→M6「Nursery tale」、M9「For Love that is not Love」→M10「Everything moves for me〜全ては私により〜」とで曲間を無くすことによってアルバム全体の疾走感を上げているところは、まさしく勢いを感じさせる。この辺もライヴを重ね、セットリストを熟成してきたからこその技と見ることもできる。結成から数年間、このバンドらしさを積み重ねてきた末に完成させた『Risk』。こうして改めて聴いてみると、粗削りなところは否めないけれども、確かに充実したアルバムではある。
TEXT:帆苅智之
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