松本幸四郎が南座で開催される京の年
中行事『吉例顔見世興行』への想いを
語るーー『顔見世興行』を途切れさせ
るわけにはいかない

12月5日(土)から京都・南座で幕を開ける、京の年中行事『當る丑歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎』。今年は、新型コロナウィルス感染拡大予防の観点から、1日3部制とし、各部とも上演時間は約2時間前後と、例年とは異なる構成でおくる。
演目は各部とも舞踊と芝居という構成で、序幕の舞踊はおめでたい演目で松羽目を背後に若い俳優たちが舞い、約15分の休憩をはさんだのちに、名優たちの重厚な芝居が楽しめる演目を上演する。そのうち、第3部では、「夕霧 伊左衛門 廓文章(くるわぶんしょう)吉田屋」を上演。藤屋伊左衛門を演じる松本幸四郎が来阪し、『吉例顔見世興行』を開くことができる喜びを語った。
●『吉例顔見世興行』ができて本当に嬉しい●
この春から、新型コロナウィルス感染拡大の影響で公演中止が相次ぐなか、幸四郎もそのあおりを受けた。その時真っ先に思い浮かべたのが、南座での『吉例顔見世興行』だったという。
「新型コロナウィルスが流行して以来、京都での歌舞伎公演は、この『吉例顔見世興行』が最初になります。ということは、これが始まり、ここからまた続いていく。そういう責任を感じています。松竹が南座で『吉例顔見世興行』を行うようになってから110年余。毎年、確実に開いてきました。それが今年は途切れるかもしれない。そういう可能性もありました。僕も出演予定だった舞台が全部なくなった時に、真っ先に南座での『吉例顔見世興行』のことを思いました。我々が歌舞伎役者をやっている時代に『吉例顔見世興行』を途切れさせるわけにはいかないと強く思ったので、上演できて本当に嬉しいです」
●この時期だからこそ「吉田屋」を●
今回、幸四郎が出演する「夕霧 伊左衛門 廓文章吉田屋」は、上方歌舞伎として知られる古典の大作。それを「東京式」で上演する。
「澤村藤十郎のおじさまに教えていただいた、清元の「廓文章 吉田屋」は、2019年の襲名披露の時に、名古屋の御園座で初めてさせていただきました。関西ではやはり上方歌舞伎の「吉田屋」として知られていますので、名古屋より西では上演しないと決めていました。それが今回南座で初上演となります。今、コロナ禍で明日どうなるかわからない、明後日は公演がなくなるかもしれないという状況ですので、上演するにあたってもいろいろな条件があります。その中で南座で何ができるかを考えて清元の「吉田屋」を僕から提案させていただきました」
演じるにあたって澤村藤十郎からは「柔らかさ、丸さに尽きると。それと台詞の転がし方が肝」と教えてもらったという。「ご自分が上演された時の映像などの解説していただきました。稽古で2、3日、ご自宅に通いましたが、1日がすごく長い稽古になりました」と、充実した時間を過ごしたと話す。
幸四郎演じる伊左衛門の相手、夕霧を勤めるのは中村壱太郎。11月12日に死去した坂田藤十郎の孫にあたる。壱太郎の印象について尋ねてみると、「上方のにおいのする役者」と讃えた。
「御園座で夕霧を演じてくれた時、上方のにおいを感じて、すごく助かりました。彼は東京育ち、東京生まれなのになぜでしょうね(笑)。彼に乗っかっていたら上方のにおいのあるものができるのではないかと、頼っていましたね」
とはいえ、幸四郎自身にも上方の血は流れている。「祖先を辿っていくと、ひいひい爺さん(三世中村歌六)は上方ですから、どこかに上方の役者の血があると思って。「吉田屋」は、伊左衛門になりきるしかないなと思います。「吉田屋」はなりきるほど面白いお芝居です」
観客へは次のようにいざなった。「ちょっと形態が変わりますけど、伊左衛門と夕霧に特化した内容になっているので、新たな「吉田屋」のイメージができるといいなと思っています。上方式と東京式の違いも明確なので、見比べてもらえると面白いと思いますし、『東西合同大歌舞伎』という意味合いもより大きくなるのではと思います」
●教えていただいたことを表現していきたい●
松本幸四郎
取材会では、坂田藤十郎との思い出も語ってもらった。
「まずは、2018年の私、父、倅の襲名披露興行の全公演に出てくださったことに、本当にご恩を感じています。そして、藤十郎のおじさまが結成された近松座に出させていただいたことも、良い経験をさせていただきました。まだ定式幕がない時代の演目もありましたので、それを作る現場に入ることができたことは、未だに大事な経験になっています。教えていただいたことはたくさんありますので、それを自分が皆様にお見せすることで、おじさまがずっと生き続けていくことになると思います。改めて教えていただいたことをしっかりと思い出し、表現できるようにしていきたいと思います」
上方歌舞伎好きでも知られる幸四郎。それは藤十郎から受けた影響も大きいと話す。
「上方歌舞伎を好きになったのは、確実におじさまがいらっしゃったからです。おじさまが上演された「雁のたより」は、衝撃的でした。歌舞伎にそういうお芝居が存在するということすら知らなかったものですから、びっくりしました。上方のお芝居は、台本を読んだり実際に観ても、出演しないとわからないこともありますね。「雁のたより」も、台本だけでは、どんなお芝居なのか想像できないので、そういう意味では本当に役者一代というか、その人によってお芝居が花開いて、亡くなると同時になくなってしまうのだとすごく感じます。だからこそ、おじさまはずっといなきゃいけない存在と思い続けていました。今は、残念という気持ちでいっぱいです」
●『顔見世興行』からまた関西での歌舞伎公演が始まる●
南座での『顔見世興行』について、「(このご時世なので)どうにか観に来てくださいとは言えませんが、絶対に観てほしいという想いで南座を開けます」と、声に力を込める。最後に「この『顔見世興行』からまた関西の大劇場での歌舞伎公演が始まりますので、今回、行けないという方は、また行ける日が来ることを信じてほしいと思います」と締めくくった幸四郎。たくさんの思いを背負って、南座に登場する。
なお、公演期間中は、マスク着用必須や入場時の手指の消毒、劇場内での飲食は原則禁止といった業界団体、自治体のガイドラインに沿った感染症予防対策を実施。チラシの裏などに予防対策について印刷して配布し、劇場内にも分かりやすいガイドを掲示する。
取材・文・撮影=Iwamoto.K

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