『Def Tech』に宿る
ハイブリッドな音楽性と
ふたりが発信した
恒久的なスピリットを探る
彼らの思想を具現化したサウンド
例えば、M1「Pacific Island Music」。ビートはわりと激しめなので、ここだけを聴いたなら、J-ROCKの雰囲気ではあるが、ベースはスラップも効いているので、そう単純ではないサウンドであることが分かる。ギターはスカのカッティング──いや、この音色はギターではない。ウクレレだ。楽曲の進行に伴って、そのカッティングも2、4拍が強調されたいわゆるスカビートに完全に準じているわけでもないし、意外とベースがスカビートを演出しているようなところも見えてくる。そこにキャッチーなメロディパートと、話すように歌うレゲエならではの歌唱パート、それぞれのヴォーカルが重なる。しかも、歌は英語と日本語が混じり合い、歌詞は前述の通り、このユニットのスタンスをそのまま表したものである。加えて言えば、サビの歌唱がカタカナ英語的…と言い切ってしまうのはやや乱暴かもしれないが、ネイティブスピーカーの発音ではない印象もある。少なくともこれは米国の歌であるとか日本の歌であるとかいう限定はなさそうだ。アルバム1曲目から自らの姿勢をズバッと出しているというのは何とも威勢がいい。デビューアルバムとして理想的な作りではないか。
M2「High on Life」のサウンドも象徴的だ。イントロはアコースティックギターから始まる。おそらくガットギターだろう。そこで鳴らされるのは沖縄音階だから、三線を使ってもおかしくないところだが、あえてそうしていないのだろう。ドラミングは極めてロック的だ。ヴォーカルはほぼラップではあるものの、メロディアスな箇所が多々ある。後半に進むに従ってレゲエ風味が増加。アウトロ近くでは、はっきりとこれはレゲエであると認識できるほどに展開していく。オキナワンで始まった楽曲がいつの間にかレゲエに変化──少し大袈裟に言えば、マジカルなナンバーである。M3以降も、M5「Quality Of Life」ではソウルミュージックのフィーリングがあったり、M6「Jah Live」では和楽器風の音を取り入れたり、M8「Emergency」ではアッパーでファンキーなノリを加えたりと、いずれもはっきりとジャンル分け出来ないユニークなサウンドが続く。
締め括りのインストナンバー、M9「Guidance. Micro's House@attic studio(Inst.)」ではそれが極に達するかのようだ。アッパーなトラックで、ドラムとパーカッションがグイグイと全体を引っ張っていき、リズムだけで見たらわりとブラックミュージックテイストが強めな印象ではある。そこに乗るのは、この時点でも十分にレトロではあったであろう雰囲気のシンセ。誤解を恐れずに言えば、初期YMO的な音である。主たるメロディーが中華風であったり、和風であったりするのもそう感じさせる要因かもしれないが、いずれにしても、レトロフューチャー感と、実在しないアジア感が混在している感じはとても面白い。そのうち琴や尺八っぽい音も聴こえてくるし、気づけばベース音はどこかサイケデリックであるなど、ハイブリッドと形容するに相応しいナンバーが生み出されているのだ。本作は[インディーズグループとしてはMONGOL800の『MESSAGE』に次ぐ史上2作目のミリオンセラーを達成。最終的に200万枚近く売り上げた]アルバムである([]はWikipediaからの引用)。ここまで述べてきたような、意欲的なサウンドで彩られたアルバムがダブルミリオンとなったことは、『Def Tech』の発表されたのが年間でミリオンセラーがほとんど出ないようになっていた時期であったことを合わせて考えると、それは音楽シーンの中で希望を見出すような出来事ではなかったかと、今さらながらに思う。
今も異彩を放つメッセージ性
《今の今の今まで 女性は差別されてて/耐えて 堪え我慢して/乗り越えてきた流れ/変える時が来たんだぜ 今顔を上げ立ち上がれ/腕高く掲げ 女であることに誇りを待て/到底叶わぬ夢だと思ってもがっちり握りしめゆけ/女という字は祈る姿 形からできた文字/もし願いが叶うのならば大きなことを求めて/この奴隷制から逃げて見つけて/知らぬ未知の道を》(M5「Quality Of Life」)。
もう一度言うが、Def Techがこれを歌ってから14、15年経った。それなのに、政権与党の議員(しかも、これが驚くことに女性議員)が“女性はいくらでも嘘をつける”と発言するなど、ここで彼らが訴えたことが何も実現していない…と言っていいかどうか分からないけれども、少なくとも大きく前進したとは言えない現状ではある。もっとも、歌で主張したことが巷に大きく広がったとして、そこで綴られているようなことが現実になるわけではないことは、John Lennonの例を挙げるまでもなく、明らかなのだが、今も“Boy Meets Girl”や“Girl Meets Boy”ばかりが跋扈する(というか、もはやほとんどそれしかないように思える)邦楽シーンにおいて、Def Techが放ったメッセージは、今も異彩を放っているのは間違いない。
TEXT:帆苅智之