NYAI 懐かしくもフレッシュなロック
センスにシニカルなユーモアと尖った
知性が混り合った、2020年を締めくく
る傑作が完成

NYAIの3rdアルバム『Head of triangle』がいい。本当にいい。90’ sインディー、ローファイ、オルタナ、ブレイクビーツ等々、懐かしくもフレッシュなロックセンスにシニカルなユーモアと尖った知性を混ぜ合わせ、抜群のメロディにさらに磨きをかけた、2020年を締めくくる傑作のひとつと言い切って間違いない。全国的にはまだまだ知られていないバンドだが、聴かずに死ぬのはもったいない。先行曲「Swamp&Zombies」のミュージックビデオも、チープでキッチュで摩訶不思議な魅力に溢れてる。あらためて、NYAIとは一体どんなバンドなのか。コロナ禍によるステイホームをものともせず、嬉々として曲作りに励んでいたという首謀者・takuchan(Vo&G)と、リモート取材で話してみた。

――アルバム、めちゃくちゃ良かったです。
聴いていただけました? ありがとうございます。
――良い意味で変わったというか、進化した部分をたくさん感じましたね。まずサウンドがすごく整理されて、音の配置を含めてすごくクリアになったこと。ノイズギターの割合が減って、ポップな感触が増したこと。歌の表情がすごく豊かになったこと。あと、歌詞に一貫したメッセージ性があるとか、いろいろ思いました。
ありがとうございます。
――作る前に、アルバムのテーマは何かあったんですか。
2枚目の『HAO』が、“聴いてくれ!”というか、“人にどうやって聴いてもらうか?”ということで、できるだけインパクトのある曲を選んで入れたんですけど。その次は……“アルバム作るぞ”ってなってからけっこう時間が経って、曲を作っている時間が長かったので、ただただ自分が心地いいだけの曲を選んだ感じですかね。ずっと聴いていられるものだけ選んだ感じです。
――ああー。確かに。
『HAO』は、たまに聴くといいんですけど、ずーっと聴いてたら疲れるなとか。でも今回は、ただただ心地いいだけの曲を選びました。
――それって、コロナ禍によるステイホームの気分と、シンクロしたところもありますか。
それは確実にありますね。3月に仕事も辞めたんで、ゆっくり作れた感じです。ただ、聴いてもらうという意識はしているので、ちゃんとポップなものを作ろうという気持ちでずっとやってはいました。今までもよりもじっくりと、無駄を削ったり、そういう時間は多かったかもしれないです。
――モチベーションが、以前とは少し変わってきたんですかね。
どうなんですかね? もともと曲を作るのは好きなので。それをバンドに持っていけばどうにかしてもらえるので、そういう作業が好きなので、今までよりももっと落ち着いてできた感じですね。楽しくやってたという感じです。
――曲は今年作ったものですか。
ほとんどそうだと思います。ボツになる曲もいっぱいあって、選んだ結果ですね。
――リード曲は「Swamp&zombies」。かなりパンチの効いた曲ですけども。
わかりやすい曲ですよね。
――わかりやすいですね。パワーポップ風の、ラウドでポップな。
歌詞もわかりやすいじゃないですか。キャッチーで。
――この歌詞だけアルバムの中で浮いてますけどね。ものすごい毒を吐いてる。
そうですか(笑)。でもこれ、作っていて気分良かったですよ。何て言うのか、バンドやってて、やっかみじゃないけど、ちょっと嫌なことを言われることってあるじゃないですか。事務所に所属した、とかなんとか。そういうのでイライラしていて、できた歌詞です(笑)。それを浄化したかったんですよね。あんまり言っちゃいけないのかもしれないけど、これを書いたら自分の中でスッキリして、“まあいいや”ってなったというか。
――それを知って聴き直すと、さらにエモ度が高まりますよ。“おまえらみんな腐ったゾンビだ!”って、めっちゃ明るく歌ってる曲。
言わないほうが良かったかな(笑)。そういうネガティブな気分を、すごいポップな曲にしているんですよね。そうすると、どうでもよくなっちゃう。そんな感じです、自分としては。
――この曲もそうですけど、前回のインタビューの時に、影響を受けた音楽のルーツの話とかさせてもらいましたけども、さらにどんどん、素直に出てきてる感じがしましたね。
ああ、そうですかね。自分が心地いいと思うものを作っていたら、そうなるんですかね。
――「洋楽の入りはスマッシング・パンプキンズとか」と言ってましたよね。日本だとスーパーカー、くるり、ナンバーガールとかって。このアルバムはまさにそういう感覚で、たとえばペイヴメントとか、ベックとか、ウィーザーとか、そういうバンドを思い出す音が多いなと思ったんですね。
オルタナポップですね。今年、7インチのレコードを2枚作らせてもらったんですけど、それまでレコードを使ったことがなくて、新しくプレーヤーを買ったら、わりとハマってしまって。今7インチを集めてるんですけど。
――いい趣味ですねえ。どういうの買ってるんですか。
この前、ヨ・ラ・テンゴ買いました。ペイヴメントとか、いろいろ買って。レコード屋さんに行くと、安売りコーナーがあるじゃないですか。90年代USとUKのコーナーで、800円ぐらいで売ってるんですけど、そこでこれを買ったんですよ(12インチアナログ盤を見せる)。Volume all starという、詳細がよくわかんないんですけど、良さそうだなと思って買ったらすごく良くて。90年代のジャンクな、ブレイクビーツが入っていたりするような、オルタナっぽいやつなんですけど、それを聴いた時に“やっぱり俺はこれが一番好きだな”と思って、もう90年代US、UKで開き直ろうかなと(笑)。
――まさに、そのへんの音のニュアンスをビンビン感じますね。今回のアルバムからは。
結局そういうのが一番好きなんだって、開き直ったというか、アルバムを作る時にそうなったので、そういう曲が多いと思います。ブレイクビーツっぽいやつもあるし。
――そういう意味で、takuchanの好みが今まで以上に出ているなと思いますね。でもドラムのアヤノさんとか、かなり激しいタイプのドラマーじゃないですか。それを説き伏せて、クールなブレイクビーツっぽいフレーズを叩かせたのかな?とか勘ぐったりして(笑)。
まあ1曲2曲はめっちゃ叩ける曲を用意しといて、“そこは思い切りやっていいから今回はこれをやって”みたいな(笑)。ドラムを録音する時に、思い切りデッドな録り方をして、やっぱりこっちのほうが好きだなと思いましたね。でもアヤノさんが叩きたいものもあるから、そういうものはちゃんと用意しておいたという。
――さすが。気配りですね。
自分の好きなものばかりやってもしょうがないんですよね、バンドなので。みんなの好きなものも入れてもらわないと困るから。
――「Interlude」みたいな、スローでメロウな曲もそうですよね。ひたすら淡々と、マーチングっぽいリズムを叩き続ける。
もともとアヤノさんは吹奏楽部なので、吹奏楽部的ドラムなんですよ。だから苦手とかはないと思います。
――takuchanの好みを前面に出しつつ、メンバーそれぞれに見せ場を用意する気持ちもちゃんとあると。
まあ、いつもそうなんですけどね。なんとなく、誰かが映える瞬間があったらいいなとは思います。好きなバンドの人のソロの作品が、わりとつまんなかったりする時、あるじゃないですか。あんまり好きなものをやりすぎると面白くなくなるんだろうな、ということも考えつつ。
――ああそうか。ソロは自分100%だけど、それがいいのか悪いのか?という話。
ですね。バンドのソロで好きなものもいっぱいありますけど、あんまり自分自分でやりすぎるのも良くないのかな?とは思いますね。
――逆に言うと、それがバンドの面白みでもあると。コーラスのABEさんも、完全なリードボーカルとしてフィーチャーされている曲が2曲ありますね。「Sunshower」と「Calendura」ですか。
ABEさんは、いい声してるんで。
――いい声してますよね。素晴らしいです。
なかなかいないですね、バンド界隈でああいう歌い方をする人は。あんまり聴かない声だなと思います。
――ABEさんがリードボーカルの曲は、最初からそのつもりで書いてるわけですか。
ABEさんの曲を作る時は、ABEさんが歌うことを考えて作りますね。なるべく歌いやすくとか、どこまで気持ちよく歌ってもらえるかとか、考えたりします。
――このバンドのツインボーカルはすごい武器だと思いますね。昔はそれこそ、マイブラとか、スーパーカーとかいましたけど。あらためて男女ボーカルの強みを、今回感じたんじゃないですか。
まあ、楽はできますね(笑)。全部自分で歌うのはしんどかったりするんで。そこでメンバーに頼ることができるので、楽というか、楽しいです。
――今回takuchanの歌も素晴らしいですよ。前よりも、表現力もパワーもすごく増していると思います。
もうちょっとセクシーに聴こえるようにしようと思って、じっとり歌いましたね(笑)。
――特に思ったのが「Cheap sentimentalism」とか、「Good sleep」とか。朗々と、堂々と歌う姿勢が、前と全然違うと思いました。何か心境の変化があったんですか。
心境の変化というか、ちゃんと自分が歌いやすいキーで作るようになったんですよ。それで楽になったんですよね。
――そんな単純なことだったか(笑)。キーを上げたってことですか。
上げました。家で曲を作る時って、小声で歌うから、わりと普通に録れちゃうんですよ。だけどバンドでライブでということになると、声が出なかったりするので。
――宅録あるあるですね。
そうなんですよ。前から気づいてはいたんですけど、そんなにライブの機会もなかったし、別にキーを変えてまですることかな?と思ってたんですけど、変えたほうが歌いやすいなと思って変えてみました。
――ばっちり効果出てると思います。今さら、とか言ったら悪いけど、そういうちょっとしたことが大きな進化につながっていると思います。
そうかもしれない。ずっとアマチュアで、インディーズでやってたんで、自分のやりたいことだけやっときゃいいやって感じだったけど、事務所に所属して、みんなでこういうふうにしたほうがいいかな?とか、いろいろ考えて、やっぱりこっちのほうがいいよなとか、そのへんをもっと考えるようになりましたね。そのほうが良く聴こえるだろうなって、すごく意識するようになりました。
――それはすごく感じます。
まだまだ勉強しないといけないです。
――歌詞はどうですか。分析的に言うと、何度も繰り返し出てくる言葉があったりするんですよね。たとえば《意味がある》《意味がない》とか、《光》も多くて、《目》も多い。あと《死》も多いです。
死は多いですね。ゾンビ映画好きなんで(笑)。わりとポップな言葉として使ってるつもりなんですけど。
――ポップですね。全然怖くはない(笑)。
僕、「たま」が好きなんですけど。たまのドキュメンタリー映画に出てくるんですけど、死ぬということの考え方が軽いんですよね。軽いというわけでもないんですけど、“あ、死んじゃった”みたいな、ちょっと間抜けな死に方ってあるじゃないですか。死って、そんなに大それた言葉じゃないような気もするんですよね。そういう意味で、ポップな感じで使ってるんですけど。
――たまは妖怪ですからね。死んでもすぐ蘇りそう(笑)。ゾンビもそうですよね。
そういう感じです。
――あと《歌う》と言う言葉も何回も出てきますね。
ああ、そうですね。
――象徴的なのは、アルバムのラストの「Lucky song」の最後の一行が《見つけたメロディを愛を込めて歌う》なんですよ。これはすごい歌詞だなあと思います。言い切りましたね。
言い切りました(笑)。もうこのぐらいで行こうかなと思いましたね。
――これはどんな思いを込めて?
本当に素直な気持ちです。いいメロディを見つけて、愛を込めて歌う。ずっと俺がやっているのはそういうことだよな、という感じです。やってるというか、やりたいのは。
――この言葉はアルバムの結論だと思いましたね。
そうかもしれない。
――タイトルの『Head of triangle』というのは? 1曲目のタイトルが「Triangle head」で、それとシンクロしてる感じもしますけど。
僕は「Triangle head」という曲が一番気に入ってるんですけど、それは別に、適当に付けたんですよ。“三角頭”みたいなイメージで。それでアルバムの曲が全部できて、タイトルどうしようかな?と思って、なんとなく語感的に『Head of triangle』にしようかなと。ディレクターの人が英語がわかるので聞いてみたら、“三角の先端”みたいな意味になるらしくて。三角の先端って、どこが先端かわかんないじゃないですか。なんかいいなあと思ってそれにしました(笑)。
――「Triangle head」、いい曲ですよね。まさに90年代USインディーズ、ローファイ、オルタナの質感がよく出ている。テルミンっぽい質感のシンセも入っていて。
あれは、自分の一番好きなシンセの音です。
――ほかに、個人的お気に入り曲は?
「Swamp&zombies」は気に入ってますね。あとは……でも全部気に入ってます。「Lucky song」も、さっきも言ってましたけど、いい詞じゃないですか(笑)。
――いい詞です(笑)。僕はABEさんが歌う「Calendula」が大好きですね。
「Calendula」は、ただいい曲を作ろうと思って、泣ける曲を。
――まさに。ちょっとネオアコ感があって。
そうですね。ただただいい曲を作りたくて、気持ち的に晴れやかだったんですよ。家にいて、天気もめちゃくちゃ良くて、空も青くて。緊急事態宣言になっていて、外には誰も歩いてないんですよ。気分いいなと思って、いい曲を作ろうと思って作っていったら、完成した日に志村けんが死んだんです。でもあの人、ずーっとコントを作ってきてて、膨大なライブラリーがあるじゃないですか。だから死んだ気がしないんですよ。
――ああー。なるほど。
志村けんだけではなくて、ものをずっと作り続けてきた人への、それってご褒美じゃないですか。自分がいなくなっても、自分の作ったものがずーっと残っていて、いつでも見れたりして。それに非常に感動したんですよね。だから、ものを作り続けてきた人への敬意という感じで作りましたね。
――それでこの歌詞になるのか。深いです。
カレンデュラ(マリーゴールド)は、志村けんが死んだ日の花言葉だったのかな。それで付けたんです。意味的にも、いいものにしたかったんですね。きれいな心で作った曲です。
――いい話。
志村けん自体は下品な笑いも多いし、エッチなおじさんな感じですけど。作ってきたものがずっと残っていくのはすごいなあと思ったんですね。
――こっちをリード曲にすればよかったんじゃないですか。毒を吐いてる「Swamp&zombies」よりも(笑)。
いやあ、気分的には「Swamp&zombies」だったんです(笑)。でも「Calendula」も、落ち着いたらミュージックビデオでも作ろうかなと思ってます。聴いてほしい曲ではあるので。
――ぜひ作ってください。こういう、普通にいい曲、さらっと作れちゃう。天才です。
天才じゃないです(笑)。でも、なんか、きれいな曲を作りたいと思う時があるんですよ。ポップでわかりやすいやつを。
――本当に今回は、一つ、二つ、三つ、階段を上がったアルバムだと思います。これから聴こうとしているリスナーに、伝えたいことはありますか。
なんとなく心地よく聴いてくれればいいなという感じです。それと、ずっと自分の好きなものをやってたつもりだったけど、3枚もアルバム出したら、結局NYAIっぽくなるなあという感じなんですよね。メンバーと一緒に作っていたら。こういう感じの音楽が周りにあるかな?といったら、そんなになかったりもするし、NYAIっぽさがどんどん出てきてる感じはあるので。あれに似てるとかあれっぽいと言われることもあるかもしれないけど、“でもなんか違うよね”“NYAIっぽいよね”というものが、作れてきてると思うので、それが自然に聴こえればいいなという感じですね。
――できればライブも見たいですね。近いうちに。
自分としては録音が一番好きなんですけど、メンバーはライブが好きな人も多いので、ライブでどうしたら良くなるかな?ということは常に考えてますね。ベースのたにがわさんはライブが好きで、ライブの感覚が一番わかってるんで、ライブに関してはたにがわさんにバランスを取ってもらってます。アルバムも出したし、今からライブが増えてきて、LD&Kの新しいライブハウスが福岡にできるので(ライブハウス「秘密」)、そこでやることが多くなるのかな?と思います。次はライブに向けて、いい準備をしたいと思います。
取材・文=宮本英夫

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