肩パッドの前貼りのみの「身ひとつ」
で魅せる 劇団鹿殺し「ザ・ショルダ
ーパッズ」『銀河鉄道の夜』ゲネプロ
レポート

肉体と想像力の翼を武器に劇団鹿殺しがリスタートを切る。
劇団鹿殺しの公演「ザ・ショルダーパッズ」『銀河鉄道の夜』『少年探偵団』が、あうるすぽっとで2020年11月7日(土)に開幕した(イープラス「Streaming+」を使用した配信もあり)。コロナ禍で自粛期間が続き、公演を打つことさえ難しい状況で、演劇をやる意味や自分たちの存在意義を問い、その答えとして再起動宣言を行った鹿殺しが、シンプルな表現に立ち返る。本公演での男性俳優の衣装は基本、肩パッド2枚を縫い合わせたショルダーパッド1枚だ。
劇団鹿殺しは2004年からマエバリ芝居を行ってきたが、「ザ・ショルダーパッズ」という新しい作品ラインとして練り上げ、今回音楽には、是枝裕和監督の映画『誰も知らない』の挿入歌「宝石」を手がけたタテタカコを迎え、多彩なゲストと共に舞台に立ち上げる。これまで短編で上演されてきた作品のリブート公演となる『銀河鉄道の夜』の舞台初日に行われたゲネプロの様子をレポートする。
タテタカコ作詞作曲の「ザ・ショルダーパッズのテーマ」を菜月チョビが伸びやかな声で歌い上げ、幕は上がった。歌詞にある「この身ひとつで」が、再起動をする彼らが出した答えだと感じる。
(左から)丸尾丸一郎、菜月チョビ  画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)
一見、男性陣は着衣のままだが、歌舞伎の引き抜きのような早変わりで、衣装がパカっと真ん中から裂け、肩パッドを股間に当てたショルダーパッズたちが次々と現れた。生まれたという表現の方が近いかもしれない。衣装を最大限に生かしたダンスが眩しい。タテの歌詞が頭に入ってこない。なぜ、肩パッドなんだ。
何事も起きていないかのように、菜月演じるジョバンニと、丸尾丸一郎演じるカンパネルラを中心に物語は進む。学校のシーンでは生徒たちが教室で着席しているが、空気椅子だ。君沢ユウキ演じる先生が銀河の授業を行っている。男前なのに見た目が変態だ。ジョバンニは裸の男たちに囲まれている。ここは世界線が違う。
ジョバンニの父は漁に出ていて戻ってこない。お土産にラッコの毛皮を持って帰ると約束しているが、それをクラスメートたちにからかわれてしまう。ジョバンニをからかう裸の男たちはキャッキャとはしゃぎ、自由奔放に跳ね回り、じつに生き生きとしている。
ジョバンニの父を演じるのは五十嵐結也。大漁旗を振る姿も様になる。次第に肩パッドに目が慣れてくると、祭りで神輿を担ぐ男衆のフンドシのように神聖なものに見えてきたが、「V」の字にかかった2本のバンドが、「これはショルダーパッドなのだ」と現実に戻してくれる。ちなみに五十嵐はジョバンニの母も演じている。濃いキャラがクセになりそうだ。
振付は、出演もしている伊藤今人(梅棒/ゲキバカ)。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の世界観と夜空に光る星々を美しく表現していた照明は、光と影で身体の造形を浮かび上がらせ立体的に見せる。ダンスはよりダイナミックになり、音楽劇としての魅力と強度を高めていた。ショルダーパッズたちの汗が煌めいている。彼らが銀河なのかもしれないし、違うのかもしれない。
ジョバンニとカンパネルラは銀河鉄道の旅に出るが、列車も「この身ひとつ」を体現したものになっている。この場面での力強いパフォーマンスは必見だ。
鉄道の旅で、ジョバンニたちは様々な登場人物と出会う。発掘する学者と3人の助手、鳥を捕る人、インディアン、シスター、白鳥たち――、ショルダーパッドを中心に衣装を変えていくキャストの七変化も楽しい。
ザ・ショルダーパッズ『銀座鉄道の夜』  画像提供/オフィス鹿画像提供/オフィス鹿(写真:和田咲子)
丸尾が描く『銀河鉄道の夜』では、カンパネルラにある不幸が襲い、ジョバンニとの別れと絆が描かれている。衣装はエキセントリックだが、友情や絆といった普遍的なテーマが芯にあって観るものの胸を打つ。
「僕らは素粒子でできているんだ」
このセリフをシンプルさを追求した鹿殺しのスタイルに重ねてしまう。体ひとつで作り上げる創造性と、想像力を拡張するミニマムな衣装。自分たちが信じる面白いことをやろうという原点回帰の熱に当てられそうだ。
「きみと見てみたい世界があるよ」
観客を巻き込み、物語は終着点へ。
新生鹿殺しの公演は、笑って泣ける極上の音楽劇になっていた。劇団としてのあり方を葛藤して出したストレートなメッセージが刺さる。コミカルで愛おしいパフォーマンスに油断していると、終幕に向かって加速するエモーショナルな展開に涙してしまうかもしれない。
取材・文=石水典子

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