『GRIP』は日本のパンクシーンを
形成してきたHUSKING BEEの
決意が詰まった瑞々しい一作

生々しい歌と演奏、そして歌詞

あと、これは全体を通して言えることだが、何がエモーショナルかって、歌声と演奏が最もエモーショナルであろう。磯部の声はある音域からハスキーになる…というか、これはこの時期の特徴なのかもしれないが、若干無理してシャウトしているようなきらいがあるように思う。ハスキーというよりも、しゃがれていると表現したほうがいいかもしれない。腹から声を絞り出しつつも、あり余る熱量が喉を震わせ、かすれさせている──そんな感じだ。だが、それだからこそいい。英語詞なので、パッと聴き何を叫んでいるのか分からないけれども、とにかく何かを訴えていたり、誓っていたりしていることが感じられるヴォーカルなのである。楽器隊は各パートともいろんな引き出しを持っているという印象だが、テクニカルにいくというよりも、勢いで攻めているように見えるのがいい。もしかすると、それは意識的だったのかもしれない。いい意味で、きれいにまとめているよう感じがしないのだ(とっちらかっているという意味ではない)。アコギ2本のアンサンブルで聴かせるM14「ALL YOUR LIFE」が顕著だろう。こういうサウンドはおそらくいくらでも綺麗にまとめられるはずだが、ここでのギターはどちらかと言うと生々しさを優先させている印象がある。

さて、最後に歌詞について少しだけ。前述の通り、全編英語詞なので、少なくとも英語い馴染みがない人以外は、パッと聴きその意味が分からないとは思われるが、真っ直ぐな心境が吐露されたものが多いようではある。特にタイトルチューンM3「WALK」には、おそらくこれが1stアルバムであるということを含まれているのだろう。瑞々しくも、それでいて浮足立つことのない所信表明のようで、とても良い。

《I was overly precautions Reminiscing the good old days/At any rate I wanted to begin for myself/At any rate I wanted to walk》《Before I knew it I facing forward So far, so good/I started to understand where I was going/My foot path stretched behind my back》(M3「WALK」)。

また、アルバム『GRIP』収録曲の歌詞に関して、これだけは絶対に記しておかなければならないのは、M2「8.6」だろう。タイトルは8月6日のこと。これだけでもピンと来る人も多いだろうが、歌詞を手掛ける磯部が広島県出身ということを知れば、多くの日本人は何について綴られたものであるか分かるはずだ。

《The number 8.6 is stanmped in the city/I want no more numbers fixed again/A mountain of black stiffs It was a night marish truth/I don't want it happen again》《I'm proud I was born there/I'm proud I was brought up there/I like the peace and quiet of the town》(M2「8.6」)。

日本のパンク、エモが世界に発信する内容として相応しい…という言い方が適切かどうか分からないけれども、個人的にはそう思う。まぁ、日本うんぬん以前にロックバンド、アーティストとして、とても大事なことを歌っているのは間違いないし、ここにもHUSKING BEEの決意が垣間見える。

TEXT:帆苅智之

アルバム『GRIP』1996年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.ANCHOR
    • 2.8.6
    • 3.WALK
    • 4.THE SHOW MUST GO ON
    • 5. DON'T GIVE A SHIT
    • 6. SHARE THE JOY OF OUR TOUR
    • 7.BEAR UP
    • 8.QUESTION
    • 9.ONLY WAY
    • 10.DON’T CARE AT ALL
    • 11.GO IT ALONE
    • 12.MY OWN COURSE
    • 13.BEAT IT
    • 14.ALL YOUR LIFE
『GRIP』('96)/HUSKING BEE

OKMusic編集部

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