〈少年王者舘〉公演DVD発売&映像配
信 記念座談会~過去作品でひも解く
劇団の足跡と未来公演

本来ならば今年、2020年8月に天野天街の作・演出による新作本公演『むげん』を名古屋・東京・伊丹で行うはずだった〈少年王者舘〉。ご多分にもれず、新型コロナウイルスの影響により公演はやむなく延期(上演時期未定)となってしまったが、それに代わってファンの方々に何かお届けできるものを……と製作が進められたのが、1999年~2009年までに上演した過去作品の公演DVDと配信用映像だ。
現在販売中のDVD8作品(下記、販売リストを参照)に加え、今回新たに発売されるのは、『パウダア』(1999年)、『自由ノ人形』(2000年)、『それいゆ』(2003年)の3作品(いずれも過去にVHSで発売されていたものをDVD化)。加えて、劇団公式サイトより『ライトフレア』(2009年)の無料配信(現在、『I KILL ーイキルー』(2006年)も無料配信中)を行い、さらにメルマガ会員限定(メールマガジン受信希望の方は、劇団公式サイトより登録)で、『コンデンス』(2001年)も無料配信するという。DVDの発売、無料配信ともに10月24日(土)から開始予定だ。
劇団として大躍進を遂げた2019年5月の「新国立劇場」公演『1001』を経て、初の本公演を今夏上演する予定だった〈少年王者舘〉では、制作体制の強化をはかり、現在、チーフの中村榮美子(1993年入団)をはじめ、カシワナオミ(1987年入団)、篠田ヱイジ(1996年入団)、宮璃アリ(2005年入団)の4人で制作チームを編成している。そこで過日、この制作チーム4名と、主宰で作・演出の天野天街を呼び、座談会を実施した。今回発売&配信される作品の見どころや当時の思い出と共に、劇団の歴史や今後の展望についても語ってくれた。
■ “盲人のみる夢”をテーマに、世紀末に届けられた一作 ─『パウダア』
『パウダア』チラシ表
少年王者舘 第24回本公演『パウダア』
■会期:1999年8月~9月
■会場:東京「ザ・スズナリ」/大阪「扇町ミュージアムスクエア」/名古屋「七ツ寺共同スタジオ」  
■作・演出:天野天街
■出演:杉浦胎兒、珠水、中村榮美子、夕沈、白鷗文子、松宮陽子、水谷ノブ、篠田エイジ、田口大地、ゴロ、山本亜手子、カナタニ美弥子、栄美穂、丹羽純子、井村昂、寺十吾(tsumazuki no ishi)、栗木巳義(劇団ジャブジャブサーキット)
※1999年9月17日「七ツ寺共同スタジオ」公演収録 約1時間55分 DVD価格2,500円(税込)

篠田 これは寺十(吾)さんが出てくれたね。
宮璃 寺十さんが王者舘に客演したの、何回目ですか?
天野 初めて。
中村 〈KUDAN Project〉の『くだんの件』(1998年初演)の翌年か。(同じく客演の)栗木(巳義)さんが演じた、“箱のおじさん”は本当に大変で。この後〈KUDAN Project〉で小熊(ヒデジ)さんの顔型の箱を作ったじゃない。
篠田 あれは『真夜中の弥次さん喜多さん』(2002年初演)だね。
中村 『パウダア』で(小道具担当の丹羽)純子ちゃんが、どうしたらちゃんと栗木さんの顔に見える箱になるか、っていうのをめちゃくちゃ頑張って作って、その後に『弥次喜多』でこれを活かして小熊さんの箱を作ったんだよね。
天野 補足すると、『弥次喜多』は全面が人間の顔の展開図で、『パウダア』は箱しかなくて中に顔が無いように見える手品のネタみたいなことやったから、そういう意味で苦労したと思う。
中村 (本公演としては)初演の『それいゆ』(1998年2月~3月)があって、『マッチ一本の話』(1998年10月~12月)があって『パウダア』でしょ。『それいゆ』って、私たちが入って(1993年に実施された初のオーディションで、中村ほか虎馬鯨、夕沈ら十数名が入団)、それまでいた古い人たちがバッと抜けたんですよ。
天野 珠水、杉浦胎兒、とろろ、田村英子以外は、総取っ替え。
中村 何も先も見えないけど、とにかくやらなきゃいけない!っていう公演だったんです。
天野 3年以上待たされてね。(※1994年の『ノン・シルヴァ』以降、劇団は活動休止状態だった)
中村 第2回オーディションでヱイジ君たちが入って(1996年実施、篠田ほか山本亜手子、カナタニ美弥子、栄美穂、ゴロ、田口大地、丹羽純子、松田あみら十数名が入団)、『御姉妹』の再演(1997年、第21回公演。天野休養中のため、第1回&第2回オーディションメンバーを中心としたニューフェイス公演を、バルボアほか共同演出で上演)をやって。古い人達がいない、でもそのちょっと前に入った私たちが何かしなきゃ、なんとかしなきゃいけない、っていうのがあって『それいゆ』があって。もうしっちゃかめっちゃかになった後の『マッチ一本の話』で本当にみんなすごく苦労をして、天野さんの無茶振りをいっぱい受けて、やらなきゃいけないことがすごく多くて、泣いたりしながらもちゃんとそれぞれが仕事をして、本当に私たちの中で大きかったのが『マッチ…』だったんですよ。その後に『パウダア』があって、ゴロがすごく面白かった。お客さんがこれを見たらすごく楽しいんだろうな、っていうことをやってくれてて。『御姉妹』の時も一緒にやったけど、『パウダア』はゴロがみかん箱の前で演じてる姿がすごく印象的で、この人みたいな役者って、今もこれからもいないんじゃないかなって思うぐらい。今も一緒にやりたいし、だからたくさんの人に観て欲しいんですよね、すごく。『パウダア』のゴロはカッコイイ!
篠田 『パウダア』の頃は技術的なことで言うと、今よりも照明とか映像機材が圧倒的に輝度が低かった。天野さんがやりたいことは、たぶん今はLEDである程度実現できてるけど、それをこの時の機材でやろうとしたんだから、ものすごくシビアな明かりの落ちきりだったりハケとかのタイミングを、ほんとにコンマ幾つっていうところでみんな身体に染み込ませて現場でやってましたね。
中村 そうだ。この時は大変だったもんね。
篠田 こんなことはLEDでやったらすぐなんだろうな、っていうことをやってる。
天野 LEDだとカットイン、カットアウトがスパッと出来るってことだよね。その頃は音響もぎりぎりオープンリールデッキとか、普通にカセットテープでやってた。
篠田 まだそうか。
天野 照明の基本は今と同じだけど、音響は格段の差がある。やりたいこと、というよりも、こういうモノがあればこういうことが出来る、っていうのでどんどん膨らんでいく。技術が上がったことによって、こういう風にちゃんと出来るんだ、って。以前は一生懸命やっても、あ、こんなもんなのか、と思ってたのが理想に近づいてきたっていうのは、やっぱり技術のブレなの。でも、公演を録画したものを観るのっていいところと悪いところがあるけど、わしらみたいに映像とか使ってると、本物の上演よりも録画の方が綺麗に見えたりすることがある。出てる人間と映像とか光が、ごっちゃになってる感じがライブで観るよりも等価になるから不思議な感じになっちゃってる。それはちょっとインチキじゃん、というのはある。あと、生と映像の大きな違いでダメなのは、『パウダア』はラストに蓄光テープを雪のように降らせて暗闇の中で、それがぼんやり見える…みたいなことをやったけど、そういうのは映像には映らない。
中村 あれ、すごい痛かったよね。
一同 笑。
天野 役者からすると迷惑な話は、数限りなくあるね。
■初演(1984年)とは一変した顔ぶれで挑んだ長編作品 ─『自由ノ人形』
『自由ノ人形』チラシ表
少年王者舘第25回本公演『自由ノ人形』
■会期:2000年8月~9月 
■会場:大阪「扇町ミュージアムスクエア」/東京「ザ・スズナリ」/愛知「長久手市文化の家 森のホール」 
■作・演出:天野天街
■出演:松宮陽子、井村昂、白亜、山本亜手子、ゴロ、夕沈、白鷗文子、中村榮美子、松田あみ、田村愛、虎馬鯨、栄美穂、丹羽純子、日下部賀津子、水谷ノブ、篠田エイジ、カナタニ美弥子、杉浦胎兒、石丸だいこ
※2000年9月9日「長久手市文化の家」公演収録 約2時間47分 DVD価格2,500円(税込)

篠田 『自由ノ人形』を観てたら、障子が開いて、照明が落ちて、閉まって、瞬時に次の役者が出てる、ってことをよくやったなぁっていう(笑)。
中村 ほんとだよね、その時代にね。
篠田 やってる方はね、セリフのここで! と動くしかなくて、どういう風に見えてのるかわかんないけど。
天野 そのタイミングをさ、わかりやすくしたのが“重ね”(前の役者の語尾と次に発声する役者の語頭を同じ音にして重ねる、独自のセリフ術)のひとつのワケなのね。なんでもかんでも重ねるようになった理由は別口だけど、言葉を重ねておくと全部わかりやすいの。役者も音響も照明も映像もさ、ここんとこで変えればいい、っていう目印がものすごくわかりやすい。共通理解っていうことも“重ね”にはある。
篠田 工程表みたいなね。
天野 別々の立場の4者(音響・照明・映像・役者)が、同じ場所で同じことをする時の、きっかけとして有効。
中村 『自由ノ人形』はカシワ氏(母役)が素晴らしかった!
カシワ ありがとうございます。
篠田 『パウダア』と『自由ノ人形』は、杉浦胎兒が出てるっていうのも見どころ。『パウダア』はブリーフ姿でスーパーマンとかやってる。ああいう役者、もういないじゃんか(笑)。『スミレ超特急』(2011年 ダンス公演)で久しぶりに出てたのを観た時に、なんだかんだ言っても〈少年王者舘〉はそっちの源流から来てるよな、って思ったんですよ。
── 年代を追って作品の映像を振り返ってみると、この頃は今よりも全体的なテンポがすごく速かったなと思います。
中村 あれ、なんだろうね。なんか頑張ってただけだよね。
篠田 僕らはたぶん、この頃どんどん(天野演出に)慣れていったんだと思うけど、『自由ノ人形』とかすごく早い。お客さんは観てどうなのかな? っていうのはある。
中村 そうそうそう。
篠田 セリフを重ねて回していくところもかなり長尺でやってるけど、慣れたんですよ。この間ちょっと映像観たけど、わかんねぇやん!って(笑)。
中村 何のことやってるのか全然わかんない(笑)。
── 1回観ただけではわからなくても、DVDなら繰り返し何度も観られるのでいいですね。柏さんは、昔の作品を観たら「ものすごいアングラだった」とも仰ってましたけど(笑)。
カシワ (1980年代の)劇団初期の頃だったらともかく、20年くらい前だしその頃のメンバーもある程度残ってるから、そんなにどアングラじゃないだろうと思って軽い気持ちで観たら、そんなに白塗りとかはしてないんだけど、うわぁ~!って(笑)。あ、変わったんだ王者舘。アングラじゃなくなってるんだなぁって。
── 最近の作品も変わらず要素は満載ですけど、改めて以前の作品を観てみると、ある意味洗練されてきたというか、比較的あっさりして見えますね。
■あまりにもあかるすぎてまぶしすぎて、ヤミに一等近くなるようなことがしたかった(天野)─『それいゆ』
『それいゆ』チラシ
少年王者舘第28回本公演『それいゆ』
■会期:2003年9月~10月 
​■会場:名古屋「七ツ寺共同スタジオ」/東京「中野ザ・ポケット」/大阪「一心寺シアター倶楽」/高知「高知県立美術館ホール」 
​■作・演出:天野天街
​■出演:夕沈、岩木淳子(劇団ジャブジャブサーキット)、眞藤ヒロシ、石丸だいこ、白鷗文子、水谷ノブ、蓮子正和、イワヲ(流山児★事務所)、川合喜之、サカエミホ、篠田エイジ、田村愛、黒宮万理、雪港、西杢比野茉実、松久聖子、元木宏美、山本亜手子、日与津十子、丹羽純子、ジル豆田(てんぷくプロ)、虎馬鯨、井村昂
※2003年9月10日「中野ザ・ポケット」公演収録 約2時間4分 DVD価格2,500円(税込)

天野 中村もさっきちょっと言ったけど、“新生少年王者舘”って『それいゆ』の初演から始まったけど、今回発売するのは再演の方だね。
篠田 1回目は撮ってない。
カシワ 2回目って、カメ(杉浦胎兒)出てなかった?
篠田 カメは出てなくて虎馬鯨が出た。
── 初演から半分以上、キャストが変わってますものね。
天野 1回目は虎馬鯨、出てないもんな。
篠田 この時は、高知にも行ったのが面白かったです。
宮璃 あ~! 『アサガオデン ーカタンコトンー』(2018年 ダンス公演)で高知に行った時、『それいゆ』のポスターがあったよね。みんなのサイン入りで。
中村 あったあった!
── 公演が終わった後も美術館のニュースペーパーにアフタートークの様子が掲載されたり、とても温かく迎えてくださっていたな、という記憶があります。
篠田 僕らにしたらご褒美的みたいな公演で(笑)。
カシワ ツアーの最初とか途中だったら結構キーっ!てなってるけど、一番最後だから芝居も出来上がってて、終わったら美味しいもの食べに行こ~!って(笑)。
宮璃 高知は楽しかった! って何回も聞きます。「また呼んでください」って書いておいてください(笑)。
篠田 あと面白かったのは、名古屋、東京、大阪、高知と会場がどんどん大きくなって間口が広くなっていったの。上手から下手の距離がすごい出来て(笑)。
カシワ (カットアウトの照明)落ちきりが遅くなるとかさ。
宮璃 あ~、落ちきり問題大事ですよ。
カシワ 「白いの見えてる!」「なんでー!?」って。
中村 広いのも大変か。
カシワ 一拍であそこまで行かなきゃいけない! って。
宮璃 名古屋で出来たのに、大阪で「出来ません」とか言いたくないわけですよね(笑)。
中村 言いたくない、わかる! 周りの人に言ってもらいたいよね。「距離が違うから無理だよ~」って。
宮璃 なんかこんな話してると、王者舘公演やりたいね!
一同 笑。
中村 やりたいねぇ。
■役者のカシワナオミが原案を手掛けてプロデュースに徹し、新風を吹き込んだ番外公演 ─『ライトフレア』
『ライトフレア』チラシ表
◆無料映像配信(劇団公式サイトより)
少年王者舘番外公演『ライトフレア』
■会期:2009年1月 
■会場:名古屋「七ツ寺共同スタジオ」 
■企画制作・原案:カシワナオミ  脚本:虎馬鯨  演出:天野天街
■出演:夕沈、白鷗文子、虎馬鯨、山本亜手子、井村昂、黒宮万理、PECO、雪港、ひのみもく、蓮子正和、☆之、水元汽色、宮璃アリ、池田遼、水谷圭一(野鳩)
※2009年1月「七ツ寺共同スタジオ」公演収録 約1時間20分
※冒頭等、見えづらい部分がございますことをご了承ください。

宮璃 『ライトフレア』は、合宿稽古したのが楽しかったね。
カシワ 宿泊してた稽古場が、その日はたまたま他の団体がいなくて王者舘で貸切になって、しかもその時の館長さんが井村(昂)さんの高校生の時の親友で、お酒差し入れてくれたり(笑)。
宮璃 みんなで衣装着て、初めてアーティスト写真も撮ったんですよ。いつもは稽古場に取材に来てもらった時に、汗まみれの稽古着で撮ってもらうだけだけど(笑)。この時、王者舘に入って初めて前倒しでいろんなことをやった(笑)。
カシワ 踊りも3ヶ月ぐらい前に作って、あの時は振付をもっちゃん(水元汽色)とゆきんこ(雪港)にお願いして。今までは音楽も珠ちゃん(珠水)がメインで、「私もちょっと作る」みたいな感じでガッチリはやってなかった(白鷗)文子メインで作ってもらったり、役職をシャッフルしたみたいなところがあって。
宮璃 それまでは決まった組みたいな配役もあったけど、はっつん(蓮子正和)ともっちゃんの組み合わせのシーンとか良かったな。いつもと違う配役になったのは『ライトフレア』からですよね?
カシワ いや、『シフォン』(2008年 第31回本公演)が先で、『ライトフレア』の時も(脚本を書いた)虎馬鯨が配役したの。
天野 それは大きかったな。あれで自分としても黒宮(万理)と池遼(池田遼)のコンビが上手く書き換えて書けて、それが『夢+夜』(2009年 第33回本公演)に繋がったから。
宮璃 それが名古屋公演だけだったのは残念だなと思いましたよ。プロデューサーも力入れてたから。それが今回、(公演を観ていない全国の)皆さんにも観てもらえるので良かったです。
■〈たま〉との合同公演『メンキ』(1988年)を下敷きにした濃縮版公演 ─『コンデンス』
『コンデンス』チラシ表
◆メルマガ会員限定配信(メルマガ会員登録は劇団公式サイトより)
少年王者舘 第26回本公演『コンデンス』
■会期:2001年8月~10月 
■会場:名古屋「七ツ寺共同スタジオ」/東京「ザ・スズナリ」/大阪「扇町ミュージアムスクエア」
■作・演出:天野天街
■出演:中村榮美子、夕沈、松宮陽子、白鷗文子、虎馬鯨、水谷ノブ、篠田エイジ、山本亜手子、カナタニ美弥子、サカエミホ、丹羽純子、日与津十子、松田亜美、黒宮万理、井村昂、ジル豆田(てんぷくプロ)、小熊ヒデジ、寺十吾(tsumazuki no ishi)
※2001年10月5日「扇町ミュージアムスクエア」公演収録 約1時間23分

中村 永遠のセンター、松宮陽子の王者舘最後の舞台ですね。いつもそうですけど、かなり色んな事がありました。白鷗文子がスランプに陥ったり、ラストの暗転中、あたしの頭に風鈴が降って来て“コン”と音を立てたり…他にも言えないような事が色々と…。その後、『超コンデンス』(2011年 第35回本公演)というタイトルで役者も少し変わって再演されましたけど、やはり初演の時の印象が強いです。客演で寺十吾さん、小熊ヒデジさんも出演してくださって、とても贅沢な、ジジイグループが出来上がりました。
山本亜手子が花道から入って来て、ジル豆田さんと台詞を合わせるシーン(28分30秒あたり)がとても好きです。あと、舞台にこっそり色々仕込んで、それをじっちゃん(寺十吾)が見つけて遊んでくれた事が楽しかったです。そしていつもの事でしたが、丹羽純子の小道具製作はもう、職人技でした。マジックアイテム作っていましたから!
篠田 みんな、台本が上がってくるまで一生懸命に楽器の練習をしてましたね。もともと〈たま〉との合同公演『メンキ』がベースにあるので演奏というアプローチは決まっていたと思いますけど、かつてのように音楽畑の人間が多くいるわけでもなく、ライブというよりもほとんど小学校の器楽演奏に近かった。実はこの公演を境にメンバーの生活がいろいろと変化した時期とも重なっていて、自分達が今まで続けてきた何かを卒業しなくてはいけない雰囲気もあって、どこか文化祭のような、心地良いけどいつまでも続かない季節感が漂っていた公演だった気がします。
カシワ 今回DVD化と配信する旧作は、作・演出 天野天街の4作に関してはそれぞれ脚本が出版(または雑誌掲載)されているので、図書館や演劇系古本屋で探して「設計図」と「上演」とを見比べるという、映像ならではの楽しみ方もできるかな、と思います。入手困難の本もありますけど、国会図書館のオンライン複写サービス等で内容は入手できると思います。
◆パウダア
『夢+夜 天野天街脚本集』併録(北冬書房刊)
◆自由ノ人形
『平太郎化物日記』併録(北冬書房刊)
◆それいゆ
ヨムゲキ100シリーズ『それいゆ』(演劇ぶっく社刊)
◆コンデンス
「季刊せりふの時代」小学館(2002年冬号掲載)
■延期となった第40回本公演『むげん』と、今後の公演展開について ─ 位置で出来る、出来ない、とかじゃないことをしたい ─(天野)
── 来年(2021年)の夏には『むげん』を上演する予定ですか?
宮璃 夏まではまだ全然決まってませんけど、まず2021年の春をどうするかですね。4月に東京の某劇場で公演をする話があって、それが保留中で。
中村 みんなの意見は聞いたけど、どうしようかな、という状態です。
天野 当然俺はやりたいけど、ツアーとかじゃなくて、そこだけで集中してパンとやる公演だったらいけるかもしれないね。
── 名古屋公演はせず、東京のみで?
カシワ 東京で上演することになったら、名古屋もやろうよ!ってなるかも。
篠田 ツアーは難しいと思う。僕らが動くことほどリスクが高いから。だったら、おこがましいけど観に来てくれる人たちが動いてもらうとか、判断してもらうっていう形にしておかないと。ツアーじゃなくて1ヶ所ロングランとか、そういう方がリスクが下げられると思うんだよね。
宮璃 座席はもう100%入れられることになったけど、お客さんがどれだけ観に来てくれるか。どういう風に稽古をするのか、演目もディスタンスをするのか普通どおりするのか、そもそもやるのかやらないのか、から考えなきゃいけない。
── 来春は公演を行うとしたら再演作品を?
宮璃 いや、劇場から「この演目で」という指定とかはなくて「王者舘でやってくれれば」という感じだから、新作でもたぶん大丈夫なんですよね。もしも何か出来るならしたいな、という気持ちはちょっとずつ湧き始めてはいて。
中村 うん、そうだね。
宮璃 映像でもね。
中村 なんかね、個々の役者で映像作品を作ったりとか。例えば、天野さんとそれぞれの役者と一対一でどんなものが創れるか相談して。王者舘全体じゃなくて個々の役者と天野さんで、こういう時だから出来ることやってみてもいいのかな、と思って。
天野 それはよくわかるし、とてもいいと思うよ。元〈維新派〉の橋本君が今、映像の会社に入ってて、VRを使って新しいことを立ち上げて面白いこと一緒にやりたいね、って話をした。よくある同時配信とかのレベルを超えることが出来たらね、って。それと王者舘の公演を重ねて考えてみるのもいいかな、って。いろいろ拡げるにしても固めるにしても、爆心地としての公演が決定してる、ってなると、それに伴って、いろいろなモノやコトが連動し始めると思う。コロナ禍の中、いろいろな演劇が発信されてて、いろいろ観たけど〈ヨーロッパ企画〉がアイデアとして面白いことをやってるね。もともと誰もやってないことがやりたいわけで、可能性やアイデアは、わんさかある。ツアーじゃないから、ひとつの公演というか、ひとつの期間の中で、いろんな可能性が試せるような磁場を作ったらいい。いつもの本公演、ってんじゃなくて、ただ〈少年王者舘〉という現象を提示して、何かの何処かに滑り込ませる。出られる役者、出られない役者とか、もういいから、参加出来る人間はみんな何かする、って話。面白ければ、何でもアリで。僕はそういう方向で考えようかな。
中村 うん。前向きに。
篠田 技術的なネタがさ、きっともっといっぱいあるわけだよね。
天野 そう。今までやろうとしてやれなかった、変わったことが出来るはず。つまり、技術だけとか役者だけとかじゃなくて、なんとかだけ、がいっぱいある。今までは、なんとかバランスを取らないとひとつの公演じゃない、みたいなやり方でやってきたけど、それじゃないことが出来るなら、ちょっと面白いかもしれない。歪な形でもなんでもいいけど、あんまり観たことがない何かが見える可能性があるな。場所っていうか、位置。位置で出来る、出来ない、とかじゃないことをしたいね。時空間や肉体が歪む、みたいなこと。
取材・文=望月勝美

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