【明田川進の「音物語」】第42回 音
響監督をしていてヒヤヒヤした出来事

 音響監督の仕事は、限られた時間のなか大人数でのチームプレイになりますから、つねに緊張を強いられます。役者から質問がきたときにきちっと答えられるかという緊張感ももちろんあって、以前お話したように永井一郎さんからは作品の本質に関わるような質問をうけたこともありました(https://anime.eiga.com/news/column/aketagawa_oto/107326/)。これまで仕事をしてきて特にヒヤヒヤした出来事を、表にだせる範囲で(笑)、お話したいと思います。
 パッと思いつくのは、やっぱりスケジュールのことです。デジタルになった今とは違い、フィルム時代のアフレコやダビングの作業には、それなりの時間がかかりました。そこで大事なことのひとつは、役者の集中力を切らさずにテンポよく進めていくことで、皆さんがイライラしだしたら本当はアウトなんです。OVA「銀河英雄伝説」の収録は、実写をメインにしている人に出てもらったこともあり、通常1話を数時間かけて録るところを3、4日かけて録っていました。しかも、話数の順番もバラバラです。役者さんのスケジュールがあわなくて一堂に会することができず、あるシーンを録り終えるまで、出番がない人にはずっと待ってもらうことも初期にはあって、そういうときは緊張しました。
 メインの人が別の現場で頑張りすぎて声がガラガラのまま収録にくることも、昔は珍しくありませんでした。今はあまりありませんが、ベテランの役者さんが前日に遅くまで飲んでお酒の匂いをプンプンさせながら来ることもあって、みんなもそれを普通に受け入れているようなところがありました(笑)。
 ダビングのとき、効果部さんが怒って帰られそうになったこともありました。監督と2人のやりとりだと「こういう音の方向でやりたい」という意思の疎通ができるのですが、製作委員会方式になると、後ろにいろいろな立場の人が座ることになりますから、それぞれが思うことを言いはじめると、まるで正反対のことをミキサーさんに求めることになるんですよね。「もう帰る」と言うのをちょっと待ってもらい、僕から皆さんに「みんなで統一してやろうとしていますから、考えなしにポンポン言うのはやめましょう」とお話したことがあります。
 苦労とは違う話ですが、デジタルになった弊害として、音のバランスがV編(※ビデオ編集の略。アニメ制作の最終工程でテロップなどが入れられる)でいじられてしまうというのがあります。フィルムの場合、ダビングをしたときの音が完パケなんですよね。今の状況だとダビングが終わって、こちらはそれでいいと思ってV編には基本的に行かないのですが、あとでオンエアやパッケージで見たときに「あれ、こんなに(音の)レベルが違っている?」ということが何回かありました。ダビングのときはそこで終わらせるために区切ってOKにしたところを、音戻しのときに変えていく場合があるんですよね。
 今はコンピュータに(音の)レベルを記憶させれば、ミキサーさんは(コンソールを)触らなくても映像に音をあわせることができます。昔は、絵をミキサーさんが見ながら、ここから少しずつ気持ちが高まっていくというところでレベルを上げていくやり方をしていて、実写の映画をやってきた人たちは、そういうところを大事にしてしました。デジタルになってダビングの作業が昔より格段に速くなったのは良いことですが、今のコンピューターミキシングだと、最初に設定してあとは見ているだけになってしまうことが多いのに歯がゆさを感じることがあります。

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