神田伯山インタビュー 『古代エジプ
ト展 天地創造の神話』の見どころと
鑑賞の楽しみ方

今年2月、講談界の大名跡を六代目として継いだ講談師の神田伯山が、東京都江戸東京博物館で開催される『国立ベルリン・エジプト博物館所蔵 古代エジプト展 天地創造の神話』のオフィシャルサポーターに就任した。展覧会の会期は、2020年11月21日(土)から2021年4月4日(日)まで。

本展はドイツにあるベルリン国立博物館群エジプト博物館のコレクションより130点の展示品を通して、古代エジプト人が信じた「天地創造と終焉の物語」に触れる試みだ。12月7日(月)には伯山の講談会も開催される。ラジオ、テレビ、YouTubeでファン層を広げ、講談界、演芸界を盛り上げる伯山に、展覧会の見どころや気になる作品、そして展覧会の楽しみ方を聞いた。
神田伯山
■講談師はストーリーテラー
──過去に浮世絵関連の展覧会で音声ガイドなどを担当されていましたが、今回の「エジプト」との組み合わせは意外に思えました。
講談といえば、講談師が江戸時代の物語をしゃべり、聞いていただくものを想像する方も多いでしょうからね。その通りではあるのですが、講談師って、もとは識字率が低かった時代に本を読んで聞かせたストーリーテラーなんです。家康公の話にはじまり、全世界のありとあらゆる物語をなんでも扱う。『レ・ミゼラブル』が読まれていたり、いまも現代の新作をやる方もいれば、古事記の新作創作を読む方もいらっしゃいます。古代エジプトって、時代や地域こそ離れていますが、“ここでエジプトのお話を一席!” とはじめても、意外と違和感なく聞いていただけると思いますよ。
■死後の世界のガイドブック
── 古代エジプト展には、日本初公開作品100点を含む、130点が来日するそうです。気になる作品はありましたか?
《死者の書》(タレメチュエンバステトの《死者の書》紀元前332~246年ごろ)は、古代エジプトの人たちの死生観がみえるようで面白いですね。
──資料には「死後の世界へ行くためのガイドブック」とあります。
死後の世界へ行くための方法や、正義や秩序を象徴する羽根と、その人の心臓を天秤にかけて、重さが釣り合えば死者の国へ行っていいみたいなルールが書かれているそうです。
今回展示される《死者の書》は幅4m以上のものだそうです。それだけでもすごいのですが、世界には37mのものも残っているとか。色々な《死者の書》があるということは、当時の人たちにとって、それだけ死が身近なものだったからでしょうね。ミイラにした人の心臓以外の内臓を入れるための器も、丁寧にこだわりをもって作られていたりして。「永遠にこの人を残しておきたい」という思いは想像できる。古代エジプトは死の意識が第一線に上がってくるんだなって。
──面白いです。いまの私たちとはだいぶ感覚が異なりますね。
我々は文明化の中で、あえて死を遠ざけてきたのでしょうね。僕らって、どこかで死ぬことを忘れて生きていますが、かつてはひとつ屋根の下で三世代が暮らして、おじいさん、おばあさんが亡くなるのを自宅で間近に見送って、自然と死を意識するプロセスがありました。現在では核家族化が進んだり、最期は病院で看取られる方が多くなったりもして。
でも同じだなとも思うんです。文明が変わり、科学が発達し、寿命も延びました。けれど相変わらず死後の世界があるかどうかはわかりませんし、今のところ全員いつか死にます。そう考えると古代エジプト人も我々も、大して変わらないところもある。死という共通した永遠のテーマを通して、「わかるな、想像できるな」という目線で『古代エジプト展』を楽しんでいただけたら、面白いのではないでしょうか。
12月7日の講談会では、死生観を扱ったお話をするかもしれません。「江戸もエジプトも、大きくは変わらないところがあるね。人間だから当然だよね」と感じていただけたら、僕がこの展覧会のオフィシャルサポーターとして講談会をやる意味があるなと思います。
神田伯山
■気分でも変わる。縁を大事にしたらいい
──伯山先生は、江戸東京博物館を何度も訪れているそうですね。
好きな博物館です。入った瞬間に和の世界を堪能できる場所で、初めて訪れたときは、館内に再現された原寸大の日本橋に感動しました。そのリアリティや空気感に圧倒されて。
──江戸東京博物館に限らず、プライベートで展覧会に行かれるときは、どのくらい予習していかれますか?
僕は予習より復習を大事にしています。あえて予備知識を詰め込まず、まっさらな気持ちで見て「すごい!」と思うものが、本当にすごいものだと思うから。そこは展示作品との戦いだと思っていて(笑)。もちろんこちらの感受性もあると思いますが、時代も言語も超えて、ただそこにあるだけで「すごい!」って思わせてくれるものに惹かれますね。「これはいいな」と思えるものが見つかれば、あとから「俺が気に入ったあの絵は、どんな背景があるの?」と調べます。展覧会の最後には、たいていミュージアムショップがあり、図録や関連の本が手に入りますよね。
■寄席芸人にも言えること
──感受性に自信がない場合、展覧会でひとつもピンと来なかったらどうしようという気持ちになります。
美術の鑑賞方法はそれぞれですが、僕は「わからなくても別にいいじゃん」という解釈です。その日の気分なのか年代なのか、今日は心に届かなかったものが、ひょっとしたら5年後10年後の感受性に響くかもしれない。読書でも、若いときにピンとこなかった本が、「今ならわかる! 沁みる!」ということがありませんか? たまたま今日はこの絵と縁があった。あるいは、今日は縁がなかった。それでいいんじゃないかと。
同じことを、寄席芸人にも言えると思っています。寄席には、1日40組とか出てきますが、出演者のうちどの人が世間的に人気なのかを予習するより、その日の縁を大事にしたらいい。人気の高い人が必ずしも自分に合うわけではありませんし、この前は好きだったけれど今日はピンとこないなと思うこととか全然ある。
その意味で美術鑑賞だけでなく、講談でも落語でも歌舞伎でも、最近のお客さんは予習しすぎな気がします。わからないと嫌だなっていう気持ちは理解します。でも予習すればするほど縁が遠のくように思うんですよね。
神田伯山
──『古代エジプト展』も、ピンとくるものがひとつあればいいな、くらいの気軽さで観に行こうと思います。
先ほど色々お話はしましたが、エジプトといえば、ピラミッドとかミイラとかざっくり想像できますよね。前情報はそれで十分かもしれない。会場で展示と対峙する経験を大事にしたらいいと思います。日本は大好きで古代を下げるつもりはないのですが(笑)、日本が縄文や弥生だったころ、エジプトがいかに発展していたか。モノを見ただけで、ドキドキするほど惹きつけられる魅力が伝わってきました。それが数千年前のものって……すごいことだと思うんです。まず皮膚感覚で対峙するつもりで会場にお越しください。
神田伯山
江戸東京博物館(東京展)での会期終了後には、2021年4月17日(土)~6月27日(日)に京都市京セラ美術館、2021年7月10日(土)〜9月5日(日)に静岡県立美術館、2021年9月19日(日)〜12月5日(日)には八王子市の東京富士美術館を巡回する。東京展においては、展覧会の前売券、展覧会公式図録、そして2020年12月7日(月)に開催される神田伯山講談会がセットになった特別券も販売される。

取材・文=塚田史香 撮影=寺坂ジョニー

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