【ヒゲドライバー インタビュー】
アニソンには
特有な要素があると思う
アニメやゲームのテーマソングを数多く作ってきたヒットメイカー、ヒゲドライバーがKADOKAWAアニメで手がけたアニソンを一枚にまとめたコンピレーションアルバム『ひげこれ! HIGE DRIVER BEST in KADOKAWA ANISON』をリリースする。その収録曲から垣間見える彼のコンポーザーとしての本質、アニソンならではの制作背景、さらに音楽家としての生い立ちを訊いてみた。
クリエイター視線でのベストアルバムは
アニソン界ではなかなかなかない
『ひげこれ!』はヒゲドライバーさんがKADOKAWAアニメで手がけられたアニソンをまとめた作品であり、ご自身のベスト盤とはまた違ったコンピレーションアルバムだと思うのですが、ご本人の受け止め方はいかがですか?
自分が音楽をやっている中で一時期からアニソンというものを作らせてもらう機会が多くなって、“いろいろ作ってきたなぁ”と思って…特にKADOKAWAさんはアニソンを作るようになったきっかけでもあったので、“結構な曲数になっているからこういうアルバムができるんじゃない?”みたいなところから始りましたね。最近だと神前 暁さんがアルバム(2020年3月発表の『神前 暁 20th Anniversary Selected Works “DAWN”』)を作られてましたけど、クリエイター視線でベストアルバムを作るってアニソン界ではなかなかなかったから、そういう意味でも面白いんじゃないかなと。
アニメのコンピレーションというと基本的には作品ごとのアルバムになるでしょうからね。
そうですね。アニメ作品毎になっちゃうんで、他のものをまとめることはなかなかなかったですよね。なので、もう“ぜひ!”という感じでしたね。
全16曲収録と大ボリュームで、なおかつとてもバラエティー豊かな作品集ですね。
アニメ自体が幅広いですしね。ワチャワチャ明るく楽しい系もあれば、戦争モノもあるから自ずと曲も幅広くなったし。
この中からヒゲさん自身にとって特に印象に残っている楽曲を挙げてもらうとすると、どの辺りになりますか?
1曲目の「回レ!雪月花」はきっかけでもあるし、すごく思い入れがある曲ですね。
「回レ!雪月花」ですか。これ、変な…いや、面白い楽曲で。オキナワンから日本民謡、さらにはヒップホップの要素もあって、リズムもコロコロ変わります。相当いろんなものが入ってますね。
“電波ソング”と言われるようなジャンルで、いろんな要素を詰め込んで早口でワーッとまくしたてるタイプの曲ではあるんですけど、わりとアニソン界ではちょくちょくあるんですよ。僕自身はそれまでこういう曲を作ったことがなくて、これが初めてだったんで、結構難しかったんです。なかなか踏み入れなかった世界だし。でも、これを作ったことによって、“あぁ、こういうやり方があるんだな”っていう自分のスタイルを見つけられたというのもあると思うんですよね。
基本的なことですけど、アニソンの作り方って他とは何が違うんですか?
アニメありきなので、そこに沿わせなくちゃいけないというのがありつつ、やはり主題歌だと89.5秒という決まった尺がある…しかも、ともすれば飛ばされてしまうんですよね。DVDとかだとすぐにパッと飛ばされてしまうから、“曲の頭でどう人の心を掴んで、最後まで聴かせて満足させられるか?”というところもあるんで、そういう意味でもアニソンには特有な要素があると思いますね。
アニメ作品の世界観に沿わなければならないのは大前提として、89.5秒に収めなくてはいけないし、なおかつインパクトもないといけないと。素人が考えても、かなりハードルが高いですね。
ですねぇ(笑)。でも、曲を聴かせるためにはいい流れだと思うんですよ。まず頭で掴んで、ちゃんと1コーラス聴かせるって、アニソンに限らず他の曲でやっても絶対にいいことだし。その意味でもすごく勉強になるので、自分の修行にもなっていますね。
例えば、「STEP by STEP UP↑↑↑↑」。サビ頭でポップだし、見事に1コーラスが1分半。最初に聴いた時には“実に心得た楽曲だな”と失礼ながら感心して聴かせてもらいましたよ。
あははは。でも、この曲に関して言えば、僕はそこまでしっかり作ってなくて(苦笑)。というのも、共作の篠崎あやとさんが何となく1コーラスのデモを作ってきて、“こうしたらもうちょっと良くなるとかのアドバイスはありますか?”と言ってきたものに対して、僕は“こうしたほうがいいんじゃない?”みたいなことでサビを作った感じです。他の全体の構成はわりと篠崎さんがやってくれてて。
そうでしたか。共作というところで言えば、今作『ひげこれ!』収録曲はアレンジャーもさまざまですよね?
そうですね。いろんなパターンがあると思いますけど、編曲を他の人に依頼することが多いのは、僕自身がもともと作詞作曲…メロディーと歌詞を作るのが得意だったこともあって、アレンジは他の人に手伝ってもらうパターンが多いですね。
最初にヒゲさんが歌の旋律とそこに乗る歌詞を作り、それをアレンジャーさんに渡すことが多いんですか?
そのパターンもありますが、逆にオケが作られてて、それに対して“歌をつけてください”というパターンもあります。
えっ!? それは相当難しくないですか?
そっちのほうが僕は早くて。この中だと「Stay Alive」がそうですね。作詞•作編曲のHeart's Cryは複数人のクリエイターユニットで、この曲はゆよゆっぺとヒゲドライバーが担当してるんですが、ゆよゆっぺが作ってきたオケがカッコ良くて! それに誘われるようにメロディーが浮かんできたというか(笑)。
「Stay Alive」はオルタナ系といいますか、厚めのギターサウンドは本格的なHR/HMっぽいんですけど。
そう。ゆよゆっぺはBABYMETALの曲を作ってるようなガチな人なので(笑)、オケは確かなんです。オケがカッコ良いから、何を乗せてもカッコ良くなる…わけじゃないですけど(苦笑)、オケに誘われるようにメロディーが出てくるんで、やりやすかったりするんですよ。
サウンドが決まっていると全体の雰囲気が掴みやすいというか、“このオケならこういうメロディーだろう”と歌が浮かびやすいんでしょうね。あと、歌い手によって出てくるメロディーって変わるものですか?
それはありますね。キャラクターソングとなると、そのキャラの声で歌わなきゃいけないから音域が狭くなっちゃうというか、上げすぎでも低すぎてもキャラから外れたりするので、音域がなかなか広く取れなかったりするんですよ。この中だと原田ひとみさんとか鈴木このみさんはアーティストとして歌われている方なので、しっかり歌えることを前提で考えているから、わりと攻めたメロディーになってます。特に「Overdrive」はそうで、かなり攻めたメロディーになっていると思うんですけど、それでもしっかりと歌い上げてもらってカッコ良くなってるんで、原田ひとみさんはさすがだなと。
「Overdrive」は私のような古い人間はSHOW-YAや浜田麻里など往年の女性ヴォーカルのHR/HMを彷彿させるのですが(笑)。