WOWOW『劇場の灯を消すな!』本多劇
場編の収録レポートが到着

WOWOWが劇場や演劇人とタッグを組んで展開するオリジナル番組『劇場の灯を消すな!』。2020年9月26日(土)に第3弾として、宮藤官九郎と細川徹を総合演出に迎え、下北沢・本多劇場編を放送する。このたび収録レポートが到着したので紹介しよう。
WOWOW「劇場の灯を消すな!」オフィシャルライターの徳永京子による収録レポート
新型コロナウィルス感染防止に協力するため、多くの公演を中止あるいは延期し、大きな痛みを引き受けることになった劇場を応援しようとスタートしたこの企画も3回目となった。今回の本多劇場は、客席数400弱とシリーズの中で最も小さく、また、個人経営という意味でも異色の存在だ。けれども「劇場の灯を消すな!」というコンセプトに照らす時、欠かすことのできない場所のひとつだろう。
理由のひとつが、オープンから約40年の間にここで公演をした人の多さ。前述の400席は、小劇場と中劇場のいわば中間にあたる客席数で、だからこそ勢いに乗る若手からベテランが、短ければ数日、長ければ1ヵ月という期間を借りて、自信作や実験的な作品を上演してきた。それが40年近く続いてきたのだから、行き交った舞台人の多彩さは随一で、番組はまさにそれが反映された内容となった。
責任編集を担当したのは宮藤官九郎と細川徹。同じ大人計画に所属するふたりは普段から交流があり、飄々とした空気を醸し出しながらも真剣に、さまざまなメディアでナンセンスな笑いを展開する活動が共通している。共同の演出はスムーズで、撮影は終始なごやかな空気の中でおこなわれた。出演者は大人計画のメンバーを中心に、賑やかな本多劇場ラバーズが揃った。
宮藤官九郎×細川徹
シリーズの共通企画である朗読劇(手紙をモチーフにした井上ひさしの短編集『十二人の手紙』から一編を選ぶ)は、北海道にひとり旅をすることになった若いOL弘子が、雑誌の文通欄で旅に同行してくれるガイドを募集、理想的と思われる男性を選ぶが……という内容の『ペンフレンド』。好奇心旺盛でイキイキした魅力が文面にあふれる弘子を演じるのは小泉今日子。本多劇場には『隠れる女』(2010年、岩松了作・演出)で初めて立ち、10月には18日間に渡って自身でイベントをプロデュースするほどの思い入れがある。それはさておき、甘さと癒やしが並立する唯一無二の声と、ほとんどNGのない技術はさすが。対するのは大人計画の皆川猿時で、弘子の文通相手の候補3人を次々と演じ分ける。その度に着替えるのだが、年齢もキャラクターもまったく異なる男性達が、皆川の瞬発力で見事に誕生する。つい大笑いしてしまうが、ベースの演技力が高いことがよくわかる。
朗読(小泉今日子×皆川猿時)
皆川は大活躍で、朗読劇以外にも、下北沢の街と劇場内をレポートしながら俳優という職業を理解していく男子中学生・皆川利美に扮し、柄本佑や要潤、阿部サダヲを始めとする大人計画劇団員と絡んでいく。百人組手のようなやり取りに注目だ。
三宅弘城は体操選手の衣裳に身を包み、細川演出の「正しい平台(舞台の床などに使われる木製の台)の持ち方」に取り組む。あくまでも真顔で、特に決まりがあるわけではない「正しい平台の持ち方」を何種類も披露する。
正しい平台の持ち方(三宅弘城)
三宅は「僕、どうやら本多劇場の舞台に最も多く立った俳優らしいんです」ということから、ゆかりのある劇作家によるスペシャル座談会の進行も担当。宮藤、細川に加え、岩松了、倉持裕、赤堀雅秋の5人からは、滅多に聞けないエピソードやこの顔合せだからこその本音が飛び出した。
座談会
もうひとつの目玉は、荒川良々が初挑戦する講談。なんと、神田伯山が稽古をつけた。
講談(荒川良々)
これは仕掛けなしの真っ向勝負で、名作『中村仲蔵』をベースにしつつ、宮藤が生まれて初めて講談を書いた。内容は、松尾スズキから「本番でウケを取れ」と厳命を受けた顔田顔彦(実話)が、プレッシャーから下北沢をさすらううちにひとりの老人と出会い、身の上話を聞いていくと、どうやら本多劇場のオーナー・本多一夫氏で……というもの。荒川は稽古期間が短かったことが信じられない落ち着きと迫力で、ほとんど淀みなく通しを2回おこなった。駆けつけた伯山も収録を見守ったが、終わった途端、「素晴らしい、何も言うことはない」と絶賛した。
参加した人がみんな打ち解けた表情を見せていたのが印象的で、これもまた本多劇場の力だろう。劇作も演出も演技も、ここで上手くなった人が楽しそうに恩返しをしているように感じられる収録だった。

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