三島由紀夫を通して今の日本を考える
 没後50周年企画『MISHIMA2020』合
同取材会

2020年9月、三島由紀夫没後50周年企画『MISHIMA2020』が日生劇場にて上演される。
“三島由紀夫”をテーマに、演出家や映像作家として活躍中の才能溢れる4名のクリエイターがそれぞれの目線で演出する三島作品を、オムニバス形式で上演する本企画は、9月21日(月・祝)~22日(火・祝)に『橋づくし』と『憂国』(『 死なない 憂国 』)、9月26日(土)~27日(日)に『真夏の死』(『Summer remind』)と『班女』(近代能楽集より)というスケジュールと演目になっている。
本企画に出演する5名の俳優による合同取材会が都内にて行われ、それぞれが意気込みを語った。その模様をお伝えする。
「三島に魂でぶつかっていく」(菅原)「演劇を失くしたくない」(中村)
会見冒頭、まずはそれぞれが出演作品についての思いを述べた。
伊原六花(『橋づくし』出演):今、舞台に出演させていただける、そしてそれをお客様にお届けできるというこの環境が本当に幸せです。今の時期だからこそというものをお伝えできたらと思っています。
菅原小春(『憂国』(『 死なない 憂国 』)出演):三島さんという方に魂でぶつかっていけたらいいなと思います。
中村ゆり(『真夏の死』(『Summer remind』)出演):演劇もいろいろ厳しい中で、やっぱり演劇を失くしたくないという気持ちで、こうして舞台に立てることもすごくありがたいですし、私は映画『三島由紀夫vs東大全共闘』を見に行った数日後にこのお話しをいただいたので、それもすごいご縁だなと思います。
橋本愛(『班女』(近代能楽集より)出演):演出の熊林さんの舞台を何度か観劇してすごく好きな演出家さんだったので、今回ご一緒できることが夢のようです。「ああ、演劇って深くて奥ゆかしくて、もう最高!」という毎日を過ごさせてもらっていて本当に幸せです。
麻実れい(『班女』(近代能楽集より)出演):三島作品は『葵上』そして『卒塔婆小町』と出演してきて、今回の『班女』が3作品目。実子という役にご縁があったのだと思い、大切に創り上げたい。三島さんの美しい言葉に負けないで、実子の心情をきちんとお届けできたら幸せに思います。
「新しい身体芸術を日々模索」(橋本)「実験的な演劇を強いられている」(麻実)
また、各作品の見どころについて聞かれると、
伊原:『橋づくし』は数学的な面白さがあります。心情を身体で表現する動きなどにそれぞれのキャストの中にあるイメージが詰められているので、そこが見どころです。
菅原:長久さんは今回が初めての舞台演出。『憂国』を今の時代に置き換えながら、2020年の今生きている人たちの葛藤とともに、三島さんが本当に守りたかったこの国とは何なんだろう、ということを全力で描いていて、細胞ひとつひとつが踊っちゃうような作品です。長久さんは「これを見たら三島さん怒っちゃうかもしれないね、でも怒らせなかったら意味がないよね」と言っていました。本当にそうだなと思いながら、東出さんと一緒に尽くしています。
中村:70年程前に書かれた『真夏の死』を原作に、26歳の加藤拓也さんが現代の話に置き換えて演出する舞台。非常に豊かでリアリティのある話になっていて、新しい才能だなと感じます。遊び心のある演出も楽しんでいただけると思います。
橋本:『班女』は元から戯曲なので、書かれている言葉をそのままやることを目指しています。熊林さんの舞台は、人と人とがいろんな形で混じり合ったり離れたりくっついたりする身体芸術が特徴的。現在の状況下において2mを保ったままくっつく、という新しい身体芸術を日々模索しています。心の距離と体の距離が決して一致せずに、身体を通して心が見えて、言葉を通して心が見えて、それが身体で表現されていくという宇宙的イメージがあり、私は狂女の役ですが、ただ狂っている様を見せるのではなくて、一人の女として、一人の人間として、一人の動物としてのつじつまを考えつつ、そこを乗り越えた美というものを見せられたらと思います。
麻実:やはりこういう状況下ですから非常に実験的な演劇を強いられていると思います。でも、何か今までと違う三島さんの世界をお見せできるんじゃないかなと期待しています。何回も三島文学に挑んでいますが、今回の実子という役はものすごく難しい。今の私の前に来てくれた実子さん、そして演出の熊林さんを中心に、愛さん、中村蒼さんと、とても素敵なメンバーが集まったこのご縁を大切に、私たちだけの班女を創り上げてお送りしたい。
と、各々が創作の様子も交えながら語った。
「三島でこんなに笑っていいのか」(伊原)「この状況下だからこそチャレンジ」(中村)
また、感染症対策を行いながらの稽古の進め方や雰囲気については問われると、
伊原:三島さんの作品でこんなに笑っていいのかというくらい、笑いの絶えない稽古場。それぞれのキャラクターの心の中をのぞけるような作品になっているので、それをみんなで紐解きながら楽しく稽古しています。
菅原:そもそも『憂国』自体が、言葉なしでフィジカルなものだけで体現している作品。今こそユーモアだったりセンスだったりアイデンティティが問われるところを、表現ということに変えて日々やっています。
中村:マスクしてお稽古をすると表情が見えなくて、でもパーテーションなどで工夫をしたりして、みんなで力を合わせてどうにかやっている状況です。大変さよりも、こうしてまた演劇ができるという喜びが積み重なっていくし、こういう状況下だからこそチャレンジしてみるべきだなと思います。
橋本:戯曲を読んだとき、役者同士が近い距離で触れ合うイメージが湧いてきましたが、今回それはできないので、その精神性をどういう身体の使い方で表現するかものすごく頭を使って考えています。直情的に身体の衝動を一度感じて、そこから構築しているので、より作品が奥ゆかしくなっていってるんじゃないかと思います。
麻実:熊林さんのお力で、距離感を持つということも非常に効果的に演出されています。最後に実子さんが言う「素晴らしい人生」というのは、お客様によっていろんな取り方があると思うので、それぞれの感性で受け取っていただければ。こういう状況下でお芝居をしていると、すごく大変なんですが、なんて幸せだろう、なんて演劇って素敵なんだろうっていう幸せ感でいっぱいになります。
と語り、制約がある中でも演劇をできる喜びを感じている様子がうかがえた。
「私たちからの挑戦状」(菅原)「三島作品の美しさと毒」(麻実)
最後に、作品を通して観客に伝えたいことはあるか、という質問には、各々が作品に対する解釈や深い思いを披露した。
伊原:この作品はいろんな解釈の仕方があると思いますが、私としては、女性の強さや、自分で行動するという意思を伝えていきたいという思いがあります。最後の結末について、個人的には演出の野上さんの解釈がすごく素敵だなと思っています。
菅原:サブタイトルで「(死なない)」ということを掲げていて、それが長久さんと私たちからの挑戦状であり、今ここで呼吸をしていることが生きることなのか、抱き合うことが生きることなのか、踊ることが生きることなのか、人を嫌うことが生きることなのか、一人ひとりの中にいろいろな「生きる」ということ、「死なない」ということがあると思います。全力で、この挑戦状をしっかりお客様に届けようという気持ちもあるし、一番は三島さんに「捨てたもんじゃないよ、まだ日本は生きてるから大丈夫だよ」って叩きつけられるように、「(死なない)」というサブタイトルにしっかり向き合ってやっていきたいです。
中村:不慮の事故で子どもを亡くす夫婦の話なので、時間が経つにつれどんどん共感がなくなっていく中で、社会とか世間というものから置いてけぼりになって苦しむ人たちを描いた作品になっています。今はもっと個人主義になっていると思うし、コロナ禍もあって余計に人との距離というものが難しいと思います。50年経ってこうして三島作品を4作品上演できるということで、あの時代に三島さんが何を考えていたのか、どういう思いで作品を残しああいう結末で自分の人生を閉じたのか、そこにきっと今私たちが生きるための大きな何かが学べるはず。この上演が皆さんにとって何か考えるきっかけになるといいなと思います。
橋本:この作品の中で何を伝えたいか、というのは自分で選びたくないくらいたくさんあります。現代劇だと愛は愛、希望は希望、絶望は絶望としてそれぞれ区別して描くことが多いですが、真理と言うのは矛盾していることこそ真理。私は花子という狂女の役ですが、演じていて中に入れば入るほど花子が狂ってるとは思えない。でも傍から見たら狂っていて、だから正解がない、一つじゃないという、三島さんが見つめていたものは宇宙の真理に近かったはずです。この作品を見て、いろいろな感情が人それぞれ生まれると思いますが、作品を見た感想で自分がどういう人間なのかわかるというのが芸術の面白いところだと思っています。
麻実:今の花子さん(=橋本)のお話しで、実は狂ってないんじゃないか、ということは私もすごく感じています。人間はひとくくりにはできない。やはり三島さんの作品の美しさと毒をお客様にお見せしなければいけないし、舞台を通して三島さんの存在の圧をお客様に感じていただけたら幸せだと思います。
本公演は舞台映像配信、および制作過程を追ったドキュメンタリー映画の製作も決定するなど、現在のコロナ禍だからこその新たな演劇の挑戦にも期待が高まる。三島作品を現代の視点から描く本企画により、三島が見据えていた日本、そして今私たちが直面している日本の姿が浮かび上がってくることを楽しみにしたい。
取材・文=久田絢子

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