【森久保祥太郎 インタビュー】
2020年上半期から夏までにかけて
僕の中で蠢いていた感情が詰まってる
配信ライヴを突き詰めれば、
気づかなかった可能性がある気がする
森久保節とおっしゃる通り、まさに熱くラウドなロックチューンで。となると普通は“ライヴが楽しみです”となるところなんですが…。
10月から予定していた全国ツアーは中止になりましたが、最終日のZepp Yokohama公演を現地から無観客配信する予定です。配信だと“目の前にお客さんがいなくて、やりにくくありませんか?”って心配されるんですけど、確かにコール&レスポンスがあることを前提としてやっていたら、たぶんやりにくいんだと思うんですよ。でも、伝えたいことがあって歌ってる以上は、お客さんの前でやるライヴも、カメラに向かってやるパフォーマンスも、結局は変わらない。もちろん目の前にオーディエンスがいれば、相乗効果で曲が育っていくメリットはありますけど、またコロナが終息すればそっちには一瞬で戻るから。とりあえず今はこの状態でも通常のライヴに匹敵するくらいのコンテンツを、配信や映像での観せ方で作り上げたいんですね。それができれば怖いものはないって考えると、気持ちもどんどん前向きになるんですよ。それこそ“WAY OUT=出口”に向かえる。
確かにカメラワークだったり演出だったり、観客がいないからこそできることもたくさんありますからね。
歌詞の字幕を出すとかね。逆に言うと、こういう状況にならなければ、ここまで配信でのライヴを突き詰めていこうっていう機運も起こらなかっただろうし、そこに思いもしなかった可能性があるような気がするんですよ。通常のライヴには足を運びづらい地方の人にも参加してもらえるし、それこそ世界ともつなげていけるとか、考えるだけでも楽しくなってくるし。それと並行して、またかつてのようなライヴができる日も、もちろん楽しみにしてますよ。“また生でお客さんの前でやれる日が来たら、どんだけ弾けちゃうんだろう!?”って、もうワクワクしますね。
生ライヴが解禁になったら、ものすごいライヴバブルが起きるでしょうね。あと、今回はMVもお洒落ですね。
MV撮影で今まで僕は数々の廃墟に行ってるんですけど、スタッフがまた新しい廃墟を見つけてくれました! ただ、今までは病院の跡地とか、何かに使われたあとの廃墟ばっかりだったのが、今回は建設途中の廃墟だったんで、なんだかさわやかでした(笑)。ライティングの技術もすごいし。今回も曲のメッセージやテーマを監督が深く汲み取ってくれたんで、とても気に入ってます。アーティスト写真のほうも、またデザイナーが張り切っちゃって、これ本物の鎖なんですよ。普段はそんなに口出さないプロデューサーも、鎖の縛り方だけは注文をつけてきて“急に鎖だけ?”っていう(笑)。
アートワークも“解放”というメッセージをうまく表してますよね。
そうですね。要はそこからの“出口”。その補足的なところがカップリング曲にもあって、言わば「WAY OUT」を書く時に自分の中でパンパンになっちゃった混沌を、表題とカップリング2曲で3分割した感じなんですよ。「World Line」は前回タイアップのお話をいただいた時に最初に出した曲で、そのあとにできた「I’m Nobody」が採用になったんですけど、もったいないからと取っておいたものをエレキギターでリアレンジしたんです。これは“世界線”というタイトルの通り、“どういう世界線で生きるかは自分で決めて、自分で動くんだぜ”ってことに尽きますね。
ラヴソングにも取れるような、うっすらセクシーな空気感の裏に、そんなメッセージがあったとは!
“あっ、行けるかも”と思ったら“ダメ!”みたいな(笑)。世の中自体がそんな感じだったじゃないですか。心がもてあそばれたみたいな、そういった気持ちをある種、恋のやりとりふうに書いたんです。3曲目の「Alright」は当初、ファンクな感じの跳ねたサウンドを自分で作るつもりだったんですけど、さっき言ったような状況で全然楽しい曲が書けなくて。結局、日徳さんにお願いしました。“Alright=大丈夫”のひと言を、ひたすら言ってる曲がいいって。たぶん、どこかで自分に“大丈夫”って言い聞かせたかったし、リスナーにも“大丈夫”って言ってあげたかったんですよ。いろんなものを飲み込んで、全部引っくるめて“大丈夫!”っていう感情で満たされたいし、これを聴いて元気になってくれたらいいなって。
なるほど。“Alright”というタイトルから明るい曲をイメージしていたら、予想外にシリアスな曲で意外だったんですけど、そのお話を聞いて納得です。
そう。ひと筋の光に、この曲がなれたらいいなと。いつも自分の言いたいことを歌うだけで、聴く人に“こう聴いてほしい”って考えては作らないんですけど、なぜか今回は考えましたね。この3曲には、2020年上半期から夏までにかけて僕の中で蠢いていた感情が全部詰まってます。
普通3曲あれば曲調のバランスを考えたりするものですが、今回はいずれもシリアスな色が強くて。それも音楽的なバラエティーよりも、今の感情をかたちにすることを優先したからですよね。
確かにそうなんですよ! いつもだったら音楽的なバランスとかライヴ映えとか、そっちの発想から作っていくのに、想いが先行したのは初めてかもしれない。
今の状況でライヴ映えするような曲を作っても活かしようがないですしね。
それ、ふと思ったんですよ。配信でのライヴがまだまだ続くことを考えると、いわゆる勢いがあって派手な曲じゃなく、今回だったら「Alright」のようなエモーショナルに歌い上げる曲とかバラードとかのほうが、実は伝わるんじゃないのかなって。根底にそういう想定があったから、自然と伝えたい曲が生まれたのかもしれない。なんか、今、しゃべってて気づきました。
では、11月14日のZepp Yokohama公演も聴かせる曲が中心に?
どうなんだろう? 「WAY OUT」と「I’m Nobody」で5曲も新曲があるし、2年前に出したアルバムも一回しかツアーやってないから、まだまだ育てる余地のある曲がたくさんあるんですよ。まだ発表してない曲もあるんで、その辺りの新しい曲を中心にしつつ、配信だからこそできる演出っていうのは考えてます。カメラワークだとか映像での観せ方だとか、僕はもともと映像学科に行ってたんで、そういうこと好きなので。ストーリーを感じるようなひとつの映像作品として観せられたらと思ってるし…もう楽しみでしょうがないですね。
さらなる新曲があるとはファンにとっては朗報ですね。
みんながステイホームしてる期間もずっと曲作ってましたからね。いつもより集中できたくらいで、普段と何ら変わらない生活を送ってました。あとは、仕事場の環境を整えようと、DIYをやったりとか(笑)。僕らはエンタメを止めないように、停滞させないように、その時々の出口を見つけて走ってくしかないんで。まずはかつてのスタイルとは違うものを作っていくことに今は燃えてます!
取材:清水素子