山内惠介 デビュー20周年を迎えて新
たに挑む無観客オンラインライブとコ
ロナ禍でのポジティブな日常

今年2020年、デビュー20周年を迎えた演歌歌手・山内惠介。新型コロナウィルスの影響で、3月から予定されていた『KEISUKE YAMAUCHI 20th ANNIVERSARY コンサートツアー2020』や『新歌舞伎座新開場10周年記念 山内惠介 デビュー20周年特別公演』などの大規模な公演を中止せざるをえなくなった。そうした中、6月からイープラスが運営する視聴チケット制のストリーミング・サービス「Streaming+」を使った『山内惠介無観客オンラインライブ“8時だよ!いらっしゃ~い!”』という新しい試みをスタートさせた。8月21日の第3回目配信を終えたばかりの山内に、この挑戦について訊いた。
ステージは、ひとりでは作れません。オンラインで見てくださっている方達も一緒にステージを作っていると感じられるものにしたいんです。
――ライブ、お疲れさまでした。今日の公演はいかがでしたか?
1時間の予定だったのですが、少し延びちゃいましたね(笑)。内容が濃いものができたので、自分でもちょっと時間を忘れちゃって。今回は“夏の終わり”ですが、まだまだ残暑厳しい時期。涼しい気分で見て頂きたいと思って、衣装もブルーや白などにして、夏らしい歌や、季節と逆の冬の歌を選曲してみました。冬の歌は、イントロを聴いただけで気分が涼しくなるじゃないですか? 今の季節を生きているということを大事にしたいという思いがありました。
――渡哲也さんの「くちなしの花」を歌われましたが、カバーもステキですね。
リハーサルのときには、まだ渡哲也さんが亡くなられたことを知らなくて、セットリストには入れてなかったんです。でも、僕もカバーしたことがあるし、お客さんも聴いたら懐かしいだろうなと思って。それで急遽、追加しました。ライブのMCでも言いましたが、「くちなしの花」は1973年……、47年前の8月21日にリリースされたんです。そのことに気付いたのは、昨晩(8月20日)、12時を超えて21日になった時でした。8月21日の金曜日に歌唱出来たということは、一生残るから、その日を大事にしないと。今日のステージをやるにあたっては、重要な1曲になりました。
――偶然だったんですね! オンラインライブは、無観客です。お客様がいらっしゃらない中でのライブは、いつもと違う感覚だったのでは?
それは、相当な違いがありますよね。ただ毎回、見てくださる人が増えているんです。多くの皆さんにご参加いただいているというのは、すごくモチベーションが上がります。
――毎回増えているって、スゴイことですよね。
そうなるように、自分も毎回頑張っています。1回目は初めてですから“こんな感じか?”という手探り感がありました。2回目、3回目になるともう、それは許されない。見ている方たちの求めていることに少しでも応えていかなければいけない。いつも、“かゆいところに手が届く”ということを模索しながらやっています。
――とはいえ、「夢見る恋人たち」のように客席とのコールアンドレスポンスがお約束になっている曲は、ちょっと寂しい気がします。
そうですね。僕のライブには無くてはならないものなので、演じるというか……。ステージ上では、バンドさんたちが「惠ちゃん!」ってレスポンスを助けてくれていますが、皆さんは、お家で小さい声で応えてくれてますよね? それを想像しながら(笑)。
山内惠介 撮影=大橋祐希
――山内さんご自身は、オンラインライブというものに、どのような手応えを感じていらっしゃいますか?
歌には形がないので、形がないものを届けているという意味ではものすごくイマジネーションが広がりますよね。目に見えないものを見ようとするというか……。想像力というものがものすごく強くなっているし、鍛えられていると思います。
――このオンラインライブは、山内さんご自身のセルフプロデュースで行われているそうですね。
そうなんです。普段だったら演出家がいるんですけれど、自分でやるのも楽しいですね。でも、自分というのは大したものじゃないですよ。だから、あまり独りよがりにならないように、皆さんの意見を聞きながら作っています。自分で自分を見るっていうのは、なかなか難しいですね。3回やらせてもらって、それはすごく実感しました。
――自分のことを客観的に見られる場になっている?
それは、ありますね。演歌の世界でデビュー20年、アラフォーっていうと、若手でもないし、中堅でもない。ちょっと自分を作っちゃう感じと今、戦っているところなんです。それが自分が見えたことにつながるのかもしれない。
もっと若々しく、楽しく、今の年代らしく、童心に帰ってもいいんじゃないかなと思います。20周年といっても、演歌の世界には大先輩がたくさんいらっしゃる。まだ青いし、まだ経験も少ないですから、自分をもっともっと広げてスケールを大きくしていかないと。型にはまらず、水を得た魚のようにノビノビと泳げるように、努力をしていきたいと思っています。
ステージは、ひとりでは作れません。バンドさんたちの力、そして会場にはいらっしゃらないけれどもオンラインで見てくださっている方達も一緒にステージを作っていると感じられるものにしたいんです。幸せな場所ですよね。
――ステキですね。ところで、オンラインライブを始めたきっかけは何だったのですか?
やはり、コロナですね。オンラインライブはずっとやりたいと思っていたのですが、旅に行くことが多くて、なかなかスケジュールが取れなかったんです。だから、ツアーが中止や延期になったことで、実現がものすごく早まったというのが実情で。3月からコンサートができなくなって、1回目のオンラインライブが6月。3ヶ月間、セッションできなかった中、オンラインのおかげで久々にライブをやることができました。それは感謝しています。1回目は、本当に嬉しかったですね……。やはり歌い手が一番輝くのは、ステージの上ですからね。そこに立てないのは、さみしいですよ。なので少しでも“山内惠介が元気に歌ってますよ”というのを届けられたらと思って。
――バンドメンバーが6月の1回目がギター、ピアノの2人、2回目がサックスが加わった3人、そして今回の3回目がさらにドラムが加わった4人と、回ごとに増えていきましたけれど、これはどういう意図で?
通常は6人のバンドで回っていますが、ここの会場のステージの大きさだと、4人がマックスなんですよね。最初から4人でやりたかったんですけれども、コロナの影響(三密対策)で2人からスタートしました。でもこうしたことで、サックスの音色の個性やリズム隊の長所がよく見えたんじゃないでしょうか。
――なるほど。3回やってみると、改善点も見えてくると思うのですが、いかがでしょう。
ライブの音を綺麗に届けると、MCの音がどうしても小さくなってしまうんですよね。普段コンサートホールでしゃべっているのと同じしゃべり方だと“何を言っているのかわからない”というご指摘がたくさんありました。シーンとなったところで「皆さんこんばんは」と言うよりも、歌に乗せて最初のご挨拶をした方が自然と声も大きくなるかと思って、試してみたり。歌う時は声を響かせているから、MCのときも同じように声を張ることを意識しました。その方がしっかり言葉が伝わるし、思いも乗るみたい。でもこれ、普通にしゃべるよりも倍以上の労力が必要なんです。意識しながらしゃべるって(笑)。 とはいえ、僕だけじゃなくて、見ている皆さんも大変ですよね。まずイープラスの会員になって、そこからチケットを買って、当日パソコンやスマホで見るところまでたどり着くまでに、まわりの人たちに助けてもらったりして、一苦労じゃないですか。そういう話を聞くと、“皆さんにエネルギーを届けなきゃ!”って思いますよね。苦労して見てくださったライブに対して、“どんな感想がいただけるのかな?”ってチェックするのも楽しみなんです。
――SNSをチェックしたり?
はい、ツイートとかリアルタイムのコメントは覗いています。リアルタイムでの“これ、もうちょっと見たい”とか、“あの曲が聴きたい”というのは参考になりますね。
――アーカイブは、ご覧になりますか?
見ます。普段のコンサートでも、2時間の録音を必ず聴いています。今回は映像じゃないですか? だからわかりやすいですね。見て、毎回反省しています。何回やっても、反省点ってあるんですよね(笑)。でも、そうじゃないとやり甲斐もないですから。勉強になりますし、自分を見つめ直すきっかけにもなります。
山内惠介 撮影=大橋祐希
僕は、歌が趣味であり仕事ですので、歌のためにも料理を始めてみました。健康でいられるということは、長く歌えるということに繋がるんです。
――ライブの前に、験担ぎのようなことはされるのですか?
すごくしますよ。食べるものは、梅のおにぎりだったり。“梅はその日の難逃れ”と言いますから。あとは占いを見たり。今日の5月生まれは“ブロッコリーを食べるといい”とあったので、朝からブロッコリーを茹でてサラダにしました。余ったのを会場に持ってきて、みんなで食べてもらったりして。食べたり飲んだりして体に入れたものが、声になって出てくるから、健康はすごく大事なんです。
――ご自分で料理をされるんですね。
作るようになったんです、4月くらいから。今まではご飯を炊くのが精一杯だったのに、今はいろいろなものを作れるようになりました。それで免疫力がついたみたいで、体調がすごく良くなったんですよ。体重も少し増えたけれど(笑)。
――得意料理は何ですか?
中華です。エビチリ、麻婆豆腐、黒酢の酢豚とか。オイスターソース、花椒(ホワジャオ)など、中華の調味料はかなり揃えました。最近は、料理の先生みたいに台所をきれいにするのが趣味になっちゃって、ひとりで楽しんでます(笑)。母にも「今時は、麻婆豆腐の素で十分おいしいのよ」って言われるんですけれど、ネギを刻んだり、豆板醤(トウバンジャン)や甜麺醤(テンメンジャン)、豆豉醤(トウチジャン)を混ぜたりする過程がいいんですよ。買い出しに行って、料理して、出来上がるまでに2時間かかっても、食べるのは15分。“一生懸命材料を揃えて作ったのに!”って思うけれど、過程があるから燃えるんです。段取りを考えて、調理にかかったら火の勢いに任せて、時間との勝負をする。これって、歌作りやステージ作りと同じなんですよね……。コロナで歌が歌えなくなって、何か自分を表現したかったんです。趣味の絵を描いたり、写真を撮ったりする人もいると思うのですが、僕は、歌が趣味であり仕事ですので、歌のためにも料理を始めてみました。
――歌のために?
健康でいられるということは、長く歌えるということに繋がるんです。外食やコンビニもいいんですけれど、自分の血と肉になるものは、バランスを考えて自分で作ったほうがいい。それに、料理を作るということは、表現することでもある。自分のステージに持って帰ってきている感じがあります。より生き生きと健康的に歌を届けられることをファンの方も望んでいると思うし。ファンの方あっての歌い手なので、何よりもファンの方たちに安心してもらえるような存在でありたいんです。“独身だから、ちゃんと食べているのかしら?”って心配されることも多いので、“大丈夫ですよ。こうやって乗り切ってますよ”という意味もあって(笑)。ファンの力というのは凄いですよね。
――ライブ中に「ガラケーをスマホに変えた」というお話をされていましたが、これも、コロナの影響ですか?
そうなんです。誰にも会えないし、故郷にも帰れないから、ビデオ通話がしたくて(笑)。コロナがなければ、未だにガラケーでした。古風な人間だし、不器用だし、“演歌歌手はガラケーだ!”って思いもあって、スマホじゃなくてもぜんぜん困ってなかったんですよ。LINEもしてなかったし。でも使ってみたら、ビデオ通話とか写真とか“こんなに簡単にできるものなんだな”って。買った時は、ビデオ通話をかけまくりました(笑)。人とのつながりができたのも、コロナのおかげですね。“これから長く歌っていくための経験を今踏ませてもらっているんだな”って思うと、悪いことばかりじゃないですね。
――もしや、オンライン飲み会も?
やりました!(笑) 楽しかったですよ。友達は寝ようとしていたところなのに、付き合ってくれたりして。人のありがたさ、暖かさを感じましたよね。
――いろいろな変化がありましたね。
そうですね。悪いことばかりじゃないですよね。それに、オンラインライブで久々にファンの皆さんにお会いすると、より皆さんの存在のありがたさを思い知るんですよ。今まで当たり前のように会えてきたけれど、ファンの方がいないところでやるライブが、こうも変化するのかって。でも画面の前にはたくさんのファンの方が見て下さってるのは間違いない。ホールで何千人を相手に歌っているときは“わー”って大きな声で歌うけれど、ここでは聴いてくださるひとりのために、1対1で歌を届けることを想像しながら歌っています。
山内惠介 撮影=大橋祐希
初めて演歌を聴いた人でも、僕の歌を聴いて“演歌っていいな”と思っていただければ、やりがいをより感じますよね。いろんなジャンルをやりたいですね。
――見ているほうも広い会場の一番後ろから見るよりも、オンラインの方が近くで見やすいというのはあります。
そうなんですよね。いい機会なのでこの環境を活かして、これからはジャンルが違う歌も入れていこうかと思っているんです。演歌歌手というよりは、アーティストだったりボーカリストだったり、9月はそういう観点でやるのもいいかも。今、話しながら思いました(笑)。どこか自分の中で“演歌歌手なんだ”という思いに縛られているのかもしれません。悪いことではないんですけれどあまりにも固執しすぎると世界が狭まってしまうじゃないですか。初めて演歌を聴いた人でも、僕の歌を聴いて“演歌っていいな”と思っていただければ、やりがいをより感じますよね。演歌は生活の歌、楽しめるものであって、敷居が高いものではないんです。
――オンラインだったら、会場に来られない方も見ることができますしね。
もちろん、お客さんがいるところで見て頂くのが一番なんですけれども、病院で生活をされているとか、足が悪いとか、普段コンサート会場に足を運んでくださるのが難しい方たちがこの機会に見ていただけるようになったというのはいいことだなと思います。
――ご家族と見て、初めて山内さんの歌を聴く方もいるかもしれないし。
そうなんです。例えばポップスの曲とかを歌ったら、お子さんとかがビックリして、“惠ちゃんいいじゃん!”って思ってもらえるかもしれない(笑)。そうすれば、家族で楽しめるんじゃないかとも思っているんです。
――リクエストを募ったり!
そういうのもいいですよね。参加型で。本番を迎えるまでに、ファンの皆さんと一緒に作っていって、本番で“こんな感じになりました”ってなると、もっと楽しめそう。
――ジャズを歌うのはどうですか?
ジャズとかシャンソンとか、演歌だけではなくていろんなジャンルをやりたいですね。だいぶこの会場の雰囲気にも慣れてきましたから。
――今年は山内さんにとって、デビュー20周年という節目でもありますが、いろいろな意味で、変化の年になりましたね。
20周年は、ひとつの指標。20年で僕の歌手生活が終わるわけではないので。目標は1日でも長く歌い続けること。そのために、自分がこのコロナの時期に何ができるのか、何をすべきかを考えることができて、少しずつその答えが見えてきています。コロナ禍でオンラインライブを始めさせていただきましたが、コロナが収束してもやめたくはないんです。厳しい時期を助けてもらったシステムですから。
――20周年の今年も残り少なくなってきましたが、どのような予定があるのでしょう。
9月2日にカップリング曲とジャケットを変えて、「残照」のニューバージョンをリリースしたあとに、5大都市でのコンサートを予定しています。もちろん、ソーシャルディスタンスを図りながら。そして一番の山場は、11月6日の大安。武道館で2回のコンサートを行います。これはすごく楽しみですね。こういう時でも前に進むのは、とても大事。人間の底力が見える気がします。僕が言うのはおこがましいですけれど、子供たちのことを思ったら頑張らなくちゃいけないですよね。
――こういう時だからこそ、エンタテインメントの力は大きいですよね。
僕自身、歌があって良かったな、音楽があって良かったなって思います。歌い手である僕は、少しでも皆さんに良い時間を過ごしてもらうために頑張らないと!
山内惠介 撮影=大橋祐希
――次回のオンラインライブは、9月16日です。次に向けての展望は?
夏も終わりが近付いて秋めいてくるころですね。“意外な歌を歌いたい”という話もしましたが、僕は、自分のオリジナルは1曲しか歌わない、カバーをメインにした音楽会もやっているんです。去年は米津玄師さんの「Lemon」とか、安室奈美恵さんの曲とか、“演歌歌手がこんな曲を歌うんだ”といわれるような曲を歌って。オリジナルは「残照」だけで、皆さんが好きな懐メロや、意外なカバー曲を歌うのもいいかなと思っています。それを生で見るのも、絶対に面白いと思うんです。この雰囲気に合っているし。
――おー、実現されるかは、これからの話し合いになると思いますが、楽しみですね!
そうですね。僕ひとりじゃ決められないので(笑)。でも、『山内惠介無観客オンラインライブ“8時だよ!いらっしゃ~い!”』は4回公演の予定なので、4回目となる9月が集大成になると思います。悔いのない、進化した集大成にしたいです。セルフプロデュースでやらせていただいていますが、このへんでファンの皆さんの力もお借りして、リクエストを募ってみたいですよね。自分ばかりが楽しい選曲になってしまうかもしれないけれど(笑)。是非見ていただきたいですね。楽しみにしていてください。
取材・文=坂本ゆかり 撮影=大橋祐希
>> 『8時だよ!いらっしゃ~い!Vol.3』ライブ写真特集ページへ 
山内惠介 撮影=大橋祐希

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