サイダーガール、オンラインリリース
イベントで東名阪ツアーの開催を発表
 『room726』オフィシャルレポート
が到着

9月2日、両A面シングル「落陽/ID」をリリースした炭酸系ロック・バンド、サイダーガールが同日の午後8時からオンライン・リリースイベントとして、配信ライブ『room726』を開催した。
サイダーガールの初ライブおよびメジャー・デビューの日にちである7月26日を部屋番号に持つ、とある一室からライブを届けるというコンセプトの下、開催した今回の配信ライブ。彼らのライブを見たいと思っていたファンの思いに応えるものとしてはもちろん、以前のようにライブハウスに観客を迎え、ライブをすることが難しい今現在の状況を乗り越えようと多くのバンドが活路を見出している配信ライブの可能性を広げるという意味でも見応えがあるものとなった。
ライブ以外ではメディアに“顔出し”していない自分たちが配信ライブをやるなら、どんなふうに楽しんでもらえばいいんだろうかという発想だったようだ。この日、彼らは最新のアーティスト写真のテーマである“秘密基地”の世界観を再現したセットをレコーディング・スタジオに組み、そこであらかじめ撮影した全12曲の演奏をとらえたライブフィルムを配信しながら、その合間合間にメンバー3人が生で繰り広げるトークコーナーでも楽しませくれた。しかも、そのトークコーナーは事前にファンから募った質問にメンバーが答える質疑応答に加え、チャット機能を使い、視聴者も巻き込む大喜利まで飛び出す盛りだくさんの内容に。
サイダーガール
今回の『room726』も含め、こういうアイディアの1つ1つが、バンドそれぞれに手探りしている配信ライブの有効性を高めていくと思うのだが、ともあれサイダーガールにとって、1時間以上の尺のライブは実に半年ぶり。それもあってか、若干の緊張の中、ライブはアップテンポの疾走感が心地いいギターロック・ナンバーの「飛行船」からスタート。
その直後のトークコーナーで、「ここからどんどんテンションが上がる演奏はもちろん、照明と(複数のカメラワークによる)演出を作りこんだライブ映像も楽しんでほしい」とメンバーが口々に見どころを伝えると、ビタースウィートなロック・ナンバーの「エバーグリーン」、シャッフルのリズムがけだるく跳ねる「なまけもの」という彼らのライブではお馴染みのアンセムを立て続けに演奏して、視聴者の気持ちをぐっと掴む。
そこから知(Gt)がかき鳴らすギターにシーケンスで鳴らしたホーンの音色が重なるポップ・ソング「クライベイビー」、前ノリのリズムとYurin(Vo/Gt)が歌うメロディににじむノスタルジーに夏祭りを連想する「ばかやろう」、そしてフジムラ(Ba)が大胆にベースをスラップするファンク・ナンバー「フューリー」というそれぞれに異なる魅力が印象的な3rdアルバム『SODA POP FANCLUB3』からの3曲を繋げ、演奏の熱がぐっと上がったところで、前半戦が終了。
サイダーガール
中盤のトークコーナーは「秘密基地のような場所はありますか?」他、ファンからの質問に答えつつ、フジムラが「大喜利しよう」と提案。「こんなサイダーガールはイヤだ!」というお題に対する「全員が陽キャ」という視聴者の回答に「陽キャだったら、こういう曲は作っていない(苦笑)」とYurinが答え、突入した後半戦も「アンブレラ」から3rdアルバムの収録曲を繋げていく。
この日演奏した全12曲中8曲が3rdアルバムの収録曲だった。
「3rdアルバムのツアーができなくなって、その曲たちをやっと聴いてもらえた。ツアーでできなかった曲たちの供養ができた(笑)」と言ったYurinにフジムラは「いや、これからも生き続けるから!」と突っ込んだが、Yurinの言葉にはツアーができなかったことに対する悔しさがうかがえた。
サイダーガール
『SODA POP FANCLUB3』はバンドが確実に一皮剥けたを印象づける作品だったんだから悔しくて当たり前。メランコックな曲調とは裏腹に《心に雨が降るなら 一緒の傘で明日は歩んで行こう》と歌うYurinの力強い歌声が一際印象的だった「アンブレラ」(こんな状況だからこそよけいに!)、シーケンスでストリングスを鳴らしながら、アンサンブルの妙で聴かせた「シンクロ」、理想と現実の狭間で葛藤する気持ちをリズミカルに歌ったダンサブルなポップ・ナンバー「ID」。前半戦にひきつづき、後半戦も彼らはメロディ、アレンジ、演奏、そして歌詞のメッセージにおいて一皮剥けたバンドの姿を鮮烈に見せつけたのだった。
その後のトークコーナーで思わず言った「後半戦のセトリがきつかった」(Yurin)という言葉が3rdアルバムを作った時のバンドの挑戦を想像させた。
そして、「また会えることを願って。みんなも願ってくれたら、俺たち、がんばってやっていける。そんな気持ちを込めて」とフジムラが紹介した「帰っておいでよ」は、知が奏でたピアニカの音色や横ノリのリズムという聴きどころもさることながら、3人が声を重ねたシンガロングが、ライブで聴きたい、いや、知が言ったように「ライブハウスで一緒に歌いたい」と思わせた。
サイダーガール
そこから繋げたユーモラスかつシニカルなダンス・ポップの「週刊少年ゾンビ」も同様に今後、彼らのライブで終盤の盛り上がりを作る曲になっていきそうだ。
因みに、今回のセットリストは各配信サイトでプレイリスト化されるそうなので、配信ライブを見た人も見なかった人も一皮剥けたサイダーガールを、ぜひチェックしていただきたい。
そして、この日、バンドからもう1つビッグニュースが! 今年11月から来年1月にかけて、東名阪自主企画「ぼくらのサイダーウォーズ4」の開催が決定したのだ。
「やってやろうぜ!」とフジムラが声を上げ、「そろそろ面と向かって、みんなに会いたい。みんなの顔を見てライブがしたい」とバンドを代表してYurinが自主企画開催に込めた思いを語ると、バンドは最後にもう1曲披露した。
サイダーガール
もちろん、この日、リリースした「落陽」だ。サイダーガールらしい駆け抜けるようなギターロック・ナンバーだが、フジムラの跳ねるベースをはじめ、これまで以上にメンバーそれぞれの個性がプレイに反映されている。空に舞い上がるようなサビのメロディが胸を打つ。
思い残すことがないように一音一音に熱を込めるバンドの演奏を聴きながら、演奏前にYurinが言った言葉を噛みしめるように思い出す。
「(落陽は)タイトルどおり夕方っぽさが夏の終わりにぴったり。これを聴きながら、次の季節に進んでいけたらと思います」
まだまだどうなるかわからない状況ではあるものの、バンドは決して止まらずに進み続けるという思いが感じられた。サイダーガールはこの次、どんな季節を見せてくれるのか楽しみになるような見事なエンディングだった。

Text by 山口智男

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