みゆなとクボタカイ、若き才能が交差
し生まれた最新作【SPICE×SONAR TR
AXコラム vol.14】

シンガーソングライターのみゆなが、8月25日にまた新曲を配信リリースする。「また」と書いてしまったのは彼女がとんでもなく多作だからで、さかのぼること2018年10月にリリースした配信ファーストシングル「ガムシャラ」以来、ほぼ2,3か月おきのペースでシングルやミニアルバムを出している。今年に入っても3月に「my life」、4月にAmPmとコラボした「プリズム」(AmPm feat.みゆな)、6月に「ソレイユ」、そして今回の「あのねこの話 feat.クボタカイ」と、コロナ禍による自粛ムードなど委細構わず、やりたいことをやり続けますという姿勢が頼もしい。シンガーソングライターの真価はSNSの発言などではなく常に新曲にあるべきで、歌いたい歌がまだまだあるのだという問答無用の創作衝動がうれしい。
思い起こせば、16歳の初々しくあどけない高校生ながら、ミュージックビデオで見る彼女はきりりと赤いルージュを引き、アコースティックギターをかき鳴らし、笑顔など一切見せずにとんでもなくパワフルな歌を聴かせてリスナーの度肝を抜いた。初期2作「ガムシャラ」「天上天下」がTVアニメ『ブラッククローバー』のオープニングとエンディングに、「僕と君のララバイ」が『FAIRLY TALE』エンディングに選ばれたこともあり、界隈でその名が一気に浸透した。筆者が初めて彼女に接したのはかなりあとのこと、昨年11月の下北沢GARDENでのワンマンライブだが、その時はすでに熱心なファンでフロアはいっぱいだった。歌う時の強烈なエモーション、大人びたクールネスはファーストインプレッション通りだが、明るく気さくな言葉と笑顔でフロアを煽る、意外な二面性が見られて楽しかった。
聞けば、マイケル・ジャクソンやホイットニー・ヒューストンなど、ブラックなポップミュージックが彼女のルーツにあるという。確かに彼女の歌には、ハスキーな迫力ボイスによく似合う、ブラックを感じる独特で強烈なうねりがある。そこにロックのパワー、J-POPの抒情やメロディアスな要素を加え、アニソン的なキャッチーさも振りかけ、みゆなの音楽はできあがる。一方でリリックはきわめて内省的で衝動的なもので、青春の鬱屈を描く代表曲「缶ビール」を筆頭に、生活や恋愛の不安定、不機嫌、不満など“不”の付く感情を燃料にして生きる力に火を注ぐ、ダークなのになぜか元気の出るタイプの曲が多い。令和の青春世代の代弁者と、ちょっと大げさだがそう言ってみたい器の大きさが彼女にはある。
「あのねこの話 feat.クボタカイ」を聴いてみよう。SIRUPとの共同作業などで知られるMori Zentaroによる細密に作りこまれたトラックは、ヒップホップ/R&Bスタイルのクールなダンストラック。ピッチアップしたサンプリングボイスによる印象的なコーラスは、「缶ビール」でも使った同じ手法。ファーストヴァースはクボタカイが、エアリー成分多めのメロディアスな歌を聴かせ、セカンドヴァースはみゆながローの効いたハスキーボイスで応える。フックはみゆなのラインをメインに、クボタが低音ハーモニーを付けるデュエットスタイルで歌い上げる、二人の声のバランスが絶妙だ。
ここでクボタカイの紹介をしなきゃいけない。1999年生まれだからみゆなの三個上、それでもまだ21歳の新進ラッパー/トラックメイカー。年齢以上に落ち着いたメロウ、チル、ノスタルジーな曲調を得意とし、リリックには文学やアートの香りがあふれ、ウィスパー気味のボイスでメロディアスなラップを語る。以前から親交があったそうだが、音源での相性もばっちりで、みゆなの強さとクボタの浮遊感がうまく重なり合っている。
「あのねこの話 feat.クボタカイ」は、リリックも曲も二人の合作。クボタが「もういらなくなった指輪を外して」と歌いだせば、みゆなが「君と二人でいたら/なにも怖くはない」と応える。微妙な恋愛状況の中の、それぞれの心理のずれを投げかけあいながらストーリーは進み、「もういいかい、もういいよ、どうしよう」と意味深なフックを経て、「愛してると言って」と声を重ねあう。イメージとしては、クボタが真摯に思いを寄せ、みゆなが揺れる感情のままにふるまう、ちょっとミステリアスな恋愛チューンか。タイトルは「あの、ねこの話」と、「あのね、この話」のダブルミーニングらしい。リリックにも野良猫が登場し、気まぐれで感情豊かな女の子の象徴として印象的なサブキャストを演じている。
18歳と21歳のデュエットによる、リアルタイムのR&B、ヒップホップ、ダンスミュージックを取り込んだハイセンスなトラックが、J-POPとしてすんなり聴けるほどに時代は進んでいる。次世代シーンを担うべき二人の初共演曲として、「あのねこの話」はずっと語られ続ける出発点になるかもしれない。今こそ耳を貸すべき1曲だ。

取材・文=宮本英夫

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