ピーター・シェーファーの男女混合三
人芝居を連続上演、先陣を切る『わた
しの耳』で上演台本・演出を手がける
マギーが、作品の魅力を語る

『ピサロ』『エクウス』『アマデウス』などで広く知られる、英国を代表する劇作家、ピーター・シェーファー。彼が1962年5月にロンドン・グローブ座で初演して人気を博した、男女混合の三人芝居が『わたしの耳(原題:The Private Ear)』と『あなたの目(原題:The Public Eye)』だ。この一対になったタイトルの二作品を、シス・カンパニーがこの秋に連続上演することになった。
まず『わたしの耳』は上演台本・演出をマギーが手がけ、ウエンツ瑛士、趣里、岩崎う大(かもめんたる)が出演。続く『あなたの目』は上演台本・演出を寺十吾(じつなしさとる)が担当し、小林聡美、八嶋智人、野間口徹が出演する。どちらも物語の舞台となるのは上演当時のロンドンの一角ではあるものの、登場人物もストーリー展開もまるで違うが、男性二人と女性一人の三人による、痛快でちょっぴりほろ苦い笑いに満ちた会話劇であることでは共通している。ニヤリとしつつも、じんわりと沁みる感情を楽しめる、上質な演劇体験が味わえるはずだ。
まだ稽古開始前のマギーを独占インタビューし、『わたしの耳』の作品の魅力や、久しぶりに演劇を作れる喜びについてなど、大いに語ってもらった。
――演出の依頼があったとき、マギーさんはどんなお気持ちだったのでしょうか。
僕が演出のオファーを受ける際、僕はずっとコントをやってきた人間なので、海外のコメディや日本の喜劇であれば守備範囲なのですが、それ以外のジャンルの戯曲に関しては、経験も少ないですし、依頼されても「たぶん僕には出来ないのでは?」と思ってしまうんです。なので、今回も戯曲を読む前は不安だったのですが、『わたしの耳』は実に喜劇で、僕がしっかりと指をかけて登っていけそうな戯曲だったので、すぐに「これ、面白くなりそう、やりたい!」と思いました。
――今回は、演出だけでなく、新たな翻訳を上演台本化されていますが。たとえば特にどういうポイントを意識してたんでしょうか。
上演台本を書くにあたって考えたのは、この作品はとても普遍的な、他者との関係性であったり距離感であったりのギクシャクが描かれているので、これをたとえば現代版に大きくアレンジするということは、まったくする必要がなくて、むしろ、これが書かれた1962年のロンドンを感じさせるような手触りにしたいということです。参考資料として読んだ以前に出版された古い戯曲の、ちょっともってまわったようなクラシカルな言い回しも、「敢えてそういう言葉を選ぶキャラクター」と捉えると面白いですし。そういったエッセンスを入れながら、会話劇としての口語のリズムを意識して語順や語尾なんかを精査しつつ、とにかくずっと3人のキャストの姿を思い描きながら執筆してました。
――そのキャストですが、顔ぶれを見てどう思われましたか。
ひとりずつ決まっていくたびに「ああ、見える見える、面白い面白い!」って、ますます夢が広がりました(笑)。自分が初めて読んだ時に想像した作品の世界観を、変えることなく増幅してくれそうな三人だなと思いました。ボブ役のウエンツくんは、あんなに顔がカッコイイのに、モテなくて自信がないという設定でも全然大丈夫というか、僕の勝手な印象ですけど、そういったちょっと情けない部分も表現できそうな予感がしたんです。
本当はイイ男なのに、自分に自信がなかったりコミュニケーションが下手だったりすると、こういう仕上がりになっちゃう、そういうボブにリアリティをもたせてくれそうだな、と。それと、さっきも言った、昔のロンドンの匂いを出したいという点に関しても「ウエンツくんなら完璧じゃん!」って思いましたし(笑)。
――しかも、ロンドン留学から帰ってきたばかりですしね。
ウエンツくんは翻訳ものをやる上でのハードルというか、違和感みたいなものを軽々と飛び越えられる逸材ですから。そして趣里ちゃんの持つ浮遊感というか無国籍な感じと、あの透明感はドリーンという役にぴったりで、書いててもすごく絵が浮かびました。う大くんは、三人の中で唯一、これまでに交流があるんですけど、実は僕は彼のことをハートはとっても二枚目だと思ってて。今回のテッドという役はとても自信家で周囲をグイグイ引っ張っていくようなヤツなので、う大くんがどういうテッドになっていくか楽しみですね。
――では三人ともが、それぞれちょうど良いバランスだと。
そう思います。ひとりひとりが個性的な上に、それぞれに反応しあってさらに面白い化学変化が起きると思うので、今からものすごくワクワクしています。
――演出面で、現時点で考えていることは?
僕が演出する以上は、ちゃんと笑える舞台にしたいです(笑)。「笑える」っていってもいろんな種類の「笑い」がありますが、今回は、クスクスとくすぐるような、ずっとニヤニヤしたまま觀てしまうようなコメディにしたいと思っています。会話劇の面白さというと、テンポの良さばかりを言及しがちですけど「なんか、妙に噛み合わねえんだよなー」って面白さもある。そういうコミュニケーションや距離感のズレ、セリフとセリフの間の“しばしの間”を楽しむ笑いもあるんだよ、ということを提示したいんです。
――そういう意味では、この時期に合っているかも?
そうかもしれないけど、ニヤニヤ、クスクスの中に、やっぱりアハハ!と劇場でみんなで声を揃えて笑う瞬間の喜びも味わってもらいたいですね。この春の自粛期間には僕自身、そういった状況を渇望してましたから。
――お客さんも、気持ちよく笑いたいと思っている方が多いでしょうし。
ですよね。このメンツでマギーが演出なら、きっと楽しげなものになるだろうと期待してくださってるとも思いますし。その期待には、しっかり応えていきたいです。
――やはりこの春の自粛期間を経ることで、演劇への想いが変わったりしましたか。
「やっぱり人前に出てえな」とか「お客さんの笑い声、聞きてえな」って想いは、より強くなりましたね。自粛期間があけて一発目に出演したバラエティ番組の収録の時、そこにはお客さんはいないし、密になるのを避けるために最少人数のスタッフしかいないんだけど、メイクして衣裳を着て、スタッフの前に躍り出た瞬間に「ああ、これ! これがやりたかったんだ!!」って喜びを感じて、すごく嬉しかったんですよね。人前に出ていって、自分の気持ちがグッとアガる感じ。自分はこれが好きでやってるんだなということを再認識しました。
――この舞台の稽古が始まったら、また違った気持ちも生まれるかもしれません。
そうですね。ウエンツくんも公式サイトの動画で言っていましたけど「やっとできるんだ!」って状況ですから、なんだか僕も含めて全員が肩をやたらとブンブン回した状態で稽古が始まっちゃいそうなんで、あまり気負わずに、稽古場の換気をしっかりやって、空気を入れ替えしながらゆるっと進めていきます。(笑)。
――お客様へお誘いのメッセージをいただけますか。今回は配信もありますから、きっと全国津々浦々の大勢の方が観てくださるはずです。
では、まず劇場でお会いできるかもしれないみなさんに。状況が刻一刻と変わるので、今の時点ではどういう環境で観ていただけるのかを具体的には明示できないですけど。ただ、劇場で直接お会いできるということがお互いにとってこんなにも幸せなんだということに、改めて気づける機会にはなると思うんですよね。今までは当たり前に思っていたことがこんなに素敵なことだったんだということを、みなさんと今一度、一緒に体感したいです。自分と同時に近くの席の人もクスッと笑っているという波動が客席にどんどん伝わっていって、劇場全体にクスクスって波が起きるとか、そういう「劇場での笑い」ならではの楽しさ、喜びを僕らと一緒に分かち合いましょう。
そして、配信でご覧になるみなさんに。画面越しにも舞台上の熱量が届くような作品にしたいと思っています。今までなかなか観劇の機会がなかったような方にも、東京まで電車で観に来るよりもはるかに気軽に観てもらえるチャンスなので、「演劇って面白いんじゃん!」という新しい出会いになれば。そして「いつかナマで観たい!」と思ってもらえたら嬉しいです。
――演劇そのものを初めて観る方にも、とても観やすい作品になるように思います。
ワンシチュエーションで暗転もないですし、途中休憩もないし、生配信にも向いていると言えば向いているかもしれないですね。自分が初めてお芝居を観た時の興奮って、その後もずっと忘れられないものになるので、この舞台が、この生配信が、いろいろな人の初めてになったらとても嬉しいですね。
取材・文=田中里津子  写真撮影=福岡諒祠

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