「豊岡演劇祭2020」平田オリザ+中貝
宗治豊岡市長の第二回会見レポート~
「豊岡ならアートの活動ができるとい
うイメージを加速させたい」

新型コロナウイルスの影響で規模を縮小しながらも、当初の予定通り開催することが決定した「豊岡演劇祭2020」。公式プログラムやフリンジ参加団体の募集について説明した、第一回目の記者会見に続いて、さらに詳細な内容を明らかにする第二回記者会見が、7月30日に[江原河畔劇場]で行われた。出席者は前回に引き続き、フェスティバルディレクターの平田オリザと、実行委員会会長でもある中貝宗治豊岡市長だ。
2020年7月1日に行われた第一回目の会見以降、コロナ禍は予想以上に深刻なものに。会場変更を余儀なくされたり、チケット販売もしばらく地域限定にするなど(注:その後、8月20日より全国を対象に発売することが決定)、主催者にも観客にも厳しい状態となっている。そんな中でも「演劇祭を中止にするつもりはない」と、2人は力強く宣言。その心境と、現時点で決定している演劇祭の内容についてレポートする。
平田オリザフェスティバルディレクター。
まず始めに平田から、演劇祭のチケット販売や変更点、フリンジに参加する団体についての説明があった。8月8日から発売が開始された演劇祭のチケットは、当面但馬エリアの住民限定で販売。この理由の一つ目は、都市部の感染者がさらに増加し、豊岡への来訪を控えてもらう事態になった場合「販売してから“やっぱりお断りします”では混乱が大きくなるから」(平田)。しばらく状況を見た上で、8月下旬までには販売エリアを広げたり、席数を増やすか否かの判断を下すという。
9/10~12に上演する、東京デスロック『Anti Human Education』。 (c)bozzo
さらにもう一つ、チケット購入に慣れていない地元の一般の方々が、気づいた頃には目当ての公演が完売していた……という事例が、過去の演劇公演で多発しているので、優先的にチケットが取れるように配慮したという事情も。そして会場についても、当初は兵庫県最古の芝居小屋[出石永楽館]がラインアップに入っていたが、換気設備の改修工事が演劇祭期間と重なったために除外。その代わりとなるかのように、豊岡市役所内にある[豊岡稽古堂]が、新たな会場に加わった。
(左から)中貝宗治豊岡市長、平田オリザフェスティバルディレクター。
また、公募形式の「フリンジ」に参加する団体も発表。他の演劇祭でのフリンジは自由参加が基本だが、豊岡演劇祭は当面参加団体を事前に選定し、事務局が公演場所をマッチングする形で進めていく。発表が急だったこともあり、平田は「30団体応募があればいいかと思っていた」というが、実際は全国から65団体の応募が。その中から面談などを経て、当初予定していた15団体を大きく超える、24団体の参加が決定した。演劇やダンスの公演だけでなく、フィールドワークや勉強会なども含まれているのが、豊岡演劇祭フリンジの特徴だ。参加団体と内容は以下の通り。
●演劇
うさぎストライプ『ゴールデンバット』
劇団普通『電話』
小菅紘史✕中川裕貴『山月記』
theater apartment complex libido:『libido:AESOP 0.9』
スペースノットブランク『ラブ・ダイアローグ・ナウ』
日坂春奈『かみしばいや』
広田ゆうみ+二口大学『いかけしごむ』
ブルーエゴナク『タイトル未定』
●ダンス
Aokid✕たくみちゃん『MOVE-MOV(I)E MEN-MENT!!!!』
京極朋彦ダンス企画 『未定』
敷地理『blooming dots』
●リーディング
天明留理子(旭堂南明)『城崎で聴く怪談話』
●大道芸
知念大地『続・ひしと』
塚越ピカル『Living Statue』
●フィジカルコメディ
to R mansion『DIVE/JOURNY(ダイブジャーニー)』
●フィールドワーク
山川陸(山川陸設計) 『三度、参る』
●インスタレーション
越後正志 『観測地点』
●トーク
烏丸ストロークロック『タイトル未定 』
●ワークショップ
一般社団法人ダンストーク『マジな性教育マジか』by 康本雅子+池上恵一
「老いと演劇」OiBokkeShi 『老いと演劇のワークショップ』
観客発信メディアWL 『劇評ミーティング』in 豊岡
竹中香子『「民主的演技」を考えるワークショップミーティング』
●勉強会
劇作家女子会。『劇作家による著作権との付き合い方勉強会:死後のライセンスについて』
和田華子『俳優・劇作家・演出家・制作者に向けたLGBTQ勉強会』
9/11~13に上演する、Q『バッコスの信女 ─ ホルスタインの雌』作品イメージ画像。 (c)hagie K
今回は選考基準として、企画内容や将来性などに加えて、厳しい感染症対策に対応できる体制が整っている団体が選ばれたとのこと。会場はこれからマッチング作業に入るが、演劇・ダンス公演を行う団体のほとんどが、屋外での上演を希望したそうだ。これは「三密」を避けるというわけではなく、海や山などの自然風景とのコラボレーションという、都市部ではかなわない体験を狙ったからではないかと思われる。平田も「豊岡演劇祭の一つの特徴が出せた形。来年以降も発展させていきたい」とコメントした。

9/12・13に上演する、cigars『庭にはニワトリ二羽にワニ』。※『キニサクハナノナ』と二本立て。

そして中貝豊岡市長からは、この時期にあえて演劇祭を実行する、2つの理由が述べられた。一つは豊岡市が現在、地域の宝を守り育てながらも、世界的に高い評価を得る「小さな世界都市」構想を推し進める中で、演劇による街作りを非常に重要視しており、演劇祭はその大事な推進力になること。またもう一つは、コロナによって大きな打撃を受けたアートの世界に、再開の灯火を灯すことだという。
中貝宗治豊岡市長。
「フリンジに65もの団体から応募があったのは、大都市でアート活動の機会が失われてしまったから。そこに豊岡が“場所を提供します”と呼びかけたのが、日本中の多くの関係者のハートに響いたと思います。その期待に応えたいし、応えること自体が私たちの地域の価値をさらに高めることになるので、何としても予定通り実行したい。とはいえ強行ではなく、この街のためにやろうとしていることなので、多くの方々の認可をいただいてからやる、というのが基本です。
今はコロナの大きな問題があり、地域の方々に不安がないとは言えません。そのためにも感染症対策はできる限りのことをやり、十分用心しながらも柔軟な対応をしていきたいと思います。演劇のコンテンツに惹かれてお客様が豊岡にお越しになるのは、たとえば城崎の魅力に惹かれてお越しになるのと、基本的に同じ。感染すること・させることがないよう、私たちの体制をしっかりと取って、お客様にもそれなりの注意をしていただいて、お互いがハッピーに、ツーリズムの期間を過ごせるようにできればと思います」。
9/12・13に『いきなり本読み! in 豊岡演劇祭』を上演する岩井秀人(WARE)。
この後に行われた質疑応答では、感染症対策と、万が一感染者が出た場合の対応に質問が集中した。まず、感染が拡大しているエリアからやってくるアーティストに関しては、現地入りしてから最低2週間は地元の人と接触しない生活を送るか、現地入り直前にPCR検査を受けることが、契約段階で義務付けられた。このうち前者の条件で現地入りするのは、現時点では「青年団」関係者のみなので「すべての参加者が、PCRを受けると取っていただいていい」と平田は断言する。

(左から)中貝宗治豊岡市長、平田オリザフェスティバルディレクター。

さらにその検査の結果、参加者の中に一人でも陽性が出たら、その団体は豊岡入りすることもなく、公演自体が中止となる。公演準備および公演期間中に陽性が判明した場合も、即公演を中止した上で会場も封鎖。観客に感染者が出た場合は、上演による感染かどうかを保健所に判断してもらった上での対応となるが「観客との出待ちや交流、劇場外での呑みも禁止するという、厳しいガイドラインで対応しているので、観客から出演者に感染することは、まずないと考えてます」と平田。さらに観客には、入場時に接触確認アプリのDLを確認するなど、感染者が出た場合速やかに通知できるシステムを整えている。
9/13に上演する、室内オペラ『零(ゼロ)』作曲者の中堀海都。
中貝市長は、会見一週間前に[城崎国際アートセンター]でパフォーマンス公演が再開された時の、主催者側の対応に触れ「消毒はもちろん、観客同士でもおしゃべりをしないなど対策が徹底していて、観客としてかなり安心感があったという声を、たくさんいただきました。どんな対応をしているかを、できる限り具体的に市民の皆様にお伝えしていきたい」と、豊岡独自の公演ガイドラインが、すでに動き出していること説明した。
演劇祭自体の中止については、全国にパンデミックが広がり、兵庫県全域に非常事態宣言が出されるぐらいの末期的状況にならない限りは「考えていない」と、平田と中貝市長は口をそろえる。
9/17~22に上演する、青年団『眠れない夜なんてない』。青年団は他にも『ヤルタ会談』(9/9~14)、『思い出せない夢のいくつか』(9/19~21)を上演。  (c)青木司
「但馬の中では日々いろんな(経済)活動が行われていて、演劇祭もそのワンオブゼム。豊岡の中でどういう日常的な生活が可能なのかということと、歩調を合わせていければと思います。たとえば神戸で一切演劇ができなくなっても、豊岡ではそれが許されるような現状であれば、(規模が)小さくなってもやるつもりです」(中貝)
「国や県からの(全面中止の)法的な判断が出たら、それに反抗するつもりはありませんが、そうでない限りは中止にする理由はないです。政府がこんなに対策を打たないとは思っていなかったので、状況が本当に読めないし、もう私がどうこう言える問題ではない。感染者の動向や、政府や県の指示に合わせて、粛々と準備を進めていくしかないです」(平田)
9/19~21に上演する、マームとジプシー『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。 そのなかに、つまっている、いくつもの。 ことなった、世界。および、ひかりについて。』(2016)  (c)橋本倫史
さらに平田は、ドイツ・ベルリン副市長が寄せた「自粛をして、すべてのウイルスを殺せたとしても、その後に文化が何も残らなかったとしたら、私たちは何のために戦ったのかわからなくなる」との言葉を引用した上で、コロナ禍での文化活動を推し進めていく意義について、こうコメントした。
「“命か経済か”という風にずっと言われてますが、私たちはその中間の領域があると思っています。生きるということは、ただ単に生きるだけでなく、よりよく生きることが非常に重要。命の次に大切なものは、皆さんそれぞれあると思います。それが演劇だったりアートだったり、ある人にとってはスポーツ観戦、ある人にとっては人と呑むことだったり。
(左から)中貝宗治豊岡市長、平田オリザフェスティバルディレクター。
今私たちは感染のリスクと、そういう生きがいを天秤にかけながら、社会的な活動を再開する時期にきています。ゼロリスクはないし“これぐらいはやっていい”という正解もないけれど、安全を最優先にしながら、それを探っていきつつ活動を再開していく。そうでないと、私たちはまたもう一回全員閉じこもって、何週間も家で過ごすことになります」。
十分な観客が集められるかはもちろん、全プログラムが無事に上演できるかどうかもわからないという、波乱の船出となっている「豊岡演劇祭2020」。それでも平田は「この時期にこの規模の演劇祭を安全に、感染者を出さずにやれたら、それが一番の演劇祭の評価につながる」と、前向きに考えている。
五反田団『偉大なる生活の冒険』(2019年)より。新作『いきしたい』は9/19~21に上演。
「たとえば私は[こまばアゴラ劇場]を30数年経営してきましたけど、自分の誇りは死者も大きな怪我人も、一度も出さなかったことです。これはディレクターや芸術監督として、とても大事。参加する人の安全を守るのは、ウイルスの問題がなくても一番重要なことです。
そうして実行することで、来年フリンジにたくさん応募があれば、それがはっきり数字に出る演劇祭の評価になるでしょう。今回はコロナで表現の場を失ってしまった多くのアーティストが、豊岡なら活動が再開できるというので応募してくれました。このイメージを持続して、そして加速していく演劇祭にしたいと考えています」。
9/20に上演する、変わりゆく線 『四つのバラード』に出演する木田真理子。 (c)John Hall
この会見から数日後には、平田が「今回の目玉」と言っていた、鈴木忠志、高田みどり、SAMGHA/真言聲明の会『羯諦羯諦』の中止が、早くもアナウンスされた。しかし「密」の最たる場所である劇場で、長期に渡って同時多発的にイベントを行っても、一件のクラスターも出さないことに成功すれば、今後のライブエンターテインメントの規制緩和に、少なからず影響を与えられるのでは……という期待もある。
9/20に上演する、変わりゆく線『diss__olv_e』振付の平原慎太郎(OrganWorks) (c)Eiji Takahashi
そしてこの記事の入稿直前に、8月20日から全国を対象にチケット発売を開始するという朗報が飛び込んだ。コロナの状況はまだまだ予断を許さないが、演劇祭に参加するアーティストたちはもちろん、地元の観光関係者や飲食業の人たちも、全方向から万全の体制で迎え入れる準備をしてくれているはずだ。やむなく足を運べない人たちのために、配信での発信も検討しているとのことだが、可能であれば感染症対策をしっかりと行った上で、この演劇祭の誕生と、自然豊かな晩夏の豊岡の観光を楽しみに行っていただけたらと思う。
(左から)中貝宗治豊岡市長、平田オリザフェスティバルディレクター。[江原河畔劇場]エントランスにて。
取材・文=吉永美和子

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