鳥山雄司の還暦祝うコンサート『鳥山
雄司~Happy60~』 ユーミン、葉加
瀬太郎らが集結した珠玉の一夜

鳥山雄司~Happy60~ 2020.8.13
日本を代表するギタリストであり、音楽プロデューサー、作曲家、編曲家としても活動している鳥山雄司の還暦を祝うコンサート『鳥山雄司~Happy60~』が8月13日、ビルボード横浜で無観客で行われた。このコンサート、もともとは3月に行われる予定だったのだが、新型コロナウィルスの影響により1度は中止となり、その後、8月13日に開催されることが決定。コロナ禍がいまだに続く状況から無観客でのステージとなった。
音楽という名前の磁力によって引き寄せられたのか、素晴らしいミュージシャンのもとにはやはり素晴らしいミュージシャンが集っていく。盟友である武部聡志が音楽監督を務め、松任谷正隆松任谷由実ブレッド&バター葉加瀬太郎など、音楽での交流のあるゲストが参加。さらにスペシャルバンドとして、神保彰(Dr)、Tomo Kanno(Dr)、須永和広(B)、遠山哲朗(Gt)、本田雅人(Sax)、今井マサキ(Cho)、加藤いづみ(Cho)という充実の布陣がサポートしていた。またナビゲーターとして放送作家の小山薫堂も参加。
小山薫堂
鳥山は祝われる側ではあるのだが、最初から最後までステージに出ずっぱりだった。バンド編成での演奏だけでなく、単独でのギターソロ演奏もあった。エレキギターはもとより、ガットギターなど、アコースティックギターでの演奏もあり。ギターを思う存分弾きまくることこそが彼にとっては“Happy60”ということなのだろう。卓越したテクニックのもと、時には詩情あふれるプレイを披露。作曲家でもあるからか、歌心も備えており、切れ味の良さとメロウであることが両立している。それぞれの曲の世界観とマッチした表情豊かなギターの音色も聴きどころだ。
鳥山雄司~Happy60~ 撮影=三浦麻旅子
彼がソロアルバム『take a break』でデビューしたのは1981年。約40年に及ぶキャリアの歴史が見えてくるような構成でもあった。彼の代表曲である「The Song of Life」のギター・ソロによる幕開け。高校時代からのバンド仲間であり、フュージョンユニット・Pyramidのメンバーである神保彰(Drums)、の和泉宏隆(Piano)とともに、Pyramidの「Tornade」を演奏する場面もあった。息のあった自在なアンサンブルは音楽の快楽そのものだ。
葉加瀬太郎 撮影=三浦麻旅子
鳥山が数多くの作品でプロデュースを手掛けている葉加瀬太郎もゲストとして登場。鳥山のガットギターと葉加瀬太郎のバイオリンでの共演となった「エトピリカ」ではリズミカルでありながら、優美かつ繊細な演奏が見事だった。松任谷由実が鳥山に書き下ろした「Seven Miles Bridge」では松任谷正隆も参加。ラテンのテイストも感じ取れる洗練された曲で、軽快でありながら不思議な深みと味わいとがある演奏に酔いしれた。
松任谷正隆 撮影=三浦麻旅子
1969年にデビューした兄弟によるフォーク・デュオ・ブレッド&バターも登場。彼らとは1979年からの付き合いという鳥山は、ブレッド&バターのレコーディングやツアーにも参加している。茅ヶ崎出身のブレッド&バターと藤沢出身の鳥山による「ピンク・シャドウ」では“湘南サウンド”を堪能した。開放感があって、洗練されていて、ほのかにせつなさが漂っている。ブレッド&バターの岩沢幸矢は現在77歳なので、60歳の鳥山が若輩者のように見えるところがおかしかった。松任谷由実もコーラスで加わって、彼女が作詞・作曲した「あの頃のまま」では独特の陰影のある大人な歌と演奏が染みてきた。鳥山はかつて松任谷由実のライブのサポートメンバーをやっていた経緯もあり、このレアな共演が実現した。
ブレッド&バター 撮影=三浦麻旅子
「中央フリーウェイ」は通常よりもフュージョン・テイストが濃くなっていると感じ、鳥山のギターも実に心地良く響いてきた。中央フリーウェイから横浜の海が見えるハイウェイへと時空を越えて、夜空を越えてワープしたかのようで、ビルボード横浜という空間で松任谷由実の歌声を聴くのは特別な体験となった。「やさしさに包まれたなら」では松任谷由実と葉加瀬太郎の初共演も実現。なんとヒューマンな歌と演奏なのだろうか。素晴らしいメンバーたちの心をこめた演奏によって、この曲のみずみずしい輝きがさらに増していると感じた。この光はどんな時代にもどんな困難の状況下であっても人々の胸の中を照らしてくれるに違いない。
葉加瀬太郎 / 松任谷由実 / 鳥山雄司 撮影=三浦麻旅子
「今日、お祝いに駆けつけてくださったみんなの感謝の意味とリスペクトを込めて、ひとりで演奏したいと思います」という挨拶に続いて、鳥山がガットギターでソロ演奏を披露した。この日の出演者たちの曲をモチーフとしてメドレーでつなぐ粋な演出だ。スティーヴィー・ワンダーからの提供曲であり、松任谷由実が作詞したブレッド&バターの「特別な気持ちで(I Just Called To Say I Love You)」、松任谷由実の「春よ、来い」、葉加瀬太郎の「情熱大陸」など。優美で深遠な演奏が素晴らしい。そのまま葉加瀬太郎、スペシャルバンドのメンバーとともに「情熱大陸」へ突入。さらに冒頭でソロ演奏を披露した「The Song of Life」へ。互いにリスペクトしあっているミュージシャンたちが集って奏でる演奏は壮大で感動的だった。
武部聡志 撮影=三浦麻旅子
『鳥山雄司~Happy60~』は鳥山本人はもちろん、関わった人すべてを“Happy”にしてくれるスペシャルなコンサートとなった。人と人とが一緒に演奏することのがけがえのなさも強く感じた。そしてまたシティポップス、フュージョンミュージックと呼ばれる音楽が時代を越えて、常に新鮮な輝きを放っていることも再確認した。鳥山が80年代前半に制作した作品が現在、ロンドンのクラブ・シーンで脚光を浴びているという状況もある。開放的で伸びやかでゆるやかでありながら、躍動感にあふれていてスリリングで、ひたすら気持ちいい音楽。若い世代にとっては、彼の音楽は新鮮に響くだろう。
鳥山雄司 撮影=三浦麻旅子
このステージの模様は10月21日に午後7時〜WOWOWで放送、さらに10月30日午後6時〜11月6日午後11時59分の期間限定でLIVE LOVERS版(完全版:全曲完全配信・リハーサルドキュメンタリー・出演者インタビュー)で有料配信される予定。この日は客席のスペースを有効に活用して、合計29台のカメラが設置されていた。鳥山の足元にも小型カメラがあったので、エフェクターの切り替えなど、足元の細やかな動きまで、確認できそうだ。小型ドローンでの空中撮影もあり。超一流ミュージシャンたちとのスリリングなプレイの応酬、息づかいや表情、指の動きなど、臨場感あふれる映像を期待していいだろう。配信ライブを目撃することもこのイベントに関わっていくやり方のひとつ。当日、ビルボード横浜に充満していた“Happy”はきっと画面越しにも届いていく。

取材・文=長谷川誠 撮影=三浦麻旅子

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