森山開次×新国立劇場バレエ団『竜宮
 りゅうぐう』~誰もが知る「浦島太
郎」がファンタジックなバレエに

2020年7月24日(金)から新国立劇場バレエ団『竜宮 りゅうぐう~亀の姫と季ときの庭~』(以下『竜宮』)の公演がはじまる。振付は国内外で広く活躍するダンサーの森山開次。ダンスやオペラの振り付けも行うほか、新国立劇場ではダンス公演で『サーカス』(2015・18 年)、『NINJA』(2019年)で自らダンサーとして、さらに演出・振付・アートディレクションを行い「森山ワールド」ともいえる遊び心も交えたアーティスティックな世界を展開している芸術家だ。今作はその森山が誰もが知る日本のおとぎ話『浦島太郎』を、原典である御伽草子に収録されている物語をモチーフにしたバレエだ。通常であればバレエ団恒例の夏の「こどものためのバレエ劇場」公演の新作であるに加え、新型コロナウィルスによる劇場閉鎖明けの初のバレエ公演となった。大人も子供も、あらゆる世代のバレエファンが期待を寄せている。(文章中敬称略)
(c)石塚定人

■助けた亀はお姫様。キッチュで可愛く愛らしい海の生き物たちにも注目
誰もが知る『浦島太郎』は「助けた亀に連れられて……」の童謡のように、亀とともに竜宮城へ行き、乙姫に迎えられタイやヒラメの舞い踊りを楽しむうちに時がたち、国に帰り土産の玉手箱を開けたら老人になってしまった……というお話。だが「御伽草子」の物語は助けた亀がそもそも竜宮城の姫であるということは、実はあまり知られていない。しかも『浦島太郎』の物語には続きがあり、森山も「物語を読んで一番驚いたのは、太郎がお翁さんになったあと、さらに鶴に変身して亀の姫と再会し、最後には鶴亀の夫婦明神となって人々を守っていったという話です」と語る。
Photo by Isamu Uehara
バレエはこの物語をベースに、太郎と亀のプリンセスの心のふれあいを軸としながら、鶴亀の神となり「めでたしめでたし」となるファンタジーが描かれるという。すでにポスターなどに登場している竜宮城の仲間たち――フグやイカや金魚など――もキッチュでかわいらしく、森山がデザインしたという衣装ともども、実に楽しみでならない。
Photo by Isamu Uehara
Photo by Isamu Uehara

■災禍を経て舞台と再び対峙するときに思う「時」
またこの物語は季(とき)の庭と呼ばれる四季――いわば「移ろいゆく時」という、もう一つのテーマも織り込まれているという。
「ダンスや音楽は、時の芸術。舞台上の一瞬を届けるために、私たちは鍛錬と稽古を繰り返す」と森山。
「時とは何か。そして、竜宮城とは何か。なぜ、太郎は故郷に帰ったのか。現代を生きる私たちも"今"という時をどのように生きるべきか、あらためて見つめることができるかもしれません。当たり前のようにあった<舞台のありがたさ尊さ>をあらためて感じる今、時の感覚も違って感じられます」という森山の言葉は、この災禍で舞台から遠ざけられたダンサー達はもちろん、我々観客にとっても<舞台のありがたさ尊さ>を実感する時になることは間違いない。世界初演でもあるこの舞台、あらためて舞台芸術に対峙することのできるその「時」のすばらしさを、ぜひ心ゆくまで感じたい。
Photo by Isamu Uehara
文=西原朋未

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