ツアーのドキュメントを収めた
ジャクソン・ブラウンの
変則ライヴ盤『孤独なランナー』
『プリテンダー』の深い味わい
本作『孤独なランナー』について
バックを務めるメンバーはブラウンの大切なパートナーでラップスティール、フィドル、バンジョー等の名手デビッド・リンドレーと、アメリカを代表するスタジオミュージシャンチームのザ・セクション(リー・スクラー、クレイグ・ダーギ、ラス・カンケル、ダニー・クーチ)で、痒い所に手が届くような秀逸な演奏を聴かせる。彼らとはブラウンがデビュー時からの付き合いなので、アルバムのコンセプト的にも気心が知れているメンバーであることは重要だったと思われる。
また、バックヴォーカルには、ローズマリー・バトラー(このアルバムで一般に名前が知られ、角川映画『汚れた英雄』(‘82)のテーマ曲でリードヴォーカルを務める。11週連続でオリコン1位)と、『レイト・フォー・ザ・スカイ』でベース&コーラスを務めたダグ・ヘイウッド(ソロ・アルバムもリリースしている)が参加している。
本作はこれまでのアルバムとは違って、ブラウン自身の曲作りよりも歌うこと(コーラスも含め)とバンドのアンサンブルに重きを置いているようだ。だから、自作ということにとらわれず、カバー曲も取り上げているのだと思う。アルバムのコンセプトが“ミュージシャンの旅の物語”なので、曲作りというよりは自分とツアーメンバーの関係性をドキュメントすることが重要となる。
収録曲はどれも秀逸で素晴らしく、いつもの音作りと比べると、よりロックを感じる力強さみたいなものが加わっている。一曲目の「孤独なランナー」でガツンとワイルドに攻め、それが後半になるにしたがってジワジワと染みてくるような曲の配置がなされている。最後からひとつ前の「ザ・ロード・アウト」では、いつものブラウンらしい繊細さを聴かせながら、切れ目なく続くポップスのカバー「ステイ」では、これまでにないユーモアたっぷりのサウンドで締め括られるのであるが、その部分は何度聴いても鳥肌ものである。この曲でのバトラーの力強い歌声とリンドレー(子供のようなファルセット)のヴォーカルは微笑ましくもあり、ブラウンにとって、バンドやスタッフが悲しい日常(例えばフィリスの死)を忘れさせてくれる存在なのだということを、本作を通して表現しようとしたのではないか。
残念なことに、ブラウンが生み出した傑作はここまでの5枚で、80年にリリースされた『ホールド・アウト』は全米1位となるものの、それまでのブラウンが好きだったファンはその出来に納得できないまま、離れていくことになるのである。時代はデジタル時代に突入し、テクノ、ニューウェイヴ、ディスコ音楽が主流になっていき、SSW系の音楽はしばらく忘れられるのである。
TEXT:河崎直人