『桂米團治独演会』が有観客公演で開
催、同時にイープラスのStreaming+
にて生配信も「リモート配信を使って
新たな可能性を見出したい」

7月23日(木・祝)、大阪梅田のサンケイホールブリーゼにて『サンケイホールブリーゼ米朝一門落語会シリーズ2020 桂米團治独演会』が開催される。『サンケイホールブリーゼ米朝一門落語会シリーズ 桂米團治独演会』は、2009年の同会場オープン以来ほぼ毎年7月に行われており、今年で12回目となる。新型コロナウイルス感染拡大による営業自粛要請で、同会場も4月2日から劇場運営ができなくなっていたが、ようやく光が見え、営業開始第一弾が本公演に決定した。だが、感染拡大防止ガイドラインに沿って、客席数を半分に減らした上で観客を入れ、同時にリモート生配信を行うという形での催しとなる。これは会場にとって初の試み。開催決定を受けて6月22日、ブリーゼプラザ小ホールにて落語家・桂米團治と株式会社ブリーゼアーツ代表取締役・大竹正紘氏の合同会見が行われた。決意の会見の様子をレポートする。
●落語は1人でできる舞台芸術。リモート配信で新たな可能性を見出したい●
検温と消毒を済ませ、会見会場のブリーゼプラザ小ホールに足を踏み入れる。広々とした会場にはソーシャルディスタンスの措置がとられ、長机1本に対して椅子一脚、机と机の間隔も広く設定されていた。定刻になると桂米團治と大竹氏が登壇。まずは大竹氏からコロナ禍におけるサンケイホールブリーゼの現状と、本公演を開催するに至った経緯が説明された。
株式会社ブリーゼアーツ代表取締役 大竹正紘
2009年のオープン以来順調に興行を重ね、稼働率も右肩上がりだったという本会場。コロナの感染拡大で、例に漏れず公演・企画が軒並み中止となり、「今まで経験したことがない最悪の事態になった」と語る大竹氏の口調からは戸惑いと、やり場のない憤りが感じられた。自粛要請が解除になったものの、「劇場の管理者にとっては、かなり厳しい条件を提示されております。それでも多くの来場者を迎える劇場側の使命や責任を鑑みれば、不満ばかりを訴えても何もなりません。米朝事務所の社長でもあります米團治師匠と何度も話し合いながら、ようやく公演を再開する運びになりました」と述べた。また、生配信はJ:COMグループの株式会社エニーの協力で行い、配信プラットフォームはイープラスのStreaming+にて行われることもアナウンスされた。
落語家 桂米團治
続いて桂米團治が挨拶。コロナの影響で米朝事務所も3月から公演中止が続出。独演会は5ヶ月ぶりだという。「いろんな公演がキャンセルされていくんです。こんなことではどうすんねん、という気持ちがありました。落語だけではございません。全ての舞台芸術が止まってしまったんです。演劇も歌舞伎も「ソーシャルディスタンスを考えた演出に変えなさい」と言われる。そんななか、落語は1人でできるじゃないか。舞台芸術を代表して先手を切るのが噺家のやることじゃないか? という思いに駆られました」と使命感に燃え、その想いを何度も大竹氏にぶつけたという。1度は開催中止の通達があったものの、撤回ののちにOKが出たとのこと。「米朝事務所に、7月23日は検討の結果中止と連絡がありました。僕の気持ちは独りよがりやったんやなと思いましたが、週明けに大竹社長から大きな声で電話があって、「前言撤回! 米團治さん、そんな想いならやりましょう!」と。私は涙が出てしまいました」と喜びを語ると同時に「前例のないことをしなければいけない世の中。好むと好まざるに関わらず、リモート配信というものを使わなければ興行収益が得られない世の中になってしまいました」と憂いも口にした。
公演を一度中止にした後で撤回したいきさつについて聞かれた大竹氏は、「劇場はやっぱり人が集まってなんぼですから、ここは1つ米團治さんの力を借りようと。一度中止と言ってみっともなかったですけど、土日悩みに悩んで、月曜の朝1番に「船を動かさないと我々も劇場人として終わってしまう」とお願いしました。チラシも実は今日できました」と述べ、決定から開催まで1ヶ月という超スピード感で準備が進められていることを示唆した。
舞台芸術、音楽、映画、イベント業界。今、誰もが試行錯誤してリモート配信の在り方を模索している最中だ。米團治は「配信チケットでどのくらい売れるのか。お客さんを入れて同時に配信をして、どれだけ感動を呼ぶのか、わかりません。でもこの閉塞感をまずは噺家から打破していこうじゃないかと思うに至った次第でございます」と述べ、「誰がどれだけ儲けるのか、採算はあるのか、勝算はあるのか。そんな時代ではなく、皆が幸せになるようお互いに助け合ってやっていきませんか。そういう時代に入ったと思います」と語りかけた。
桂米團治
また、自粛中に様々なリモート落語を視聴したという米團治。「例えば桂吉弥のZoom落語、春風亭一之輔くんの無観客落語、自宅からの配信。その結果、やはり落語はお客さんあっての芸だから、お客さんがおられないと笑いや感動は伝えにくいんじゃないかなと思い、お客さんが入った上でのリモート配信という考えに至った次第です。いかにその空気を一緒になってリモートからご覧いただけるかが課題ですけども。全てが実験です」と、有観客&リモート配信に決めた理由を語った。
そして「リモートは目的ではありません。目的はお客さんがぎっしり入った会場で生の落語を聞く。これが最高の喜びです。どんなジャンルの舞台芸術も生に勝るものではございません。でもそれができない今だからこそ、手段の1つとしてリモートを使います。リモートによって今まで気がつかなかったことも見えてきました。例えば出囃子の時にカメラがポンと切り替わって三味線をアップで映す。これは生ではなかなか見られへんシーン。リモート配信を大いに使って、新たな可能性を見出そうと思っております。皆様ぜひ宜しくお願い致します」と締めくくった。
●リモート配信は落語の原点回帰●
桂米團治
続いて質疑応答が行われた。演目を選んだ基準については「リモートでどこまで伝わるのかと自分なりに不安があったので、演者があまり姿勢を崩さずとも感情を伝えやすい『子は鎹』を選びました。トリの『本能寺』は音曲がたっぷり入るので、リモート配信にふさわしいと思いました。上方落語の原点は神社仏閣境内での辻噺。音曲、三味線に囃してお客さんを招き入れるというスタイルなので、まさに原点回帰だなと思います。『落語公社』はまだ1回もやったことがないのでどうなるかわかりませんが、『ぜんざい公社』のパロディーです」と新作落語が披露されることも発表した。
(左から)株式会社ブリーゼアーツ代表取締役 大竹正紘、桂米團治
また、配信チケットの値段設定についても「世間で言うと1000円とか、YouTubeは投げ銭ですが、簡単に配信したらしっかり見ていただけないだろうし、元々は劇場に足を運んでいただくのが主であって、配信は補足という形は崩したくなかった。2500円か3000円かで師匠と議論して、落ち着いた金額であり、あまり根拠はないです。何人ご覧になるかもまださっぱり見えないので、これから色々わかってくるんだと思います」と手探りの状態であることを素直に述べた。
アーカイブに関しては「これから詰めていくところ。皆さん同じ時間に同じ空間を共有しましょうというのが私の基本的な思いです。ただ、何より初めてのことで、どういう問題が起こるかわからないので、24時間いわゆる保険としてアーカイブを設定しておかなければ、という気持ちはあります」と米團治が話した。
●“コロナのせい”ではなく、“コロナのお陰でこんなことができた”●
桂米團治
米團治は自粛中の想いについて「最初は演者として言うならば、ちょっと休めてホッとした時期もありました。芸能プロダクションは土日こそ忙しい。だから舞台ができなくて残念やという気持ちより、最初はどっちかというと、ああ〜休める〜! その次に、金ない〜! どうしよー! という順番でしたね」と振り返った。
また、「できた時間で色んな動画配信を見ると、新しい発見があって。他の演者の落語をゆっくり聴けたり、昔の映像を見直して自分を見つめ直すことができたので、それは良かったと思います。落語は1人の人間が座布団に座って喋るだけで色んな世界を描くことができる。立川談志師匠は「人間の業を肯定すること、これが落語だ」なんて言わはりましたけど、まさに森羅万象人間の生き様が描かれているということにおいて、落語の魅力はすごいなと思いました」と目を輝かせた。
そして「私だけではなく大竹社長も含め、会社を経営する人は本当に胃が痛くなるような毎日だと思います。そんななかで何かをやって、新しい可能性を見つけて、“コロナのせい”ではなく、“コロナのお陰でこんなことができたよ、コロナのお陰で新しい発見があったよ”というようなことに結びつけるのが経営者の使命だと思っております。答えはまだ見えません。採算もまだわかりませんが、まずはやってみようという気持ちです」と前向きに進んでいく気持ちを表明し、会見を締めた。
桂米團治
新型コロナウイルスで人に気軽に会うことができなくなり、生身の交流が持ちにくくなってしまった。しかし米團治はしきりに「人間の文化は人と人のふれあいから始まる。心の中ではつながりましょう」と話していた。落語と人、人とのつながりを途絶えさせぬよう、前代未聞の状況の中で変化の道を選んだ米團治の顔には、強い決意の表情が浮かんでいた。そして最後は笑顔でガッツポーズ。この英断を見守りつつ、とにかく1日でも早いコロナの収束と、元通り芸術文化を楽しめる世の中が戻ることを願うばかりだ。
また、今年は桂米朝没後5年の年となる。計画されていた米朝祭が今後開催されるかはまだわからないが、「米朝への感謝を何かの形で表したいなとは思っております」との米團治の言葉に期待したい。
取材・文・撮影=ERI KUBOTA

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