[Alexandros] 2段構えの配信ライブで
目の当たりにした、不屈のロックバン
ドの姿

Party in ur Bedroom 2020.6.20
定刻を1分ほど過ぎたところで一旦画面が暗転すると、[Alexandros]の面々――川上洋平(Vo/Gt)、白井眞輝(Gt)、磯部寛之(Ba)の3人に加え、サポートのリアド偉武(Dr)とROSE(Key)がカメラ側から各々の演奏位置へと歩いていき、スタンバイ。川上がアコースティックギターを爪弾きながら歌い、白井のギターと磯部のベースがミュートした音色を奏で寄り添っていく。無観客配信ライブとして行われた『Party in ur Bedroom』のオープニングを飾ったのは、リモートワークで制作されたセルフカバーアルバム『Bedroom Joule』からの「Starrrrrrr」だった。
続く「Run Away」はダンスミュージック調のアプローチで、無機質と有機質の狭間を漂うようなテンション感と、サンプリング音源を切り張りしたような感触を、生演奏でしっかりと表現。原曲よりも低いキーで歌う川上のボーカルは、穏やかさの中にどこかほろ苦さを感じさせ、時より艶っぽくも響いてくる。前半はチルアウトな雰囲気で統一された『Bedroom Joule』の収録曲を曲順通りに再現(といっても厳密にはライブはリリースの数時間前だったが)していく流れとなっていたが、原曲があるとはいえほぼ別物に生まれ変わっている楽曲群を、限られた準備期間でここまで仕上げてきたのか、と驚かされるシーンの連続だ。
[Alexandros] 撮影=河本悠貴
また、特筆すべきは1〜2曲演奏を終えるごとにショートMCを挟んでいたこと。普段の彼らの場合、客席を煽る以外はほぼMC無しで2時間ほど突っ走ることすら珍しくないが、この日は川上と磯部が中心となって、チャットのコメントを拾ったり、曲の紹介をしたりしながら進んでいった。耳元で繰り広げられる気さくなトークは聞き取りやすいし心地よく、なんだかラジオみたいだ。イヤホンやヘッドホンから直接耳に届く環境がプラスに作用していたのは演奏面も同様で、多重に重ねたコーラスをボーカルエフェクトとして繊細に用いていた「Leaving Grapefruits」や、「月色ホライズン」のほぼアコギと歌のみというシンプルな味わいなど、ライブハウスでドカッと鳴らせる環境では埋もれてしまうような細かい聴きどころがたくさん用意されている。
ODD Foot WorksのPecoriをフィーチャーした『Bedroom Joule』バージョンの「city」だけは、この日はお預け。ラップがメインのアレンジなのでやむ無しだったが、「いつかライブのゲストに呼びたい」(川上)との発言も飛び出したので楽しみ。アルバム再現パートを締めくくったのは新曲の「rooftop」で、ピアノとアコギがメインのアコースティックな楽曲を、前半に披露された中ではひときわ生音のあたたかみを感じることのできる演奏で届けてくれた。ラスサビへ向けた盛り上がりで白井が掻き鳴らすギターの音色がいい具合に渋くて思わずニヤリとする。
[Alexandros] 撮影=河本悠貴
「ご覧の皆様、まだまだいけますか!」
川上の呼びかけとともにライブは後半へと進む。タイトルからして今日は全編しっとりテイストかと思ったら大間違いだった。ここからはメンバーもスタンディングでの演奏に切り替わり、まず手始めに軽快な8ビートに乗せて「Oblivion」を、次いでパンキッシュなインストゥルメンタル「Burger Queen」を投下。歪んだエッジーな音がぶつかり合い、照明は激しく明滅。カメラワークも手持ちっぽくなって、臨場感がグンと増す。これはもはや『Party in ur LIVE HOUSE』だ。
「オンラインだからってシンガロングさせないなんて思うなよ?」「声出せないなら書き込むこともできるっしょ」と画面越しのコール&レスポンスを繰り出した「Dracula La」ではお馴染みの変拍子のキメもバッチリ決め、「Waitress, Waitress!」へと繋ぐ。川上の高速カッティングが弾み、磯部は低い位置に構えたベースをバチバチ引っ叩く。こちらのテンションは言うまでもなく最高潮だが、それは画面の向こうも同じだった。演奏を終え、「アッツい! これ、最高のライブですよ」と切り出した川上は、「『今日はこんな感じなんだな』では終わりませんから、[Alexandros]は」と、前半が嘘のようにアグレッシヴに変貌したライブに満足気な表情を浮かべていた。
[Alexandros] 撮影=河本悠貴
すでに予定の1時間を越えているが、まだまだ終わらない。獰猛な重低音が唸りを上げる「Mosquito Bite」、てっきり今日は聴けないかと思っていた「city」(旧来のアレンジで)、そしてライブのド定番「Kick & Spin」まで全15曲を演奏したのだった。5人がステージから去ったかと思うと、すぐさま画面が楽屋の中継映像に切り替わるという配信ならではのサプライズが。一息つきながらグッズもさりげなく(?)PRし終えたところで、チャットを埋め尽くすアンコールの声に応えて再びステージへと戻り「PARTY IS OVER」、そして最後は通常アレンジの「Starrrrrrr」を演奏。<彷徨って 途方に暮れたってまた明日には 新しい方角へ>――高らかに歌われる不屈の魂が、いつも以上に胸を打つ。「また必ずお会いしましょう」との言葉を残して、1時間40分強に及んだ配信ライブを終えた。
様々なバンド、アーティストが配信ライブにトライするようになり、それぞれが最適なやり方/見せ方を模索している現在。僕もこれまで何本か観てきているが、大きく分けるとほとんどが「いつものライブを再現する」「普段とは違う、配信でしかできないことをする」のどちらかのアプローチになっている。そんな中で、彼らの選択はといえば、「どっちもやっちゃおう」というものだったのだと思う。しかもフルボリュームで。数ヶ月前には予想だにしなかった状況下における、このチャレンジ精神とサービス精神に満ちた試みは、今まで何度となく逆境を跳ね返し続けてきた[Alexandros]というバンドの真骨頂に他ならない。

取材・文=風間大洋 撮影=河本悠貴
[Alexandros] 撮影=河本悠貴

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