インプロのゲーム性がzoomと意外な親
和性~『オンライン・インプロ実験ラ
イブvol.2』は劇場と俳優と観客をオ
ンラインで結ぶ

新型コロナウイルスの副産物として、演劇もWeb会議サービス「zoom」を使った配信があちこちで行われている。まさかの『12人の優しい日本人』『12人のおかしな大阪人』は長く演劇ファンをやっている者としては涙も流さんばかりにうれしかったし、行定勲監督が『きょうのできごと a day in the home』を手がけたのはさすがを思わせた(映画として挑戦したのかもしれないけど)。また若い劇作家たちは「zoom」用に脚本を書くという動きをしている。
そして、いろいろ見た中で、演劇に関して言えば「zoom」ともっとも親和性を感じさせてくれたのは、実は日本のインプロ(=即興演劇)の第一人者・絹川友梨とその仲間たちによる『Online Impro Live』だったかもしれない。インプロとは、打ち合わせや台本はなく、その場で出されるさまざまなお題に対し、瞬時に仲間と協力しながら、筋道の通ったストーリーを創造していくというもの。もちろん、ルールの中で飛躍力あるアイデアを繰り出せる、参加している俳優たちの実力も重要になってくるのだけれど。
家にあるもの時間内に探し出してくる「しりとり」、お題に沿った物語を展開する中で使ってはいけない文字を指定する「NGワード」、映画などのタイトルをもとにまったく違う物語を展開する「ダビング」、犯人を当てるサスペンスタッチの物語「毎日サスペンス劇場」などなど、ゲーム性の高い展開と司会者の軽妙なツッコミなども相まって、パソコンの前で思わず大爆笑してしまった。4月には4日間連続の公演を行なったが、毎晩100人近いファンが鑑賞していた。
「しりとり」マグカップの「プ」で皆さんが集めたものは
俳優だけでなく、お客さんも含め「zoom」を使い始めたのは新型コロナウイルス問題が発生してからが多かったであろうこと。そもそも配信がうまくいくのか。もちろん即興だけに面白くなるかはやってみなければわからない。主催する側としてはいくつもの不安要素があっただろうが、チャットや投げ銭の反応を見ていると、観客の満足度はかなり高かったよう。
絹川に「zoom」での可能性を聞いてみた。
「私はzoomでの表現をするにあたって、最初は『演劇をオンラインで配信する』という意識が強かったのですが、実際に稽古を重ねて、zoomだけにしかできない表現が見つかってくると、これは舞台とは異なる面白い表現ができうる媒体かもしれないと思うようになりました。もちろん舞台とも違いますし、撮影をしたものを編集して見せる映画とも違います。そういう意味で第三の新しい表現媒体ではないかと感じて取り組んでいます。
zoomの可能性のひとつとして、観客との親密性と不親切性の二つをつくり出せる部分じゃないかなと思っています。舞台では俳優さんの『アップ』を見ることはできません。しかしzoomでは映像でつくりだすようなアップを意図的に行うことで、観客との親密性をつくりだすことが可能です。逆にめちゃくちゃカメラから遠くに立ったり、フレームからのinとoutをすることによって、舞台とはひと味違った遠さ、距離感を表現することができます。それを不親切性と言っています。これらは、いくつかある可能性のひとつでしかありませんし、もっといろんな可能性はあるような気がしています。
そして、zoomを使ってオンラインで上演することを『仕方がないからやる』などネガティブな気持ちではなく、zoomやオンラインでしかできないことをやろうというポジティブな考え方で、探求していけるといいのかなと思っています。インプロヴィゼーションで作品をつくるときの心意気で『イエス・アンド』というものに通じるのかもしれません」
あえて劇場を使うことで何が生まれるか……
さて演劇のメッカ、東京・下北沢にある本多劇場グループでも、劇場を利用した演劇の配信をスタートさせた。そのシリーズの中で、絹川とその仲間たちによる『オンライン・インプロ実験ライブvol.2』を行う(投げ銭方式)。
本多劇場グループPRESENTS『オンライン・インプロ実験ライブvol.2』では、zoomによるオンライン上演というスタイルは同じ。俳優はそれぞれの自宅から参加するが、司会の絹川と即興ミュージシャンは6月12日は「劇」小劇場から、19日はOFFOFFシアターからオンライン上でコラボするという仕組みになる。観客はもちろん、劇場ではなく、自宅などそれぞれの場所で楽しむわけだが、何か新たなものが生み出される予感?! を信じて、絹川はあれやこれや試行錯誤している。
取材・文:いまいこういち

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