松川ケイスケ真一ジェットが初のオン
ライン生配信で見せた、手法を超える
ライブの力

いくら百戦錬磨のライブバンドでも、いや、逆にライブバンドであるほど、オーディエンスの反応が見えない状態でのライブは不安だろう。しかし、そこで表現者・演者としての本能と楽曲自体の力は炙り出されるのだなと、新型コロナウイルス以降、新しいライブのスタイルとして定着しつつあるオンラインライブを見て実感するのだ。
本来、4月に開催予定だった「I ROCKS 2020」を延期し、来年の4月開催を発表。メンバー5人が集まっての定期的なトークの配信など、寂しい思いをしているファンに飾らない姿で、止まらない姿勢を見せてくれているLACCO TOWER。オフラインのライブの実現はまだもう少し時間を要しそうな中、松川ケイスケと真一ジェットが、まず初のオンライン生ライブに挑んだ。題して「電電博覧会〜歌は電波にのって〜」。結論として2時間のライブはあっという間だった。
有料配信のプラットフォームであるZAIKOを使ったオンラインライブは最近多くのアーティストが使用しているが、ふたりらしかったのは数種類ある投げ銭の名前が各々への「毛髪移動」だったり、「そろそろ歌いませんか?」「もっとMCしてください」だったこと。この時点でもう楽しい。ライブ前の洒落たジャズのBGMとコメントのギャップが可笑しい。が、それも“松ジェ”だなと思う。
定刻に画面に出現した二人はいつも通りジャケットやタイ着用。しかし話題は最初から投げ銭の内容へ(笑)。リアルライブでは演奏している時間よりMCの方が長い、自由気ままな(!?)ユニットだが、存外すぐに1曲目の「檸檬」へ。歌とピアノというシンプルな組み合わせゆえに、音や息遣いの細部が聴き取れる。松川は視聴者の反応や音が気になる様子だ。ちなみにハッシュタグ「#電電博覧会」のついたツイッターチェックは松川が、音のバランスや画面の調整は真一ジェットが担当。お互いに状況を伝え合いながら進行する中に信頼感が滲み出るのもオンライン生配信ならではだ。真一ジェットの言葉尻を捕まえて(滑舌がイマイチなので松川に空耳されるというある種のいじりなのだが)、即興でピアノと歌を披露させることも数回。リアルでのライブより多かったりした。
意外とコンスタントに「薄紅」、「最果」を演奏し、その後は自粛期間突入後のお互いの日常を話す。前述のようにLACCO TOWERとしての定期的な配信を行っているので、そんなに会っていない気がしないというのが共通するところだった。間には塩﨑からの「喋り長すぎ」というお知らせしたり、他の3人もこのライブを見ながらリモートで指示を出していることがわかる。いや、指示というより普段通りのツッコミというべきか。
早々に松ジェならではのお楽しみ、カバーコーナーに突入。中田裕二の「薄紅」、片平里菜の「女の子は泣かない」、秀吉の「花よ」、ラックライフの「名前を呼ぶよ」をワンコーラスずつ披露。どのアーティスト、バンドも彼らにゆかりのある存在ばかりで“好きな曲を歌う”喜びに、「だんだん楽しくなってきた」と松川。見ているこちらも誰のどの曲をどんな理由でカバーするのか、改めて知ることができて嬉しい時間だった。
自由気ままな松ジェのライブだが、しっかり言葉で伝える時間を持とうとしていたのか、直近の新曲「歩調」を歌う前、松川は「こういう状況の中でも究極、曲を作ってライブをやるだけなんで。特に我々バンドマンは。どう歩いて行くかメンバーとスタッフ、株式会社I ROCKSの8人で話しましたね。そういう意味でこの新曲は嬉しいね」と、軸にある部分を伝える。まさにこの曲にある〈歩き方を 思い出そう〉というフレーズはすべての人に当てはまるマインドセットだ。
その後は再びカバータイム。ツイッター♪HEY HEY HEY〜♪が並んだ、AKB48の「恋のフォーチュンクッキー」、そして二人が出会った頃から大好きだという爆風スランプの「大きな玉ねぎの下で〜はるかなる想い」が、完全に松川ケイスケと真一ジェット流に再構築された。ポップソングのカバーで知るボーカリストとピアニスト/アレンジャーとしての個性。
残すところ20分弱になったところで予定していなかったという「蜂蜜」でフックをつけ、あっという間の2時間、初の生配信ライブに対する湯気が立ちそうな実感を松川が語る。「今回、怖かったよね。音の面やいろいろな面で。でもみんなが好きな場所に行けない、ライブができない中でも何ができるか?考えたよね。でもいつコロナが終わるとかわからない中で、どういうやり方も正解だと思います」と、2時間を通して得た実感から出た言葉だったと感じる。真一も「ライブができてよかった」と、ああ、そう感じられたのなら最高だなと思える一言を発していた。
ラストはLACCO TOWERファン以外にも届け!と内心願った「未来前夜」。全力を振り絞って、あとさき考えずに絶唱する松川に、ライブとは何かを見た気がする。どんな状況でも歌うことそのものは変わらない。オンライン生配信で試される種類の人間力もある。
引き続き、LACCO TOWERとして初のリモートライブも実施するので、注目していきたい。

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