MUCC バンドの出来事を粒差に刻んだ
ニューアルバムと、新型コロナが及ぼ
した影響

MUCCの15枚目のアルバム『惡』が完成した。コンセプチュアルな前作アルバム『壊れたピアノとリビングデッド』を携えたコンセプチュアルなツアーを経て、今作はこの約2年間にバンドに起こった悲喜こもごもを記録したようなドキュメンタリー作品と言える。そんな、実にロックバンドらしい時間から生まれた最新アルバム『惡』は、当初5月20日にリリースを予定していたが、新型コロナウイルスの影響により6月10日に延期となった。いまだかつてない出来事に直面したことでバンドは何を想ったのか? アルバム完成の道のりと、現在のバンドの心持ちを、メンバーを代表して、リーダーのミヤ(Gt)に話を聞いた。
――最新アルバム『惡』が完成したMUCCですが。まずはライブ等、バンド活動が制限されてしまっている現状についていかがですか?
ライブができないのがストレスになってますけど、まぁ仕方がないことだし。じゃあ、何が出来るか?と言ったら、制作ぐらいで。制作物は一応あるんでやってますけど、ライブがないとここまで自分のライフスタイルが変わるのかって感じですね。
――MUCCはここ2年くらい“収監シリーズ”などで全国ツアーを回って、ライブがライフワークになってました。
(※収監シリーズ:全国各地をブロック分けして各地区を集中的に回るライブ。)
結構やってましたからね。だから、この状況だからできることっていうところで模索はしていて。集まって演奏することができないから、リモート配信では、合奏じゃないやり方も試してみたり。理想を言うと、ネット上でリアルタイム演奏できればいいんですけど、遅延もあるし、いまの環境では不可能ですからね。5Gになったらできるようになったりしねぇかな? と思ったり。逆に言うと、それができるなら、色んなことができるなとか考えたりしてます。
――ここで色々と不都合が見えてきたから、一気に技術が進歩するかも知れないし。この状況をポジティブに考えるしかないですよね。
やっぱり今までに無い感じで、震災の時みたいな“復興する”ともまた違って。耐えるしかなくて、目標がないじゃないですか?
――震災の時は“行動”ができましたからね。
あと、今回は人間が感染源になるから、人間から感染するかも知れない、感染させてしまうかも知れないというのが、一番怖いポイントですよね。
――そうですね。そこで今作にも繋がってくる話なんですが。こういう状況下だからこそ、人の正義という名の悪意が浮き彫りになってきたり、“何が正義で何が悪なのか?”ということが見えずらくなるという現象も起きてて。SNSでは誰かの正義が誰かを傷つけたり、殺伐とした雰囲気になっていたりします。
自分が“正しい”と信じて、信念を持って拡散するならいいけど、何が正しいのか分からない状態で情報を拡散している人もいっぱいいて。そこに左右されたくはないなとは思ってます。
――そういう状況下で、「悪 -JUSTICE-」で逹瑯さんが書いた歌詞や、《繁殖するInstant Justice》というワードにドキッとしました。
あれはこの騒動が無かったらできてなかった曲ですからね。
――え、そんな近々でできた曲だったんですか!?
最後の曲出しで出た曲で、できたのが3月でした。アルバム制作の最後に4人で1曲ずつ作ったんですが、「悪 -JUSTICE-」、「目眩」、「DEAD or ALIVE」、「アルファ」の4曲に関しては、こういう世の中になったから、より身近なことを歌った感じがします。とは言え、全部がコロナのことを歌っているわけじゃないですけど。「アルファ」を先行配信した時、お客さんに“いまの状況に染みます”って言葉をもらって。全く違うことをテーマに書いた曲だったんだけど、優しさとか元々歌いたかったことは一緒なので、より共感を得られたんじゃないかなと思いました。
“死生観”みたいなテーマが、コロナによって如実に出たというか。日常の良さを改めて感じたり、普通であることの良さを強く訴えたくなっていって。
――「アルファ」の《いつかこの霧は晴れるから》っていう歌詞は、いま聴くことですごく染みましたし。ラスト「スピカ」の《世界に輝く星の雨が降り注ぎますように》という美しい祈りも、この状況下でより痛烈に響きました。
「スピカ」は去年のうちにできてて、こんな状況になるとは思って無かったんですけど。作りながらなんとなく思っていた“生と死を歌いたい”というコンセプトが、この騒動でよりリアルになったなという感じはしますね。
――今作は、デモとしてすでに発売していた曲や、バースデーイベントで限定発売された曲も再録やリミックスで収録されていて、制作時期も離れていて。コンセプトが明確に見えるまで、ひとつのアルバムとしてまとめていく作業は大変だったんじゃないですか?
トータルとして歌いたいことは変わらなかったので、そこは大丈夫だったんですけど。“死生観”みたいなテーマが、コロナによって如実に出たというか。生きる死ぬってことは昔から歌ってますけど、最近の感情だと死を割とポジティブに考えられたりするので、そこを追求したいと思っていて。そこにこの騒動があって、日常の良さを改めて感じたり、普通であることの良さを強く訴えたくなっていって。特に「アルファ」はそういう感じで書いたんです。
――近々で作った曲以外は、この2年くらいでツアーをやりながら制作してきた楽曲たちが収録されていますが。いま振り返って、ツアーと制作を繰り返してきたMUCCの2年ってどんな期間でした?
もともとやろうとしていたことが、ツアーをしながら曲を作って、デモという形でリリースして。ライブで曲を育てていく中で勝ち抜いた曲たちをアルバムに入れたいということで。ライブでさんざんやって、身体に馴染んだ曲をレコーディングしようという、普段とは逆の流れのコンセプトがあって。実際にデモっていう形で作って、ライブでも残ってきた強い曲が、今回収録された曲なんです。
――アマチュアバンドって、誰も知らない曲をライブで演奏して、デモテープを売って。その中で人気の曲を集めてアルバムを作ってというやり方ですよね?
そう、それがやりたかったというのはあります。ライブで何回も人前で演奏して、アレンジが変わっていったものを最終的にレコーディングするって、すごく理にかなってて。20年くらいそういうやり方をやってこなかったけど、これだけライブ本数があるならできるかな?と思ったんです。「COBALT」なんかはまさにそうで、ライブで何十回も演奏したものをレコーディングすることで、デモとは雰囲気がすごく違うものになってるし。
――全くの新曲をレコーディングする時とは、歌や演奏への気持ちの入れ方も全然変わってきますよね?
全然変わります。何度も演奏して自分の身体の中に入れることで、余裕が出てくるというのもあると思うんですけど、表現の仕方も変わるし、綺麗になるし。だから、初期衝動の音源ばかりリリースしていた感じが、曲を育てるとこういう形に変化するんだよというのを今回は示したくて。「自己嫌惡」とか、特にそうですね。
――“惡MIX”として収録されている「アメリア」とか「My WORLD」とかは、すでにライブの定番曲になってますが。アルバムで聴くとまた全然違った印象でした。
シングル曲は再録はしてないけど、なるべくライブの感じに近づけるミックスにしました。だから、ライブで見ている人は知ってる曲が入ってるアルバムっていう楽しみ方もできるし。さらに新曲を聴く楽しみ方もできるようにと思ったら、曲数も増えてしまって。
――ボリュームです満点ですごく聴き応えがあったし、メンバーそれぞれが作った曲が続く中盤はどれも個性的で楽しかったですし。驚いたのは吉田トオルさん作曲の「海月」が収録されていたことで。
“メンバーだったんだから、曲書いて下さいよ”って話をして作ってもらったんですけど、ムックらしい曲になったなという気はします。Bメロやサビはトオルさんの世界観で、そこに繋ぐためにAメロを作るという形で共作したんですけど。在籍してもらって、1年半くらい経った状態で作ってもらったので、ムックらしい曲を意識してくれた部分と、トオルさんらしさが出た部分と、ちょうど良いバランスだったかな? と思います。
――トオルさんはもともと、前作の制作時に“一曲参加して欲しい”ってところから始まって、“だったら全曲で”って『壊れたピアノとリビングデッド』が生まれて。最初はこんなにガッツリ関わってもらうことになるとは思ってなかったんですよね?
そうなんですけど、一緒にやってみたら面白かったし、新しいことにチャレンジできそうな気がしたし。鍵盤が入ってのアレンジだとできることも広がるのが単純に楽しかったんです。
――前作以降、サウンド面ではトオルさんがいることでミヤさんの中で生まれたアイデアや発想ってたくさんあったと思うんですが。
めちゃくちゃありましたね。制限が無くなるというか、今までって頭の中で鳴ってる音がピアノでも、それをギターに変換していたり。もちろん、それが良い作用を生むこともあるんですけど、“ここはやっぱりピアノの方がいいな”というところもあって。ピアノっていう楽器は和音の響くポイントが違うので、頭の中でピアノが鳴ってるところはピアノで再現できるし。トオルさんはマルチプレイヤーでピアノ以外も弾けるので、色々試してみたり。もうちょっと早い段階で一緒に演ってたら、もっと面白かったなと思いました。
――では今、頭の中で鳴っている音に限りなく近く再現できてる?
そうですね、バンドってことに関しては。あと、こうしたいけどギター一人じゃできないっていうことも結構あったので、ピアノとギターで表現するっていうこともできるし。
――そこでしっかり作り込んだ曲があったり、ツアーを反映したライブ仕様の曲があったり、アルバムにすごく振り幅があって。鍵盤の導入とアルバムに4人が作曲することで見える個性や色が、MUCCのいまのフェーズなのかな? と思ったんですが。
4人の色は前から見えてると思うんですけど、アンサンブルはやっぱりいびつですよ。だから安定もしないし、続けることが大変だし、難しいけど、だからこそMUCCは面白いのかな? とも思って。俺はいびつな物の方が好きですしね。
――『壊れたピアノとリビングデッド』はコンセプチュアルで、作品の統一感もありましたけど、今回はそうでないいびつさも魅力で。
そうだし、前回は無理やりコンセプトを付けた作品でもあったから、こっちの方がMUCCらしいなと思います。本当は俺以外のメンバーが舵取りをして世界観を作って、新しい作品を作るっていうのが一番やりたいことなんですけど。それは達成できてないし、今回もできなかったし。そういうことがやれていないことのひとつとしてあった方が、安心感もあるのかな? とも思ってます。
――改めて今作を通して聴いた時、作品としての感想は?
色んな曲調もあるし、最初の畳み掛けを超えたら自然と導いてくれる作品になったなと思います。3曲目の「アメリア」まではアルバムへの導入としての信念みたいなところもあって、こってりした始まりにしたいというのが頭にあって。
――続く4曲目のSATOちさん作曲、逹瑯さん作詞による「神風Over Drive」から、メンバー作曲による多彩な楽曲が続きます。
メンバーの色が曲に出てるというよりは、明るい曲にネガティブな言葉を乗せたり、歌詞の乗せ方やボキャブラリーが今までと違うかな? って気がします。「スーパーヒーロー」なんて、タイトルからちょっと驚くと思うんですけど、この曲は逹瑯がオヤジさんが死んだことを歌ってる曲で。俺らはそのことを知ってるからより響くし、死をポジティブに捉えられてて、すごく良いなと思うし。昔だったら、こういう表現はできなかったと思うんです。
――歌詞も歌も素直な気持ちが表れていて、逹瑯さんの人柄がよく見える曲だと思います。ミヤさんの曲だと、「自己嫌惡」が歌詞も素晴らしいし、ビート感も新しくて大好きです。
「自己嫌惡」は曲と同時に歌詞が出てきたくらい考えずに作ったんです、衝動で作ったというか。あと、作った時には考えてもいなかったような現状とのリンクもあったし、ライブの反応も予想してない感じになったので面白かったですね。この曲がデモテープシリーズの最初なんですけど、さんざんライブでやって、どんな感じにするのが良いか考えて。去年の8月の段階で“この形で行こう”って決めてレコーディングして。ツアーでやってた曲のアルバム・バージョンが一番最初に出来上がったのは、この曲でした。
――ミヤさんのやりたかったことを最初に形にできた曲であり、今作の第一歩になった曲なんですね。
そうですね。そこから徐々に、本当に徐々に作っていった感じだったんですけど、“どうもアルバムの芯が無いな”と思っていたところに3月に作った曲がハマって、やっと完成したという感じです。
――振り返るとですけど、こういう状況下でリリースされることまで含めて、そこに繋がる物語があったかのように思えます。
いまリリースできて良かったなという感じはありますね。いま、プレイすることをアウトプットできる人、しかもアルバムとして発信できる人って少ないと思うので。配信で新曲とかも出したいと思っているんですけど、とにかくアルバムが出るまで我慢しようと思ったんです。この状況下でリモートで作った新曲をリリースできたら良いなって思うんですけどね。
音楽家としてやれることは発信し続けるしかないですから。俺らみたいなエンタメの人ができるのは音楽を提供することだけだと思うし。
――では、アルバムのリリース以降に、またMUCCの何かしらのアクションがあるかも知れない?
何もやらずにはいられないと思います。アルバムを作っている時は、まさかこんな状況になるとは思っていなかったので。あとこの状況になって思うことも変わって来てるので、いま思ってることを歌にしたいなとは思ってます。曲を作って発信するだけなら、2日もあればできると思うので。それ用の曲を書いてみてもいいかなと思ったり。この前やったリモートライブもお試しで、もっとちゃんとしたライブを見せられるようにするための実験だったんです。
――MUCCは配信を上手く利用して、発信し続けている印象です。
逆に、いまやらないと、何してんの? って話ですからね。色んなやり方があると思いますけど、音楽家としてやれることは発信し続けるしかないですから。何がやりたいか? 何をやるべきか? って考える時間もあるので、考えることも必要だとも思いますけど。医療関係の人とか死ぬほど働いてる人もいる中で、やっぱり俺らみたいなエンタメの人ができるのは音楽を提供することだけだと思うし。
――死ぬほど働いてる人を勇気付けることができるかも知れないと。
この間、デジタルマスクを配布したら、インスタとかでみんな遊んでくれたんですけど。医療関係の人が“このマスクで仕事行く”って呟いてて面白くて。俺たちの活動が少しでも息抜きになってくれたらいいなと思ったんです。音楽で心がリラックスして、また仕事に専念できるなら、音楽は絶対に必要なものだと思うし。何より楽しいものを発信するのがすごく好きなので、どういった形にせよ発信し続けていきたいなと思っています。ライブもいまの形で密集できないなら、違った形でできる方法は無いかな? みたいなことを考えて。昔のドライブインシアターみたいな形でライブをやってる人もいるから、いまだからできる、そういうやり方でやるのも面白いなと思ったり。生でライブができるのはもう少し先だと思うので、まずは配信ってところで発信していくことになると思うんですが。新しいこともできそうな気がしているので、期待していて下さい。
取材・文=フジジュン

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