キタニタツヤ×アナミー インタビュ
ー ミュージシャンとライティングア
ーティスト、それぞれの視点で“ライ
ブ”を語る

基本ライブは「観るもの」。とはいえそこでは、放たれる演奏や歌、照明や舞台装置等も織り重なり、「その場でしか生まれない物語」を居合わせた者たちの中に展開させることも多い。そんななか照明もステージや会場に「唯一無二な物語」を寄与する大変重要な演出手段。色や光の具合、加減も加味されたそれらは、作品拝聴時とはまた違った新たなるドラマを供与し、アナザーストーリーを各位の中で繰り広げさせてくれる。

そんな空間供与を期待するアーティストの中には、その場を育んでいくべく「確かな共創者」を擁する者も多い。ミュージシャン・キタニタツヤとライティングアーティスト・アナミーの間柄もそのように映る。
互いにスイートスポットを熟知し、キタニのワンマンや自主企画等、“ここぞ”のときには照明を駆使し数々の名場面を共に創り上げてきたアナミー。そこではキタニやバンドたちも映え、歌や楽曲が作品以上の物語を広げ、ひいては会場を独特の雰囲気や空気感で毎度染め上げてきた。
そして、2020年6月26日(金)に開催を予定していた『Oneman Live “Hug myself”』は、ライブハウスにおける新型コロナウィルス感染リスク回避の見通しが立たない状況を受け、安全面を第一に考慮し中止となったが、公演中止を受け同日6月26日(金)に有料ライブ配信での開催が決定した。このライブ配信に於いても、このキタニ✕アナミーの世界観は、画面を通して多くのファンを魅了していくに違いない。
そんな二人に自身のライブに於ける美学や信条を語ってもらった。
※取材は3月5日に実施
――お二人はもともと同時期に別のバンドで各々ベースをやっていたんですよね?
キタニ:そうなんです。とは言え、当時は互いに全く面識はなくて。共通の友人も沢山いたので後々知り合いました。で、話しているうちに、当時は同じ界隈でライブを行っていたりとニアミスしていたことも多々発覚して。なかには時期は違うけど、同じバンドで同じベーシストとしてサポートメンバーだったりしたこともあったらしく(笑)。
――そうなんですか(笑)。そもそもキタニさんの照明をアナミーさんがやり始めたキッカケは?
キタニ:2018年の夏に、共通の友人がプロデュースするアイドルと僕が対バンをした際に、そのライブ全体の照明をアナミーが担当していたんです。そこからですね、急速に仲良くなったのは。その後、昨年春の初ワンマン時から本格的に自身の照明をお願いしています。
――ちなみにアナミーさんはどうしてプレーヤーから照明へ?
アナミー:もともと照明の仕事をやりたくて地元の新潟から上京してきたんです。そこでバンドをやりながら照明の専門学校に入りました。当初から「バンドで有名になって……」というよりかは、「照明で活躍したい」との想いが強くあり、バンドを辞めてからはフリーの照明として活動し始めたんです。
――その照明に目覚めたキッカケは何だったんですか?
アナミー:地元の新潟にCLUB RIVERSTというライブハウスがあるんですけど、バンド時代ずっとそこでお世話になっていたんです。そんな中、当時そこにいらっしゃった照明さんと仲良くなり、視覚的に世界観や空間性を引き出したり作り出したりする照明という演出に惹かれ始めていったんです。それで、上京後、まずは渋谷のライブハウスの照明として働き始めました。そこでやっているうちに、「自分の照明もやって欲しい」等のリクエストもいただき始めて。その後フリーになって、今はhuez(空間演出ユニット)に籍を置いています。
キタニ:アナミーの照明は周りのバンドマンからも大好評ですね。
――キタニさんは、最初にアナミーさんに自身の照明をやってもらったときのことを覚えてますか?
キタニ:ライブではそれこそ自身のことで精一杯で照明まで気が回りませんでしたが、後日見返して、こんなにすごかったんだ!となったことは覚えています。あと、エゴサしたときもそのライブでの照明がすこぶる好評で。ライブで「照明が良かった」なんて感想なかなかないじゃないですか。それぐらい多くの人が見て印象的でキャッチーな照明だったんだなと思って。自分で見返したときも、きちんと場面転換が成されていて、これはすごくいいってなりました。
アナミー:声をかけてもらったときはすごく嬉しかったです。そのぶん気合いも入りました。音楽性も好きだったし、キタニの色を出しつつ、自分のやり方でどうやって相乗効果を生んでやろうかな……と思いながら挑みました。
キタニタツヤ
――キタニさん的には一緒にやっていて、アナミーさんの照明のどのあたりが頼もしいですか?
キタニ:曲を聴き込んで挑んでくれているところかな。なので、キメの部分もきちんと覚えてバッチリと合わせてくれる。しかも歳も近くて話しやすいし、音楽の好み等も似通っているので、ライブのときにも互いの解釈違いのようなことも起こらないんです。ライブって聴覚もですが、視覚がもたらす役割も大きいじゃないですか。目で見たものがほぼ全てに近い。実際、自分の歌のテンションにも関わってきますから。その照明の抑揚が自分の身体的な抑揚にまで直結する。そこのマッチ感やフィットさを実感しながら毎度やらせてもらっています。おかげさまで毎度不安は全くないですね。
アナミー:その感想は嬉しい。ステージ上のメンバーの気持ちを第一に考えながらの照明を意識しているので。ここはガッと行きたいだろうなと感じたらガッといったり、その辺りのステージとの一体感はすごく大切にしながら都度行っています。実際の当人の心境は分かりませんが、僕の照明でアーティストがぶちあがっているように映る瞬間があるんです。それが嬉しいし気持ちいいし、合わせて自身のテンションも上がっていくんですよね。
キタニ:テンションの上がり下がりは照明に左右されることも多いので、その辺りはとても信頼を置いています。それは盛り上がる部分だけでなく、下げたいところでちゃんと照明も下がってもらうところも然りで。アナミーの場合、そのコントラストやメリハリもしっかりしているので都度安心して任せて歌だけに集中できています。
――アナミーさんは、他にキタニさんのライブの際の照明で意識しているところは?
アナミー:コントラストかな? 緩急をつけたり、シーンが目に見えて一瞬で分かる。その辺りの明確さですね。細かいことはAメロ、Bメロでやって、サビはあえてわかりやすくバッと。
キタニ:アナミーのは、いい意味でキャッチーな照明なんです。あとはきちんと予習をしてくれる。最初のワンマンのときはスケジュール的にリハーサルに立ち会ってもらえなかったんですけど、そんな時も「リハーサルの映像を送って!」って連絡が来ました(笑)。
アナミー:それはキタニに限らず自分の基本でもありますね。キタニのライブや曲の照明に関しては、キタニが神様のように自分には映っていて。キタニ教みたいな……(笑)。曲も中毒性があるし、どこかいい意味で洗脳感がありそう。だから、もうライブに於けるキタニは、自分の中ではそれこそ「神」だと(笑)。それを時には神々しく、曲によっては悪魔っぽく魅せたりしています。その辺りが他のアーティストと違うかな?
――分かります。至福感もあれば、密教やブゥードゥー、サバトみたいな曲もあり、それにハマっている照明は毎度感心しています。
アナミー:色々な神を各々に合った照明で映えさせるというか。あとは結構MVも意識していて。ライブとMVをフラッシュバックさせています。僕の色味とMVの色味が近いものがあると、お客さんも「キタニのこの曲ってこんな感じ」とより体感してもらえそうじゃないですか。
キタニ:一般的にはステージはステージ、MVはMVと別物と捉えられがちだけど、確かにお客さんは基本MVの印象を抱いてライブに来るもんね。それを意識するのは正しいかも。
アナミー:あとは歌詞もけっこう重視しています。サウンドも歌詞も照明の重要度として半々ぐらいなんですけど、その歌詞を自分なり解釈したり咀嚼したりして、それに合った照明を作っています。対してあえてカウンター的にする場合もあったり。
アナミー
――たとえばどのような場合なのでしょうか。
アナミー:ダウナーな曲なのにあえて明るい色を使ったり、明るかったりおしゃれな曲なんだけど、ダークな色を使ったり、逆のテンションを交えることもあえてしたりしてます。
――ですが、一般的には曲の雰囲気に合わせて……がセオリーでしょうに。
アナミー:僕には曲がそう聴こえたり感じたりしているんですよね。なので、その辺りの自分の感性も大事にしています。サウンドもですが、歌詞もその人の伝えたい世界観だったりするのでしょうし。
キタニ:そこまでは気づいてなかった(笑)。その「驚き」や「そうだよね」って同意はファンには大事だろうから、その心遣いは非常に嬉しい。やはりファンからもそのような感想が上がってくるってことは、ファンと同じぐらい自分のことを理解してくれている証だから。本当にありがたい。
アナミー:「しっかりとしたものを作りたい!」となると、やはりファンと同じぐらいまではいかないとね(笑)。
――キタニさんから照明に於いてアナミーさんにリクエストをしたりは?
キタニ:一切ないですね。唯一あるとすれば「自分の好きにして欲しい」ぐらい。これはライブのときもそうなんですが、CD音源のアレンジこそ自分で作りますが、実際にライブでどう演奏するかは各メンバー任せだし、そこに僕は一切口出しをしません。「そのぶん自分も好きに歌わせてもらう」というスタンスなので。
――なるほど。あと、アナミーさんの照明は会場の雰囲気にも都度合っている気がします。過去に何度かこのコンビでのライブを観てきましたが、どれも雰囲気が会場毎に違い、それぞれベストマッチを魅せていました。
アナミー:その辺りは、ハコ(会場)によって置いてある照明の規模もタイプも違うので、それを都度最大限に駆使しているだけなんです。それでも映り方が違うと感じて下さったのは、逆に各ハコが持つ雰囲気によるところが大きいかも。特に先日の下北沢シェルターのワンマンの際には、「うわっ、ロックバンド然として映るなぁ」と自分でも感心したぐらい(笑)。そうそう、あの日も一応足しの機材を持ち込んだんですけど、あの雰囲気は全く消せませんでした(笑)。WWWでやったときはVJも入っていましたが、それはそれでうまく引き立たせ合えたかなって。僕は普段映像と一緒にやる会社で働いている関係もあり、その辺りの共同作業も得意で。今後はVJも交えた演出等もやってみたいですね。
キタニ:自分的には、今は逆にVJなしに照明バチバチだけで勝負したいかなぁ。あのWWWでVJを入れた際も、今振り返ると自分のライブだけに自信がなかったからだろうし。対して今は自分とお客さんとで一対一でガッツリやりたい。「映像観てるぐらいなら、もっと俺を観ろ!」って(笑)。そんな気分だし、シンプルに照明と自分たちのライブだけで勝負したい時期でもあるんです。もっと大きな会場でやるようになったら、この気持ちも変わっていくんだろうけど。
――キタニさんがステージで意識していることがあったら教えて下さい。
キタニ:それが特にはなくて。お客さんには好きに勝手に楽しんでもらい、自分も勝手に気持ちよくなる、そんなスタンスなんです。それはステージ上からも言っていて。「おもいおもいに好き好きに楽しんで」って。結果、みなさん多様な楽しみ方をしてくれているので、僕はただそれをニヤニヤ見ているだけという(笑)。「みんな楽しそうで何より、こっちもこっちで楽しませてもらうわ」って(笑)。自分の好みとお客さんの好みがなんとなく似通ってきて、結果、自分の理想的な姿に勝手になっていっているのかもしれない。
アナミー、キタニタツヤ
――そして、すでにチケットは完売していますが、6月26日にはワンマンライブ『Oneman Live “Hug myself”』もお二人には控えています。この“Hug”はもともと対バン企画のときのタイトルでしたよね?
キタニ:ですね。今回はいったん自分を大切にしようと思って(笑)。一度、自分たちだけでやってみて、自分を愛してみて、その後はまた他のアーティストの方々と一緒に育んでいこうかなと。やはりこのタイトルでのイベントは基本、対バンライブ用ですから。これから友達をたくさん増やしていくためにも、「まずは自分だけでもクアトロでワンマンをやれるんだぞ」といった自我を強固にし、そこからだと。あとは純粋にクアトロでワンマンをしてみたかったんです。昔からよく観に行っていた会場でもあるので、非常に憧れもあって。WWW、WWWX、シェルター、クアトロときたので、その聖地を一つ一つ段階を踏んで大きくなっていきたいですね。
――そのクアトロの成功も経て、今後ますますスケールアップしていく様が目に浮かんできます。
キタニ:今後はどんどん規模を大きくしていきたいです。もう、アナミーには一緒になって色々な提案をバンバンして欲しい。今後も一緒に面白いことをどんどんやっていこう!
――アナミーさんは6月26日の渋谷クアトロでのワンマンを迎えるにあたっていかがですか?
アナミー:実は今、新ネタを用意しています。それはもうその会場ならではの演出を予定していて。今回は照明だけでなく、うちの会社全部での演出なので、その新ネタのかなりの斬新さも含めて、きっと“おおっ!”“ええっ!?”となってくれるんじゃないかな。楽しみにしていて欲しいです。
――最後にキタニさん、渋谷クアトロ公演に向けての意気込みを聞かせて下さい。
キタニ:これまでイベントで2回立ったことのあるステージですが、今回は僕のファンだけなので非常に楽しみです。せっかく非日常的な空間に足を運んでくれるんで、そこでしか味わえない幸せな空間を作り上げたいですね。とは言え、気楽に聴いて欲しいし、そこではおもいおもいに楽しんで欲しい。「いつも通りかっこよくやるから、楽しみに待っておけ!」ですね(笑)。

取材・文=池田スカオ和宏 撮影=大橋祐希

なお、2020年6月26日(金)に開催を予定していた『Oneman Live “Hug myself”』が中止となり、有料ライブ配信へ変更となったことを受け、キタニタツヤとアナミーよりコメントが到着した。
▼キタニタツヤ コメント
配信ならではの面白い仕掛けをスタッフの皆さんとともにモリモリ考え中で、文化祭の準備のようで楽しいです。
ファンの皆と同じ空間で演奏できないのは残念だけど、これまでにやったことのない形でのライブを見せられるのがとても楽しみです。激レア映像になること間違いなし。刮目せよ!
▼アナミー コメント
今回は配信という形になってしまい残念に思います。
ですが配信ライブになったからには配信ライブでしかできない新たな見え方や表現に挑戦致しますので楽しみにしていてください。

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