オペラが大好きになるキッカケとなっ
た3つの作品/ホーム・シアトリカル
・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [Vol
.22] <クラシック編> by山田治生

おうちをシアトリカルな空間に! いま、自宅で鑑賞できる演劇・ミュージカル・ダンス・クラシック音楽の映像作品の中から、エンタメ界隈に棲息する人々が激オシする「My Favorite」3選。(SPICE編集部)

オペラが大好きになるキッカケとなった3つの作品​
ホーム・シアトリカル・ホーム~自宅カンゲキ1-2-3 [Vol.22]<クラシック編>
by 山田治生(音楽評論家)
【1】『ラ・ボエーム』 ストラータス、カレーラス、レヴァイン&メトロポリタン歌劇場
【2】『トゥーランドット』 マルトン、ドミンゴ、レヴァイン&メトロポリタン歌劇場
【3】『ばらの騎士』 ロット、ボニー、フォン・オッター、クライバー&ウィーン国立歌劇場
私はもともとオペラがそんなに好きではなかった。オペラが好きになったのは大人になってからである。
大学生の頃までは、オペラをあまり見ることがなかった。でもクラシック音楽は子供の頃から好きで(中学高校のオーケストラ部でヴィオラを弾いていたこともあり)、オーケストラ音楽のファンであった。
初めて見たオペラの本格的な舞台はモーツァルトの『魔笛』だった。高校1年生の頃である。大蛇が出てきて、鳥刺しが出てきて、三人の童子が出てきて、王子と王女が結ばれるというメルヘンチックなストーリーが、当時の私はどうしても好きになれなかった。マーラーやブルックナーの交響曲を熱心に聴いていた高校生の私には、「これがオペラの最高傑作?」という疑問だけが残った。
大人になってオペラに親しむようになったキッカケは、1980年代後半から、世界の一流オペラハウスの舞台がレーザーディスク(LD)で見られるようになったことである。
【1】『ラ・ボエーム』
そんなLDのなかに、メトロポリタン・オペラの『ラ・ボエーム』があった。プッチーニの『ラ・ボエーム』はパリに住む若い男女6人の青春群像劇。カルチェ・ラタンの屋根裏部屋に暮らす4人の芸術家(詩人、画家、作曲家、哲学者)と2人の魅力的な女性の恋物語は、貧しく悲劇的なストーリーであるにもかかわらず、プッチーニの音楽の力によって、青春の讃歌というべきオペラに仕上がっている(後に、このオペラをもとにミュージカル「レント」が作られ、「ラ・ボエーム」自体もブロードウェイで掛かったことがあった)。
その映像では、テレサ・ストラータスがミミを、ホセ・カレーラスがロドルフォを演じていた。ストラータスは小柄で細身でチャーミングなソプラノ。オペラ初心者だった私は、肉付きのよい大柄なソプラノが薄幸のヒロインを演じたりすることには抵抗感があったが、ストラータスの歌唱や演技にはすぐに魅了された。オペラとは大柄な歌手が声量を競うものだというイメージが誤解であることを彼女によって知った。
また、メトロポリタン・オペラの『ラ・ボエーム』は演出家フランコ・ゼッフィレッリの舞台美術によって、クリスマス・イヴのカルチェ・ラタンが再現される。その大人数の合唱とエキストラを使った大掛かりな舞台に圧倒された。
ストラータスの演唱は、「椿姫」、「道化師」などの映像(どちらもゼッフィレッリ監督による映画版)でも見ることができ、ますます魅せられた。クルト・ワイルのミュージカル・ナンバーを歌ったアルバムも素敵だった。そして、1989年にニューヨークのメトロポリタン・オペラで彼女がヒロイン3役を演じるプッチーニの「三部作」を見て、「自分はオペラが大好きだ」とはっきり言えるようになった。
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【2】『トゥーランドット』
高校時代、『魔笛』のメルヘンチックなストーリーについていけなかった私だったが、20歳代前半に、何も知らないでLDを見たプッチーニの『トゥーランドット』には、ストーリー的に引き込まれた。いにしえの北京で、トゥーランドット姫に一目惚れしたカラフは、彼女と結婚するために、トゥーランドットの出す3つの謎解きに挑む。答えを間違えれば殺されるこの謎解きのシーンでのプッチーニの音楽は緊迫感に満ちている。通常、オペラはあらすじを読んでから見ることをおススメしたいが、『トゥーランドット』はストーリーがシンプルで、謎解きの楽しみもあるので、むしろ、予備知識なしで見る方が楽しめるかもしれない。また、カラフが歌う「誰も寝てはならぬ」はテノールのアリアのなかでは最も有名なもの。かつてパヴァロッティの歌唱でUKのシングル・チャートに入るほどヒットした名曲である。
最初に見た『トゥーランドット』の映像は、エヴァ・マルトンがトゥーランドットを、プラシド・ドミンゴがカラフを演じるメトロポリタン・オペラでの上演。これも演出がフランコ・ゼッフィレッリだった。映画『ロミオとジュリエット』の監督としても知られるゼッフィレッリは、舞台美術出身だけに、オペラを演出する場合、自ら美術や装置も手掛け、写実的で大掛かりな美しい舞台を作り上げる。そんな彼の舞台のなかでも『トゥーランドット』はとりわけゴージャスなものである。
私は、幸運なことに、1989年から90年にかけて、映像で見て憧れていたゼッフィレッリ演出の『ラ・ボエーム』と『トゥーランドット』をまさにメトロポリタン・オペラで見ることができた。『ラ・ボエーム』第2幕冒頭でカルチェ・ラタンが、『トゥーランドット』第1幕冒頭で北京の王宮前の広場が立ち現れると、客席から拍手が沸き起こった。そのとき、オペラというのは、音楽だけでなく、舞台美術も含めて楽しむものだと、ニューヨークの聴衆に教わったのであった。
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【3】『ばらの騎士』
私がこれまでの人生で見たオペラのライヴ、ベスト3を挙げるとすると、ストラータス主演のプッチーニ『三部作』(1989年、メトロポリタン・オペラ)、カルロス・クライバー指揮、ドミンゴ主演のヴェルディ『オテロ』(1990年、メトロポリタン・オペラ)、クライバー指揮、R.シュトラウス『ばらの騎士』(1994年、ウィーン国立歌劇場来日公演)になる。やはり、カルロス・クライバーは最高の指揮者であったし、彼の指揮するオペラを生で見ることができたのは、本当に幸運であり、人生の宝物だと思っている。
そして、その3つの中の『ばらの騎士』のウィーン国立歌劇場来日公演(1994年10月)については、それと同じキャスト&スタッフによる本拠地での公演(1994年3月)の映像(DVD)を今でも見ることができる。フェリシティ・ロットが元帥夫人、アンネ・ソフィー・フォン・オッターがオクタヴィアン、バーバラ・ボニーがゾフィー、クルト・モルがオックスを演じている。演出はオットー・シェンクによる伝統的なもの。『ばらの騎士』は、元帥夫人の若い愛人である騎士のオクタヴィアンが商人の娘ゾフィーに恋をし、元帥夫人は身を引くというストーリー。
クライバーの素晴らしさはその指揮姿を見れば一目瞭然だ。オペラではオーケストラ・ピットに入ってしまうため、映像ではほとんど見られないのが残念であるが(実際の公演では、舞台そっちのけで、ピットのクライバーの指揮を見てしまったものだ)。もちろん、クライバーの引き出す音楽そのものも素晴らしい。指揮姿通りの躍動的で弾けるような音楽。即興的でありながら、細部まで作り込まれた緻密な演奏。本当に魅力的であった。
『ばらの騎士』のラストの元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーによる三重唱は、最大の聴きもの。作曲者のリヒャルト・シュトラウスが自らの葬儀で演奏してほしいと語ったといわれている。数多くの傑作を残したシュトラウスだが、この三重唱を作るときは彼の頭に創作の神が降りてきたに違いない。1994年のウィーン国立歌劇場公演の三人は、当時のベストと言えるキャスト。気品あふれるロット、凛々しいズボン役(女性が男性を演じる役)のフォン・オッター、チャーミングかつ知性的なボニーの演唱に魅了される。
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文=山田治生

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