最後期のザ・ラスカルズが
本気でロックした
『アイランド・オブ・リアル』

アトランティック後期のアルバム

『夢みる若者』で単なるブルーアイドソウルのグループから脱皮を図り、ロックの方法論を取り入れた彼らは、続く2枚組の大作『自由組曲』(‘69)ではセッションに参加したチャック・レイニー、リチャード・デイビス、キング・カーティスのジャズ的なエッセンスを導入し、歌だけでなく演奏部分を重視した作品作りを行なうようになっている。この方向性は前作でのセッションに参加したヒューバート・ロウズやスティーブ・マーカスといったジャズのアーティストの演奏からインスパイアされたものであり、この頃からスタジオでフェリックスがリーダーシップを発揮することが多くなる。アルバム先行シングル「自由への讃歌(原題:People Got To Be Free)」は全米1位(これがラスカルズ最後の1位)となり、アルバムも17位と2枚組ながら健闘している。ディスク2(LP)の「ブーム」は14分近いドラムソロ曲、「キュート」は15分強におよぶソウルジャズ風インストという攻めた構成になっており、当初イギリスではディスク1のみの1枚ものとしてリリースされている。

6thアルバム『シー』(‘69)でもチャック・レイニー、ロン・カーター、ヒューバート・ロウズ、ジョー・ブシュキンら、前作と同様ジャズ系のサポートミュージシャンが参加している。この作品ではフェリックスの書いた曲が増えているが、この頃既にエディはグループに対する熱意が薄れてきていたのかもしれない。よく練られた曲が並ぶ良いアルバムだと思うが、セールス的には失敗している。7th『ラスト・アルバム(原題:Search And Nearness)』(’71)は、レコーディングの途中でエディとジーンの二人が脱退したが、もはやラスカルズはフェリックスのソロプロジェクトみたいなものなので、前作と比べてもサウンドの変化はない。前作がセールス的に振るわなかったため、このアルバムがアトランティック最後の作品になることは事前に分かっていた。コロンビアへの移籍がすでに決まっていたせいか、アトランティックがプロモーションをしなかったから、結果としてこのアルバムも売れなかった。前作同様ゴスペルからの影響が感じられ、重厚なサウンドに仕上がっていて内容は良い。

コロンビア移籍から解散まで

フェリックスはディノとともにラスカルズを存続させるため、ジーン・コーニッシュの代わりにポール・バタフィールドのグループにいた凄腕ギタリストバジー・フェイトンを、ベースにはソウル系のセッションミュージシャン、ロバート・ポップウェル、チャック・レイニー、ジェリー・ジェモットらを加えてレコーディングをスタートする。世間的には忘れ去られようとしているラスカルズであったが、強力なメンバーを迎えることで演奏面ではこれまでで最高のグループになった。結局、2枚の作品をリリースするだけでラスカルズは解散することになるのだが、この2枚のアルバムは後のポップソウルやフュージョンの先駆とも言える革新的なものである。

コロンビア移籍第1作『ピースフル・ワールド』(‘71)は2枚組の大作で、フェリックスのお気に入りのヒューバート・ロウズをはじめ、ジョー・ファレル、ロン・カーター、アリス・コルトレーン(ジョン・コルトレーンの妻)、ラルフマクドナルド、チャック・レイニー、ジェリー・ジェモットなど、ジャズ/フュージョン界から豪華なメンバーが参加している。バジー・フェイトンのギターはすでにフュージョン的なテイストを感じさせており、彼の非凡な才能は光っている。

本作『アイランド・オブ・リアル』
について

残念ながらラスカルズの最終作となる本作『アイランド・オブ・リアル』では、ベーシストにパーマネントメンバーとしてロバート・ポップウェルを迎え、文句なしに充実したリズムセクションとなった。ホーンセクションにはデビッド・サンボーン、ジョー・ファレル、いつものヒューバート・ロウズ他が参加し、ポップソウル/ファンク的なサウンドが展開されている。

収録曲は11曲(のちにCD化に際して2曲ボーナストラックが追加された)。バジーが1曲、ポップウェルが1曲提供している他はフェリックスの曲で、これまで以上の充実した楽曲群になっている。アープ(Arp)が効果的に使われており、70年代中期にリリースされたポップソウル系の作品(ネッド・ドヒニー『ハード・キャンディ』(‘76)やアベレージ・ホワイト・バンド『カット・ザ・ケイク』(’75)など)でもアープが使われているのは、本作の影響かもしれない。

本作は売れなかったが、それは時代を先取りしすぎていたからだと思う。フィフス・アヴェニュー・バンド、オハイオ・ノックスのような東海岸産のポップ感覚とタワー・オブ・パワー、アベレージ・ホワイト・バンドを思わせるファンクサウンド(これはポップウェルの参加が大きい)が同居したようなサウンドは、本作より数年遅れて登場するAORやフュージョンの先駆と言えるものだ。フェリックスが頭に描いた都会的で瀟洒なサウンドは、売れるにはまだ早すぎた(バジー・フェイトンのギタープレイも新しい)のである。本作『アイランド・オブ・リアル』は、翌年の73年にリリースされたホール&オーツの『アバンダント・ランチョネット』と並んで、僕にとっては忘れられない革命的なサウンドを持ったアルバムである。

TEXT:河崎直人

アルバム『The Island of Real』1972年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. ラッキー・デイ/Lucky Day
    • 2. サーガ・オブ・ニューヨーク/Saga of New York
    • 3. ビー・オン・ザ・リアル・サイド/Be on the Real Side
    • 4. ジャングル・ウォーク/Jungle Walk
    • 5. ブラザー・ツリー/Brother Tree
    • 6. アイランド・オブ・リアル/Island of Real
    • 7. ハミング・ソング/Hummin' Song
    • 8. エコーズ/Echoes
    • 9. バターカップ/Buttercup
    • 10. タイム・ウィル・テル/Time Will Tell
    • 11. ラメント/Lament
    • 〜ボーナス・トラック〜
    • 12. プルーヴ・イット/Prove It
    • 13. ラヴ・イズ・ア・ウーマン/Love Is a Woman
『The Island of Real』(’72)/The Rascals

OKMusic編集部

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