ロッド・テイラー唯一の作品
『ロッド・テイラー』は、
数多あるSSW系アルバムの中でも
最上級の傑作

ロッド・テイラーというアーティスト

ロッド・テイラーは異色の経歴を持つ人物だ。シンガーソングライターになる前は詩人として活動し、その作品は高く評価されていたようだ。名門スタンフォード大学で修士号を取得するだけでなく、国から多額の研究費が出るぐらいの学者であった。学費や生活費も全て返却の必要がない奨学金が支給され、若くしてスタンフォードの教壇にも立っている。

一方で、彼はボブ・ディランに憧れており、ディランが所属するコロンビアレコードにソングライターとして売り込みをかけ、いくつかの曲はサンフランシスコのロックグループがレコーディングしている。なぜ、アサイラムレコードが彼と契約したのかは不明だが、おそらくはコーヒーハウス等で歌っているところをデビッド・ゲフィン(アサイラムのオーナー)が発見したか、もしくは1972年に彼が出版した初の詩集『フロリダ・イーストコースト・チャンピオン』をゲフィンが読んで契約を決めたのかもしれない。

本作『ロッド・テイラー』について

そして、アサイラムレコードではお馴染のケニー・エドワーズ、アンドリュー・ゴールド、リー・スクラー、ラス・カンケル、ゲイリー・マラバー、ジム・ケルトナー、ジョニ・ミッチェルといった面々に加えて、ライ・クーダー、ボニー・ブラムレット、ラリー・ネクテル、ジム・ホーンなど凄腕のミュージシャンたちや、アサイラムで唯一の黒人シンガーソングライターのスティーブ・ファーガソン、彼が楽曲を提供していたイッツ・ア・ビューティフルデイのリーダーでエレキフィドルのデビッド・ラフレイム、ジャズピアニスト、セシル・テイラーのバックを長く務めブルーグラスミュージシャンでもある大物ベーシストのビュエル・ナイドリンガーなど、新人としては考えられないぐらいの豪華なメンツが参加してレコーディングはスタートする。

収録曲は全部で12曲、全てが名曲かつ名演である。枯れた渋い声を持つテイラーのヴォーカルは相当歌い込んでいるようで、豊かな表現力がある。サウンド的にはスワンプ&ゴスペルのフィールが若干あるものの、アメリカ西海岸のさっぱりさというか、アサイラムならでは垢抜けた泥臭さが特徴だと言えるだろう。印象的なのは多くの曲に登場するボニー・ブラムレットのソウルフルなバックヴォーカルだ。そして、ギターソロを披露するのはライ・クーダー、ジェシ・エド・デイビス、アンドリュー・ゴールドの3人で「Sweet Inspiration」のライ・クーダーのスライド、「Man Who Made It Fall」でのジェシ・デイビスの指弾きも特筆すべき名演だ。目立たないが「Lost Iron Man」でのライのマンドリンも素晴らしい。また、クラリネット、ドブロ、マウスハープを操るジョエル・テップの燻し銀のようなプレイは本作で大きな役割を果たしている。

本作リリース後

本作リリースのあと、アサイラムでシングルを1枚リリース(カバー曲「I Know」)している。そちらはスティーブ・クロッパーがプロデュースで、ギターソロはローウェル・ジョージが弾いていることは聴いて分かるのだが、他のメンバーは不明。本作があまりに売れなかったからか、結局アサイラムとはここで契約終了となっている。76年にはユナイテッド・アーティストに移籍し、ロデリック・ファルコナー名義で2枚のアルバムをリリースするのだが、グラムロッカーのような衣装でポップなロックをやっており、2枚ともピンとこない出来である。MCAに移籍後にリリースした『Rules Of Attraction』(‘84)ではポップロックに徹している。その後、音楽活動からは身を引き、テレビや映画の脚本家に転身、現在はテレビプロデューサーとして活躍しているという実に不思議な人である。

本作はまったく売れなかったが、内容は最高に充実している。僕にとってオールタイム・ベスト10に入る傑作中の傑作である。機会があれば是非聴いてみてほしい。きっと新しい発見があると思う。

TEXT:河崎直人

アルバム『Rod Taylor』1973年発表作品
    • <収録曲>
    • 1. アイ・オウト・トゥ・ノウ/I Ought To Know
    • 2. クロスローズ・オブ・ザ・ワールド/Crossroads
    • 3. レイルロード・ブラッド/Railroad Blood
    • 4. ダブル・ライフ/Double Life
    • 5. メイキング・ア・ウェイ/Making A Way
    • 6. スウィート・インスピレーション/Sweet Inspiration
    • 7. 危険な生活のブルース/Livin' Dangerous Blues
    • 8. サムシング・オールド/Something Old
    • 9. マン・フー・メイド・イット・フォール/Man Who Made It Fall
    • 10. ロスト・アイアン・マン/Lost Iron Man
    • 11. フォー・ミー/For Me
    • 12. ザ・ラスト・ソング/The Last Song
『Rod Taylor』(’73)/Rod Taylor

OKMusic編集部

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