Amelie アルバム『シネマクラブ』ー
ー映画というフィルターを通して言葉
とメロディが出てきた1枚

4ピースロックバンド、Amelieが2020年3月までレギュラーDJを務めたラジオ番組『MUSIC APPLE』(Kiss FM KOBE)。同番組では、観た映画について話す「映画部」という名物コーナーがあったが、「単に映画について話すだけでは物足りない!」と鑑賞作品をイメージした楽曲を制作し披露してきた。4月22日(水)にリリースされるAmelieの3rdミニアルバム『シネマクラブ』には、オンエアで初披露された4曲に加え、新曲「ヒットガール」、そしてデビュー前から人気を集めていた「リリィ」の計6曲を収録。各曲を聴くと、映画で描かれている物語をどのように感じたか、登場人物の感情をどう捉えたか、映画評的な受け取り方もできる。もちろんAmelieらしいグッドメロディによって、作品の情景も呼び起こされる。まるで、映画を観ているようなコンセプトアルバムだ。今回はメンバーのmick(Vo.Gt.Pf)に、収録曲とその背景となった映画について話を訊いた。
――今作は映画をモチーフにした楽曲が集められていますが、制作する上で、イメージが浮かびやすい作品、浮かびにくい作品というのはあるのでしょうか。
映画の登場人物の誰かに感情移入できる曲は作りやすいです。逆にアクション系は難しい。銃を撃ちまくったりする映画は、特に……(笑)。サウンド面はいけるのですが、言葉をどうしようかなと。自分が好きな映画のジャンルも人間ドラマですし。
――今回、題材となった6作品も確かにそうですよね。まず1曲目「リメンバー」は、ロバート・パティンソン主演『リメンバー・ミー』(2010)から連想した楽曲ですね。
これはすごく衝撃を受けた映画でした。伏線がいろいろとあって、そして最後の最後は鳥肌が立った。これまでやってきたことは何だったんだろう、と考えさせられるものがありました。
――楽曲のなかに<防ぎたくても防ぎようのない 人の闇 災害 病原体>という歌詞がありますが、それがまさに映画の内容になぞらえたものになっています。ちなみにこの歌詞の部分は、今の新型コロナウイルスのことも連想できます。
そうなんです。「病原体」というワードを入れることを決めたのは、2月後半でした。新型コロナウイルスの感染拡大の危機が強く言われ始めた時期で、すごくリアルタイムな感覚で作りました。
――そして2曲目「雨よ降れ」は、新海誠監督『言の葉の庭』(2013)をイメージした楽曲。雨の日になるといつも公園の日本庭園で顔を合わせる男女がいて、お互いが相手のことを少しずつ気になっていく物語です。
映像が美しい作品ですよね。曲にしようとなったとき、雨というワードは絶対的に必要だったし、新宿御苑をモデルとした公園の光景、主人公たちの心が丁寧に描かれていたので、ピアノを使った繊細な曲にしたいと考えました。ヒロインの雪野さんが終盤、溜め込んでいた感情をワッと溢れさせる。あの階段のシーンが特に刺さるものがありました。
――雪野は、仕事上でのストレスから、精神的な意味で「自分の足で歩くことができなくなった」と言いますよね。しかし、あの階段のシーンでは自分の足で、裸足で駆け出していく。まさに歌詞にあるように<ずぶ濡れになっても歩こうと思った いつも通り自分の足で歩こうと思った>ですね。
物理的に自分の足で歩くということもそうですし、主人公の少年・タカオが彼女にとって心の拠り所だったけど、苦しい状況を選択をするのも彼女自身。雪野さんに、精神的に自立して生きてほしいという願いを込めました。自分も弱ったりするときはもちろんありますし、そういう私自身を重ねて「しっかりしなきゃいけないな」と。
――mickさん自身を照らし合わせて作った曲というわけですね。そういう部分では3曲目「ヒットガール」のもとになった映画『キック・アス』(2010)は、やはり最強ヒロインのヒットガールに感情移入しましたか?
すごく好きなキャラクターです。普通の女の子だったはずなのに、お父さんのビッグ・ダディから戦闘術を叩きこまれて強くなった。歌詞に書いたような物語をたどっていっちゃうんですけど、彼女はすべての物事を、お父さんのためにやっている。あの純粋さが好きです。
――ヒットガールは強いけど、いろんな出来事を経験して傷ついていく。そこで人を頼るようになる。<次は私頼っていいかい?>という歌詞に集約されています。
ヒットガールって、ちゃんと人間なんですよね。登場するシーンもまさにヒーロー的だし、主人公のキック・アスから見てもヒーローなんだけど、でも実際にはすごく人間味がある。それはもしかすると、Amelieのmickに近いのかもしれません。人から見たイメージの私と、本当の自分のギャップというか。
――確かにmickさんはイメージ的に強く見られるかもしれませんよね。でも、先ほどもお話をされたように、弱ったりするときも当然ある。この映画は、ヒーローや強いと思われている人であっても、誰かに救われて生きていることを描いている。それはつまり「誰もが誰かのヒーローである」ということですよね。mickさんは、自分を救ってくれたヒーロー的存在はいますか。
Amelieを組むにあたって「バンドをやらないか」と誘ってくれたのはベースのあっきーなんですけど、彼がそう言ってくれなかったら私はやっていない。そういう意味ではあっきーの存在は大きいですね。まあ、ヒーローと呼ぶのは、なんかムカツクんですけど(笑)。
――ハハハ(笑)。続いての「誰も知らないメロディ」は、アカデミー賞作品賞『海の上のピアニスト』(1998)がモチーフになっています。
「何で今まで観ていなかったんだろう」というくらい、素敵な映画でした。生まれたときから豪華客船のなかで暮らしている天才ピアニストの話ですが、自分で決めた生き方を全うしようとするところが格好良い。
――船を降りるタイミングもあるにはあるけど、最後まで降りずに船のなかでピアノを奏で続ける。mickさんも音楽をやっている人間として、通じるものがあるんじゃないですか。
私も、何があっても音楽をやめるつもりはありません。音楽がなくなったら無理。もちろん「やめた方がいいかな」とか、「やめた方が楽になれるかも」と思ったことはあります。でもそれって、自分に負けてしまっていたんです。私の場合、映画からインスパイアされて曲を作るとき、感情移入の対象が子どもか女性だとやりやすい。ただこの映画の主人公・1900は男性。この映画に関しては、彼になりきった感覚で作りました。
――そういう意味では5曲目「リリィ」は、『ヘルタースケルター』(2012)がテーマとあってイメージが湧きやすかったんじゃないですか。
そうですね。それにしても、とんでもない映画でした。主人公・りりこが整形を繰り返して、自分の憧れに近づこうとする。「リリィ」は今回再録なのですが、制作当時、自分も変わりたい願望が強くあったので、「分かる、分かる」という気持ちでした。今よりも引っ込み思案だったし、肯定力もなく、言われたことを全部鵜呑みにして、悪いことを言われたらネガティブになっていた。今なら「うるせーよ」と返せるけど、当時はそれができませんでした。自分のなかに「これだ」というものがなかったから、周りにすべてを支配されていまたように思います。今はAmelieのmickとして存在を認めてもらえるようになり、自信を持てるようになったんです。
――「リリィ」は数年前に作られた楽曲ですよね。
歌詞を書いたのも6、7年前だったはず。自分で言うのもなんですが、よく書けていると思います。<喜びは重ねた時間の瞬き>という歌詞がありますが、りりこにとっての喜びや輝きはメディアなどで作り上げられたもの。そして、そういう華やかな時間は一瞬で消えていっちゃう。そういうところが、自分の感情にグッと入ってきました。
――<「どうすればあの人みたいになれるの?」>という憧れをあらわす一節もあります。mickさんには、「こういう人になりたい」という憧れの人はいますか。
私はずっと変わらず、YUKIさんです。存在しているだけで太陽みたいに明るい感じがしますよね。私は逆で、月のようなひっそりした感じ。で、前まではそういう自分を受け入れられなかった。でも今は「月でもいいや」という感覚です。
――ラストの「バラ色の人生」は、『アリー/スター誕生』(2018)が題材になっています。この曲のタイトルの英訳「La Vie en rose」は劇中のキーワードになっている。やはり、レディ・ガガ演じるアリーへの思い入れが強いですか。
アリーってすごくラッキーじゃないですか。才能はあるけど売れないシンガーで、だけど誰もが知る人気ミュージシャンのジャクソン・メインが目の前にあらわれ、一緒にステージにもあげてもらい、それからスターになる。レディ・ガガの半端ない歌唱力が役に生かされていますよね。あの歌が、私の魂に触れちゃったんです。
――映画の序盤、アリーが「プロになるには顔が良くないと言われた」と話すじゃないですか。鼻が高すぎて好きになってもらえないと。
アリーはその後、ジャクソン・メインに「君の鼻が好きだ」と言われて自信を持っていく。そして成功する。結局、自信を持ってやれば前に進めるんですよね。美しさやオーラは内面から出るものなんだなと。
――あと、「音楽とは12音の繰り返し。その組み合わせで名曲が作られていく」という台詞があります。これはミュージシャンから見ても、印象深い言葉だったのではないですか。
実は私もこの台詞のようなことを、バンドを始めるずっと前に思っていました。曲を作りながら「ここからここまでしか音階がないのに、いろんな曲ができていくんだ」と。この映画を見てそれを思い出しました。
――それにしても、この映画は結末が苦いですよね。
観る前は、ハッピーエンドだと思っていたんです。でも、ジャクソン・メインが破滅していく。あの結末にはなってほしくなかった。だからこそこの曲は、ハッピーにしたくて。作るにあたって注目したのは、プロポーズする場面。ジャクソン・メインがギターの弦で指輪を作って、アリーに渡す。最初は、「ちょっと! ギターの弦を指にはめてプロポーズ!?」と思ったんだけど(笑)。でも彼女はめちゃくちゃ嬉しかったはず。ちょうどこの曲を作っているとき、弟が結婚式を控えているタイミングで、永遠を誓えるような楽曲にしたかったんです。
――今回の6曲とセレクトされた映画を振り返ると、どれも人間の出会いにおける運命が描かれていると思いますが、その点はいかがですか。
映画というフィルターを通して言葉とメロディが出てきましたが、人と人の繋がりに注目していたんだなと、改めて感じました。その繋がりこそ運命と呼ぶのかもしれない。自分が日頃から思っていたこと、考えていたようなことを映画に引き出してもらって、曲に落とし込めた感覚。コンセプトアルバムですが、Amelieの音楽としてこれからライブでもやっていきたいです。
Amelie
取材・文=田辺ユウキ

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