LOVE PSYCHEDELICO 「今が一番楽し
い」と語る、デビューから20年を経た
二人の音楽生活

デビューから20年を経て、「今が一番楽しい」という言葉を、改めてKUMI(Vo)とNAOKI(Gt)2人から聞けたことが、同じく音楽を愛する人間としてとてもうれしかった。

『Complete Singles 2000-2019』を含む「20th ANNIVERSARY」4タイトルの同時リリースなど、20周年記念のさまざまな企画が進行中だが、当の本人たちはいたってマイペースと言うか、KUMIの言葉を借りるなら、リラックスして、軽やかで、日常的に楽しみながら音楽に向き合っている。
テレビ東京系ドラマBiz『行列の女神~らーめん才遊記~』のオープニングテーマとして、シングルとしては1年4か月ぶりに配信リリースする新曲「Swingin’ 」からも、そんな2人の現在のモードは窺える。自然と体が揺れるようなリズムが心地いいLOVE PSYCHEDELICO流のダンスミュージックは、デビューから20年を経て、2人が辿りついた境地であると同時に、そこには音楽って本来は、こういうものじゃない?というメッセージと言うか、問いかけが決して声高ではないけれど、込められているようにも感じられる。
その「Swingin’ 」は、どんなふうに生み出されたのか。デビューからの20年を振り返ってもらいつつ、制作の舞台裏を聞かせてもらった。2人がどんなふうに音楽を楽しんでいるのか、ぜひ追体験していただきたい。
――こういう機会がないと、なかなか振り返ることができないので、まずはデビュー20周年を迎えて、どんな感慨があるのかというところから聞かせていただけますか?
NAOKI:感慨って言うほど、ね(笑)。節目、節目と言われ続けると、段々節目のような気はしてくるけど。
KUMI:20年、音楽をやってきて、今が一番楽しいと自然に思えるので。そう思える20年って、きっと素敵な20年だったんだろうなと(笑)。
NAOKI:いろいろあったけどね。
KUMI:もちろん、20年という時間の中には山あり谷あり、いろいろあったんですけど、今が一番幸せと思えるということは、全部素敵な経験だったんだと思います。
NAOKI:あんまり、“あの時楽しかったね”みたいに振り返るような会話ってしたことがないんですよ。たぶん、その時その時、充実してた瞬間も、乗り越えるのに必死だった瞬間も、振り返ったことはそんなになかったよね?
KUMI:そうだね。まあ、今が肯定できるということは、間違っていなかったんだとも言えるしね。
――山あり谷ありとおっしゃいましたが、谷もあったわけですね?
KUMI:もちろん。
NAOKI:いちいち“あのとき大変だった”とか人前で言わないですけどね(笑)。
――考えたことはないと思うのですが、なぜ20年続けてこられたんだ、と? 活動休止せずに20年続けているデュオを含めたグループって、実はそんなに多くないと思うんですよ。
KUMI: 2人の相性がとても良かったというのも一つ。あとは、いろいろ悩んだり、迷ったりしながらも、結局は、自分たちのペースでやってこられたというのがあると思います。
――悩んだり、迷ったりというのは、自分たちの中で、どんな音楽を作るかという意味でですか? 中には、周りから「こうしたほうがいい」「ああしたほうがいい」と言われて、悩んだり、迷ったりしてしまう人たちも少なくないと思うんです。
KUMI:そういうことではないですね。自分たちのやりたいことははっきりしていて。
NAOKI:昔からね。
KUMI:それを自分たちのペースで貫いてこられた。だから、一番大事な音楽、創作というところで無理をしなかったのが長続きの秘訣だと思います。
NAOKI:基本、やりたいことしかやってなかったよね。
KUMI:そうだね。
NAOKI:デビュー当時からそれは変わらないな。あと、それを理解してくれるスタッフが、特に若い頃は必要じゃないですか。そういう意味ではラッキーでもあった。理解者が周りに多かったと思う。時には反対を押し切って、好きにやったこともあったかもしれないけど、そういうのは都合よく忘れているんで(笑)。
――そういうこともあったわけですね(笑)。
NAOKI:みんながすごくサポートしてくれいていたからこそ、好きにやれていたのかな。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
20年って言うよりも、僕ら音楽家はきっとみんな、今まで出したアルバムの数だけ節目があるという感じ。(NAOKI)
――今が一番楽しいとおっしゃったので、敢えてこういう聞き方をしますが、コンビの危機はなかったですか?
NAOKI:世の中から求められるLOVE PSYCHEDELICOという形の音楽を、このまま続けていってもいいのかということを、立ち止まって考えることは、もちろんありましたよ。ただ、僕らの場合は、よく話し合ってきたのかな。あんまりケンカしたことないよね?
KUMI:ケンカはない(笑)。
NAOKI:ないね。
――KUMIさんがおっしゃったように、そこはやはり相性が良かった、と。
KUMI:そうですね。
NAOKI:20年って言うよりも、僕ら音楽家はきっとみんな、今まで出したアルバムの数だけ節目があるという感じなんだけど、アルバムを作る度にいろいろ環境も変わっていて。学生時代のデモテープがそのまま『THE GREATEST HITS』という1stアルバムになった最初があって、その後、お小遣いが入ってきて(笑)、生活や機材の環境が少しずつ変わりながら出してきたアルバムもあったり、4枚目のアルバムの『GOLDEN GRAPEFRUIT』の時には、自分たちのスタジオができたり、そんなふうに環境もどんどん変わっていったりとか、元々いたマネージメントから卒業したりとか、いつも何かしら変化は自分たちの周りであったんですよ、普通の人たちと同じように。そんな中で、時には悩むことがあってもど、その時の心境なんかを曲に反映させることってほとんどなかったんですよね。
――なるほど。
NAOKI:僕らは描きたい世界が先にあって、それを曲にしているところがあるので、自分の人生の紆余曲折に関係なくと言うか、特に個人的なナーバスな心境なんかに影響されずに音楽は作ってきたつもりだし、そういう紆余曲折とか、山あり谷ありが自分にあったとしても、そういうものに関係なく音楽を続けられたっていうのは、KUMIも僕も音楽への接し方が似ているのかな。
――常に作りたい音楽が、自分たちの中にあった、と。
NAOKI:いつも何かしらあると思うんだけど、ぶっちゃけると、それがたぎってこない時は無理して作らないけどね(笑)。
KUMI:それはそうだね。
NAOKI:そういうことも含め、自分たちの音楽人生の歩み方は、お互いの生活ペースとか、さっき言った紆余曲折とかと関係なく、崩れることはなかったよね。振り返ると、自分たちのスタジオを作ったのが大きかったかな。
――スタジオを作ったのは2005年でしたね。
NAOKI:今考えると、割と早いよね。2000年にデビユーしてさ。
――デビュー5年で自分たちのスタジオを持つというのは、確かに早いですね。
KUMI:でも、その時はやっと作ったと感じていましたけどね。
――昔から自分たちのスタジオを持ちたいと考えていたんですか?
NAOKI:あったよね。プロになりたいと思うよりも、スタジオが欲しいという思いの方が前からあったような気がします。
KUMI:大学時代に出会って、始めたバンドが解散してから、2人で曲を作り始めたんですけど、最初に作った曲が1stアルバムになっているんです。それを考えると、最初からLOVE PSYCHEDELICOの創作スタイルというのは、バンドでセッションすると言うよりも、スタジオのような、どこか基地を必要とするものだったんですよね。最初はNAOKIの部屋で宅録と言うか、2人で音を作っていたんですけど、その後、防音のスペースを借りて、そこをスタジオ代わりにするようになって。だから、スタジオを持つことは自然でした。そのスタジオにどんどん欲が出てきて、マイクもちゃんと立てたいとか、ドラムも叩けるようにしたいとか、バージョンアップしていって。
NAOKI:それが最終的に今のGOLDEN GRAPEFRUIT RECORDING STUDIOになるんですけど。
リラックスして、軽やかで、日常的で、楽しくてっていう、今の自分たちの音楽生活は、そういうテンションなんですよ、きっと。(KUMI)
――今回の「Swingin’ 」もそのスタジオで生まれたものですね。
NAOKI:生まれてから仕上がるまで、全部そこでやりました。
KUMI:そうだね、ミックスまでね。
NAOKI:マスタリング以外は全部ね。
――シングルとしては、1年4か月ぶりのリリースとなるわけですが、デビュー20周年を迎えた年にリリースする新曲というところでは、どんな思いの下、取り組んでいったんですか?
KUMI:20周年というのは意識していないですね。
――さっきのお話からすると、そうですよね。
NAOKI:それに、そんなにこうやってがんばりましたって語るような曲でもないんですよ(笑)。
――いやいやいや、待っていたファンは多いと思うんですよ。
NAOKI:こんなんできました、に近い感覚と言うか、できちゃったみたいな感覚はない?
KUMI:そうだね(笑)。
NAOKI:かっこいい曲じゃないじゃないですか。ユーモラスって言うか、たとえ、実は血と汗と涙の結晶だったとしても、こういう曲は、そういうふうに言わないほうがいいと思う(笑)。でも、実際、そんな大変じゃなかったよね。楽しいだけだったよ。
KUMI:そうだね。20周年を迎えるから力作です、ということよりも、むしろ肩の力が抜けていて。
NAOKI:だいぶ抜けているよね。
KUMI:リラックスして、音楽ってこういう感じでいいんじゃない?っていう。もっとリラックスして、軽やかで、日常的で、楽しくてっていう、今の自分たちの生活にある音楽と言うか、今の自分たちの音楽生活は、そういうテンションなんですよ、きっと。
NAOKI:こういう曲、楽しくていいね、こういう曲が身の周りに増えていったらいいよね、みたいな話はしてる。
LOVE PSYCHEDELICO
かっこいいって言うよりも、ユーモラスに聴こえたほうが、こういう曲はいいよねっていうのはキーワードとしてありました。(NAOKI)
――そういう曲を、シングルとしてリリースするといのは、タイアップももちろんあると思うんですけど、今のLOVE PSYCHEDELICOはそういうモードだということを、みんなに知ってほしいというところもあるんですか?
KUMI:曲が生まれた時は、シングルにするということは意識していなくて。
NAOKI:ずいぶん前だもんね。
KUMI:去年の……。
――夏ぐらいから作り始めていたそうですね。
NAOKI:(OKAMOTO’ Sの)レイジ君にドラムを叩いてもらったのが9月ぐらいだったから、9月ぐらいだと思うでしょ? でも、昨日さ、データを整理していたら、最初にこの曲を打ち込んだのは去年の2月だった。
KUMI:そうか。
NAOKI:これは新情報です(笑)。
KUMI:9月にしても、2月にしても、シングルということは全然意識していなくて、ただ、この曲が生まれてきたとき、すごく気に入って、やろうとなって。
NAOKI:それはKUMIが割と早く言っていたよね。
KUMI:それで、レイジ君にも叩いてもらって、少しずつ作業を進めていったんです。
NAOKI:ツアー中(『Premium Acoustic Live “TWO OF US” TOUR 2019』)だったからね。(制作はその)合間合間だったんですよ。
KUMI:今年に入ってドラマのお話をいただいたんですけど、そういうお話をいただいた時は、“さあ、書き下ろそう”と言うよりも、いま作っている曲がまず合うかなと考えるんです。そうすると、大体合うんですけど(笑)、今回も、いいんじゃないかなと思って、それでシングルになったという。
NAOKI:(曲は)いつも何かしら作っているんです。それで、今回も、この曲はいかがですかって。
――そしたらドラマサイドも気に入ってくれて。
KUMI:この曲がこういうふうにシングルという形で世に出せることは良かったと思います。
NAOKI:なかなかね、こういうシンプルな曲がこんなふうに世の中に広がっていくって、日本では少ないから、こいつ(「Swingin’ 」)もラッキーだったと思います(笑)。
――「Swingin’ 」はどんなふうに出来たんですか?
NAOKI:最初は、打ち込んだドラムとベースと、なぜかメロトロンのフレーズも入っていて。
――え、メロトロンもですか!?
NAOKI:Bメロでメロトロンが入ってくるっておもしろいねって最初から話をしていたんですよ。だから、アレンジを段々作り上げていったわけではなくて、最初からなんとなく、「スライドのイントロから始まって、8ビートで、それでBメロでメロトロンが♪ファーファーファーって入ってきたら最高じゃない?」みたいな感じだったよね。それで、去年の9月に、「レイジ君を呼んで、とりあえずドラムを入れてもらうってどう?」って、歌詞もメロディも何も決まっていない状態で、レイジ君を呼んで、ドラムを生に差し替えるって作業があったのかな。その時には、アコギぐらいは仮で入っていたけども。それからレイジ君のドラムを聴きながら、僕がベースを入れて、そのビートに合わせてアコギを入れ直して、その後、KUMIがオルガンとウーリッツァーを入れて。
KUMI:あとはギロとかね。
NAOKI:だから、設計図をちゃんと作ってとかではなかったです。
――そうなんですか。
NAOKI:そうなんですかって、すごく普通じゃないですか?(笑)
――いや、弾き語りで歌とメロディがあって、そこにちょっとずつ音を加えていって、曲って完成するのかなって思っていたので。
NAOKI:そういう場合もあるよね。
KUMI:メロディがはっきり出てくるものは、メロディとコードでという生まれ方をするけど、こういう曲は、グルーヴと言うか、リズムと言うか、最初にそれがあって、後から歌が生まれてくる。
――じゃあ、AメロのKUMIさんのボーカルが早口で、リズミカルなのはそのグルーヴに合わせているからなんですか?
KUMI:はい、あのリズムで、ちょっとユーモラスにするには、パタパタと転ぶような歌詞がいいかなと考えました。
NAOKI:お互いに共通していたのは、ああいう曲調って英語でボブ・ディランみたいにやったりすることもできるんだけど、日本語だよねって。「日本語でやったらユーモアがあっていいよね」「あ、俺もそう思ってた」って、そんなやり取りをしたことは憶えています。しっかりしたメロディは最初は決まっていなかったよね。
KUMI:あの曲はそうだね。だから歌詞を乗せながらメロディも考えていった感じかな。
――こんなに歌のメロディが印象に残るのに! 今、おふたりからユーモラス、ユーモアという言葉が出ましたが、テーマとしてそれがあったわけですか?
NAOKI:それはすごくありました。最初にあのメロトロンのフレーズが入っている時点でユーモアでしかないでしょう(笑)。なんかかっこよく入れてやろうって感じじゃないじゃないんですよ。ストリングスと違って、おもちゃっぽいって言うのかな。かっこいいって言うよりも、ユーモラスに聴こえたほうが、こういう曲はいいよねっていうのはキーワードとしてありました。自分たちの生きざまを伝えたいとか、そういうことではないよね。KUMIが歌詞を考えながらメロディも考えたって言ったけど、まさに、こういう曲ってメロディよりもリズムがすごく重要なので。リズムやドラムのパターンとかが気持ちよくなかったら、たぶん作っていない。自分たちの中では、どこかダンスミュージック的なんです。スネアの長さもドン・パーン、ドン・パーンじゃなくて、ドン・パッ、ドン・パッてちょっと切れるような感じと言うか、そうやって踊れるビートを、ロックのビートと言うよりは、ロックのマナーでダンスミュージックをやっているみたいな意識があるかもしれない。
――ギロが鳴っているからかもしれないですけど、なんとなくラテンっぽいノリも感じました。
NAOKI:たぶん言っていることは同じだと思うんだけど、僕もこの曲を例えるときついつい「レゲエ的な」って言っちゃうんです。音楽的に言ったらどこもレゲエじゃないのになと思いつつ、レゲエの解放感とか、おっしゃるようなラテンの腰で踊る感じとか、通じるところがありますよね。体が自然と動いちゃう、みたいに聴いている人がフィジカルになる音楽になったかなっていうのはありますね。頭を振るロックではなくて、腰で踊るダンスビートみたいな。そういうことを考えたかもしれない。だから、ラテンって言っている意味はわかります。フレーズじゃなくてね。
KUMI:それこそノリだね。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
等身大の日常を彼も意識してくれたんだと思います。叩き終わったとき、一緒に聴きながらレイジ君が「夕日が見えましたね」って言っていた。(KUMI)
――レイジさんがプレイしたドラムもすごく気持ち良くて、聴きどころだと思うのですが、なぜレイジさんだったんですか?
NAOKI:いろいろなことが重なったんですよ。OKAMOTO’ Sのプロデュースを何度かやる中で、僕らのGOLDEN GRAPEFRUIT RECORDING STUDIOでLOVE PSYCHEDELICOのやり方でレコーディングしたいって彼らのオファーで、「Dancing Boy」という曲を録ったことがあったんですけど。それで、いつもやっているようにバンドで“せーの”ではなくて、ドラムから順番に(各楽器を)録っていくというレコーディングをしたんです。それまではバンドの中で叩いているレイジ君しか知らなかったんだけど、その時、ドラマーとしてのポテンシャルがいろいろ見えてね、「レイジ君いいね」って話、していたよね? その時。
KUMI:そうだね。
NAOKI:それで、次、何か曲を作るときお願いしてみようっていう話をしていたんだけど、ちょうど木村拓哉君のアルバム『Go with the Flow』に「My Life」という曲を、ふたりで書き下ろしたタイミングでもあって。ミックスまで自分たちのスタジオでやってほしいというオファーだったので、「いろいろ並行してやっているんだから、もうさ、今ある曲全曲レイジ君に叩いてもらったらおもしろいんじゃない?」ってなって。
KUMI:レイジ君とやってみたいねと。
NAOKI:人間味とか、その人のクセとか含めて、とりあえず来てもらったら、いいミュージシャンなら絶対何か生まれるじゃないですか。それで、自分たちが考えていたものから例えちょっとずれても、おもしろいものになるんだったら音楽は素敵だと思うんですよ。それでレイジ君に来てもらったんですけど、レイジ君とやったらレイジ君の匂いがするかもしれないね、楽しみだねっていう、仕事というより、そんなカジュアルな感じでしたね。だから、録る時もスタジオにいるのは、レイジ君とKUMIと僕だけで。
――レイジさんが叩いたことで、何か変化はありましたか?
KUMI:彼も彼なりに、この曲をどう叩くか考えてくれて、彼のドラムが入ったことで、より曲の世界が日常感を増したと言うか、ドラム次第ではもっと気取った世界にもなり得たんだけども、等身大の日常を彼も意識してくれたんだと思います。それが曲に合っていたし、自分たちもよりこの方向でいいんだなと思えたし。そういうふうにしてという話はしなかったんだけど、叩き終わったとき、一緒に聴きながら、レイジ君が「夕日が見えましたね」って言っていたのかな。
NAOKI:あ、言っていたね(笑)。
KUMI:日常という言葉を使っていたかどうかは憶えていないけど、そんなようなことは彼も言っていて、あ、やっぱりそうかと。
NAOKI:スティーリー・ダンじゃないけど、設計図を書いて、これは誰に叩いてもらって、弾いてもらってというふうに構築する世界もそれはそれで素敵なんだけど、今はむしろその時その時、仲間に来てもらって、一緒に音を入れてというその日常感を自然に楽しんでいけるような曲作りに段々なってきていて楽しいよね。
――いいなぁ。ミュージシャンって楽器を演奏すること、音を奏でることで、会話できたり、世界観を共有できたりするじゃないですか。すごくうらやましいです。さて、そんな「Swingin’ 」、懐かしいところもありつつ、新しい感じもあって。
NAOKI:新しいところあります?
――僕はあると感じましたが。
NAOKI:良かった(笑)。
――音像は決して厚盛ではないんですけど、音色や楽器の使い方がとてもリッチで、聴き応えがあると言うか、何回も聴いていると、いろいろな音が聴こえてきて、楽しいと言うか。
NAOKI:全部、小さいけどね、音が(笑)。
――そうなんですよ! 今回は、この音を聴こうと思っているのに、違う音が聴こえてきて、聴きたかった音がどこかに行っちゃって、あ、この音、ここで鳴っているんだってなる(笑)。
KUMI:音がみんな生き生きと鳴っていて。有機的ですよね。こっちに出てきたと思ったら、こっちに隠れたりして、毎回、聴くたびに印象が違いますよね。
――聴きながらスタジオのレコーディング風景を想像すると、楽しそうだなって思います。
NAOKI:マスタリングが終わって聴いたりするじゃないですか。シンプルでかっこいいなって思える日もあれば、あれ、こんなにカントリーっぽかったかなって思う日もあって。自分の体調によって、曲の表情が変わる不思議な曲だなって最近気づきました(笑)。
LOVE PSYCHEDELICO 撮影=田中聖太郎
後日録り直してKUMIに聴かせたら「真面目でつまらない」って。それで、最初に弾いたやつをそのまま使うことになりました(笑)。(NAOKI)
――今回、エレキギターは控えめですね。
KUMI:ある意味、エレキギターがなくても成り立つ曲だから。でも、それこそスパイスとして欲しいねってなって、最後に録ったんです。全部が出来上がった後に何か振りかけたいねと(笑)。
NAOKI:歌録りした後に、「でもさぁ、これ、アコギの曲?」って話になって(笑)。
KUMI:「エレキの音も欲しいよね」って。
NAOKI:それで他の音を縫うようにツッテンテンテケテッテッて単音リフを入れたんですけど、それも他の仕事に行く前に、「こんなのどう?」って弾いたら、KUMIが「それいいじゃん」って言うから、「え、あと5分で出なきゃいけないんだけど、忘れないように1回だけ録っておいていい? 後でちゃんと録るから」って録った、そのテイクが結局そのまま(笑)。
――残り5分で録ったテイクを使っているんですか?
NAOKI:時間を気にしていたから、3番をよーく聴くと、ちょっと走っているんだよね(笑)。
KUMI:そうやってぱっと思いつくテイクが大体いいんですよ。その時もチューニングせずに弾こうとしたから、「チューニングだけはして。絶対使うと思うから」って(笑)。
NAOKI:実は後日、KUMIがスタジオに来ない日に半日かけてアンプを変えたり、ギターを変えたりして、録り直したんだけど、KUMIに聴かせたら、「真面目でつまらない」って(笑)。それで、最初に弾いたやつをそのまま使うことになりました(笑)。
――歌詞は男女関係を歌っているように聞こえますが。
KUMI:そうですね
――余裕が感じられると言うか、リラックスしていると言うか、決して、冷めているわけでも、その関係をあきらめているわけでもなく、情熱はまだ持っているんだけど、その関係に固執していないと言うか。
NAOKI:大人な感じね(笑)。
KUMI:歌詞を書く時には特定なシチュエーションを書くことはなくて、この曲の世界観を表すためには、きっと主人公が必要で。その主人公はどういう性格だろうかとか、だったらこういう景色の中にいるのがいいのかなとか、そういうふうに作っていくんです。
NAOKI:口調もそうやって決まっていくよね。
KUMI:どんな見た目で、どんな口調でってことをイメージしながら作っていくんですけど、空気感を伝えたいんです。メッセージとか、主人公の気持ちとかということよりも、その世界ごと空気を伝えたいというのがあって、それって主人公に寄るよりも普遍的なメッセージだと思うんですよね。だから、受け取る側はどんなふうにでも受け取れると思うんです。この曲も男女の恋愛とか、結婚生活とか、何にでも当てはめやすいと思うので、それはもう聴き手に自由に受け止めてもらえれば。
――歌詞を書く上でもユーモアを意識したんですか?
KUMI:言葉が聴こえてきて、楽しい曲にしたかったので、口調とか、使う言葉とか、ちょっとファニーと言うか、真面目になりすぎないように考えましたね。
NAOKI:コミカルになっちゃいけない、みたいなバランスは考えたよね。ただ、ある程度出来上がったところでKUMIが、その歌詞ノートを短冊に1行ずつ切って、ばーって宙にやって、もう1回、繋ぎ直したんですよ(笑)。
KUMI:はい(笑)。時制があまりない書き方をしていたので、前後してもそんなに変にならないかなと思ったのと、特にドラマチックなことを描いているわけでもないから、真面目に書いていくと、ちょっとつまらないかなというのもあったので。それで、シャッフルしてみました。
NAOKI:天才の考えることは、たまにわからない(笑)。
KUMI:でも、そういう手法もありますよね。
NAOKI:ボブ・ディランとかね。
KUMI:それぐらい言葉も楽しんでいるんです。
LOVE PSYCHEDELICO
リラックスしたムードもいいねと改めて感じたので、その感じは大事にしたい。アルバムを作るなら、そのムードは続くのかなと思います。(KUMI)
――ところで、せっかくの機会なので、新しいアルバムの予定についても聞かせてください。前のアルバムが17年なので、そろそろ聴きたいとみんな思っているのではないでしょうか。
KUMI:『Complete Singles 2000-2019』もリリースして、改めて過去の曲と向き合って、新鮮に感じた部分もありました。カップリングの曲はリラックスしたムードがあるんですよね。ライブだと表題曲を中心にやることが多かったので、カップリングのムードもいいねと改めて感じましたし。「Swingin’ 」もそういうムードがあって、今、その感じは大事にしたいと言うか。アルバムを作るなら、そのムードは続くのかなと思います。
NAOKI:「Swingin’ 」の流れでアルバムを作りたいねって話はしているんですよ。
――そのアルバム、すごく聴きたいです。
KUMI:ね、ちょっと楽しそうでしょ(笑)。
NAOKI:気負わずに生まれてくる曲って、すごく素直でいいよね(笑)。今までも気負っているつもりはないんだけど、ひょっとしたら大人になって、気負わなくても音が鳴らせるようになったというのもあるのかもしれないね。それも含め、ほんと、今が音楽、一番楽しいんじゃないかな。
取材・文=山口智男
ライブ写真撮影=田中聖太郎

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