松田聖子を
元はっぴいえんどのメンバーが
本格ディーヴァへと導いた
重要作『風立ちぬ』
大滝詠一の作風が色濃く反映
大瀧曲とそれ以外とでは、そもそもメロディーの質やタイプが異なっていると言ったらいいか。大雑把に言うと、財津和夫が氏らしさの中にも歌謡曲テイストを注入していたとするならば、大瀧曲はその歌謡曲っぽさが薄い──そんな感じだろうか。M5「風立ちぬ」は十分キャッチーでシングル曲らしくはあるが、それ以前のシングルで見せた高音域へ突き抜けていくような旋律が強調されていない…といった言い方でもいいかもしれない。
アレンジはA面の大瀧曲は大瀧自身が、B面はM8以外を鈴木 茂が行なっているが、メロディー以上に各々の作風がはっきり出ている印象だ。その辺りはWikipediaの解説が端的に言い表していた。以下に引用させてもらう。[「Side A」は大瀧のサウンドプロデュースによる独特の作風が色濃く出ており、これまでの松田の作品と一線を画している。大瀧は、今作の7ヶ月前に発表された自身のアルバム『A LONG VACATION』の収録曲と対になるようにそれぞれの曲を制作したと『大瀧詠一作品集Vol.1』のライナーノートで解説している。また、これまで松本と組んだ作品は、「はっぴいえんど」等での実験的な作品ばかりだったので、歌謡界で商業的に通用するかどうかの試金石だったが、今作がヒットして自信になったとも述べている]([]はWikipediaからの引用)。本作が大瀧にとっても、松田聖子にとっても、新たな試みであったことがよく分かる。
アルバム自体が端境期の作品であったからか、歌詞は松本 隆が一手に引き受けているとはいえ、それまでの世界観を踏襲したものと、その時点での新型と言えるものが混在しているのが興味深い。“ぶりっ子もの”に分けられるタイプもあれば、ファンタジックなM4「いちご畑でつかまえて」、スキーが題材で今となれば“これはのちに松任谷由実と組むことの布石だったのではないか!?”と思ってしまうようなM10「December Morning」、そして、堀辰雄の小説をモチーフとした、まさしく文学的なM5「風立ちぬ」もありと、実にバラエティー豊か。大作家を指してこんなことを言うのも大変失礼だろうが、本作以降、数多くの松田聖子の歌詞を手掛けていったことも納得のハイクオリティーである。個人的に注目したのは下記のタイプ。
《あの日彼のバイクの/後ろに乗って/夕陽探しに来た秘密の場所》《濡れた岩に刻まれたイニシャルが/過ぎた時を呼び戻す》(M2「ガラスの入
《もう タイヤまで/滑らせてドリフト/ねえ そのたびに/抱きついてしまうの/知っててあなたはわざと/怖がらせる悪い人だわ》(M9「雨のリゾート」)。
この辺は松田聖子に限った話ではなかったのだろうが、当時のアイドルがどの辺の層をターゲットにしていたのかが推測できて面白い。
TEXT:帆苅智之