鶴、ニューアルバム『普通』から紐解
く「普通」ということの素晴らしさ

2003年に結成され、2008年メジャーデビューした彼らの当時のトレードマークはアフロヘアーだった。2012年に、そのアフロヘアーを卒業し、翌年自主レーベル「Soul Mate Record」を立ち上げ、より精力的に全国各地を周る。47全都道府県ツアーを合計で3周も行ない、2019年には3人の地元である埼玉県鶴ヶ島市で『鶴フェス』も開催。この7年、8年は本当に濃厚であり、色々な事が詰まり過ぎていたし、だからこそ、あっという間に感じる時間だった。そんな時間を経てのニューアルバム『普通』。普通では無い時間を経験して、辿り着いたのが普通の境地……。その時間の流れをひたすら聞いているのが、このインタビューである。自主レーベルを立ち上げ、47全都道府県ツアーを3周も行ない、『鶴フェス』まで開催できたからこそという言葉が、何度も返ってきていた事に、インタビューを原稿に起こしている時に気付く。彼らからしたら、それが普通の事なのかと再確認もしたし、ラストナンバー「結局そういうことでした」の<だから僕は会いに行く 何度でも会いに行く>という歌詞に、彼らの核を感じる事も出来た。彼らは、自主レーベルを立ち上げてからの数年で、物凄くタフなライブバンドに成長している。その成長の証を、このインタビューで是非とも感じて欲しい。
ーー自主レーベルを立ち上げて、より全国をライブで回るようになったのが2013年で、ちょうど30歳になるくらいでしたよね。それまではメンバー全員アフロヘアーでしたけど、それも止めて、自由に動き出した時期でした。僕がインタビューで最後にお世話になったのが、ちょうど2012年だったんです。
神田雄一朗(ウキウキベース):8年前ですか。30代早いとは思ってたけど。
笠井“どん”快樹(ドラム):それくらい経ってるのか。
秋野 温(うたギター):30代あれれという間に過ぎていって(笑)。
笠井:もうすぐ40代(笑)。
秋野:30歳で自主レーベル立ち上げたのは楽しかったですね。自分たちでやりたい事をやるのが自主レーベルですけど、本当に周りに恵まれてました。最初は自主レーベルがどんな感じなのかわからなくて、不安はあったんです。アフロを卒業した頃に和歌山でSCOOBIE DOと対バンしたんですけど、それがちょうど悩んでる時期で。ライブ終わった後にホテルからコンビニへ行く時にボーカルのコヤマ(シュウ)さんに会ったんですよ。そしたらラーメンに誘われて、自主レーベルの事を相談したら、「やりたかったら、やれば」みたいな感じで(笑)。同じSCOOBIEのMOBYさん(Dr)やリーダー(マツキタイジロウ/Gt)にも同じ質問をぶつけたら、「やれる内にやったらいいよ!」と言われて。メーカー(メジャーレコード会社)にお世話になって、広めてもらって、全国に知り合いがいる時に立ち上げた方が良いなとは思いました。
秋野温
ーー実際、動き出してからは、いかがでしたか?
神田:最初の2年は、まぁまぁしんどい時期でしたね。軌道に乗るまで今思うと大変だったかなと。でも、辛い事は無かったし、やりたい事はすぐやれました。ストッパーが無いから熱が冷めない内に企画も出来るし、CDも出せましたし。楽しかったから、しんどい時期も乗り越えられましたね。3、4年目にもなると流れもわかってきて。自分らでやってると責任感も出てきますし、何かやらないと進まない。自主だとライブもお金も全てが直結してますから。アイデア勝負というか。最近は特に成長していますね。やるべき事をやるだけですし、それぞれの得意分野を活かせるし、やる事は増えたけど楽しいです。あの時(8年前)の選択は正しかったですよね、コヤマさんの(笑)。
秋野:最初からやりたい気持ち、やる気はあったけど、未知過ぎましたから。
神田:自主になるのを1年渋っていたら、こうなってなかったかもだしね。
笠井:メジャーの時と比べて決断する人が減ったことで、メンバーとマネージャーの4人で決めるようになって。多数決をするわけでもないし、最初は迷いがあったので、四苦八苦はありましたね。未だにどこかで一息ついた感じもないですが、気持ちにゆとりはあるし、やりたい事もやれてますね。去年、地元(埼玉県鶴ヶ島市)でやった『鶴フェス』で、どこに向かったら良かったのかという答えに辿り着いた感じがしました。
秋野:確かに一息はついてない。「次、何やる? 次、何やる?」でやってきたし、マネージャーも常に2個3個先を考えてくれていたから、一息つかせないでいてくれたのかな。自主になってから最初の3枚のアルバムは、全国47都道府県ツアーを1周目から3週目までしている時期で力んでいる部分があって。バンドの勢いが乗ってる方がカッコ良いとも思ってましたし、ライブの事を考えずには作れないというか。そういうライブに直結するシンプルなカッコ良さもあったんですけど、今はもっと好きにやっちゃえばいいと思っています。頭で鳴った音を鳴らしたら鶴っぽくなりますから。
神田:最初は戦うために固めるというか、肩肘を張ってましたね。
秋野:ライブにパンチが欲しかったんですよね。もっと音量をあげようみたいな。
神田:行きすぎて緩めた時期もありましたね。今はナチュラルになってきてるし、音量勝負じゃない事もわかりました。今回はある意味こだわり無いというか、好きな事をリラックスしてやる発想になってました。時期によって色々なモードがあるので、最初の頃はあれで正解だし、でも今は力まず、冷静に笑顔で刺す感じというか(笑)。
秋野・笠井:一番ヤベー奴だ!
秋野:サイコだよ!
神田:ハハハ(笑)。でも、凄みの空気感は出せてるかなと。
神田雄一朗
ーー不安があったり、力んでいたところはあったとしても、自主になって最初の「やってやるぞ」という意気込みの凄みもありましたよね。
笠井:今、思えば、自主になって出した1枚目も今聴いてもかっこいいし、ある意味2度目のファーストだったのかなと。アフロを辞めた時期だったので、舐められちゃいけないという思いがあったし、アフロ無くてもやっていけるところを見せたかった。ライブもユーモア部分を削っていたし、カッコ良いところを見せたかったんです。
神田:一番ファイティングポーズを取っていた時期だったから、本番前のSEを流すのをやめたり「こんばんは! 鶴です!」 という決めポーズをやめたり一番ピリピリしてた 。
秋野:急にどした?! みたいなね(笑)。
神田:それくらいしないといけないと思ってたし、強制というか、荒療治というか。
ーー笠井さんは8年前のインタビューの時にアフロをやめるのも、最初はためらっていたと言ってましたよね。
笠井:そうですね、俺は一番保守派でしたから。自主をやり始めてからも保守派でしたね。でも、楽しい部分は削らないといけないと思っていました。
秋野:5角形のグラフで言うならば、「かっこいい」の部分が弱いと感じていたので。
神田:この8年をかけて、全力でかっこいいもやったし、再度全力でアホも結局やったよね。
笠井:もはや何角形かわからなくなったよね(笑)。
秋野:わかりやすく結果を伴わない時もあって、最初の2、3年はモヤモヤを抱えてる時期があったけど、2015年から2016年にかけて47全都道府県ツアーをやって、偏った部分も修正されていきましたね。ライブバンドたるもの47全都道府県ツアーに行かなきゃと思ってたし、その時点で2周目の47全都道府県ツアーもスタンバイしていて、とにかく前代未聞の事をやるぞと。でも、2周目で俺らの関係も不安定になったんですけど。
神田:2週目はすれ違いでギスギスしてましたね。初めてくらいのギスギスというか。3週目の47全都道府県ツアーで転換期というか、モードが変わった感じでした。昔あったバンドの楽しいスイッチが入りつつ、今の自分たちも出せていましたね。
秋野:2週目はアドバイスのつもりで色々言い合うけど、言われて受け取る側も疲れがあり、ぶつかりあいになって、それが修正できないままライブがきて、でもライブをやってる時は楽しくて。だけど終わると、また色々あって。お客さんがライブを楽しんでくれてるのが凄い救いでしたね。みんな決して間違えてないけど、こだわりが強かった。重箱の隅をつつきあいというか。
笠井:まぁ、急に修正できないですからね。
神田:同級生バンドじゃなきゃ解散してましたね。音楽以外の繋がりがあって良かったですよ。
笠井:短期間で2周目にいくというのも、お客さんに火がついて、盛り上げてくれましたよね。
神田:そうそう、2周目の方が動員伸びたね。
笠井“どん”快樹
ーーお客さんの盛り上げがあったからこそ、苦しかった2週目を乗り越えられたというのもあるんですね。それを経ての3週目はいかがでしたか?
一同:3週目は楽しかった!
ーーそこは全員同意なんですね(笑)。
神田:3週目は全箇所違う曲順の構成にしたら、またお客さんに火がついて、あれは良かったですね。それにライブを土日にして、平日リハーサルスタジオに入るという流れも出来ました。
笠井:ライブからライブへの空いてるスパンが大事でしたね。
秋野:こういったライブでバンドも人間も成長しましたね。
ーーそういう全てを経ての今回のアルバム『普通』ですが、このタイトルは、どうやって出来上がったのでしょうか?
秋野:「普通」というワードが出たのは、昨年の10月、『鶴フェス』くらいの時ですね。47都道府県ツアーでアルバムツアーをすっ飛ばしていたので、「普通のツアーやりたいよね!」とふざけて『普通のアルバムツアー(仮)』としていて(笑)。でも、改めて「「普通」が普通で良くない?!」となって。普通って、ありふれたものであるという事という意味があって、当たり前に普通が共有できたら素敵だなと思ったんです。
ーー1曲目「イントロ~FUTSU~」から始まるのが、何だかドキドキ感があったんですよね。
秋野:1曲目がイントロというアルバムが好きなんですよ。
笠井:我々世代は好きだよね(笑)。
秋野:今回、久々に1曲目イントロにするアルバムにしたいと思って。ワクワクしますよね。
ーーアルバム制作自体は、どんな感じでしたか?
秋野:安産だったかなと。でも、難産だったとしても難産と今は思えなくて。ツアーもしんどいか、しんどくないかより、ただただ面白くなってきていて。今、脳みそが柔らかい状態なんですよね。思いついたアイデアをすぐ取り込めますし。やっぱり、47全都道府県ツアーやっての『鶴フェス』が大きかったですね。
神田:良い曲も揃ってましたし、アレンジもワイワイと出来ましたね。でもMIXにはこだわっていて、自主になって初めての頃はパワーで押し切ってましたけど、今回はナチュラルになっていて。その中で理想のCDの音があって、100%出来てないところを突き詰めようと。例えば、美容院に行って、ちょっと違うよなというのがあるじゃないですか。でも、仲良い美容師さんじゃないと、それを言えないですよね。そんな感じで今回はエンジニアさんに、この音に何でなっているかというのを、一個一個聞いたんです。仲良いエンジニアさんだからこそ出来たんですけどね。
秋野:そうじゃないとクレーマーみたいだから(笑)。
神田:仲良くないと言えないしね。
秋野:仲良かったら、細かいこだわりも言えるからね。
笠井:まぁ、でも自分たち的には凄い手応えがあったんですよね。みんな自分が入れたいフレーズやアレンジを凄い考えて、それを全部足していったんです。
神田:エンジニアさん的にはタブーな事もあったみたいなんですけど、最後は「じゃあ、それでいこう」となってくれましたね。
ーー個人的には、特にラストナンバーの「結局そういうことでした」が大好きだし、グッときたんですよね。自主レーベルを立ち上げての8年間全てが詰まってるというか。
秋野:自主レーベルを始めて、自分たちの空気を伝えられるのがライブだと思っていて、気付いたら47全都道府県ツアーをフットワーク軽く3周もして、それで良かったと思えたのが『鶴フェス』で。もっと上手くやれるとは思いますけど、自分らはこれですという思いが「結局そういうことでした」という言葉になりました。3周目の後半の中で元ネタとなる曲を書いていて、それを1年近く温めていたんです。最初は、いつやるかわからないけど、自分の想いを全部吐き出したかったので、デモにぶっ込んでいたんですね。『鶴フェス』が終わってから、この曲をやりたいし、この曲があれば、アルバムで言いたい事を全部言えると思えて。メンバー全員、この曲がアルバムの最後だったらカッコ良いよねともなったし、『鶴フェス』が終わって、この曲に説得力が増した気がします。昔から自分の思うモヤモヤや皮肉を出してましたけど、今回みたいにわかりやすく出すというのはやってこなかったんです。本当は楽しいのが好きなんですけど、せっかく表現する側にいますから。今回は幅が広まったというか、普通という基準の感覚がでかくなりましたね。
神田:デモの時も普通に良いなと思ったけど、みんなでアレンジしていく中で、これは凄いぞと思いましたね。アルバムの核だなと思いましたし、曲順も最後だなと。この曲は何が良いかというと、全部が一個の塊で、秋野が叫んでいて、それを僕らふたりが演奏しているんですよ。声で泣ける瞬間が後半にきていて、謎のパワーというか、問答無用感があるんです。ちょっと……ゾクッとするんですよ。何度も聴いていて、敢えて期待を込めて聴き直しても、やはりゾクッとするんです。色々な事をやってきた鶴が詰まっているんですよね。この曲は大きめの音で聴くのを推奨します!
笠井:この曲は秋野君の一番言いたい事が詰まっているなと。こっちも熱くなりますし。我々のストーリーを知ってる人は泣けますし、初めて鶴を聴く人にも良い曲だと思ってもらえるかなと。ライブでやるのが凄く楽しみですね。
神田:アルバムの中で唯一、ノークリック(メトロノーム音を使わない)で録って、鍵盤も入れて、『せーの!』で録って、その後の重ねも無しなんです。
ーークリックでリズムを聴きながら録って、その上で何度も録ったりするのが普通の中、本当に一発録りだったんですね。
秋野:サウンドチェックのつもりで始めたら、そのまま一発録りになりました。
笠井:「やっちゃお! やっちゃお!」と。終わりの時間も特に決めなかったですしね。
秋野:何か何倍にも増したというか、鶴の叫びになったというか。
神田:良い音で録ろうと思わず、「いけー!」みたいな感じで録ったから。
笠井:邪念ゼロだよね(笑)。
ーー邪念ゼロだからこその凄みが出たアルバムだと想います。今日は色々と聴けて良かったです。ありがとうございました。
取材・文=鈴木淳史 撮影=渡邉一生

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