中井智彦にインタビュー シリーズ第
5弾となるソロライブと『ビリー・エ
リオット』で描きたい世界とは

場の空気を圧倒する音量と艶のあるバリトンボイスを武器に活躍するシンガー俳優の中井智彦。2019年は『レ・ミゼラブル』『ナイツ・テイル』などに出演し、その存在力をアピールしてきたが、そんな中井が2020年、シリーズ第5弾となるソロコンサート『I Live Musical!5』を5月に開催する。さらに、大人気ミュージカル『ビリー・エリオット~リトルダンサー~』にビリーの兄トニー役として出演も決定。 目前に迫る二つの大仕事について話を伺った。
■『I Live Musical!5』~岡幸二郎さんと念願の歌の共演
ーーまずは、ご自身のコンサートの話から。気が付けばもう5回目となるんですね。
そうですね。年に2回ペースで取り組んできたんです。ソロライブは『I Live Musical!』と『-Singer Song Actor-』という二つのシリーズでやってきました。ミュージカルに特化してミュージカルのワンシーン、ワンシーンを思い出していただけるようなライブを、という狙いで怒涛のミュージカルナンバーを披露する『I Live Musical!』ですが、なんと今回は岡幸二郎さんをゲストに迎えて行うことになりました。
ーー岡さんといえば大・大・大先輩ですよね?
はい。元々『レ・ミゼラブル』で岡さんがジャベール役を演じられている時に僕が司教役で初めてレミゼデビューした時からのご縁なんです。その後、2008年に宮本亜門さんの演出で『ルドルフ ザ・ラスト・キス』をやった時は岡さんがメインキャストで、僕がアンサンブル。その時に僕が初ライブをするという話をしたら「中井が『愛の讃歌』を歌うのなら、なかにし礼さんの訳詞のほうが合ってるんじゃないかな」などと、いろいろと助言をいただいたんです。
岡さんのソロライブ『言〜ことだま〜魂』(2009年)も僕の中では凄く大きな存在で、拝見した時に、岡さんがいろいろな方の歌を“岡幸二郎として”歌う、“歌の中に生きる”ということを体感しました。それ以来、いつか岡さんをゲストに迎えて、その時受けた衝撃を噛み締めながら一緒に歌いたいと願っていたんですが、ついにその願いが叶う時が来ました。​
ーー中井さんから見た岡さんはどんな先輩ですか?
本当に後輩を気にかけてくださる先輩です。僕がライブをやるという時に、様々な視点から相談に乗ってくださるというか、例えポロっと口にしたことに対しても決して無責任な返しをしない人。『僕はこう思うからこうした方が良いと思う』とか、言葉に説得力を持っているんです。僕が劇団四季時代に『オペラ座の怪人』のラウル役でデビューした時も、その後別の作品に出演する時も、何も言わずに観に来てくださいました。後輩の活躍を観てくださる先輩の存在って嬉しいじゃないですか。そういう人間性が素敵だなって思います。
俳優としての岡さんは、常に予想を超えられる歌のクオリティをぶつけられる役者さんだなと思っています。『言~ことだま~魂』の話と少し重なりますが、“歌の中に生きる”ということをここまで考えている人、歌詞をここまで抱きしめられる人ってそう居ないと思うんです。例えば、さだまさしさんや中島みゆきさんの歌を岡さんが抱きしめた時に出てくるあたたかみがね……言葉を本当に大切にして発する方だなと思います。​
中井智彦
ーーそんな尊敬する岡さんとどのようなステージを作ろうとしていますか?
アイデアの一つとして“女性曲コーナー”を設けたら面白そうかなと思っていて。僕も今まで女性としての歌を歌ってきましたが、岡さんと交互に掛け合い出来たらどんなステージになるだろうと。以前、岡さんのディナーショーで「蜘蛛女のキス」を聴いたんですが、もうしびれちゃって絶品! 僕ら俳優はそれぞれに持っている表現力があると思うんですが、岡幸二郎という俳優がちょっと気高い女性を演じた時のリアリティがすごく好きです。僕も女性の曲を歌うのは好きなんですが、どちらかというと泥まみれになっている人生重めの女性、たとえば「夢やぶれて」(『レ・ミゼラブル』)とかを歌いたくなるんです(笑)。だからこそ岡さんには気品ある女性の曲、例えば「With One Look」(『サンセット大通り』)なども歌っていただきたいなとか、楽しみながら構成を考えています。​
ーー岡さんとの競演、今から楽しみです! そして中井さんご自身が今回のソロライブで特に力を入れたいと思っている曲はどれですか?
2曲あって。「Oh What A Circus」(『エビータ』)は昨年11月に開催したライブ『Singer Song Actor』でも歌いましたが、今回はよりブラッシュアップして臨みたいです。そしてもう1曲は「Music Of The Night」(『オペラ座の怪人』)。弾き語りで一度歌ったことはあるんですが、今回はバンドの世界観とともに皆さんにお聴きいただきたいと思います。​
■『ビリー・エリオット』歌ではなく台詞を聴かせたい
ーー『I Live Musical!』が終わってすぐ『ビリー・エリオット』も動き出しますね。
はい。前回の日本初演が終わった後で再演のオーディションを受けました。海外版のビデオ映像はすごく観ていたんです。何ていい作品なんだ、子役のビリーがあんなに頑張ってバレエを練習して……のその裏に炭鉱夫として生きている人たちのリアリティがないと完成しない物語なんだなと感じました。出演者の方々は当たり前のように炭鉱夫として存在し、彼らがストライキに熱を上げていけばいくほど、ビリーが切なく見えてくる……その二つのストーリーが共存していることがこの作品の大事なところであり、お芝居のやりがいがあるなと感じていました。
ーー『ビリー・エリオット』のオーディションではどのようなところを審査されたんですか? また海外スタッフさんからはどのようなアドバイスをいただいたんですか?
歌を綺麗に歌うではなく、どれだけ台詞として喋ることができるのかを特にチェックされていました。『今のは歌っている。もっと台詞を語ろう』って。特にトニーが最初に歌う「The Stars Look Down」では皆がいる中で自分がリーダーとして歌うんですが、歌というより語り掛けるという方が近いかな? “誇りを持って俺たちが!”というニュアンスを『歌わないで!』と言われたり。またお父さんとの掛け合いの歌も『歌にしないで。何故ここで涙が出てしまうのか、感じて、喋って!』って言われ続けていました。僕の中では“喋って”という言葉が特に印象に残りました。メロディラインは既に身体の中にあるので、そこで言葉が乗っかって相手に突き刺さっていくように歌うのが正解だと思うんですが、なまじ歌を学んできた身としては一瞬でも気を抜くと、台詞ではなく声を聴かせることになってしまいがち。
でもふと思い返すと、岡さんの歌が心に刺さるのは歌を聴かせているんじゃなくて、言葉を聴かせようとしているからなんだなと。技術うんぬんも大事ですが、その前にこの言葉をどれだけ相手に届けようと思っているのか、その役として相手に伝えようと思っているのかが大事なことだなと改めて感じました。
中井智彦
ーー岡さんから学んだことがここでも活かされているんですね。
ええ。そして今年頭には『CHESS THE MUSICAL』に出演し、ラミン・カリムルーと共演した時にも同じことを経験したんです。ラミンは台詞と歌の境目がないんです。まったくないんです! そのあたりについてラミンと話をした時、ラミンは『言葉があるから歌うんでしょ? その言葉を伝えたいから歌うんであって、声を聴かせるのではない』って言ってたんです。ああ、その通りだなって納得しました。
ーーラミンさんといい岡さんといい素晴らしい方に巡り合って幸せですね。今回『ビリー・エリオット』で共演される方のなかにも影響を受けた方はいらっしゃいますか?
すべての皆さんが好きなんですが、なかでも橋本さとしさんは2007年の『レ・ミゼラブル』で僕がレミゼデビューしたときのジャン・バルジャン役なんです。さとしさんのバルジャンは常にパッショナブルで、自分の燭台を司教の僕に渡すときはいつも芝居が違っていたし、“生きる”ということに重きを置いている方でした。そんなさとしさんが今回お父さん役でご一緒できるのが嬉しいですね。また、おばあちゃん役の阿知波悟美さんは『レ・ミゼラブル』でマダム・テナルディエ役でご一緒し、その後『キャンディード』でもご一緒しました。“阿知ねえ”のお芝居は凄く好きなんです。舞台『佐賀のがばいばあちゃん』に出演されたのを観に行ったことがあるんですが、そこには阿知ねえはいなくて、がばいばあちゃんしかいなかったんです。演じるのではなく、その役として生きている姿にただただ尊敬の念しかありませんでした。
ーー中井さんから見て、ビリー役、マイケル役の子どもたちの存在はいかがでしょうか?
『レ・ミゼラブル』のガブローシュ役の子もそうなんですが、「ABCカフェ」の場面ではガブローシュを子どもとして見ないんです。同時にガブローシュも自分は子どもじゃなく仲間の一人だというスタンスで接してくるので子ども扱いしないんですよ。で、『ビリー・エリオット』の場合も、ビリーもトニーとはちょっと距離感のある兄弟なので、子ども扱いはしないんじゃないかな。そのあたりの関係性をどう出していくのか、楽しみですね。
ーー最後になりますが、中井さんとして、トニーという役にどう向き合っていきたいですか?
リアリティを追求していきたいです。お父さんという存在がいて、若きトニーがストライキのリーダーとなっていく。周りからみたら「まだまだ青いなアイツ」って思われているからこそ、先走ったりケガもしたりするトニーのリアリティを出していきたいです。
炭鉱夫としてのトニーのリアルを出していくことで、ビリーのリアルも浮かび上がっていくんじゃないかなと思っています。

中井智彦

取材・文・撮影=こむらさき

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