楪いのりが祈った明日と、chellyが歌
った未来への希望ー EGOIST全国ツア
ー・東京無観客ライブレポート

TVアニメ『ギルティクラウン』『PSYCHO-PASS サイコパス』などのテーマ曲を歌うEGOIST。その全国ツアーEGOIST LIVE TOUR 2020 side-A 『chrysalizion code 404』の皮切りとなる2020年3月7日(土)Zepp DiverCity(TOKYO)での公演が無観客での開催となり、ニコニコ動画・bilibili動画にてライブ配信された。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、本来の予定とは異なる形で行われた今回のライブ。その無観客となった会場へ、我々SPICEは取材する機会を得た。実際の会場では何が起きていたのか、その貴重な生のステージの模様をお届けする。

無観客の会場に響く楪いのり(CV:茅野愛衣)のモノローグ――一つの物語の幕が開く
今回の全国ツアーはEGOISTの原点回帰として、ツアー全体を通して一つの物語を形作っていくというコンセプチュアルなものとなっているそう。ライブの始まりを告げる鐘の音が鳴り響いた後、ステージのスクリーンには言葉が映し出され、それを読み上げる『ギルティクラウン』のキャラクター・楪いのり(CV:茅野愛衣)の声が響いた。物語が始まる予感を抱かせながら、舞台の幕が開く。
ステージに立つのは、アニメ『ギルティクラウン』の世界から飛び出した楪いのり。その舞台の裏では、姿は見せないが、ヴォーカルchellyが動き、歌う。その彼女の動きがモーションキャプチャーで反映され、楪いのりもリアルに動き、マイクを持って客席へ音楽を届ける。
音楽で満たされる空間と、歌に合わせてエモーショナルな映像を映し出すスクリーンと、その中央に立つ楪いのり。一見するといつも通りのEGOISTのライブだが、音を届ける先の客席には、我々や会場スタッフ以外は誰もいない。がらんどうの空間を、ただ音楽が満たしていく。曲が終わるごとに拍手も起こらず、一旦静寂がおとずれ、また次の音楽が始まる。
だがこの様子こそ、「うまく成立している」と感じさせるものがある。今回のライブの構成では、場面展開の合間にchellyのMCではなく、楪いのりのモノローグが入る。透明感のあるいのりの声が、静寂に包まれた会場の中、ピンとまっすぐに響いていく。それはそれで一つの演出のようにも感じさせる。
モノローグの声と、歌うchellyの声が、楪いのりというキャラクターを通してシンクロしていく。モノローグから歌につながっていく場面もあれば、歌からモノローグへとつながり、また次の曲へと続く場面もある。観客がいれば、その一つ一つの演出に歓声が沸いていたかもしれない。だがこの無人の空間に響く歌声は電波の波に乗って世界に配信されている。今日この日はこの場所こそが震源地であり共鳴空間だ。あまりにも静かなままに場面は展開し、息をのむような緊張感と歌うこと、歌われることの幸福な時間が流れていく。
この日歌われたのは、アニメ映画『虐殺器官』の「リローデッド」や、テレビアニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の「名前のない怪物」、『ギルティクラウン』より「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」など定番の曲はもちろん、初期のカップリング曲等もたくさん。まさに「原点回帰」の内容で、EGOISTを形作ってきた一つ一つの曲に込められたストーリーも、モノローグから改めて感じられる構成になっていた。
元々は、宇宙から飛来した未知のウイルスによって荒廃した近未来の日本を描いたSFアニメ『ギルティクラウン』から誕生した架空のアーティストであったEGOISTとそのヴォーカル楪いのり。しかし彼女たちは様々な楽曲を作り・歌い、もはやちゃんと実在するアーティストとなっている。ただ今はその存在が、「作品を巣立ってきた」と言うよりは、「ようやく作品の世界にたどり着いた」ようでもある。
奇しくもアニメを彷彿とさせるような“未知のウイルス”による社会不安が広がる現実社会。もちろんアニメの世界観と比べれば、現実の方がよほど平和だ。それでも日々、気が滅入るようなニュースは舞い込んでくる。そうしてやるせなくなっていた我々の心へそっと花を添えるように、楪いのりの音楽が響く。現実のEGOISTが、アニメの中で描かれた架空のEGOISTに追いついてきた。観客がいなくても、揺れるサイリウムや歓声がなくても、その音楽は届く。廃墟に立つ女神のようにEGOISTは歌う、愛を叫ぶように歌う。この世界には今願いと音楽しかない。
スクリーンに溢れる言葉の渦、いのりとchellyが祈る未来
観客がいなくてもステージは続く、だがやはり拍手も無く、本来アンコールが起こる場所ですら静かなままだ。だがその代わりに用意されていた演出は、スクリーンに映し出されたニコ生のコメント。
誰もいなかった会場で、一斉に流れるコメントによって、ファンたちの姿が具現化される。「88888888(拍手)」「アンコール! アンコール!」「いのりー!!」「大好き」「愛してる」寂しさを感じなかったと言えば嘘になるが、この公演をリアルタイムで見ていた人が可視化されることで、孤独ではないと感じられる。斬新な演出ではないかもしれないが、それが素直な感動を誘う。
一度歌い終わって消えていた楪いのりの姿も、再びステージに現れる。「アンコールありがとうございます。無観客だから、応答が無いのがすごく新鮮ですけれども。自宅警備をしながらライブに参加してくださってありがとうございます」ここにきてようやく、chellyのMCが入る。それまでの舞台で張りに張っていた緊張の糸がようやくぱっと緩むような、優しく温かな声だ。「今日は寂しい感じになってしまったんですけど、コメントを見て元気を取り戻しました。いち早く皆さんの前で、ちゃんとライブができるようにお祈りしています。いのりだけに(笑)」と、照れながら語るところも可愛らしい。
そして「今日は一つ、言うことがございまして」と重大発表の前振りに言うが、やはりいつものライブとは違い、すぐに反応は返ってこない。ワンテンポ遅れて、「おおおおお」とコメントが流れる。「新曲を今から歌おうと思うんですけれど」と、そこで披露されたのが、新曲「最後の花弁 (The meaning of love)」だった。
この曲は、人気リズムゲーム『DEEMO』などの楽曲で知られる韓国のクリエイターM2Uより提供された楽曲だそう。儚げなピアノの旋律と、その周りを包み込む幻想的で疾走感のあるシンセ・サウンド。EGOISTの新曲として、すんなり心に届いた。
chellyが語った「その場その場で、生の感情を持ってもらいたい」思い
最後に、ライブ直後のchellyにインタビューする機会が得られた。以下、その模様をお届けする。
――お疲れさまでした。無観客ライブという形でしたが、いかがでしたでしょうか?
ちょっと寂しかったです。無観客で行うのは2回目ぐらいですが、前回とはコンセプトが違い、ハプニング的な出来事だったので。本当はお客さんを会場に招いて1対1な感じでやりたかったというのはあるんですが、それはしょうがない。ただ、配信では皆さんコメントを書いてくださって、「アンコール」とか温かい反応が見られて良かったな。結果的に沢山の人に見てもらえたので、嬉しいなって思います。
――今回、原点回帰とおっしゃっていて、茅野愛衣さんのモノローグを入れられていたりしました。構成にはchellyさんの意思も入っているのでしょうか?
そうですね。いつもだったら私のMCである部分を、一回ちょっと切り取って、シュッとしたものをやりたかったっていう思いがありました。私、喋るとおちゃらけてしまうので(笑)。昔のEGOISTを知らない人にも、新しい、もしくは懐かしいEGOISTを感じてもらえたらという思いです。
――新曲「最後の花弁 (The meaning of love)」は初めて披露されて、いかがでしたか?
本当は生で届けたかった。受け入れてもらえるのかな? っていう不安もありますし。複雑すぎて、自分の中であんまりまとめきれないんですけど。
――そうですよね、実際は生のリアクションを見れたはずですよね……。
そこはちょっと見たかったな、って思います。バッって自信を持って、「これが新曲です!」ってやりたかった。
――それは、また改めての機会にということになりそうですよね。また、今後通常通りのライブができるようになったとき、どういう風にお客さんに楽しんでもらいたいですか?
いつも通りな感じで来ていただければ嬉しいんです。そこで「あ、いつもと違うな」とか、「ちょっと懐かしいな」と思う人とかもいると思いますし。その場その場で、生の感情を持ってもらえれば。こちらから強制することはあんまり無いかなと。自然に楽しんでほしいなって思います。
――今回は、前代未聞のライブにはなりましたが、それでもEGOISTのライブとして成立していたのにびっくりしました。ネットを通じて観られていた方々も希望をもらったライブだと思います。
本当ですか? それが一番、嬉しいなって思いますね。

想定外の社会情勢の中、無観客という特別な形で実現した今回のライブ。運営側にとってみれば、初めから苦肉の策という部分が大きかっただろう。ただ我々受け手にとってみれば、それでも成立していたことが感動だった。むしろそんな逆境さえ演出の一部にしてしまうような感動的なステージを作ってくれたことに、大きな感謝を述べたい。
勿論興行的なダメージも多かったと思う、無観客であるが為にグッズ販売ができなかったというのもあるが、ツアー期間中から異例のEC(通販)サイトで本ツアーのオフィシャルツアーグッズを販売するなどで対応している。表現を生業としている全てのアーティストが困窮している今、出来る限りお互いを支え合わなければならないと思う。
まだまだ不安な世の中はこれからも続いていくが、このライブから受け取った感動を大切に胸に抱いて、どうかこれからの日々を乗り越えていこう。そう思う我々へ、そっと添えられる花のように、EGOISTは常に寄り添ってくれるはずだ。
取材:加東 岳史・平原 学、構成:平原 学

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