2年半の時をかけ、深化させたシリー
ズ最新作─烏丸ストロークロック『ま
ほろばの景2020』が、伊丹・東京公演
を経て、まもなく三重と広島で上演

京都を拠点に活動を続け今年で結成21年目を迎えた、劇作家・演出家の柳沼昭徳率いる〈烏丸ストロークロック〉。作品のテーマとなる土地でフィールドワークや滞在制作を行い、そこから紡ぎ出した短編作品を長編作品へ練り上げていくという、ひとつの題材に数年に渡って向き合い続ける創作スタイルが評価されている彼らの、『まほろばの景』シリーズ最新作が今年誕生した。その名も『まほろばの景2020』が、2020年1月末の伊丹、2月半ばの東京公演を経て、まもなく2月29日(土)・3月1日(日)に「三重県文化会館」、3月6日(金)~8日(日)には「広島市東区民文化センター」で上演される。
烏丸ストロークロック『まほろばの景2020』チラシ表
〈烏丸ストロークロック〉は「三重県文化会館」とは関わりが深く、過去にも滞在制作を行ったり、柳沼がワークショップの講師を務めている他、現在も、一般参加者と共に3年間に渡ってじっくりと作品創りを行っていく演劇ラボ〈ホニホニマー舎〉の指導にあたっている。3月末に2度目の試演会を予定しているこちらについては別途、当サイトで後日紹介予定だ。
さて、現在ツアー中の『まほろばの景2020』は、彼らが2017年に宮城県仙台市で取材と滞在制作を行った短編作品に端を発している。東日本大震災を起点として創作されたこの作品は、さらに2編の短編作品を経て、2018年には長編作品に仕上げられ「ロームシアター京都」と「東京芸術劇場」で上演。震災以降、潜在的に日本人を覆う生きづらさや現代人の孤独を表した普遍的作品として、各方面から高い評価を得た。
そこからさらに作品を深化させるべく、重要な要素である神楽や山岳信仰に焦点を当て、東北神楽や修験道体験などの取材・フィールドワークを重ね、神楽に軸を置いた小作品『祝・祝日』を仙台と広島で発表。そして、2019年12月に兵庫県豊岡市の「城崎国際アートセンター」で滞在制作を行い、再創造に臨んだという。重要なモチーフとなった神楽との関わりや、長編初演から再創造に至る作品への思い、伊丹・東京での上演の手応えなどを柳沼昭徳に聞いた。
烏丸ストロークロック『まほろばの景2020』作・演出の柳沼昭徳  撮影:松原豊

【『まほろばの景2020』あらすじ】
東日本大震災の津波で故郷・仙台の実家を失った福村洋輔。震災後わずかの間、見ず知らずの者同士が利他的に助け合ういわゆる“災害ユートピア”を目にしたことで、福村の人生に変化が訪れる。福村は各地の災害ボランティア活動を転々とする中、糊口をしのぐために知的障害者施設のヘルパー職につき、利用者・盛山和義に出会う。次第に二人の間に言葉なき関係性が育まれていくが、和義の突然の出奔によりその生活も終わりを告げる。和義を探し、明け方の霧がかった里山をいくつも越えながら、福村は山の中で様々な人々と出会う。

── この作品は短編から始まり、それまでの集大成として2018年に長編作品として創作されたわけですが、今回の再創造ではどの辺りを変えられたのでしょうか。
まず登場人物が大きく変わっていますね。福村という主人公は同じなんですけど、初演の時は超越した人間のような役割で山伏が出ていたのが、今回は福村と同じように痛みを抱えている人々、ということで、周りの人たちも福村と同じく登山をしている人にしたことが一番、見た目には明らかな変更です。初演からモチーフにしていた神楽と、神楽の元となっている山岳信仰とか、もっと大きくは日本人の信仰みたいなものに触れてきたわけですが、山伏というと時代劇などでひたすら胡散臭い悪い役、みたいな感じで捉えられていますけど、いま山伏の体験修行をするのは女性の方がすごく多いんですよ。都市生活をしている中でどこかしら失われていく野生の感覚に憧れを持って来られるという話を聞いて、その地続き感を出したかった、というのはありますね。今回の作品は東日本大震災から出発していて、その現実的な出来事と響き的なことから生まれた“屈託”というものがテーマになってるもんですから、その屈託を軽減させるとか、心を軽くする存在もまた人である、というようなところに落としていきたかったっていうことがあります。
初演の時は、どちらかというと福村という一人の個人的な物語としての印象が強かったんですけども、もっとみんなの物語にしたいと思ったんです。震災が起点にはなっていますけど、震災に関係していなくても、世の中で同じように屈託を抱えている人たちが繋がれないかな、と思ったんです。この作品が媒介となって、いろんな土地からやって来た山伏の人たちが山で出会うように出会えるんじゃないかと。2018年の東京公演で安田登さんという能楽師の方にトークゲストで来ていただいた時に、「痛みを共有する身体というものが必要だ」というお話があったんですね。思考の部分で繋がることは今、SNSとかのおかげで出来るんですけど、同じ痛みを共有した者がその場にいて同じ行為をするということが必要だろう、というのが本当にそうだなと思って。単純に一緒に酒を飲むこともそうですし、一緒に走るとかでもいいですし、身体を介して一緒に何かをする、という場所が今はどんどん減ってると思うんですよね。だからそういう痛みを共有している人たちが、ひとつの山に登る。お芝居でいうと、俳優たちが神楽という共通の身体をもって舞台で立ち振る舞うことというのは、何か希望があるんじゃないかな、と思って今回、再演に繋げていったという感じです。
──2018年の初演で京都と東京で上演されてみて、観客の反応はどんな感じでしたか?
東京公演の時に、「都市部に現れた祭壇」みたいな表現をされたお客さんがいて、それはすごく光栄でした。ひとつは東日本大震災という現実の出来事を扱っていることがものすごく大きいと思うんです。登場人物自身が持っている屈託というのは、自分は直接の被害は受けていないけど遠からず被害を受けている。周りには酷い体験をした人がいて、そことの折り合いがついてないというのか。現実にあの時、東北に住んでなくても少なからずそう感じた日本人は多かったと思うんですよね。自分が何も出来ないとか、何もしないということに対する呵責、そういうことがこの作品全体にある後ろめたさとして存在しているので、そこでお客さんにコミットしている質量が大きいんだな、ということは思いました。
── フィールドワークでは、実際に山伏修行もされて。
はい、俳優3人が行きました。体験したことを僕が聞く限りでは、何か超越した能力を身につけるとか、仏教や神道に開眼していくということでもなくて、携帯電話とか奪われて、ある地点までただひたすら山を歩いていく。その間にいろんな修行があるんですけど、それは今生きている、ということを確認する時間なんですね。現代人の病巣でもある、今ここに無いことに悩まされる、ということが多いじゃないですか。過去のことや未来の心配であったり、スマホを開いたら全然ここには無いけれども無限の世界が拡がっていて、ここには居ない人の言葉がいっぱい溢れてる。そういうところから離れて、目の前の山を登るという行為だけに集中するとか、そういうことに何か浄化作用があるんじゃないかな、と思うんですよね。それが特に、日本の信仰の根本でもあるなって思ったんです。ただひたすら念仏を唱えるとか、仏壇と向かい合うとか。今そこに居る、ということが人々の心を癒す作用があるんだな、ということを思いました。
── そもそもこの作品に、山岳信仰や山伏を取り入れようと思ったきっかけというのは?
それはやっぱり、神楽と出会ったからですね。仙台で取材した時に「せんだいメディアテーク」というメディア資料館の中にある映像ライブラリーを訪れて、そこに「3月11日を忘れない」というくくりで様々な立場の方々が被災地を記録した映像のDVDがいっぱいあって、それを視聴している中で出会ったんですよね。福島の子ども神楽だったんですけど、「ぜひ稽古を見学に行かせてほしい」と言って取材に行かせてもらったんです。向こうの方は最初、「京都から? なんで?」みたいな感じで(笑)。でも実際に行ったら、稽古ではなく本番仕様で待っててくれたんですよ。子どもたちがお面や衣装をつけて、神社にある神楽舞台にちゃんと幕まで張って。
── それは柳沼さんたちのためだけに?
そうです。
── すごいですね。それだけで感動しますね。
そうなんですよ。なんで?って。幾ら取られるんやろ?ってちょっとよぎるじゃないですか(笑)。でも全然そんなことなくて、「本当によく来てくださった」みたいな感じで。神楽を3番ぐらい観させてもらったあと社務所で話を聞いたんですけど、「実は今度、お芝居を創るにあたって神楽を取り入れさせてもらいたいので教えて下さい」と言って、俳優たちも一緒に行ってたもんですからその場で教えてもらって。最後には一升瓶を2本、お土産に持たせてくれて、なんだろうな? これ、と(笑)。いわゆる経済の中の対価交換みたいなのじゃなくて、神楽を取り巻く人の営みというのはあくまでお祭だから、みんな自分の家にある物を持っていくし、小劇場演劇と一緒ですよ。「これが足らん、持ってきて!」「おう、持っていく」 みたいな。贈与経済なんですよね(笑)。
── 人々の関係が密接だった、古き良き地域の共同体で行われてきたことですよね。
その中にある芸能ですから、やっぱりもう我々の感覚からしてちょっと違って。まず圧倒的に違うのは、神様という対象があることで、「SHOW」や「PLAY」じゃなくて祈る方の「PRAY」なんですよね。それがすごく豊かだなと思って、強い憧れを持ちました。我々が出会ったのは「山伏神楽」と言われる山岳信仰から生まれた神楽なんですけども、面白いのは、舞の全部の振りに意味があるということですね。その意味を全部は理解できなくても、何かそこに流れている身体性とかを掴まないと、なかなか踊ることが出来ない。それは探っていくうちにそういうことがわかっていったんです。一見繰り返しのように見えて、全く同じ振りは一切無いんですよ。それが踊り手にどういう作用を及ぼすかといったら、舞を追いかけるしかないんです。今で言うところのスポーツに近いものですよね。それも心から解き放たれる効果があるんだな、と思って。そういう、心を介さない行為というものがだんだん煮詰まってきた時に初めてカタルシスが生まれてくる、というのも見て知っていくうちにわかっていって、そこをある現代人の憧れを持っている状態として再捜索した、という感じです。初演の時にもそうだったんですけども、今回より強く、そういう要素が散りばめられています。
我々みたいに「現代演劇」というよくわからないものをずっと創っていると、どこがゴールかもわからないし、面白いっちゃ面白いし、おもんないっていったらおもんないものを人それぞれ、みたいにやっていますけど(笑)。そんなんやってると、何なのかな? 俺ら、とか、何なのかな? 日本人って、とか、芸術って何?、演じるって何? という思いに至って、そういった時に神楽というのは非常に示唆に富んでいるというか、意外と自分たちがやっていることも対照して、比較して見えてくるものがある感じがしました。
── 再創造するにあたって、「城崎国際アートセンター」で滞在制作をしたというのは?
今回、新しく参加する俳優がいたのと、『まほろばの景』の初演が終わってから、神楽だけをやろうと『祝・祝日』という演目を創ったんですよね。それは俳優が神楽を最低でも1番は踊れるようになる、ということが目的だったんですけど、2回上演して、城崎でもそれをやっちゃおうぜ! と。そのために2週間、今回新たに参加するあべゆうも入れてみんなで、「とりあえず神楽をやろう」と言って、今回の再演の話は1個もせずに神楽だけ踊ってたんですよ。それをやりながら、古典芸能という見え方じゃなくて、今やって成立するものにどうしたら出来るんだろう? と考えていました。成果発表では、神楽の合間にトークを挟みつつ、お客さんに酒と食べ物を振る舞ったんです。「城崎国際アートセンター」が許可してくれたので、最初お客さんも演者も混ざって乾杯して、豚汁やおにぎりも配って。
烏丸ストロークロックと祭『祝・祝日』in城崎 2019年12月 (c)igaki photo studio 写真提供:城崎国際アートセンター
烏丸ストロークロックと祭『祝・祝日』in城崎 2019年12月 (c)igaki photo studio 写真提供:城崎国際アートセンター
── 実際に神楽が行われている、地域の村祭の雰囲気を味わっていただこうと。
そうです。こういう感じで見てもらったらそれでいいや、と。それは大成功したんですね。あまり意識はしてないですけど、その大らかさみたいなものも今回の作品の中に含まれてるのかなぁと思ったり。すごく豊かな時間を過ごせましたし、今回新たに参加する人も初演を体験している俳優も、なんかそこで「こういう感じね」「こういう良さね」みたいな共通言語と共通身体が出来たな、というのはありましたね。
── 今回の再創造で、舞台美術などは変化しているんでしょうか?
舞台美術はマイナーチェンジしています。仕掛けも若干変えてます。山伏対主人公・福村というのではなくて、全員が人間ということを表したいこともあって、今回の主旨に合った美術に変更しています。初演も観た方の中には、ビビッドに「ほとんど変わってない印象だけど全然違うね」と仰るお客さんもいらっしゃるし、「なんか付け足したな」という程度の感想もあるのでお客さん次第なのかなとも思いますけど、我々としては全然ニュアンスが変わってるっていうのはありますね。だから変わってます(笑)。あと、初演の時はいつも音楽を担当している中川裕貴が舞台上の音全部を担っていたんですけど、今回は登場人物の演奏と歌も入れるので、音楽はみんなでやっている感じが大きいなと思います。
取材・文=望月勝美

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