謎多き絵巻の全貌に迫る! 特別展『
国宝 鳥獣戯画のすべて』報道発表会
レポート

日本一有名な絵巻とも言える、国宝「鳥獣戯画」。甲(こう)・乙(おつ)・丙(へい)・丁(てい)の全4巻からなる絵巻が、一堂に会する特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』が、この夏、東京国立博物館にて開催される(会期:2020年7月14日〜8月30日)。
国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
本展は、擬人化した動物や、人間たちの営みを生き生きと描いた鳥獣戯画の全巻全場面を、44日間の会期を通して一挙公開するもの。国宝の4巻だけでなく、巻物から分かれて掛け軸となった断簡(だんかん)や、すでに失われた場面を留めた模本とあわせて、鳥獣戯画の全貌に迫る内容となっている。
重要文化財 鳥獣戯画断簡(東博本) 平安時代 12世紀 東京国立博物館 通期
さらに、絵巻が伝わる高山寺を再興した鎌倉時代の僧、明恵上人(みょうえしょうにん)にも光を当て、門外不出の秘仏《明恵上人坐像》をはじめとした、人間味あふれる明恵上人ゆかりの品々も紹介される。
重要文化財 明恵上人坐像 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期
東京国立博物館副館長の井上洋一氏は「鳥獣戯画の中には、飛んだり跳ねたり、走ったり泳いだり、まさにオリンピック種目を思わせる場面が描かれている。東京オリンピック・パラリンピックの開催年にふさわしく、子どもから大人まで楽しめるような、日本美術を代表する作品を見せる企画にしたい」と話し、本展覧会初の試みとして、“動く歩道”に乗って鳥獣戯画を味わえる、新たな鑑賞方法を導入することも明かされた。
国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
高山寺執事長の田村裕行氏は、前代未聞の画期的な取り組みに対して、「これまでになかった、鳥獣戯画の新しい景色が見られると思う」とコメント。2月13日に催された報道発表会より、担当学芸員の解説も交えつつ、展覧会の見どころをお伝えしよう。
“動く歩道”に乗って甲巻を楽しめる、新たな鑑賞体験
平安から鎌倉時代にかけて段階的に描かれた鳥獣戯画は、彩色がなく線のみの白描(はくびょう)の絵巻で、詞書(ことばがき)と呼ばれるストーリーを記した部分がないのが特徴だ。いつどこで誰が描いたのか、いつごろ高山寺に伝わったのかといった詳細がわからない、謎多き国宝でもある。
国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
今回の展示は、全長44メートルを超える全4巻の絵巻を一度に鑑賞することのできる、またとない機会。サルやウサギ、カエルをはじめとする11種類の動物たちが、さまざまな儀式や遊戯をおこなう様子を描いた甲巻では、水遊びの場面にはじまり、宮中行事の一つである賭弓(のりゆみ)や相撲など、スポーツ満載の場面が続く。
国宝 鳥獣戯画 甲巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
「甲巻の前半と後半では、作者や制作年代が異なると考えられているので、線描や動物たちの表情、紙質などを見比べてみてほしい」と担当学芸員の土屋貴裕氏(東京国立博物館 学芸企画部企画課特別展室 主任研究員)。これまでの展覧会では会期中に展示の入れ替えがあったため、両者を比較することは叶わなかったが、本展では、前半と後半の見比べが可能となった。
甲巻の鑑賞方法として、“動く歩道”が本展のために特別に製造されることも見逃せない。土屋氏は「絵巻は本来、巻いたり広げたりする動作を繰り返しながら見るもので、静止画よりもライブ感のある動的な媒体」であると説明し、絵巻を巻き広げながら鑑賞しているような動きを再現するために、動く歩道の導入を提案したという。「すべてのお客様に、最前列で作品と対することができる鑑賞環境を実現する」という思いのもと、会場では、甲巻の全場面を動く歩道に乗って観覧する。これまでにない新たな鑑賞方法は、ぜひ会場で体験してみたい。
甲巻だけでなく、丙巻や丁巻にも注目!
16種類の動物が登場する乙巻の前半では、馬や牛、犬、鳥など、日本で見られる身近な動物が描かれる。後半は、トラやゾウなど、日本にはいない異国の動物や、麒麟(きりん)に獏といった空想上の動物が描かれ、さながら動物図鑑のような内容になっている。
国宝 鳥獣戯画 乙巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期
国宝 鳥獣戯画 乙巻(部分) 平安時代 12世紀 京都・高山寺 通期

丙巻の前半は、勝負事を中心に描いた人物戯画。後半では、甲巻同様、動物を擬人化した動物戯画が描かれる。将棋や耳引き(耳を引っ張り合うゲーム)、にらめっこのような目競べなどが続く前半と、後半には、動物たちが荷車をお祭りの山車(だし)に見立てて遊んでいたり、法力を競い合う験競べ(げんくらべ)に興じたりする様子が描かれている。
国宝 鳥獣戯画 丙巻(部分) 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 通期
国宝 鳥獣戯画 丙巻(部分) 平安~鎌倉時代 12~13世紀 京都・高山寺 通期

鳥獣戯画は、平成21年(2009)から4年がかりで解体修理が行われてきたが、その際に、丙巻の人物戯画と動物戯画が「相剥ぎ(あいへぎ)」と呼ばれる技術を使って、紙の裏表に描かれているということが判明した。このことから、人物戯画と動物戯画は別の時代、別の絵師によって描かれた可能性が浮上。
今まで鎌倉時代の制作だと考えられていた丙巻は「少なくとも人物戯画については平安時代に描かれた可能性が高く、甲巻よりも古いのではないか」と、土屋氏は推測する。この仮説が証明されれば、鳥獣戯画の研究史を覆す大きな発見になるかもしれないとのことなので、今後の動向に注目したい。
鎌倉時代に作られた丁巻は、人物中心の巻で、太くて淡く、勢いのある線が特徴的。法会や験競べといった甲巻や丙巻と同様のモチーフを描いた場面のほか、流鏑馬や、大木に縄をかけて引く木遣り(きやり)などが見られる。
国宝 鳥獣戯画 丁巻(部分) 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期
国宝 鳥獣戯画 丁巻(部分) 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期
土屋氏は「一見するとヘタウマにも見える丁巻ですが、似絵(にせえ)と呼ばれる、鎌倉時代に流行したスケッチ風の描法を用いたり、身分によって着ている服を描き分けていたりすることから、素人の絵描きではないことがわかる」と解説。全4巻を横断的に鑑賞しつつ、各巻に見られる個性を、たっぷりと堪能したい。
断簡や模本が集い、国宝絵巻の全貌が明らかに
鳥獣戯画には、伝来の過程で、元々の絵巻から分かれた部分や、失われた部分が存在する。全4巻が集結する第1章「国宝 鳥獣戯画のすべて」に続き、第2章「鳥獣戯画の断簡と模本-失われた場面の復原−」では、本体から切り離されて、一場面ごとの掛け軸に仕立て直された断簡や、原本で失われた場面を写し留めた模本作品を、国内外から集めて展示する。
鳥獣戯画模本(長尾家旧蔵本) 室町時代 15~16世紀 ホノルル美術館 会期中場面替えあり  Honolulu Museum of Art, Gifts of the Robert Allerton Fund, 1954(1951.1) and Jiro Yamanaka, 1956 (2212.1)
鳥獣戯画模本(長尾家旧蔵本) 室町時代 15~16世紀 ホノルル美術館 会期中場面替えあり  Honolulu Museum of Art, Gifts of the Robert Allerton Fund, 1954(1951.1) and Jiro Yamanaka, 1956 (2212.1)

たとえば、ホノルル美術館が所蔵する《鳥獣戯画模本(長尾家旧蔵本)》には、現存する甲巻にはない、サルやウサギが囲碁や腕相撲、高飛びなどをする場面を確認することができる。さらに、甲巻以外の唯一の断簡である丁巻の断簡も、本展にて紹介される。
高山寺中興の祖・明恵上人ゆかりの品々も
第3章「明恵上人と高山寺」では、国宝・鳥獣戯画が伝わった高山寺の魅力に迫る。奈良時代に創建し、鎌倉時代に明恵上人が再興した高山寺は、学問寺として発展した京都の古刹。本章では、高山寺が所蔵するもう一つの国宝絵巻《華厳宗祖師絵伝(けごんしゅうそしえでん)》など選りすぐりの名宝とともに、生涯にわたり自分が見た夢の記録を記した《夢記(ゆめのき)》や、自身が詠んだ和歌をまとめた《明恵上人歌集》など、明恵上人の人柄がうかがえる作品も展示される。
国宝 華厳宗祖師絵伝 義湘絵(部分) 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 前期
普段は秘仏として高山寺開山堂に安置されている《明恵上人坐像》も、本展にて特別に出品。本像には、明恵上人が24歳の時に、修行の一環として切った右耳も忠実に再現されている。まるで生きているかのような、写実的な表現に注目したい。
ほかにも、異国に強い憧れを抱いていた明恵上人の気持ちを伝える品物として、本人が所持していた龍子(たつのこ)や、手元に置いて愛玩していたという伝承が残る子犬の像などもあわせて紹介。
龍子 京都・高山寺 通期
重要文化財 子犬 鎌倉時代 13世紀 京都・高山寺 通期

高山寺執事長の田村氏は「同じ時代に法然、栄西、親鸞、日蓮がいるが、明恵は宗派をおつくりにならなかったぶん、ご存知の方がまだ少ないと思う。本展をきっかけに、明恵上人のことを知っていただけたら」と語った。
今年の夏は、鳥獣戯画全4巻が結集する東京国立博物館にて、“ギガ(戯画)アツイ”時間を過ごしてみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=田中未来

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